2023年11月30日木曜日

人生タクシー Taxi 2017年

ジャファル・パナヒ監督、イラン、81分。監督自身がタクシーの運転手になり、カメラで捉えた乗客や自分の様子を記録映画風に映し出していく。

乗客である男と女の間で死刑に関する議論、ビデオを売る闇商人、映画の制作が課題の学生、姪の女の子を乗せて議論、老婆二人が急いでいるのは金魚を時間までに返却しなければならないから。事故に遭った怪我人の夫を乗せてくる妻。ごみ処理の少年が落とした金を拾ったところを姪が見て、少年に持主に返せと説教する。久しぶりに会った旧友から近頃遭遇した事故について聞く。

姪が座席に落ちている財布を見つける。老婆二人のどちらかだろうと返しに行く。運転手と姪が車から降りる。車内のカメラがその間、泥棒しようと車に乗り込んできた男たちを映そうとするところで終わり。

2023年11月29日水曜日

海底軍艦 昭和38年

本多猪四郎監督、東宝、94分。高島忠夫、田崎潤、上原謙その他出捐。

埠頭でモデルの写真撮影をしている高島忠夫ら。そこに海から水蒸気を立てた男のような者が出てくる。更には知ってきたタクシーは海に突っ込む。明くる日タクシーを引き上げるが誰も乗っていない。高島はその時、たまたま見つけた藤山陽子をモデルにしたく思い捜す。藤山は上原謙扮する会社重役の秘書で、そこに不思議な雰囲気の記者が訪ねてくる。

記者は田崎潤扮する神宮寺大佐について聞くがもう死んだ、知らないと答える。田崎の娘が藤山で父の話が出て驚く。後に上原と藤山が車で出かけた時、高島らも気づき、後を追う。上原らは運転手が別人で攫われたと分かる。海岸に着いた時、高島らが駆けつけ上原らを助けようとする。運転手は熱いエネルギーで驚かすが、海に逃げる。この敵方がムー帝国と分かる。

後に警視庁に送られてきて映像によると昔、海に沈んだムー大陸の帝国が再び地上に出て世界を支配するという。その映像で神宮寺大佐の海底軍艦の建設を止めよと警告する。初めは馬鹿にしていたが、東京中心部を壊滅させた。海底軍艦に頼るしかない。藤山の後をつけていた男が神宮寺大佐の部下で上原は大佐の居場所を聞くが答えない。最後に上原らを神宮寺大佐の所に連れて行くと言い出す。飛行機、船を乗り継いで孤島に着く。そこで神宮寺大佐に一行は会う。

神宮寺が海底軍艦、轟天号を明らかにするが、戦争に使うためだと答えるので上原は怒り、高島は戦争気違いだと罵る。轟天号の進水式の後、怪しい記者、実はムー帝国の工作員によってドックは爆破され、藤山、高嶋は連れ去られる。神宮寺は心を入れ替え轟天号はムー帝国撃滅に出撃する。ムーの守り神である巨大な龍を冷線砲で倒し、ムーの中に入り込み徹底的に破壊し尽くす。

2023年11月27日月曜日

嫁と呼ばれてまだ三月 昭和29年

天野信監督、大映、81分、白黒映画。渡辺篤主演。大阪で何軒かの食べ物屋が立退きに会う。その一人渡辺はみんなで新しい店を始めようと、やはり立退きをくらった浪花千栄子の店に行く。浪速にも新しい店を手伝って欲しいと頼む。あまり乗り気でない。渡辺は浪速と結婚したく思った。渡辺の娘が結婚する。その婚約者と浪速の店に行って、浪速を見てくる。渡辺は求婚し、浪速と結婚する。新婚夫婦が二組できたわけである。

三月経った。渡辺の娘が帰郷する。その間に夫が浮気していたと思いこんだ。渡辺、浪速の夫婦が娘の誤解を解かせる。それだけでなく浪速は渡辺が若い女と連れだって歩いているのを見た。更に貯金が引き出されている。てっきり若い女と浮気かと思い、家出する。浪速が凝っている新興宗教に相談に行く。その教祖と浪速は家に戻って来て渡辺から浮気の原因を追い出すべくお祓いをする。渡辺が連れていた若い女は別れた以前の妻が再婚して出来た娘で、浮気の相手などではなかった。この映画の主題歌(題名は同じ)は当時流行った歌なのだろうか。

2023年11月26日日曜日

アンノウン/Unknown 2006

サイモン・ブランド監督、米、85分。倉庫のような場所で目覚めた五人の男。みんな記憶がない。

どうしてここにいるのか。銃で撃たれた者、椅子に縛りつけられた者、みんな負傷等しており、普通でない。そこから逃げようとしても扉には鍵がかかり出られない。映画は並行して誘拐された夫を気遣う妻がFBIにいる。身代金は取られ、行方不明で犯人らを捜している。密室では電話がかかってくる。取った男に向こうから指示があり夕方に行くと知らされる。みんな記憶が少しは戻り、誘拐犯と誘拐された者が五人の内訳だが、誰が犯人で誰が被害者か分からない。夕方に来るのに備える。来たらやっつけようと待ち構える。

犯人らが来る。そこで格闘になり誰が悪人の仲間で誰が誘拐された者か分かる。撃ち合いで二人しか生き残らなかった。一人は潜入捜査官でもう一人が誘拐された金持である。FBIが来る。誘拐された者の妻が来て夫と抱き合う。その時潜入捜査官は思い出す。妻は夫を殺して大金をせしめようと捜査官にそそのかしていた女だと。そこで映画は終わり。

2023年11月25日土曜日

エリジウム Elysium 2013

ニール・ブロムカンプ監督、米、109分、マット・デイモン主演。22世紀の荒廃した地球とそれを支配する宇宙ステーション状の理想都市エリジウムが舞台。デイモンは少年の日、少女と将来会う約束をした。

大人になったデイモンは地球の工場で働いている。ある日事故で放射能を浴び、余命5日と宣言される。エリジウムに行けばどのような病気でも治せる器械がある。そこへは地球市民は行けない。不法者の商人に頼み、エリジウムへ行く手立てを聞く。エリジウム市民から脳の情報を得ればいい。それに該当する工場の社長を襲い、その脳情報をデイモンは得る。

エリジウムの防衛担当長官のジョディ・フォスターは地球にいる手先に、デイモンを捕まえるよう命令する。社長の脳情報を使えばエリジウム全体の支配者になれるからだ。デイモンは追われる。しかもかつて少女だった女は成人し、今は不治の病に犯される幼い娘がいる。デイモンも女も捕まり、エリジウムに連れて来られる。そこでデイモンから脳情報を取り出そうとしたところ、地球から不法に商人の一味がやって来て、デイモンを救い出す。

デイモンの脳情報を取り出せば地球市民もエリジウム市民と同じ扱いになり、少を救える。デイモンは自分が死ぬと分かっていて、情報を取り出させ、少女を助ける。それだけでなく地球にいる市民全体がその治療にあずかれるようになる。

2023年11月21日火曜日

昨日・今日・明日 Ieri, Oggi, Domani 1963

ヴィットリオ・デ・シーカ監督、伊、120分。3話のオムニバス形式、ソフィア・ローレンとマルチェロ・マエストロヤンニがいずれにも主演。

第一話はナポリが舞台。二人は夫婦、マエストロヤンニは失業しているので、ローレンが煙草売りをしているが違法である。捕まえに来るが、ローレンが妊娠中で妊婦は逮捕されないと知る。それで二人は子作りに励み、ローレンはいつも妊娠中で子沢山になる。子供が多過ぎ、マエストロヤンニはノイローゼになる。遂に妊娠中でなくなりローレンは逮捕される。しかし街の仲間が保釈金を集め、ローレンは歓喜の中、釈放され街に戻ってくる。第二話では、既婚のローレンは浮気してマエストロヤンニとドライブに出かける。しかし車が途中でエンコし、通りかかった他の車にローレンは乗り換え、マエストロヤンニを置いてけぼりにする。

第三話で、娼婦のローレンはアパートの隣に住む神学生と仲良くなる。神学生はローレンに惚れ込む。神学生の祖母がローレンを非難し、部屋まで抗議に来る。客のマエストロヤンニがいたところだった。祖母とローレンは話し合いで意気投合し、神学生を辞めるといってきかない孫の説得にローレンはあたる。神学生をバスで送り出し、ローレンとマエストロヤンニは良いことをしたと喜ぶ。

2023年11月20日月曜日

ハーフ・ア・チャンス Une chance sur deux 1998

パトリス・ルコント監督、仏、109分。

高齢者となったアラン・ドロンとジャン=ポール・ベルモンドが共演。自動車泥棒を専門とする若い娘は母の遺言で、ドロンかベルモンドのどちらかが自分の父親だと知る。娘は二人に会う。可愛い娘を見て、二人とも自分の娘だと言い張る。

娘が危険から逃げるためたまたま盗んだ車には、マフィアが巨額の金を隠していた。マフィアは金を取り返すため娘を攫う。マフィアから報せを受けたドロンとベルモンドは娘の救出に向かう。娘を救い出す。後に娘は血液検査をしてどちらが父親かを知るが、結果の紙を捨てる。

女囚(すけ)やくざ 昭和49年

篠塚正秀監督、東映、82分。藤純子引退後の路線を開拓すべく、女やくざ物として製作された。

銀行破りを図る。三千万の金を奪ったが、主犯である渡瀬恒彦と女主人公は捕まる。金は仲間の若い男女が持って逃げた。渡瀬と女主人公は脱獄を図る。女主人公の同室の女も脱出計画に加わり逃げる。仲間の若い男女のうち、男はやくざの組織から巨額の金の返済を迫られていた。

渡瀬の情人は強奪に協力したが、渡瀬が自分を捨てるつもりと分かる。捨てられた情人はやくざの組織に渡瀬らが巨額の金を持っていると知らせる。このやくざ組織と渡瀬ら強盗団の金の奪い合いが映画の後半である。渡瀬は銃で撃たれ死ぬ。女たちも暴れるが捕まる。若い二人は金を託され逃げる。

シン・ゴジラ 平成28年

庵野秀明監督、東宝、119分。ゴジラ映画だが、かつてのような特撮映画というより、ゴジラの出現に政府がどう対応したかが中心に描かれる映画である。

東京湾に巨大な水蒸気が発生、海底トンネルは浸水する。これがゴジラの幼虫であると分かる。巨大なので上陸できないだろうという専門家の予想を裏切り、東京に上陸する。街中で破壊を続けた後、巨大なゴジラに変身する。

このゴジラ対処のため、各官庁から若手を中心とした専門家が集り、協議するという体制が映画の大きな特徴である。自衛隊の攻撃は全く歯が立たず全滅である。ゴジラが来襲するので総理以下政府首脳はヘリコプターで脱出を図るが、そのヘリコプターがゴジラの熱線で爆破撃墜される。臨時の総理以下で対応するしかなくなる。米軍の協力により、米軍機がゴジラに立ち向かうが、これまた全く効果なく全滅させられる。最後はゴジラを冷凍させる作戦で、ゴジラの口から冷凍液を流し込み、固まらせ成功する。

2023年11月19日日曜日

大空港 Airport 1970

ジョージ・シートン監督、米、137分、バート・ランカスター主演。雪の空港で着陸する際、飛行機が滑って滑走路からはみ出し、主滑走路を塞いでしまう。この飛行機をどかすため、ベテランの整備士が呼ばれる。

ある男は仕事がうまくいかず、自分に生命保険をかけて爆弾を持って乗り込み、飛行機を爆破させて妻に金を残そうとする。その犯人の座席まで確定する。どう対応するか。その抱えているトランクに爆弾が入っているので取ろうとするが、他の乗客の邪魔によって失敗する。例え死んでも保険金が妻に入らないと宣告する。

犯人はトイレに閉じこもり、そこで爆破が起こり、飛行機は降下する。滑走路ではようやく占領していた飛行機の除去が終わった。飛行機は何とか着陸し、事なきを得る。

エンド・オブ・キングダム Londonl has fallen 2016

ハバク・ナジャフィ監督、米、99分。映画はアラブのどこにあるテロリストの家を、米がミサイルで爆撃する場面から始まる。これで一家その他大勢の者が死んだ。この復讐が映画の筋になる。

英の首相が死に(後に毒殺と分かる)、その国葬に西側の首脳がロンドンに向かう。映画の主人公は米大統領の護衛官である。各国首脳はロンドンに着くなり、様々な方法で殺される。

米大統領は護衛官らの働きにより難を逃れる。しかしテロリストはロンドンの警察を装い、次々と襲撃を仕掛けてくる。一度、英兆報機関の家に匿われたが、テロリストの攻撃は止まず、大統領はテロリストに拉致される。テレビで全世界に向けての放送で、大統領を処刑するつもりだった。護衛官はテロリストのアジトを突き止め、大統領を救い出す。

マップ・トゥ・ザ・スターズ Map to the stars 2014

クローネンバーグ監督、米加仏独、109分、ジュリアン・ムーア他。ハリウッドの楽屋物。

ジュリアン・ムーアはかつて有名だった女優の母親をモデルにした映画に出られるようになる。そのころ、ハリウッドにバスで着いたのがミア・ワシコウスカ。以前家に火をつけ火傷をおい、精神に異常ありと施設に入れられていた。ハリウッドに戻ったわけで、父親はジョン・キューザック演じる心理療法者、弟は子役として有名になっていた。ワシコウスカはハリウッドを案内してくれたタクシー運転手と恋愛の仲になる。口利きがあってムーアの助手(お手伝い)に採用される。ワシコウスカの弟は共演している年下の子役の方が人気があり、嫉妬で首を絞め醜聞となる。

キューザックはムーアの訓練を担当していたので、娘が帰って来たのを知り怒り、早くハリウッドから出て行けと怒鳴る。ムーアはワシコウスカの恋人の運転手を寝とる。怒ったワシコウスカはムーアを鈍器で殴りつけ殺す。ワシコウスカはやはり問題を起こした弟と決着をつける。

2023年11月18日土曜日

フロベール『ボヴァリー夫人』 Madame Bovary 1856-1857

文学史上傑作と言われる本作。要約して言えば美人の人妻が不倫をし、最後は自殺してしまう。

何十年ぶりの読み返し。昔、子供に近い歳で読んだ時は、ほとんど印象が残っていない。今度の読み返しではどうか。感銘を受けたとは言い難い。人妻の不倫による破滅なら『アンナ・カレーニナ』も同じだ。その『アンナ・カレーニナ』の方は昔から大傑作だと思い、何度も読み返している。正直最高の小説ではないかと『失われた未来を求めて』を読むまで思っていた。もちろんプルーストに劣るとかの話でない。トルストイとプルーストを比較してもしょうがない。

このフロベールは多くの人が本当に自分に正直に、面白い小説と感じているのだろうか。文学史上の位置、意義とか技巧上の問題でなく、読者に関心を持たせる(面白い)小説と思っているのだろうか。

昔は大いに読まれたが、最近はあまり読まれなくなっている小説がある。フランス文学で言えば『ジャン・クリストフ』とかジードとか。『ジャン・クリストフ』が読まれなくなった理由は分かるような気がする。なぜ昔あんなに人気のあったジードが最近は読まれなくなったのか、良く分からない。読めば今でも面白いと思うが。『ジャン・クリストフ』やジードが読まれなくなっているなら、『ボヴァリー夫人』だって今更人に勧める小説だろうかと思ってしまう。(菅野昭正訳、集英社世界文学全集)

2023年11月16日木曜日

フランケンシュタイン 恐怖の生体実験 Frankenstein must be destryoed 1969

テレンス・フィッシャー監督、英、100分、ピーター・カッシング主演。

首のない死体の殺人事件が起こっていた。フランケンシュタイン男爵は若い女が経営する下宿を借り、女とその恋人を脅し実験に協力させる気でいた。フランケンシュタインのかつての仲間である学者が、今では精神病院に入っている。その脳を別の身体に移し、精神がまともになった状態で共同研究を再開したく考えていた。精神病院破りをして学者をさらう。移植先の身体は別の学者で、生きたまま脳移植をする。

フランケンシュタインはかつての学者の妻を連れてくる。包帯で顔は分からないが、自分の夫でないと知らない情報を知っているのを確認する。その後、フランケンシュタインの知らない間に移植された男は起きて、妻の家に向かう。しかし容貌が全く異なっているので、妻を恐怖に陥れるだけである。若い女と恋人は逃げ出そうとするが、フランケンシュタインに止められる。それよりも移植した男がいなくなっている。妻のところだろうと移植した男を捜しに行く。男はフランケンシュタインを恨み、失火で燃え盛る家にフランケンシュタイン共々その火炎に消える。

2023年11月15日水曜日

仇討崇禅寺馬場 昭和32年

マキノ雅弘監督、東映、92分、白黒、大友柳太朗、千原しのぶ出捐。

大和にある藩の武芸大会で、藩の師範の大友は微妙な判定で負けとなる。藩主は憤慨し大友を師範から免ずる。帰宅し婿養子である大友は義父だけでなく、妻からも罵倒される。やけ酒を飲んでいた大友は、試合の相手が友人らと笑いながらやって来るのに遭遇する。ちょっとした言い合いから真剣でやったらどうだとなり、今度は真剣勝負になる。相手を斬り殺す。大友は藩から逃げる。

城では敵討ちといっても、兄しかおらず下の者の仇を上の者がする逆縁は禁じられている。それで兄二人は脱藩という形にして大友を追うことになった。大友は大阪の問屋に世話になっていた。そこの娘である千原が大友に惚れる。大友も妻子に未練はなく千原を好きになる。追手二人が大阪まで来る。大友は自分から名乗り、崇禅寺の馬場で果し合いをする約束となった。千原は大友が追われている身と知っており、果し合いの時刻場所を調べ、多くの子分たちとそこに赴く。大友は二人を相手に苦戦していたが、千原が大ぜいを連れてやって来て、千原の拳銃(短筒)と子分たちが寄ってたかって二人の追手をなぶり殺しにする。

これが知れ渡り、大友を匿う千原の家は非難の的となる。千原の父親は事情を知って驚き、凡てを大友のせいにして自分の娘や家を救おうとする。果し合いから逃げおおせた大友はすっかり精神が参り、敵討ち二人の幻影を見るようになっていた。千原は大友をそれでも愛して救おうとする。

国元の藩では大友の義父が自分が成敗しに行くと言い、殺された兄弟の母親等を連れ大阪に向かう。あの崇禅寺に相手の幻影を見て大友はやって来た。そこに義父一行だけでなく、千原の親が引き連れた大勢の子分たちが来て大友を討とうとする。狂っている大友はあの敵討ちの幻影を見て闘い、子分どもを倒していく。ついには千原も斬り、千原の発した拳銃により二人とも倒れる。

レオニード・グロスマン『ドストエフスキーの一日 ルーレテンブルグ』 講談社 昭和56年

ソ連のドストエフスキー研究者グロスマンが1932年に公表した、ドストエフスキーを主人公とする中編小説である。

原題のルーレテンブルグとはドストエフスキーが滞在した、ドイツの保養地であるヴィスバーデンを指している。ここで賭博に負け文無しになったドストエフスキーが過去を回想する形で話は進む。工科学校時代に始まり、ドストエフスキーが作家になった後、ペトラシェフスキー事件に巻き込まれ逮捕、死刑執行の寸前まで行った様、最初の妻マーシャとの出会い、兄の死後、裕福な伯母に無心に行った様子、アポリナーリヤとの関わり合い、賭博場での出来事。

ドストエフスキーの生涯の挿話を綴り、如何にして『罪と罰』の構想が浮かんできたかが書かれている。もちろんグロスマンの創作であるから事実そのものの記録ではないが、ドストエフスキーに通じている作者ならではの生き生きとした叙述に、ドストエフスキー愛好家は関心を持って読めるだろう。

2023年11月14日火曜日

亀山郁夫、リュドミラ・サラスキナ『ドストエフスキー 『悪霊』の衝撃』光文社新書 2012

二人の研究者の対話がまず第一部(2011年1月23日)、次に第二部は亀山の質問にサラスキナが答える電子メールのやり取り。更に二人の夫々の論文がある。主要な部分である第一部では亀山郁夫が、ロシヤの同じくドストエフスキー研究者であるサラスキナに『悪霊』について質問を投げかけ、それに対しサラスキナが回答し、亀山が自分の意見をいうインタビュー形式で進む。

よく理解できなかったのは「スタヴローギンの告白」(原題「チホンのもとで」)を本文に挿入する位置で、邦訳では江川卓以外は第8章と第9章の間に入れている。その措置を亀山は池田健太郎と小沼文彦の名を挙げ「これは翻訳者が考え出した一種のフィクションということになります。厳しい見方をすれば、これは言ってみれば越権行為でした。翻訳者の椎でそれをやっているわけですから」(p.114)とある。なぜ池田と小沼が糾弾されているのか。江川以外はみんなしているのではないか。

2023年11月12日日曜日

ラスネール『ラスネール回想録』(平凡社ライブラリー 2014) Memoires 1836

著者ピエール=フランソワ・ラスネール(1803~1836)はフランスの詩人、犯罪者である。著者が処刑される前、コンシェルジュリー監獄で執筆された。

強盗殺人のほか、多くの犯罪を行ない、死刑に処された。ただし本書は犯罪記録ではない。犯罪実録物を期待してもそんな書物ではない。まさにラスネール個人の内面を物語る近代人の告白録である。まず自分の家族、自分自身の生い立ちを話す。ラスネールには兄がいたが、両親は兄を可愛がり、ラスネールには冷たかった。いかに兄が溺愛され肯定され、自分は愛情の対象ではなかったか話す。自分が親に愛されていたらこんな人間にならなかっただろうと述べる。小説になるような劇的な人生を送っているわけでない。叙述は処刑寸前まで書いてあるが、最後の方はラスネールの執筆ではないそうだ。その方がもっともらしい。

アンチャーテッド Uncharted 2022

ルーベン・フライシャー監督、米、116分。宝物捜しの映画。主人公の青年は子供の時、兄と別れた。それ以来会っていない。大人になり、マーク・ウォルバーク演じる男が接近してくる。兄について知っているようだ。マゼランが世界一周の時、残した宝物を見つけようと兄とも話していたが、男はそれを実際にやろうと言い出す。

鍵を握る、金で出来た十字架のオークションに行き、それを盗み出す。この十字架は黒人の女も狙っていた。十字架を手に入れたものの、もう一つ十字架があり、それはスペインにいる女が持っている。スペインに飛ぶ。女に会い、スペインの地下にある秘密の場所に二つの十字架を使って入りこむ。ただしそこに宝物はなく、それがあるインドの地図を見つける

。インドの海に面した洞窟でマゼランの船を見つけ、宝物もそこにあった。しかしあの黒人女が手下と共にやって来て、船ごと盗む。ヘリコプターで吊り下げ、マゼランの船は空中に浮かぶ。しかし主人公とウォルバークはそれに挑み、相手方をやっつける。宝物も船も一緒になくしたと思ったが、主人公はポケットに少しの黄金を入れていた。

2023年11月11日土曜日

帰れない二人 江湖儿女 2018

ジャ・ジャンクー監督、中仏、135分。21世紀の変わりゆく中国で二人の男女の関わり合いを描く。

女主人公の恋人はやくざで結構顔役であった。車に乗っているとチンピラどもが大量に襲いかかる。男が車を出て相手をするが、多勢なので不利になる。女はやはり車から出て、男から預かっていた拳銃をぶっ放す。これでチンピラどもは怯んだ。しかし拳銃不法所持で逮捕される。誰の拳銃かの警察の問いに自分の物だと答える。これで重罪になり五年間服役した。

出所して相手の男を捜す。男は一年だけで出所していた。揚子江の川を下る船で身分証明書や金を盗まれる。相手の男は見つからず、しかもかつての知り合いの女から今は自分の恋人だと言われる。更に男を捜す。見つかった相手になぜ自分の出所の際、迎えに来てくれなかったとかと女はなじる。二人は愛を確認し合うが、別れる。後年になって女は仕切る立場になり、男とまた会うが男は病気で足が動かず車椅子の生活だった。女は男を医者に診てもらうようにし、足は治る。しかし男は再び出ていくのであった。

2023年11月10日金曜日

稲垣栄洋『生き物が老いるということ』中公新書ラクレ 2022

植物学者である著者が、死と長寿について考察した書。凡ての生物に死が必ず訪れるわけでない。不死の生物も多くいる。単細胞生物は分裂を繰り返し増殖していく。分かれた部分は以前と全く同じである。そういう意味で死なない。ただしこのように同じ物で進化、発展がないと何かで絶滅する可能性がある。

それに対して雌雄の別のある生物は、雄と雌で夫々の半分ずつの染色体を使い、新しい生命が生まれる。以前と同じではない。その結果、新しい生命の誕生によって古くなった親(雌と雄)は死んでいく。新しい生命に道を譲るわけである。この進化した生命のあり方の出現により死が生まれた。