2023年9月30日土曜日

カー『火刑法廷』 The burning court 1937

出版社の編集をしている男とその妻がいる。友人夫妻がいて、その伯父が亡くなる。編集者夫婦は郊外にあるその友人宅に行く。その伯父の死に毒殺の疑いが生じる。毒殺されたかどうか確かめるため、納骨堂の地下にある棺を開けて死体を調べたい。苦労して封印された納骨堂の入口を壊し、地下に入る。棺を開けて見ると、中は空だった。どうやって死体を運び出したのか。また犯人は誰か。

この謎を17世紀の毒殺魔ブランヴィリエ侯爵夫人の話とからませ、作家が解いていく。最後にどんでん返しというか、普通の探偵小説ではやらない趣向がある。(小倉多加志訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、1976年)

伊藤隆敏・星岳雄『日本経済論』第2版、東洋経済 2023

英語で出版されたThe japanese economy 2nd. ed.を翻訳した本。初版は伊藤のみの著であったが、第2版では星が共著者として加わっている。内容は項目別歴史的にこれまでの日本経済を経済学を使い分析する。経済学の日本経済分析への応用である。実証分析例も多く取り上げている。目次は次の様。

第1章 日本経済入門/第2章 日本経済の歴史/第3章 経済成長/第4章 景気循環、バブル経済の発生とその崩壊/第5章 金融市場と金融監督/第6章 金融政策/第7章 財政制度と財政政策/第8章 貯蓄・人口動態・社会保障/第9章 産業構造/第10章 労働市場/第11章 国際貿易/第12章 国際金融/第13章 日米経済対立/第14章 失われた20年。

 それぞれの分野での日本の特徴を述べ、それが過去どのように発展してきて、その経済学的理解、これこれの分析例があるといった叙述である。ただ当然だが過去の分析が中心になる。労働市場の章では日本的雇用慣行の分析を紹介しているが、既に過去の話であり、労働事情は急速に変わっている。将来とも変わっていくだろう。雇用の確保は最大の経済課題であり、今後、国民の雇用をどうすべきか。

今、日本経済を論じるなら、最大の関心はなぜ日本はバブル後、経済が低迷を続け先進国の中でも劣等生になってしまったか、これから抜け出す道はあるのか、という点であろう。これまでの支配的な議論はデフレが続いているのだから、供給制約ではない、需要が足りないのだ、だから需要喚起、デフレからの脱却こそが必要、といったものだった。それで20年間、金融緩和を続け、政策論議は金融、デフレだけになってしまった。結果はどうかと言えば大昔の教科書にあった「金融政策は引くことはできても、押すことはできない」(景気引締は可能だが刺激は無理)を思い出すくらいである。ともかく他の議論はされず、これこそ政策論議の「失われた20年間」ではなかったか。

なんだかんだと言っても今の日本は総体的に見れば豊かな生活を送っているだろう。これは過去の遺産による。今働いている20歳代が高齢になり引退して生活を送る時代になった時、現在ほどの生活を送れるだろうか。「これまでも日本経済は、幾多の試練を乗り越えてきた」と本書にある。政府の文書ならそう言わざるを得ないだろうが、正直にそう思える人はどれほどいるのか。そういった点を見据えて経済論議をしなくてはいけない時代になっている。


2023年9月29日金曜日

美しき小さな浜辺 Un soli petite plage 1949

イヴ・アレグレ監督、仏、87分、白黒映画、ジェラール・フィリップ主演。田舎の浜辺にある侘しいホテルにフィリップがバスでやってくる。療養に来たというが、雨の中、浜辺を散歩する。歌手の殺人がニュースになっていた。

後に車で別の男がパリからやって来て同じ宿に泊まり、フィリップを見張る。宿で働く孤児院出身の少年に監視させる。少年はフィリップが嫌いだった。フィリップは犯罪者だった。男はフィリップが金を隠し持っているのではないかと詰め寄る。フィリップは否定する。二人は同じ女に恨みを持っていた。その女、歌手をフィリップが殺してきたのである。

後になって警察が来る。フィリップは少年に過去を打ち明ける。自分もあの宿で少年時代働いていた。声をかけてくれた女についていった。それが歌手である。その女にひどい目に会わされ、殺した。我慢して働いていた方がいいと諭す。宿の女中とその仲間はフィリップを逃がそうとする。トラックの手配までしたがフィリップはやって来ない。フィリップは浜辺を歩いていた。少年が後になって浜辺の小屋を見て驚いて逃げ出す。(フィリップの自殺死体があったのだろう)

村上春樹『更に、古くて素敵なクラシック・レコードたち』文芸春秋   2022

著者は以前に『古くて素敵なクラシック・レコードたち』(2021)を出しており、その続篇である。著者は前著のまえがきでLP15千枚くらい持っていて、2割がクラシック・レコードだと書いてあった。すると著者所有のクラシックは約3千枚となる。前著で約5百枚挙げていて今回もほぼ同様とすると、前著と今回で所有LPの約三分の一を紹介しているわけになる。挙げられている曲を、こんな曲あるのかという曲、ほとんど親しんでいないが名は知っている曲、おなじみの曲に分けると、クラシック・ファンにとって大部分は最後の分類になるだろう。

前回の本を見てまず驚いたのはベートーヴェンの交響曲第5番、第6番、メンデルスゾーンとチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、リムスキー=コルサコフのシェエラザードなど超有名曲がずらりと並んでいる。ベートーヴェンの交響曲5番など、60年もクラシックを聞いてきたなら、今更の感があり、M・コブラの録音があると聞いて、だったら聞いてみようかというくらいなものだろう。それを何枚もの演奏を挙げ、比較している。ほとほと感心してしまった。昔レコード会社の広告で三大交響曲は田園、悲愴、新世界よりと書いてあった。前著ではこのうち、田園、悲愴を取り上げていた。今回は残りの新世界よりと、「最近では新世界よりも演奏会ではよく取り上げられている」と半世紀前の記事で読んだ8番を挙げている。ともかく前著で取り残した有名曲を選んでいるのこの本である。

どういう音楽を聞いているか、はどの曲を聞いているか、どの演奏を聞いているかに分けられる。著者の関心は後者であったようだ。ベートーヴェンの皇帝のところで、耳にたこができるが取り上げないわけにはいかない、とあって、有名曲の名演を紹介するのが本書の目的らしい。そんなの当たり前で、クラシック・ファンとは演奏比較しか関心のない連中だろうと言われそうだが、自分はどの曲を聞くかに関心があったので。

読んでいて少し気になったのは、バッハの無伴奏ヴァイオリンで世ではシェリングを評価しているが、自分はミルシテインだ、とある。確かにLP時代はシェリングが定盤扱いだったが、今ではAmazonなどを見てもミルシテインの方が評判がいいようだ。(そもそもバッハのこの曲はCD以降、名盤が目白押しなので今なら新録音から選ぶだろう)古くて・・・のLP選だから昔の録音を取り上げるのは当然だが、評価まで古い基準を持ち出さなくていい気がする。

オペラ全曲は今回、モーツァルトとプッチーニを挙げているが、ヴェルディとワーグナーがない。長いからCDで聞いているのかと思った。ともかくこれだけの有名曲をそれぞれについて何枚もの演奏を聴き直し、評を書くとは大変な作業であったと思う。これが一番感心した。

2023年9月28日木曜日

ホーンティング The haunting 1999

ヤン・デ・ボン監督、米、113分、1963年『たたり』の再映画化。リーアム・ニーソン演じる科学者は恐怖の研究のため、古い城館に三人の被験者を集める。いずれも不眠症に悩まされていた者たちだった。女2人、男1人である。女の1人がキャサリン・ゼタ=ジョーンズである。

母の介護を長年してきた女は夜中に扉が音を立てる、更には建物が歪む、子供たちの叫び声が聞こえるなど超常現象を体験する。他の者たちもそうであった。しかし女には自分に助けを求める子供たちが気になる。この館は昔作った貴族が子供たちを集めて殺した経緯があった。ニーソンの計画でもこの館がこれほど異常な現象を見せるとは知らなかった。最後には屋敷全体が暴れ出し、男の被験者は首を切られる。女は子供たちを救うとして昔の貴族の悪魔と対決し、自分は死ぬ。ニーソンとゼタ=ジョーンズだけが生きて屋敷を出られた。

2023年9月27日水曜日

ウールリッチ『黒衣の花嫁』 The bride wore black 1940

幾つかの挿話、いずれも謎の女によって男が殺されていく、初めは魅力的な初対面の女に男は惹かれる。最後に思いもかけぬ方法で男は殺される。連続してこのような殺人が起こったため、警察は何とかして犯人を突き止めようとする。

被害者たちに関連はなさそうだ。しかし粘り強い刑事の努力で最後には被害者たちの縁が分かる。この次はある作家が殺されそうだ。刑事が殺人犯の女から守ろうとした方法はどういうものであったか。小説の最後では真犯人の動機と犯した殺しとの関係も判明する。

2023年9月26日火曜日

飯田泰之『日本史で学ぶ「貨幣と経済」』PHP文庫 2023

マクロ経済学者の著者が日本の経済史を、貨幣の観点から記述する。7世紀の無文銀賤から始まり、富本銭、和同開珎などを経て、最後は江戸末期の金流出まで書かれている。教科書に記載のある富本銭や和同開珎は交換に使われるのでなく、財政支出や税金を納めるため使われたらしい。経済の交換には絹や稲などの商品が使われていたそうだ。続く皇朝十二賤と呼ばれる12種類の貨幣を発行したのも政府の収入のためだったらしい。江戸時代の有名な改革の経済的側面についての説明も面白い。

著者は貨幣の一般的な経済学的説明をし、一方で貨幣の実際を歴史的に説明しているので、両者を繋げるのがむつかしい感じがする。学者は一般論をしたがるものであるが、まず当時の事情を説明し(歴史事実記述)、その時々に貨幣の実際を理論的に補足していった(理論的解釈)らどうか。

2023年9月25日月曜日

クルーガー 絶滅危惧種 Endangered species 2021

M・J・バセット監督、ケニア、米、102分。アフリカのケニアに家族を引き連れてきたアメリカ人の夫、同行は妻と息子、娘、及び娘の恋人というあまり若くない男。

実は夫は会社をくびになっており、金もないのでサファリツアーに参加できず、おんぼろの車で勝手にサファリに駆け出す。犀の親子に会い、車を横転させられてしまう。水や薬は割れてしまった。連絡しようにも携帯の電波が圏外である。息子と娘の恋人は丘の上まで行き、そこで携帯を試そうとした。いきなり豹が襲ってきて娘の恋人を攫い、息子は命からがら逃げ出す。家族の元に帰った息子は、娘の恋人は獣にやられたと言う。ここにいてもしょうがないので、横転した車を捨て親子は歩きだす。

娘の恋人は殺されておらず、豹によって木の上に置かれていた。男は何とか逃げ出す。車に戻ってみると誰もいない。歩いていって川にたどり着いた家族は周りをハイエナに囲まれていた。これまでかと思ったら銃声が鳴り、ハイエナは逃げ去る。助けてくれたのは米人らで最初は感謝感激だが、密猟者と知る。密猟と知った自分たちを生かしてくれるか。車で逃げ出すため、父親が囮となって、密漁者たちを引き付ける。父親が殺された後、密猟者らは逃げた家族を追うが、最後は逃げきる。

Xエックス X 2022

タイ・ウェスト監督、米、105分。1979年、テキサスの田舎町にポルノ映画を撮影する一隊が来る。

老人夫婦から家の近くにある古い建物を借り撮影を始める。照明係の女子が自分も映画に出たいと言い出す。その恋人である製作者は断るが相手は納得しない。むしゃくしゃした製作者は夜中に車で帰ろうとする。老婆が道に立っていて驚く。車から降りると老女は抱きついてきて、驚く男を刺す。老人夫婦は殺人犯だった。特に老婆が主導者である。その後、捜しに来た他の撮影隊の連中も次々と殺害される。最後は残った一人の女子が車で逃げ出し、その前に倒れた老婆を車輪で轢き潰す。

2023年9月24日日曜日

パルムの僧院 La chartreuse de Parme 1948

クリスチャン・ジャック監督、仏、173分、白黒映画、スタンダールの原作をジェラール・フィリップで映画化。フィリップ演じるファブリスは故郷のパルム(パルマ)に戻ってくる。伯母の公爵夫人は喜んで迎える。伯母は高官の婚約者がいるのだが、伯母は関心はファブリスに向けられる。ファブリスは気が多く、恋人の女優の夫を殺害してしまう。その咎で塔上の牢獄に入れられる。

牢獄の責任者である将軍の娘クレリアはファブリスに恋する。ファブリスも牢獄の窓からクレリアを見下ろし、心を奪われる。ファブリスの刑は20年の監禁なので、伯母を初め関係者がファブリスを脱獄させようと試みる。将軍の娘なのでクレリアもそれに加担する。脱獄は成功し、ファブリスは離れた地で静養していたが、クレリアを忘れられない。またパルムに戻れば捕まるだけである。

伯母の制止も聞かず、ファブリスはパルムに戻る。クレリアはファブリスを助けられるなら、二度と会わないと聖母に誓っていたので、かねてからの婚約者と結婚した。ファブリスは心変わりしたのかとクレリアに詰め寄るが、事情を聞き納得する。隠れていた官憲はファブリスを逮捕する。伯母はそれを聞き、自分に気がある大公に掛け合う。ファブリスを釈放できたが、代償は大きかった。伯母は自由主義者をたたきつけ、大公を暗殺する。民衆も暴動を起こす。ファブリスはクレリアのもとに向かい、二人は結ばれる。後に伯母は結婚する相手のところへ、クレリアは夫の元へ、ファブリスは僧院へと向かうのであった。

2023年9月20日水曜日

くもとちゅうりっぷ 昭和18年

政岡憲三監督、松竹、16分。日本の動画史上、有名な作品、白黒映画。蜘蛛が巣を張っている。蜘蛛の顔は黒人そっくりで帽子をかぶっている。そこに飛んできた、てんとう虫を捉えようとお為ごかしで接する。てんとう虫は危うく捕まりそうになったところを花たちに助けられる。チューリップは花びらを開き、そこにてんとう虫を隠す。蜘蛛は巣の糸を吐き、糸でチューリップをぐるぐる巻にする。雨が降ってくる。風もかなり激しくなる。晴れる。糸でぐるぐる巻にされたチューリップは蜘蛛の糸から逃れ、てんとう虫も花びらを開かれ、飛んでいく。

華麗なるヒコーキ野郎  The great Waldo Pepper 1975

ジョージ・ロイ・ヒル監督、米、108分、ロバート・レッドフォード主演。1920年代後半、レッドフォードは複葉機で曲芸飛行をしていた。友人(悪友)が現れ、レッドフォードの芸を横取りしようとするので、飛行機に細工し友人の飛行機は池に墜落、友人も負傷する。酒場でレッドフォードは第一次世界大戦時のドイツ空軍との飛行戦を自慢していた。怪我をした友人がやってきてあれは法螺であり、別人がやった話を自分のように喋っているとばらす。

曲芸飛行も新しい事をしないと客は飽きる。レッドフォードと友人は翼の上を歩く芸をする。知り合いのスーザン・サランドンにそれをやらせようとしたら、怖がって翼にしがみつき、戻ってこれない。レッドフォードが別の機から翼に乗り、助けようとしたが、サランドンは落ちる。警察で取り調べられ、友人は曲芸飛行を辞め、ハリウッドに行く。レッドフォードは単葉機で曲芸飛行する者と一緒にやっていたが、その相手が墜落する。助け出そうとしている時、集まった野次馬のうち煙草を捨てた者がいたので火災爆破し、乗り手は死ぬ。怒ったレッドフォードは飛行機で会場の人々を低空飛行で脅し、これがレッドフォードの飛行資格停止になる。

レッドフォードはハリウッドに行く。友人に口利きしてもらい仮名で映画の飛行機乗りの仕事をする。そこにはあの伝説的なかつてのドイツ軍飛行士も映画に関わっていた。レッドフォードとそのドイツ飛行士は映画のため飛び立つが、シナリオそっちのけで空中で競い合い、ドイツ飛行士は機体が損傷する。

2023年9月19日火曜日

零戦燃ゆ 昭和59年

舛田利雄監督、東宝、128分。ゼロ戦の登場から戦争初期の華々しい活躍、後に米機に追い抜かれ、敗戦に至るまでを描く。2人の若い海軍軍人が主人公。

加山雄三演じる上官に開発されたばかりのゼロ戦を見せてもらう。一人は飛行機乗りに、もう一人は整備兵となる。ゼロ戦の試作機のテスト中に加山雄三は事故を起こし死ぬ。整備兵はゼロ戦を作っている名古屋に行った際に若い女、早見優を知る。映画は2人の若者と早見の青春を敗戦へ向かう過程で描く。史実から周知の通り、初期はゼロ戦は恐れられたが、後には日本の敗退と同じく劣等な飛行機になり果てる。早見は空襲で死に、主人公のうち飛行機乗りは撃墜される。

題名の零戦燃ゆとは敗戦後、ゼロ戦を残った整備兵の意見で、監視の中ゼロ戦を燃やすところから来ている。

2023年9月18日月曜日

エラリイ・クイーン『災厄の町』 Calamity town 1942

エラリー・クイーンがライツヴィルという田舎町にやって来るところから小説は始まる。時は1940年、欧州で戦争しており町は景気がよい。ここでクリーンは旧家のそばにある家を借りる。その旧家も借りた家もいわくがあった。

家には三人の娘がいる。一番上は旅役者と駆け落ちし、後に帰って来た出戻り。2番目の娘は結婚したい男がいて両親は気乗りでなかったが、認め家まで建ててやる。ところが新郎は結婚式の夜、失踪してしまった。家も花嫁本人も面目丸つぶれである。末娘は未婚であり、クリーンが来てから仲良くなる。またクイーンは偽名を使うものの、作家と名乗ったので一家からも歓迎される。クイーンが借りている家はその次女が結婚してから使うため両親が建てたのだった。

その失踪した次女の夫が帰ってくる。改めて次女と夫は暮らすようになり、クイーンは一家の家の方へ引っ越す。ところが次女夫婦は喧嘩が絶えない。また夫の姉と称する女がやって来る。ある日、次女の部屋から夫が書いたと思われる殺人予告の手紙が3通見つかる。妻が病気になり、最後は殺されるというのである。これをクイーンと末娘の2人が見つけ、内緒にしておいた。その手紙に沿った災難が妻である次女に降りかかってくる。最後は新年のパーティの夜、妻が飲んだ飲料に毒が入っており、それを妻から奪って飲んだ夫の姉が亡くなる。

毒が入っていたので殺人となり捜査が始まる。容疑者は夫で何も言わない。裁判が始まる。判決後、夫は脱獄を図る。その後事故死したと分かる。クイーンは、しばらくして後、真相を末娘とその恋人である検事に語る。(越前敏弥訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2014年)

2023年9月16日土曜日

中村隆英『日本経済(第3版)』東京大学出版会 1993

副題に「その成長と構造」とある。第1部は「長期成長過程の概観」で、第2部は「近代日本経済の発展」、第3部は「現代経済の構造」である。このうち第2部が中心で最も多くのページを割いている。第2部はその章としては明治維新、産業化、戦間期、戦時経済、改革と復興、高度成長、国際化の中の安定成長、から構成されている。つまり経済史的な構成でそれを経済学的説明及び統計で実証する。

出版年が1993年とあるようにバブル崩壊後間もない時期であり、早晩日本経済は元の成長に戻ると思われていた。しかるにそれから30年経っても、経済は全く停滞したままである。今後、日本の国民が豊かな生活を送れるよう経済が推移していくかと問われれば、悲観的な意見が多いのではないか。今後の日本経済を悪化させずに済むよう、これまでの日本経済の経験が役に立つであろうか。そういう問題意識で読む必要がある。

2023年9月15日金曜日

ヤコペッティのさらばアフリカ Africa addio 1966

ヤコペッティ監督、伊、138分、アフリカが白人支配から黒人支配に変わった後、どうなったかを記録する。

植民地から解放されたアフリカ諸国はいかなる現実をたどったか。この記録映画を見るとあまりにも衝撃的な映像に驚かされる。アフリカ解放後、迫害者とされたアラブ人の虐殺があった。ザンジバルでは多数のアラブ人が殺された。飛行機からの映像で死体の山(あまり詳細は見えないが)が映される。このほか、演出ではないかと言われるのはヘリコプターで縞馬を吊り下げて運ぶ際、太陽が背になっていてあまりに「映像美」に見える。

更に野生の動物狩りである。植民地時代は規制があって狩猟は禁じられていたが、解放後は認められ、大っぴらに動物狩りをするようになった。次々と動物たちが銃で倒される場面が出てくる。更に運ぶためその死骸をバラバラにするなど恐怖映画の域に達している。捕虜が軍人に捉えられ、銃で殺されるのをすぐ傍で映している。これなど裁判にかけられる位問題になったらしい。例えやらせがあったにしろ、このような映画は現在ではできる筈もなく、そういう意味では貴重である。

2023年9月14日木曜日

カラミティ・ジェーン Calamity Jane 1953

デイヴィッド・バトラー監督、米、101分、総天然色のミュージカル映画。主題歌はスタンダードナンバーになっている。女拳銃使いカラミティ・ジェーンをドリス・ディが演じる。

ディの住むダコタの田舎町は荒くれ男ばほとんどで、ジェーンも男勝りである。町の劇場が招いた芸人は女と思っていたのに、男で観客から非難を受ける。ディは男たちが写真を持っている女歌手を連れにシカゴまで行く。その歌手は出ていって、楽屋にいた付き人をデイは歌手と間違える。付き人も歌手志望だったので、ディの言いなりになって田舎に来る。劇場で歌い始める。声が違うとディも気がつく。観客も有名な歌手でないと分かってきた。しかしもうここまで来ている。付き人にやらせろとなり、歌い踊ると観客からやんやの喝采を浴びる。ディが憧れている軍人や悪友の男もすっかり魅入られる。

ディは付き人を自分の小屋に連れてくる。あまりに汚かったが、2人は掃除して綺麗にする。更にディがドレスに着替え、踊りの会に行くとみんな見違える。付き人と軍人は2人でむつまじくなり、ディは付き人に裏切られたと思い込む。ディに迷惑をかけまいと付き人は町を去る。それを知ったディは馬車を追う。付き人を捕まえたディは自分は悪友の男を好きになったと言う。町に戻り、ディと悪友、また付き人と軍人の結婚式が同時に行なわれる。

2023年9月10日日曜日

遠藤周作『深い河』講談社文庫 1993

何人かの主要人物がいる。初めは妻を病気で亡くす中年男。亡くした後、いつまでもその妻を忘れられず、妻の生まれ変わりがいるなら会いたいと思っている。若い女はかつてキリスト教系の大学の学生だった。そこで不器用な、宗教にのめり込んでいた男がいて、周りからからかわれていた。女もその男を馬鹿にしたが、関係を持つ。後に女は結婚するが離婚する。相手はエリートのようだが車とゴルフにしか関心のない俗物であった。

女はあの不器用な男が神父になるべくフランスで修行中だと聞く。フランスに新婚旅行に行った時、わざわざその男に会いに行く。男は神父らから、正しいキリスト教を理解していないと非難されていると言う。このほか戦時中にビルマで人肉食の体験をした元兵士の男が出てくる。今でも気に病んでいる。

女はインドに旅行に行く。団体旅行である。妻を亡くした男は生まれ変わりがそこにいるという情報を得ていた。戦時中の不幸体験から抜け出させない元兵士もいる。俗物を絵に描いたような新婚夫婦がいて、如何に日本人が下らぬ人種かを体現している。ガンジス河でのヒンズー教徒の沐浴が出てくる。題名の元であろう。あの不器用な男はここで死体を運搬する手伝いをしていた。新婚の俗物の好奇心の犠牲になって死ぬようだ。

2023年9月7日木曜日

私を野球につれてって Take me out to the ball game 1949

バスビー・バークレー監督、米、93分、ジーン・ケリーとフランク・シナトラが主演。同じ年に作られた『踊る大紐育』と同じ顔触れのミュージカル映画、総天然色。

ケリーとシナトラはある野球チームの選手。新しいオーナーが来るというので、くる前から貶している。それがエスター・ウィリアムズであった。女とは知らないので面前でさんざんこき下ろす。知って驚く。魅力的なウィリアムズに共に惹かれる。特にシナトラはそうだった。恋の仲介をしてやるように言って自分を売り込むケリーにシナトラは腹を立てる。

二人のチームは勝ち続け、優勝に近づいていく。シナトラに惚れ込む女ファンがいた。チームの優勝を阻止すべく、踊りのうまいケリーに近づき、ショーに出ないかと持ち掛ける連中がいた。野球と両立できないので最初は断るが、報酬額を聞いてその気になる。ショーと野球の練習で疲れ果てるケリーはミスを多く犯すようになり、チームは負け続ける。シナトラのファンの女が悪だくみを聞きつけ、これでケリーは目を覚まし、チームは再び強くなり優勝する。悪だくみの連中は捕まる。

湊かなえ『落日』角川春樹事務所 2019

二人の若い女の語りで話が進む。一人は脚本家の卵、もう一人は世界でも認められた映画監督である。二人による一人称小説。どちらかが語っているか気を付ける必要がある。

映画の脚本を書かないかと監督から脚本家に話がある。なぜ自分のようなまだ大して認められていない脚本家に声をかけたのか。過去の殺人事件、兄が妹を刺殺し家に放火して両親が死んだ事件を映画化したいと監督は考えている。脚本家がその事件のあった町の出身だったから。更に事件を起こした一家がアパートに住んでいた時代、この隣に監督が子供の時、住んでいた。仕切り板越しにベランダで言葉もない交際があった隣の者は、殺された少女の幼い日か。殺された少女はアイドル志望で可愛かった。しかし裏の顔があった。脚本家は時々姉に話しかける。姉はピアノがうまかった。その姉は事故死していた。

これらが最後に凡てつながりがあったと判明する。いかにも作り話的だが、まさに小説だからそう作れる。