2023年5月31日水曜日

セブン Seven 1995

デヴィッド・フィンチャー監督、米、126分、ブラッド・ピット主演。

ピットはこの街に新たに赴任してきた刑事、ギネス・パルトローはその妻。モーガン・フリーマンは定年を一週間後に控えた老練刑事。連続殺人事件が起こる。現場に残された文句、また残虐な殺害方法が目を引く。これらの文句はキリスト教の七つの大罪から来ていた。犯人は知能犯で恐ろしく計画的である。七つの大罪の記述がある本を図書館から借出していたのは誰か。そこから容疑者を割り出す。その家に行った時、不審な者が逃げ出した。ピットとフリーマンは追う。ピットはもう少しで犯人に殺されるところだった。犯人は殺さずに去る。

後になって犯人は自首する。あるところにピットとフリーマンを案内したいという。二人は犯人と車で向かう。犯人が示した場所に、運送会社の車が来た。届け物を持ってきた。それは箱で、開けるとパルトローの首が入っていた。ピットは絶望し、犯人をその場で撃ち抜く。

2023年5月30日火曜日

国民の創生 Birth of a nation 1915

D.W.グリフィス監督、米、189分、無声映画。国民の創生とは南北戦争を通じてアメリカという国が生まれ変わり創られる、を意味している。

映画は戦争前から始まり、北部の一家、その娘をリリアン・ギッシュが演じる、と南部の一家の親交を描く。南北戦争が始まる。友人同志だった二人が戦争で殺し合う。北部の勝利に終わる。リンカーン暗殺の場面がある。指導者はギッシュの父親になる。その代理として白人と黒人の合いの子が勢力を奮う。自由になった黒人たちの行き過ぎた振る舞いが描かれる。白人への暴行を阻止するため、子供たちの白い布のふざけから、白衣装を思いつく。KKK団の制服だが、白い三角の頭巾ではない。白い覆面をし兜をかぶり、その兜のてっぺんには槍のように長いとんがりがある。このKKK団は黒人の不届き者を成敗する団体になる。南部の一家の若い女は黒人に結婚を迫られ、逃げて断崖から落ちて死ぬ。北部の一家は黒人に同情的だったが、代理の合いの子は黒人の帝国を作る野望にかられる。代理はリリアン・ギッシにやはり結婚を迫り、逃げようとするギッシュを捕まえ閉じ込める。黒人たちは暴徒のようになり、インディアンを成敗する騎兵隊のようにKKK団の騎馬隊が駆けつけ、黒人兵らと戦いになる。最後には黒人暴徒を下す。

それまでの被支配階級が権力を握ると、支配階級に対して乱暴を働くなどは20世紀の革命後にも見られた普遍的な現象である。戦勝国の兵士による敗戦国の一般国民に対する非道な仕打ちは前の戦争でもあった。

イントレランス Intolerance 1916

D.W.グリフィス監督、米、167分、無声映画。四つの時代の「不寛容」にまつわる話であり、それら異なる時代の異なる話が交叉して進む。日本で初公開の大正時代は、話をまとめ直して上映したそうである。

最も古い時代設定は紀元前のバビロン。ペルシャが攻めてきて一旦撃退するも、再来襲ではバビロンは滅ぶ。この映画の最も有名な場面、バビロンのセットが出てくる。キリストの話は最も短く、カナの祝宴から磔までそれほど場面は多くない。あまりに有名だからか。16世紀のフランス、聖バルテルミーの虐殺の巻は当時の事情に通じていないと分かりにくいかもしれない。現代(当時の)アメリカの舞台の巻は話自体は創作で長い。若い娘と結婚し更生しようとした青年が無実の殺人罪に問われ、死刑宣告される。真犯人が名乗り出て、知事に刑執行停止の書名をもらおうと列車と車の競争が有名。

2023年5月29日月曜日

バルザック『従妹ベット』 La cousine Bette 1846

主人公の従妹ベットは老嬢。恵まれている従姉のユロ男爵夫人の一家を激しく恨み、表面上は味方を装い、何とかして一家を不幸に陥れんとする。

ユロ男爵は老齢ながら女好きは老いてますます盛んになり、若い女に入れ揚げ、貞淑な妻を裏切り一家の財産を蕩尽し、信用を全くなくす。ユロ男爵は女に裏切られると新しい女を捜すが、ヴァレリー・マルネフ夫人への恋情は激しい。このマルネフ夫人は妖婦であり、周囲の男どもをみんな誑し込み、男どもは夫人に熱中する。商人上がりで今はパリの区長をしている男、ユロ男爵の娘が恋し結婚したポーランド出身の芸術家、ブラジルの資産家、みんなマルネフ夫人の虜になる。もう一歩でベットの一家への恨みは成就するかと思ったが、ベット自身が病死、妖婦も醜く破滅する。

男爵を一家は取り戻し、幸福になったかに見えたが、最後まで男爵の女好きは治らなかった。ユロ男爵夫人が貞節献身の塊であり、夫の男爵と完全な対照をなしている。(水野亮訳、河出書房文学全集)

2023年5月28日日曜日

コーマ  Coma 1978

マイケル・クライトン監督、米、113分、ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド主演。

大病院が舞台。ビジョルドはそこの医師で、同僚の医師マイケル・ダグラスと恋人の仲。ビジョルドの親友が同病院で簡単な手術を受ける。ところが手術中に意識不明となり、脳死に至る。驚愕したビジョルドは原因を突き止めようと徹底的に捜査を始める。行き過ぎと病院の上司には見え、注意を受ける。過去に何件も同様の死があり、どれも同じ手術室で起きていた。酸素を送る管に細工がしてあった。遺体は某センターに送られていた。ビジョルドはそのセンターに侵入し、調べる。スパイ映画もどきになる。そのセンターでは死体の臓器を売っていた。

ビジョルドは病院の管理職に訴える。しかしその管理職、リチャード・ウィドマークが演じる、こそが黒幕でビジョルドに薬を飲ませ、意識朦朧とさせ他の者と同じように手術で始末しようとした。その寸前に事情をビジョルドから聞いたダグラスは酸素を送るはずの管の細工を壊す。これで手術で死ぬはずだったビジョルドは助かった。ウィドマークはその筋から手が回った。

2023年5月26日金曜日

追跡者 U.S.marshals 1998

スチュアート・ベアート監督、米、137分、トミーリージョーンズ主演。『逃亡者』のジェラード保安官役のジョーンズが主演で、ウェズリー・スナイプスを追う物語。

スナイプスは配達員で車の事故に巻き込まれる。病院で手当を受けていたら警察が来て逮捕する。恋人は驚き、スナイプスは間違いだと言って連れ去られた。このスナイプスや他の囚人を護送する飛行機が飛び立った。ジョーンズは警察として同乗していた。スナイプス殺害の命を受けていた他の囚人が隠してあった武器で、飛行機内で乱闘になる。窓を破り飛行機の胴体に大きな穴を開けてしまう。飛行機は墜落していく。道路に不時着した。しかし転倒して川の中に落ちる。ジョーンズは囚人たちを助ける。その隙をみてスナイプスは逃亡した。後にCIAがやって来てスナイプスの素性を明かす。スナイプスは元CIAでCIAの捜査官を殺していると。スナイプスの捜査に若いロバート・ダウニー・Jrも加わった。この後、ジョーンズとダウニー・Jrはスナイプスを追う。

最後に明かされた真相は、スナイプスは悪人でなく、政府高官こそが国家機密を売ろうとしていたと分かる。

アップグレード Upgrade 2018

リー・ワネル監督、米、95分。『2001年宇宙の旅』は機械であるコンピューターが人間に叛乱する物語と要約できるが、その系の作品。ただ推理物になっていて最後に謎が解き明かされる。

舞台は未来である。主人公の男は妻と自動自動車に乗っている時、車が狂い事故を起こした。そこへ数人の男がやって来て、妻を射殺、主人公も半身不随となる。その主人公を最新技術でもって蘇らせた。高性能のチップ(電子頭脳)が埋め込まれ、その頭脳と対話(他の人には聞こえない)し、頭脳の持つ力で男は超能力的な力(腕力、速度)をつける。自分たちを襲った悪党どもは誰か。これを頭脳の力で持って捜し出し、復讐していく。殺人が行なわれたので女刑事が捜査に来る。最後に操っていたのは埋め込まれた頭脳と分かる。主人公は自分自身を殺して頭脳を抹殺しようとするが、やはり頭脳に操られ関係者を凡て殺して去っていく。

栄光何するものぞ What price glory? 1952

ジョン・フォード監督、米、111分、総天然色、ジェームズ・ギャグニー主演。

第一次世界大戦中のフランスの田舎町。そこの酒場の女をジェームズ・キャグニーの大尉と後から来た元々知り合いの軍曹で取り合う映画。途中、戦闘に駆り出され、悲惨な戦いに会う。やはりフランス人の女の子の恋人がいる若い兵士が死ぬ。

大尉と軍曹は二人とも無事に帰って来て、また女の取り合いを始める。賭けをする。キャグニーがずるをする。それでも最後にまた戦闘命令が出て、戦地に向かう大尉のキャグニーに、本当は除隊できる軍曹は後から追っかけてくる。

2023年5月22日月曜日

ロックンロール・ハイスクール Lock’n Roll high school 1979

アラン・アーカッシュ監督、米、93分。

主人公の高校生の女の子はロックが大好き。校内中に、ロックの音楽を流している。しかし新任の女校長はロックこそ堕落の元凶だとして禁止してしまう。ラモーンズというロック・グループが来る。その切符を買ってきて、同じ高校の生徒たちに配布する。みんな演奏会に行くが、主人公の女の子とその親友は校長から禁止の命令が下る。ただ車を運転中ラジオから流れてくるクイズを当て、招待される。グループの演奏を聴いて大感激する。自分が作曲した曲をグループに渡す。学校に来てくれるという。

明くる日、グループが学校にやって来て校内をみんなと練り歩き、即席演奏会になる。外では校長が警察と共にいて、出てこいと命令する。みんな出てくる。降参したのか。そうではない。学校に爆破装置を仕掛けていた。学校を爆破し炎上させる。

2023年5月21日日曜日

柳美里『JR上野駅公園口』河出文庫 2014(単行本刊行年)

語り手は中年男、今の上皇が天皇をしていた時代で、明仁上皇と同じ年の生まれである。福島県の出身。上野公園内のホームレスの実態が書いてある。語り手自体からしてホームレスの一員である。過去の語りが多い。上野公園にまつわる故事が多く書いてある。語り手は自分を不幸な男という。確かに息子を二十歳にになったばかりで亡くす。妻は65歳で自分が寝ている間に死んでいた。また孫娘が震災にあって死ぬ話も出てくる。自らの不幸を語り歩く人といった感じである。

しかも語り手が明仁上皇と同じ年の生まれ、息子は今上(徳仁)と同じ年の生まれで、名前も一字もらっている。その息子は早死にする。また語り手の妻は節子という(美智子でない)。この名前は昭和天皇の母と同じ字である。(読み方は異なる)外見的には天皇一家の成員と似ているような、不幸な一家の物語である。権力=天皇、不幸な庶民=語り手一家として、権力批判をしているなら漫画である。

天皇は憲法を初め制度に縛られ、全くの無能力者である。国事行為は凡て内閣の助言と承認を必要とし、政治に関する権利は一切ない。基本的人権などもない。国家の象徴であるから日の丸と同じである。日の丸に人権がないように天皇にも人権がない。外国で賞をもらったというのも権力批判が書いてあるので外国で評価されたのだろうか。映画でも外国の映画祭でグランプリをとった『万引き家族』も日本の悪い面(といってもほとんど例外的な状況なのだが)を描いているので評価されたのだろう。

津原泰水『たまさか人形堂物語』創元推理文庫  2022

語り手は人形の修繕をしている店の女主人。といってもそんなに歳ではない。元々人形販売店を引き継いだのだが、今では修繕専門店になっている。個性的で不思議な才能のある若い男(小説では良く出てくる型)、また前身が不明の陰のある中年の男、後者は後に実は有名な才能ある人間とわかる、これも小説ではおなじみの展開。これらの職人らと女主人公が人形修理屋を舞台に話が進む。

それにしても、文庫の解説では身内話を良く書いてあるが、本書もそうである。執筆者が全く知らない人で内輪の話を聞いてもしょうがないのだが。

2023年5月19日金曜日

ヘル・ボーイ     Hellboy 2004

ギレルモ・デル・トロ監督、米、122分。

第二次世界大戦末期、ナチスがラスプーチンを使って魔界から悪を呼び寄せようとする。しかし米軍に邪魔される。その時に魔界の入口から出たのが赤ん坊のヘルボーイ。博士に養育され、父親視している。

成人したのちは、化物相手の特殊警察で働く。全身が赤く、角を切った痕が額に二つある。怪力の持主。仲間に半漁人や火を全身で起こす女がいる。内心ヘルボーイはその女に惚れている。悪党どもをやっつけていくのは、こういった映画の通常の筋と同様である。

ザ・ハント  The hunt 2020

グレイグ・ゾベル監督、米、90分。

飛行機の中で暴れる男を残酷な方法で黙らせる(死なす)場面から始まる。若い女が目覚める。口輪がはめられている。他の人間もそうであった。銃が格納されている所に行く。いきなり銃撃される。多くが死ぬ。これは人に殺し合いさせて、それを見て楽しむゲームが金持層で行われていて、その駒にされていたのである。

殺し合いが続き、その中で一人の女が勝ち抜き、最後はゲームを主宰する女社長宅まで行く。二人の女は居間や台所等で果し合いをし、女社長を倒す。

俺たちの血が許さない    昭和39年

鈴木清順監督、日活、97分、小林旭、高橋英樹主演。

小林と高橋は兄弟で、その父親は二人が幼い時、やくざに殺された。やくざのボスだったからである。今では小林はキャバレーの支配人をしているが、小沢栄太郎の手下で悪事を陰でしていた。高橋は会社員で、直情径行を絵に描いたような人間である。同僚の女の子を内心好きで相手からも好かれている。

小林、高橋と母親の前に、昔父を殺したやくざが現れた。自分の罪を悔い詫びる。高橋がいきり立って襲いかかると小林は止め、もう来てくれるなとやくざに言う。高橋は社内旅行の着いた先で、悪者どもをやっつけると後から仕返しに来られる。その時、あのやくざが現れ、高橋に助太刀する。この騒ぎを起こしたせいで高橋は会社を首になる。父の跡をついでやくざにでもなろうと思う。

小林の愛人は小沢の秘書で、小林を監視するためつけていた。しかし相思の間柄になる。それを知った小沢は秘書を殺させる。小林は恋人の田舎に知らせに行く。その後を小沢は手下どもをに追わせ小林を亡き者にしようとした。高橋の恋人の誕生日祝いに母親、小林を呼ぶが母親は高橋の恋人を嫌っていた。高橋は小林が死んだ恋人の田舎に行き、悪党どもが追っていると知ると自分もそこに向かう。田舎の野原で小林、後から駆けつけた高橋は悪党どもと銃撃戦になる。相手方を仕留めたが、小林も倒れた。

透明人間現わる     昭和24年

安達伸生監督、大映、87分。

月形龍之介扮する博士は物体を透明にする薬を発明した。弟子が二人いて、博士の娘に共に求婚している。関係する製薬会社の社長は悪人で、弟子の一人に薬を飲ませ、透明にする。元に戻りたかったら言う事を聞けと、宝石泥棒を命じる。透明になってしまえば、姿が見えないから盗みは簡単なはずである。宝石店を襲う。水の江滝子の機転で宝石は無事だった。月形の博士も誘拐される。悪人は透明人間に今度こそ宝石を奪えと命じる。

宝石を奪った透明人間は逃走し、警察らは追う。悪人の家で宝石を渡しても元に戻る薬はないと言われる。最後には透明人間は悪党を撃ち殺し、自分も警官に撃たれる。

パリの灯は遠く  Mr. Klein 1976

ジョゼフ・ロージー監督、仏、122分、アラン・ドロン主演。

ドイツ占領下のフランス。アラン・ドロン(役名がロベール・クラン)は美術商で、ユダヤ人からの美術品を買っていた。手紙が来る。ユダヤ人の間の連絡文書である。いぶかしく思ったドロンはその差出人のところに行く。ジャンヌ・モローがいる城館だった。同姓同名の男がいるようだ。パリに戻ってから自分の出生を確認したくなった。父親に聞いても正真のフランス人と言われる。弁護士に依頼し、祖父母までの証明書を取り寄せようとした。戦時でなかなかやって来ない。ドロンはフランスを去る決心をする。乗った列車で向かいの女がもう一人のクランを知っていた。ドロンは戻る。すると自分の家が差し押さえられていた。

それだけでなく、ユダヤ人狩りで多くの群衆と一緒に駅に連れて行かれる。クランの名が呼ばれ、ドロンは他の大勢の者たちと収容所行きの貨車に押し込められた。

2023年5月17日水曜日

大阪圭吉『死の快走船』創元推理文庫  2020

夭折した探偵小説作家、大阪圭吉の短篇集は既に創元推理文庫から2冊出ており、本書は第三冊目になる。前2冊に比べより軽妙というか、ユーモアのある作品が収められている。また戦時という時局柄、その制約、影響を受けた短篇が入っている。収録されている短篇は以下の通り。

「死の快走船」/「なこうど名探偵」/「塑像」/「人喰い風呂」/「水族館異変」/「求婚広告」/「三の字旅行会」/「愛情盗難」/「正札騒動」//「告知板の女」/「香水紳士」/「空中の散歩者」/「氷河婆さん」/「夏芝居四谷怪談」/「ちくてん奇談」

このうち「死の快走船」は「白鮫号の殺人」の改題拡張作である。

金森久雄『わたしの戦後経済史』東洋経済   1995

エコノミストとして有名だった金森久雄の自伝を兼ねた戦後経済史。金森は戦後商工省に入省するが、まもなく経済企画庁に移り、退官後は日経センターで役職を勤めた。今から半世紀前は経済に関心がある者は誰でも知っているエコノミストであり、沢山の著書を出していた。

この著に書いてあるようにケインズ派であり、強気の見通しでとおっていた。金森の活躍したのは高度成長期とそれから安定成長に移ってからも、日本経済が世界の中で優等生の時代だった。だから金森の主張は多くの場合もっともらしかったし、エコノミストの大御所のような存在でいられた。また金融も長い間、公定歩合で調整し、資金需要の強い時代だったから景気過熱の引き締め役くらいの理解で良かった。金森の活躍した時代以降は、世界との相互関係が強まり、金融が実体経済とより緊密な関係になっていく。この著が出版されたのはバブル崩壊後、経済が軟調を続ける中、円の対ドルレートが80円を切った時期である。

バブル崩壊後、失われた十年、二十年、三十年と言われるような日本経済の長期的低迷期(以前と比べ)が続き、日本経済は世界の劣等生となってしまった。金森ならなんと言うであろうか。それはともかく本書は金森が見てきた戦後の日本経済史が分かりやすく書かれている。自己正当化の文章が多いが自伝とはそんなものであろう。

2023年5月16日火曜日

宮崎勇『証言戦後日本経済』岩波書店   2005

著者は官庁エコノミストとして名高かった官僚である。戦後間もない時期に出来た経済安定本部に入り、その後身の経済審議庁、経済企画庁に長く勤め、退官後大和総研に移った。

本書は官僚エコノミストであった著者の経済政策形成に関わる回想である。自伝、回想録といっても著者が執筆した書でなく、インタビューを受けて答える、そういった形の本である。聞き手は経済学者で日本経済史の専門家である中村隆英元東大教授である。戦後の経済史にあるような客観的に綴られる歴史でなく、その時に政策形成に関わった者ならではの内部事情など書いてあり興味深い。自伝の類であるから本書の初めに著者が言っているように、自己正当化するところはどうしても出てこよう。ただしそれを承知の上で読めば益するところが多い。

このインタビューが行われた当時はまだ中国が途上国であり、日本が面倒みてやるべきといった発言が目立つが、今では中国はアメリカと並ぶ大国であり、日本など全く霞んでいる。

近藤富枝『本郷菊富士ホテル』中公文庫    1983

菊富士ホテルとはかつて東京本郷の菊坂町にあった下宿兼ホテルである。大正3年に創業し、昭和19年に廃業した。その後空襲で焼け落ちた。

このホテルが有名なのは、そこに泊まった、滞在した客たちが近代の有名文人、あるいは外国人でその後名を成した人らだったからである。本ホテルはまだその当時、少なかったホテルであって、当局からの許可もなかなか降りなかったとか。洋室もあれば和室もあるが、凡て鍵がかかる個室であって、当時の日本の旅館としては特異である。元々上野の大正博覧会(大正3)で来日する外国人を当て込んでいたらしいが、博覧会後は、色々な者が泊まる。有名な文人が多いが、ロシヤ人で日本学の創始者たちと言うべき者らも滞在したようだ。有名人でここにベージを割いて記されているのは大杉栄と伊藤野枝、また竹久夢二、宇野浩二、広津和郎、坂口安吾らである。

かなりの期間、滞在する者も多く、まるでバルザックの小説のようだと中に出てくるが、確かに『ゴリオ爺さん』の世界を見ているかのようである。戦争が始まるとホテル業は圧迫され、廃業し焼け落ちた。その特異なデザインと共に日本近代史上、回想されるホテルである。

斎藤史郎編著『逆説の日本経済論』PHP   2017

元日経センターの会長である斎藤史郎が、経済問題について識者にインタビューした結果をまとめた著。学者が多いが、その他実務家、政治家もいる。

株主至上主義への会社社長の疑問、人口減少は経済にとって負の要因とはならないと説く学者、選挙制度の改革で年齢階層別の選挙制度にしろという学者、地方の議会は機能していないと論じる元知事、中福祉、中負担は不可能という元官僚、金融緩和は経済を破壊すると警告する実務家、高齢者層の定義に変動相場制を導入しろと言う学者、為替理論の教科書的理解は間違っていると説く元官僚など。常識的な意見より、実現は難しいのではないかと思われるような急進的な意見の方が面白い。

政治家の小泉進次郎は自分の親が総理大臣という理由で、海外の有名大学院に入れたというドラ息子ならではの、若者を海外留学を只でさせろとの意見だが、その費用は誰が持つのか、全くの放言で呆れる。

2023年5月10日水曜日

宇宙人東京に現わる    昭和31年

島耕二監督、大映、86分、総天然色、空想科学映画として日本発の色付き映画。

東京に怪奇現象が生じ、空飛ぶ円盤の目撃が相次いだ。宇宙からパイラ星人というヒトデ型の生物がやって来たのである。地球侵略ではない。地球が原水爆実験ばかりやっているので諌めに来たのである。(『地球の制止する日』のパクリ)パイラ星人は地球に入りこむためヒトデから普通の人間に化けて忍び込む。(『マーズ・アタック』を想起)化けたのは人気女スターである。身寄りのない女かと思って科学者一家が世話をする。人間離れした能力を見せる。パイラ星人は身を明かし、地球に迫っている危機について述べる。

Rという星が地球に接近してきて衝突する。世界中に知らせるが、相手にしてもらえない。とうとうRが近づいてきて天変地異が地上に起こる。各国は原水爆を打ち込んだがRに全く影響を与えなかった。山形勲扮する科学者が超強大な爆弾を造っていた。悪漢どもが山形を捕え、その爆弾を作れと命じるが拒む。縛られて監禁された。星の影響で建物が崩れ、山形が危うくなる。パイラ星人に助けだされ、パイラ星人は山形の設計図で爆弾を作りRに打ち込む。Rは爆破して地球は助かった。

2023年5月2日火曜日

竹内健蔵『あなたの人生は「選ばなかったこと」で決まる』日経ビジネス文庫  2017

著者は経済学者である。本書は経済学でいうところの「機会費用」について多くの例を示して解説している。

機会費用は経済学でいう費用である。単にどれだけお札を財布から出しただけが費用でない。ある経済行動の費用とはそれを行なったことによって、犠牲にした(出来なかった)ことから得られる収益を勘案しなければいけない。昔読んだ本では、大学に行く費用とは授業料その他大学に納める金額だけでなく、大学に行ったため働いて得られる所得をなくした、それをも考慮すべきだとあった。本書では抽象的な説明では理解しにくい機会費用の概念を数多くの例によって示している。

著者が大学教授のせいか、いかにも若い人を相手にした例が多い。

アド・アストラ   Ad astra 2019

ジェームズ・グレイ監督、米、123分、ブラッド・ピット主演。

ピットは優秀な宇宙飛行士である。ピットの父、トミー・リー・ジョーンズは高名な飛行士兼学者であったが、30年前に地球外生命を捜す宇宙への旅に出て消息を絶っている。
宇宙から強力な電磁波が襲来して地球に被害を及ぼしている。ピットは軍に呼ばれる。父親がまだ生きているかどうか、今起きている電磁波よる被害は、この父が関係しているのではないかと軍は思っていると聞かされる。
ピットはまず月に向かう。月から火星の基地に向かう。途中で他国の宇宙船から救助信号が出ていたので、その船にピットと船長が向かうと中で実験用の動物が狂暴化し、船長は殺された。
火星に着く。ピットはそこから父親に向けて通信する。複数回やっても応答はない。基地の長から真相を聞かされる。実は父親は乗組員が帰りたいと叛乱を起こしたので、乗組員全員を殺して、単身地球外生命の捜索に向かったと。父から応答がないので、もう地球に戻れと言われる。しかしピットは父に会いたい。
発射しようとする宇宙船に侵入し、気が付いた乗組員と格闘になり、結果的にみんな殺してしまう。ピットは父がいるはずの海王星に向かう。父親ジョーンズは生きていた。ピットが地球に帰ろうと言うと、ここが家だ。帰る気はないと言い出す。ピットと言い争いになり、結局、ジョーンズは宇宙の彼方に飛んでいってしまう。
ピットは電磁波の元を宇宙船に積んであった核兵器で爆破し、地球に戻る。

2023年5月1日月曜日

インデムニティ 陰謀の国家 Indemnity 2021

トラヴィス・トウテ監督、南ア、124分。

消防士が主人公で消火の際の失敗から精神を病んでいる。妻に電話がかかってくる。会ってみるとお宅の主人(消防士)は命を狙われている可能性があると意味不明の警告を受ける。
消防士は朝起きてみると隣で寝ている妻が死んでいた。警察が入って来て殺人容疑で捕まる。
警察の護送車は何者から襲撃を受け、消防士は逃げられるが攻撃した者が警察官たちを殺す。消防士は警官殺しまでしたとなる。自分のいた消防署に来る。そこへ襲撃者が現れ次々と消防士を殺していく。消防署全員殺しの罪まで消防士は背負った。
結局最後に明らかになった真相は民間の軍事会社が洗脳する薬を開発して、それで米中という世界の支配勢力に対抗しようとする野望から来ていた。消防士も薬で知らない間に自分で妻を殺していたと分かる。