2016年11月30日水曜日

長沼伸一郎『経済数学の直観的方法 マクロ経済学編』講談社ブルーバックス 2016

著者は同じブルーバックスで『物理数学の直感的方法』なる本を出している物理学者。
仕事の必要上経済学を勉強してきて、この著者は本書で初めて知った。
面白い本である。経済学者の書く本とは趣きが異なる。

商品の詳細
経済学にとって数学は道具であり、こういう手法があってこう解くといった勉強をする訳で、なぜその手法が生まれてきたか何も聞かされていない。この本では初めの方にそれらの手法が、まだ学問が現代のように分化していない時代に天文学のためこのように発展してきた等と書いてあり、経済に使われる数学の歴史的思想的経緯が書いてある。その辺は新鮮であり面白いが、いずれにしても広い意味での物理の例であり、その専門家にとっては直感的に分かりやすいかもしれないが、経済学を専ら勉強してきた者にとってはどうだろうか。

序文にも書いてあるように本著は理系読者に経済学や使われている手法の解説をするといった側面がある。むしろそちらの方が主か。そのため乗数理論やISLM等と入門的事項まで書いてあり経済学徒にとって今更感がある。著名には「物理学徒のための」を付けた方が相応しいし、他に著名の候補として『経済数学の物理学的解釈』とか『物理屋、経済数学を斬る!』とかはどうだろう。

ともかく著者は理系の人らしく自らが理系であることを強烈に意識しており、文系理系の対比がむやみに出てくる。理系の人はコリン・ウィルソンのいうアウトサイダーなのだろう。
マクロ経済学の歴史も書いてあり、これも面白いが評者は学者でもないので評価は控える。

本著が売れているのは経済学者の書いた経済数学の本は形式的過ぎるものが多いせいか。進んだ経済学に利用される数学を分かりやすく、かつコンパクトに解説した本を経済学者に求める。

小さなムックの物語 DIE GESCHICHTE VOM KLEINEN MUCK 1953



 「DIE GESCHICHTE VOM KLEINEN MUCK」の画像検索結果
東ドイツの総天然色映画、監督シュタウテ。
ドイツの童話作家ハウフの原作。その『隊商』は我国でも広く読まれてきた。
この作品も回教国が舞台。老人が子供たちに物語る自らの幼い日の冒険。

小さなムックは親に死なれ孤児となる。魔法使いからたまたま盗んだ靴と杖。靴をはくとすごく速く駆けることができる。王様の飛脚長と駆け比べをし、宮廷の総飛脚長にとりたてられる。王女は隣国の王子と恋仲で結婚を望んでいる。しかし悪い王子がなんとか王女を自分のものにする気でいる。王はそそのかされて、隣国と戦争を開始しようとする。戦争の詔書をムックに届けさせようとする。王女の計らいや人助けで運よく詔書は隣国に届かず戦争は回避される。

王国は財産が底をつき窮乏する。庭に埋まっているはずの宝物を捜そうと王は魔法使いに命じる。ムックが持っていた杖は実は黄金を探り当てる能力があった。悪い王子とその仲間によりムックは黄金泥棒とされ宮廷を追放される。
 
ムックは食べると驢馬の耳が生えるイチジクとそれを元に戻すイチジクを発見する。このイチジクによって王や悪い王子などに驢馬の耳を生えさせ、また隣国の王子と共に悪者を退治する。

朝やけ MORGENROT 1933



 
監督ウチツキ、白黒のドイツ映画。ヒトラー政権獲得直後の映画で、戦意昂揚の意図が見られる。
Uボートはイギリス艦隊の策略にかかり沈められる。多くの犠牲を出し、残る乗務員は10名のみ。しかし救命用の胴衣は8人分しかない。
艦長は脱出を船員に命じるが運命を共にするといい誰も聞かない。そのうち二人の乗組員が自殺し残りの仲間を助ける。故郷に帰った乗務員は新たな戦闘に赴く。

このように犠牲的精神を強調した映画なのであるが、フィルムセンターのパンフレットによれば「日本や米国などの各国で、抑制された写実的描写と、故郷の人々らの陰影を持った人物像から、戦争の惨禍を描いた人道主義的映画との評価を集めた」そうである。
 
なお長い会話が交わされているのに字幕が出ない場面が結構ある。話の理解上必要ないと感じたか、当時の状況から都合が悪かったのか。一方で三行の渡る字幕も出てくる。旧漢字とプリントの古さから見にくい。まだ字幕技術が十分発達していなかった時代なのであろう。