2023年2月28日火曜日

クリスタル殺人事件  The mirror crack’d 1980

ガイ・ハミルトン監督、英、105分、アガサ・クリスティ原作、ミス・マープル物である。

イギリスの田舎の邸宅で映画の撮影が行なわれる。主役はかつて大女優で長らく映画から遠ざかっている女優である。エリザベス・テイラーが演じる。夫は監督でロック・ハドソンが演じる。
ところが製作者の妻も女優で、キム・ノヴァクがやっている。このノヴァクを製作者は映画に出演させようというのである。テイラーとノヴァクは犬猿の仲で、なぜこんな女を出演させるのかとテイラーもハドソンも怒る。
邸宅でパーティが開かれ、テイラーがお喋りなテイラーファンを自称する女と話している最中、いきなりその女は倒れ死ぬ。毒殺された模様。実はその杯はテイラーが飲もうとしていたのである。テイラーを殺そうとして誤って女が殺されたのではないか。
ミス・マープルの甥というロンドン警視庁の刑事が来て、聞き込みをしていく。テイラーの秘書をジェラルディン・チャップリンが演じ、犯人を探ろうとしていたが、自分が毒殺されてしまう。
ミス・マープルの推理で謎が解ける。実は誤って女は殺されたのではない。女が喋りまくる中で昔、テイラーに接吻したと告げる。その後テイラーの出産した子供は障碍を患っていた。その原因が女の接吻にあるとテイラーは気づいた。それで自ら毒をもった杯を女にやり目的を果たしたのである。

ヴァンキッシュ   Vanquish 2021

ジョージ・ギャロ監督、米、96分。

モーガン・フリーマンは数々の功績を残し、今は引退している警官である。しかし実際は裏で悪事を働いていた。
フリーマンがかつて救ってやった、助けた母子がいる。その幼い娘を隠し、母親に娘を返して欲しいなら、自分の言う事を聞けと迫る。具体的にはフリーマンの金を悪党どもから取りに行けというのである。
母親はオートバイに乗り、悪党どもの所に行き、金を受け取るだけでなく、相手をやっつける、防衛のため殺していく。この母親が実質的な主人公で、いかに悪党どもを片付けるかが映画の主要部分である。フリーマンは無線で母親に指示を与える。
ともかく凄腕の母親である。こんな腕っこきがなぜ、フリーマンの保護を必要としたか、分からなくなる。

ゴンブリッチ『美術の物語』  The story of art

1909年欧州に生まれた美術史家、ゴンブリッチによる美術史。初版は1950年に出て最終版は1995年でその翻訳である。主に西洋美術を扱っている。

優れた美術に対して、著者は感激の言葉を連ねる。これまで読んだ淡々とした記述の美術史と比べると、著者ははっきり自分の評価を表明している。また前の時代と比べ、この作品はこういった点で優れているという比較を良くする。まず美術一般論から始める。その後、地域別ではエジプトの美術の解説がある。ギリシャに移るとエジプトに比べ、ギリシャ美術はこんなに優れていると書いてある。エジプト美術はギリシャ美術を持ち上げるための書いたのかと思った。その後の時代にしても、ある美術は前の時代のどれそれに比べ、こういう点で優れているという記述が結構出てくる。人間は悪く言う方を良く覚えるものだから、比較で下に扱われた美術をたいしたことないと思ってしまうかもしれない。

本書は西洋美術に限っていない。その他では中国の美術も若干触れている。日本については中国の影響下にあったと簡単に書いてある。中国を高く評価し、日本は付け足しという扱いは少なくともかつての西洋人が東洋を論じる際には標準である。

以下は本書の感想ではない、触発された個人的意見である。中国の美術がそれほど優れているというなら具体的にはどのような作品があるか。この本を読むような人なら本書に出てくる美術をそれなりに知っているだろう。美術愛好家でなくとも、日本人なら『モナ・リザ』とか『ヴィーナスの誕生』をたとえ名は知らなくとも、大抵の人が絵自体は知っていると思う。それに対して中国美術は名作を挙げろと言われて、どの程度の人が何らかの答えを出せるか。中国美術は優れている筈なのに、なぜか。たまたま日本の美術教育、鑑賞の環境が遅れている、あるいはおかしいのか。西洋人が高く評価する中国美術は、欧米では日本より有名なのだろうか。(河出書房、2019年)

2023年2月26日日曜日

キング・コング King Kong  1933

メリアン・クーパー、アーネスト・シュードサック監督、米、100分。

怪獣映画の古典。映画監督は映画撮影のための女優を捜していた。街で気に入った女を見つけ、船で遥か彼方の島に向かう。
そこでは未開人が儀式をしていた。若い女を生贄として捧げるところだった。やって来た白人らのうち女優を見て、これこそ生贄にふさわしいと未開人はみなした。未開人らを退け、船に一行は帰った。その夜、未開人らは舟で船に着き、女優を攫っていってしまう。後で気が付いた一行は女優を取り戻しに島に行く。
生贄のため縛り付けられていた女優。そこにキング・コングが現れ、女優を攫っていく。
白人の一行は女優を取り戻すためキング・コングの後を追う。様々な恐竜、ステゴサウルスや首長竜などが現れ、一行は次々と犠牲になる。キング・コングの攫った女優を置いた場所に別の恐竜が現れ、キング・コングと格闘になる。その間取り戻しに来た船員によって女優は逃げる。キング・コングは女優がいなくなったのに気が付き、後から追ってくる。
海岸近くまで来た時、白人が持ってきた睡眠爆弾でコングを眠らせてしまう。監督はこれを米国に連れて行き、見世物にして儲けようと企む。
ニューヨークの劇場。コングを見る大観衆が集まっている。記者たちが写真を撮るためフラッシュをたくのでコングは怒り、鎖をちぎって暴れ出し、街中に逃げる。多くの人々が犠牲になる。あの女優を見つけ捕まえる。
エンパイヤ・ステートビルに女優を捕まえたまま登る。頂上に着く。二枚翼の飛行機がやって来る。女優を降ろしたので飛行機は攻撃を始める。さしものコングもてっぺんから落ちる。女優は助けられる。地上に落ちたコングを見て、飛行機でなく女にやられたのだと言う。

北杜夫『マンボウ雑学記』(岩波新書)  1981

小説家の北杜夫による、本人曰く「中学生や高校生むきのエッセイ」(p.1)である。内容は「日本について」「お化けについて」「看護婦について」「躁鬱について」の四章から成る。

「日本について」では日本という国の成り立ち、古事記や日本書紀の内容の解説から始まり、戦前は学校で教えられていたが、戦後は全く追放された神話その他について北杜夫流の説明がある。著者が日本をどうとらえているか分かる。「お化けについて」では著者はお化けが大好きらしく、お化けに関する著者の蘊蓄が延々と語られる。「看護婦について」では著者が経験した日本と外国の看護婦について語られる。昔の話なので外国も日本も今では変わっているだろう。「躁鬱について」では著者がその患者でもある、また精神科医として接した経験から躁鬱病を説明している。

ヤンキードゥードゥルダンディ  Yankee Doodle Dandy 1942

マイケル・カーティス監督、米、126分、ジェームズ・キャグニー主演。

戦意高揚のためのミュージカル映画である。主人公のジョージ・コーハンは実在の作曲家、芸人で、それをキャグニーが演じる。

キャグニーが時の大統領を演じる劇を上演していると、本物の大統領から呼ばれる。大統領からキャグニーはこの劇を演じるようになった経緯を聞く。キャグニーが説明するこれまでの人生が映画の主要部分である。キャグニーは芸人の家に生まれた。妹も後に生まれた。一家四人のコーハンは組を作り有名になる。主人公は子供の時から自信家で、そのためにいらぬ軋轢を生じる場面が度々だった。成人してから好きな女と結婚する。キャグニーはそのうち親や妹を亡くす。老いて芸から引退したキャグニーだがアメリカが参戦すると自分の芸を再び披露するようになる。その舞台でのキャグニーの踊り、歌が映画の見物となっている。

昔観た際、キャグニーの歌のうち、戦争相手国の日本やドイツを非難するところの歌詞が字幕で出ていなかった。それだけ昔の記憶にある。ところが今回の見直すとそのような場面はなかった。当該部分は歌、歌詞だけでなく、そっくり削除してしまったのだろうか。

2023年2月21日火曜日

屋敷女  A l’interrier 2007

アレクサンドロ・バスティロ、ジュリアン・モーリー監督、仏、82分。

雨の中、車が衝突する。運転していた夫は死に身重の妻は助かる。
日が経ってクリスマス・イブの日。一人住いのその身重の女の家の周りに、人がいるよう。警察に連絡した。警察が見たところ何もなかった。
その後、怪しい女が襲う。女との戦い。やって来た上司の男はその女に最初は騙されるが、ばれると殺される。更にやって来た母親を、主人公はその女と間違え殺してしまう。駆け付けた警官らも次々と女の犠牲になる。
ついに女は身重の女を追い詰める。なぜ女は殺そうとするのか。それは以前の事故にあった。衝突した相手の車に、襲ってきた女が運転していた。女は妊娠していたのに、胎児を事故で失った。もう一方の車に乗っていた妊婦で今、出産しようとしている女を殺そうとしたのである。

地獄の英雄   Ace in the hole 1951

ビリー・ワイルダー監督、米、112分、白黒映画、カーク・ダグラス主演。

ニューメキシコ州の街の新聞社にカーク・ダグラスがやって来る。かつてニューヨークその他の大都市で記者をしていたが醜聞を起こして首になり、田舎に来たのである。ダグラスは如何に自分が大記者か大口を叩き、雇って欲しいと言う。ここで名を挙げ、また大都市に戻る気でいた。一年経っても田舎なので事件らしい事件が起きず、ダグラスは腐っていた。
編集長から蛇狩りの記事を書けと言われ、若い記者を連れて向かう。途中で女を拾った。亭主が洞窟に入って天井が崩れ動けない。救出の要があると言う。その現場に着く。洞窟の中に入ろうという者に代わってダグラスは自分で行く。奥の方で落ちてきた材に脚を挟まれた男を見つけた。食事等を与え話をし、救出すると約束して穴から出る。保安官と相談する。救出工事を行なう業者と話す。穴の側面を補強して救出すると言う業者に対して、ドリルで上に穴を開けて助けだせとダグラスは命じる。この方がはるかに時間がかかりニュースに出来るからだ。
新聞で書きたて事故を有名にし、野次馬が次から次へとやってくる。まるで大きな市場の出現である。穴の中の男の妻は、やっていた飲食店では儲けにならず去ろうとしていた。ダグラスは引き留める。事故が有名になって人々が押し寄せ、飲食店は大繫盛になり女は大儲けする。
救出の大立者となったダグラスはニューヨークのかつていた新聞社からの電話を待っていた。しかし何日もドリル作業に時間がかかり穴の男は弱ってくる。
ダグラスはニューヨークから採用の連絡を受け取った。しかし救出予定日に男は弱って死ぬ。大騒ぎしている連中に向かい男は死んだ、見世物は終わった、去れと拡声器でダグラスは告げる。みんな散っていく。ダグラスは男の妻に喧嘩で刺されていた。田舎の新聞社に戻り、来た時と同じように自分を雇えと言うが、その場で倒れる。

2023年2月19日日曜日

欲望のあいまいな対象  Cet obscur objet du desir 1977

ルイス・ブニュエル監督、仏西、99分。

スペインからフランスに向かう列車の発車間際、中年の男は駆けてきた若い女にバケツの水を浴びせかける。列車で同室になった者らから、その理由を問われる。その説明が映画の大部分である。
中年の主人公は新人の召使いをいたく気に入る。その女に積極的に働きかける。すぐに女は辞めたが家を突き止め、女の母親ともども攻勢にかける。なかなか女は承知しない。口では中年男をすごく好きなように言うが、肝心なところでいつも男を締め出す。女に騙され、逃げられても中年男は諦めない。
家を買ってやり、鍵を渡したら扉を閉め、男の見ている前で若い男を連れてきて、抱き合うのである。
度重なるあまりのひどさに男は堪忍袋の緒が切れ、やってきた女に水を浴びせたのである。列車が終点に着く。その際にあの女がバケツを持ってきて、男に水を浴びせる。
男女は仲直りしたようだ。アーケードの商店街を二人で歩いている。ラジオでテロのニュースの放送をしている。男女が歩くその後で爆破が起きる。濛々たる煙で終わり。

デジャヴ    Déjà vu 2006

ニー・スコット監督、米、127分、デンゼル・ワシントン主演。

マルティ・グラで軍の兵士やその家族を多く乗せたフェリーがニューオーリンズ港を出た直後に爆破炎上した。犠牲者は五百名以上になった。公安官のワシントンは若い女の死体を発見する。船の爆破のせいでなく予め殺されていたようだ。しかもこの女が殺されたのは船の爆破に関係あるらしい。
爆破の原因を探るべく、信じ難い新技術が登場する。全くの空想科学映画になる。過去の映像を見られる技術、装置が開発されていた。数日前の過去をそのまま、いかなる角度からも再現できる。しかし自由自在にいつの時間にも行けるわけでない。今から数日前をそのまま映し、現在と数日前の間の時間幅は固定されているのである。これで爆破前、殺される前の女の行動を逐一追えた。女はある男と会い、女の車が爆破に使われたようだ。
ここで新たな空想科学要因、タイムマシンが登場する。タイムマシンに乗りワシントンは過去に行く。女が殺されるのを助ける。更に船の爆破を防ぐべく行動する。最終的に爆破は免れる。女とワシントンは仲良くなる。過去の歴史を変える映画なのである。

2023年2月17日金曜日

ビリディア    Viridiana 1961

ルイス・ブニュエル監督、西、90分、白黒映画。

女主人公は修道院にいる。叔父からの要望で会いに行く。これまでほとんど接触がなかった。それでもお金の世話にはなっている。義理で叔父の家に行く。叔父は広い屋敷でやもめ暮らしをしていた。ビリディアナがいい加減帰ろうとすると、叔父は求婚するのである。それでもふりきって家を出た。駅で叔父が自殺したと聞き、戻る。叔父を死なせてしまったビリディアナは悔恨する。
その償いとして屋敷に住み、乞食などを世話する。叔父の息子、従兄が屋敷に戻ってきた。その従兄らと家を開けている間、乞食、浮浪者の群れが屋敷を占領し、飲み食いや狼藉を働く。戻ってきたビリディアナらは驚く。更にその乞食の一人はビリディアナに乱暴を働こうとする。従兄の機転で助かった。後、ビリディアナは心を入れ替え、カードなど俗物的な行ないをするようになる。

2023年2月16日木曜日

地獄に堕ちた勇者ども    The damned 1969

ルキノ・ヴィスコンティ監督、伊西独、157分。

映画は鉄鋼業を営む一家の長の誕生日の祝宴から始まる。ナチスによる国会議事堂放火事件の知らせが来る。社長である老人はその夜射殺された。容疑者と思われる反ナチスの男は逃げていた。
次の社長には一家の未亡人と恋仲になっていた男(ダーク・ボガード)を未亡人の息子(ヘルムート・バーガー)、直系の相続者、が指名する。
ボガードの知り合いでナチス党員となっている男が、ナチスと協力していくよう陰で暗躍する。鉄鋼業は武器の供与をどこにするかの問題があった。突撃隊はナチスから粛清される。
その後はバーガーがナチスと協力し、恋人同士の母親とボガードをいかに排除していくかになる。結婚式の日、ナチスの制服で現れたバーガーは式後に母親とボガードを部屋に閉じ込め、始末する。

キャッシュ・トラック   Wrath of man 2021

ガイ・リッチー監督、米、126分、ジェイソン・ステイサム主演。

ステイサムはギャングの親玉で現金輸送車が出てくるところの下見に来ていた。丁度息子が車に同乗していた。ステイサムが買い物に行った隙に現金輸送車を襲う別のギャングの襲撃がありたまたま近くに止まっていたステイサムの息子は殺される。ステイサムも銃弾を喰らった。気が付いてみると息子が死亡したと知らされる。
それ以降、息子の仇を討つべくそのギャング団を捜しまわる。襲撃された輸送業者に採用される。またギャングが襲ってくるのを待っていた。ついにその日がやって来た。仲間はほとんど殺され、内通していた同僚は大金を奪ってギャングと共に逃げる。その裏切り者もギャングに殺された。ステイサムはギャングで生き残った男が息子を殺した者だったので相手に知らせ、復讐を遂げる。

2023年2月13日月曜日

赤い砂漠   Il deserto rosso 1964

ミケランジェロ・アントニオーニ監督、伊仏、120分、モニカ・ヴィッティ主演。

工場のある殺風景な場所に、ヴィッティは幼い息子と一緒にやって来る。他人が食べていたパンを買って陰で食べる。
工場には夫が勤務していた。夫の友人がいた。夫は後でヴィッティが事故を起こし、それ以来精神が少しおかしくなっていると告げる。
息子に幻想的な浜辺で起こった話を聞かせる。
友人はヴィッティに惹かれる。後に友人とヴィッティは寝る。ただヴィッティの精神は良くならない。友人も離れる。
ヴィッティは;息子とおなじみの工場地域を歩いていく。

2023年2月12日日曜日

ラスト・バレット   Cold blood legacy 2019

フレデリック・プティジャン監督、仏ウク白、91分、ジャン・レノ主演。

ロッキー山脈、雪の林の中、雪上車が駆け抜ける。乗っているのは若い女。転倒する。脚などに怪我をし、這っていく。
レノが小屋に独り住まいをし、『孫子』を愛読していた。レノは女を見つける。小屋に運び傷の手当をしてやる。女が意識を回復してからも手当のため、小屋に二人で住み続けた。
女が歩けるようになった。レノが小屋の外の湖で釣をしている。背後から女は近づき、銃で撃った。だがそれは人形でレノは女を捕え、事情を聞く。女が事故を起したのは意図的であり自分に近づくためと、レノは分かっていた。女がいうには復讐のためだと。相手から仕掛けたとレノは言うが女は納得しない。
傷が回復したら山を出ようとレノは言う。女がいなくなっていた。女がいるところに行く。レノは銃を発射する。女を撃ったのでなく、女の背後にいて女を狙っていた狼を撃ったのである。レノは弾倉を落とす。
その時、やって来た警官らによってレノは射殺される。失踪した女を捜していたのである。女は警官らに抱えられ、小屋を後にする。

2023年2月10日金曜日

福田歓一『近代の政治思想』岩波新書 1970年

いわゆる社会契約説、ホッブズ、ロック、ルソーの思想、その諸前提の説明が主である。そもそも論と言うべき前提の説明から始まり、最後には現代での意義を語る。連続講演会を文章化したものであり、極めてやさしく解説している。話すとなるとどうしても例を多く出す。それで理解させようと務めている。ただそのせいで冗長な感を否めない。特に最初の方はそうである。もっと簡単に済ませ、社会契約説三人男の説明をもっと詳しく書いた方が良かったと思う。この講演は昭和43年に行なわれた。もう半世紀以上も昔である。結びは「遺産と現代」と題され、当時の著者の問題意識を書いている。著者は東大法学部教授でいわゆる進歩的知識人の立場からの意見である。だから親社会主義なのだが、次の文には驚いてしまう。

「・・・スターリン体制が容赦ない粛清の大へんな数の人名を奪ったのに対して、中国が「階級敵」に対してさえ、声明を奪うことしなかっただけに・・・」(p.187)

とあり、大躍進政策で数千万を死なせ、史上最大の虐殺者と言われている毛沢東の率いる中国に対して、こう理解しているのである。穏やかな文章であるだけに当時の左派が世界をどう認識していたか、より鮮明に伝わる。

2023年2月7日火曜日

柳川範之『元気と勇気が湧いてくる経済学』 2011

経済学の考え方を利用した人生論のような本。

まず選択の問題で、埋没費用の考え方を紹介する。覆水盆に返らず、で過去にこだわっては意味がない。次にこれまた選択の際の機会費用を解説する。機会費用と埋没費用は経済学で費用を考える際に基本なのでまず書いたのだろう。次に恋愛と研究開発は似ている?という章で少しずつ前進の必要を説き、オプション理論で将来を補償する手があると説明。行列の出来るラーメン屋を素材にして稀少性のある財の配分という経済学の基礎に触れる。また二次会の設定から次の次を考える、それで条件財の話になる。各人が発する信号、これの意味、効用を考える。将来を見据えるという話から、未来の管理、未来は固定していない、変わっていくものだと説く。

いずれも人生論の体裁を取り、経済学の考え方を説明している。(日本経済新聞社)

2023年2月6日月曜日

バウマン『この世で一番おもしろいミクロ経済学』 The cartoon introduction to eccnomics 2011

漫画によるミクロ経済学の教科書である。漫画だからといって馬鹿にできない。結構高度な内容が書いてある。サンク・コスト(埋没費用)や機会費用の説明がまずしてある。またゲーム理論の説明もある。

あまり正統的な教科書でなく、かなり個性的な本である。入門用としては必ずしも適さないかもしれない。絵がほとんどでそれに文字による解説が書いてあるから、優しいと勘違いする人が出てきそうである。もっとも経済学の説明に絵を多用するのは望ましいと思われる。文章で書いてその内容を理解しにくい事柄でも、絵解きすれば分かりやすくなる。

文章しか読まない人がいるが、図表を見れば理解が進む場合が結構ある。(ダイヤモンド社)

2023年2月4日土曜日

檀一雄『リツ子・その愛』  昭和25年

著者の最初の妻である律子が題名となっているが、最初の方は中国へ報道員として渡った経験が占める。昭和19年に洛陽に行かないかと誘いがあり、すぐに承諾する。予定は3ヶ月だったが自分の意思で長期にわたり中国各地を回る。そこでの経験が書いてある。田舎の福岡に戻る。妻の律子は病気であった。福岡周辺の地をあちこち移る。親などとのごたごたがある。生まれて間もない息子太郎の記述も多い。終戦を迎える。福岡西方の半島にある田舎に引っ越し、そこで暮らす。

私小説であり、著者が語る型式である。終戦を迎えたあたりの描写は当時の日本人がどのように感じていたかの一例として興味がある。(新潮文庫、昭和42年改版)

2023年2月3日金曜日

加藤隼戦闘隊  昭和19年

山本嘉次郎監督、東宝、109分、藤田進主演。

陸軍の協力のもとに作られた、実在の加藤健夫少佐(後に昇級)をモデルにして、真珠湾攻撃以前から加藤が戦死した昭和175月までを映画化した。南洋が舞台である。豪放磊落で部下に慕われる加藤の生き様を描いている。
古い映画なので音声が聞き取りにくいのが欠点。軍が協力したので実際の飛行機を使った撮影、また円谷英二による敵地爆撃の特撮も見物である。
加藤は昭和175月というミッドウェイの敗北直前に亡くなっているので、日本軍が華々しい活躍をしていた時期を撮影すればよかったわけになった。