2014年10月10日金曜日

路上の霊魂

松竹キネマ第1回作品で映画史上の記念的作品。それまでの時代劇中心の活動写真から芸術性の高い映画を作ろうとした運動の中で生まれた。大正10年制作、小山内薫指揮、出演、村田実監督、出演、ほかに若き日の鈴木伝明、英百合子などが出演している。



 全体の荒筋は次のとおり。
山奥で伐採所を経営する政界を引退した老人。彼にはヴァイオリニストになりたくて家出をした息子がいた。結婚して娘も生まれるが演奏活動で人気を失い食べるものにも欠くありさま。乞食同然となった彼は妻子を連れて故郷の実家へ戻る。しかし老人はかつて息子に帰宅を促したにもかかわらず無視され、餓えている息子一家を怒って受け入れようとしない。失望した彼らは吹雪の中に出て小屋にたどり着いた。

刑務所を出たばかりの男二人組は路上で、実家に向かう息子一家に会い、娘にパンを与えた。そのため空腹がひどくなり別荘を見つけそこへ押し入ろうとする。しかし別荘番の老人に見つかり打擲される。それを見た令嬢は不憫になり食事を与え、クリスマスパーティにも招待する。この別荘で二人組は雇われることになった。

息子一家を追い出した老人はさすがに心配になり小屋を見つけ、妻と娘だけでも家に泊まれと言う。嫁はそれを拒否する。老人と息子の間で口論となり息子だけ小屋から出ていく。かつて息子の許嫁であった姪も小屋に来る。良く見ると娘は既に病気と寒さのため死んでいた。明くる日快晴になり雪の中に埋もれている息子が発見される。

 この作品上映当時はあまり人気が出なかったそうだ。設定が当時の日本の実状とかけ離れているのは確かだ。翻訳文学の日本人による演劇のようだ。シュミットボンという作家とゴーリキーの原作を元に話を作ったらしい。冒頭近くでロシヤ語の字幕が出てくる。これはゴーリキーの文。主要登場人物は洋装がほとんど、クリスマスパーティに招かれる庶民の女性は着物だが。室内も洋室、別荘も19世紀のロシヤ文学かと思わせる。最後に教訓を垂れる字幕が入るのだが、これは今日なら入れないだろう。見ていてわかるし。

見た目はともかく、最初に書いたようにそれまでのチャンバラ主体の映画から純粋な映画を作成しようとした意図、話の構成は先駆的であった。
あとつまらんことだが別荘でクリスマスパーティが開かれる。それがいわゆるパーティ、つまり宴会騒ぎなのである。この当時クリスマスとかそのパーティがどの程度日本に浸透していたのか知らない。多分ほとんどの日本人には縁のない行事と思わる。最初から日本にとってクリスマスとは宴会騒ぎのことだったわけか。

フィルムセンターで10月8日にみた。徳川夢声による弁士説明版である。説明が話の前半と後半に入りその中間は残っていないので無声そのままである。これは当日の館からの説明によると昭和29年に『路上の霊魂』の復活上映をした際、徳川夢声に説明してもらった音声の録音だそうだ。徳川夢声は大正10年にこの映画が最初に上映されたときも弁士を担当したとのこと。

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