2022年12月31日土曜日

ルードヴィヒ/神々の黄昏 Ludwig 1972

ヴィスコンティ監督、伊、仏、西独、238分。

バイエルン国王ルードヴィヒ二世の半生を描く。ルードヴィヒは従姉のロミー・シュナイダー演じるオーストリア皇后を恋しており、その妹を結婚相手として推薦されるが気乗りがしない。後に一度婚約するが破棄してしまう。ワーグナーを傾倒し、招いて巨額の金を費やすので、政府から散々不満が出る。ワーグナー自身はルードヴィヒを馬鹿にしていた。後にさすがに浪費家のワーグナーを追い出す。最後は精神がおかしくなり、拘束されていたが、医師と二人で外出し死体で発見される。

2022年12月29日木曜日

『帝国地図 大正9年』

大正9年版の日本帝国の地図の復刻版である。当時の日本は植民地があったので、その地図を含む。

まず実物を見ると第一印象は本が小さい。地図帳は普通の本より大きいと思っていたので、この本を見ると小さく感じる。16×23cmと普通の本と変わらない。表紙は厚い、すなわちハードカバーである。また薄いと感ずる。Amazonによれば59ページである。しかも開いてすぐ目に付くのは白紙のページが多い。これもAmazonにある出版社からの情報では当時はカラー印刷は片面にしかできなかった。地図はみんなカラーなのでその裏のページは必ず白紙である。見開きで白紙のページがそれなりにある。

入っている地図は次のようになっている。

帝国位置図(東アジア及び東南アジアの地図で日本の領土を示す)、帝国区画図(道府県別等)、関東地方、東京市附横浜(見開き2ページ)、奥羽地方、本州中部地方(見開き2ページ)、濃尾平野地方、近畿地方、近畿地方主要部図(見開き2ページ)、中国及四国、瀬戸内海、九州(見開き2ページ)、台湾、北海道、南樺太、朝鮮、帝国委任統治地(南太平洋のグアムを中心に諸島)、山地・半島・岬埼・海湾・島嶼(日本の山脈や半島等名、見開き2ページ)、河湖海峡、海流、雨量、師管区・海軍区(陸軍海軍の担当地域区分)、帝国交通(基本的に鉄道路線、見開き2ページ)

普通、地図なら最後に地名索引や統計など文字数字情報が載っているが、これには一切ない。地図だけ。粗い地図だから地名など大きなところが載っているだけである。

各地図の周囲に付図があるが、この選択が面白い。九州地方なら付図は、筑豊炭田、温泉岳、阿蘇山、霧島山、耶馬渓、別府地方である。近畿地方の付図は、宮津付近、明石海峡、紀淡海峡、瀞八丁地方、志摩半島と名所が多い。中国及四国を見ると、付図が島根半島、速明海峡、下関海峡、芸予海峡、備讃海峡、鳴門海峡である。近畿と併せ、海洋国家日本の意識が高かったのか。

植民地の地図では南樺太が興味深い。朝鮮半島や台湾は今でも地図を見る機会がそれなりにあろう。しかし樺太は世界地図で重要性もあまりないから大した扱いでない。しかしここには九州や北海道と同じ1ページ使って載っているのである。そこにある日本語の地名を見ていると感慨深い。付図に日本仮領サガレン州とあって北樺太と大陸のある程度の部分に色が塗ってある。これは何かと思って調べたら、この大正9年に起きた尼港事件を受けて日本軍が保障占領した地域のようである。

ゾラ『獲物の分け前』 La curee 1871

ルゴン=マッカール叢書第2巻である。パリの大改造に際して金儲けを企むサカールの物語。

後妻のルネと最初の妻の息子マクシムの恋愛が絡む。サカールは最初の妻が亡くなってから名門の出であるルネと結婚した。サカールは市役所の担当としてパリの改造に取り組む。自分の所有となった不動産を著しい高値で評価して売って儲ける。現代では許されるべくもない違法行為だが、少なくとも当時のパリではうまくやれば切り抜けられたようだ。若い後妻のルネとはあまり交渉がなく、ルネは夫の息子で自分より年下のマクシムと深い仲になっていく。

最後にサカールは妻ルネの名義である中心地の不動産を、妻を説き伏せ自分のものにする。これでルネは身ぐるみはがされた。ルネは翌年に死ぬ。(中井敦子訳、ちくま文庫、2004

がめつい奴 昭和35年

千葉泰樹監督、東宝、107分、総天然色映画。

大阪の釜ヶ崎にある安宿を経営している三益愛子演じる婆は、がめつい女である。戦災孤児の中山千夏演じる少女を引き取ってこの少女のみ信頼しており、子供たちも信用していない。
近くで自動車事故があった。早速宿の住人たちは現場に駆け付ける。運転手を病院にやる。その間、自動車をバラバラに分解して部品を持って帰る。宿で即売会を開き処分する。後に警官が来ても知らぬ存ぜぬである。
草笛光子と団玲子の姉妹が宿の住人である。草笛は戦前はここら一帯は自分の家の土地だったのに、戦後、三益が占拠してしまった。取り返したく訴訟も辞さない考えである。妹の団は三益の息子、高島忠夫といい仲で結婚を考えている。
三益の義理の弟を称する森繫久彌がやって来て三益が大金を貯めこんでいると言い出す。
草笛はポンコツ屋の森雅之に騙され、暴行を受けた上、土地権利書を取られてしまう。森は権利書をやくざに売る。やくざはそれを基に安宿に立ち退きを迫る。三益は策を試み、やくざから金を取る。
草笛は恨み骨髄の森を刺し殺す。住人がみんなやって来て森の死骸を始末し服などは巻き上げる。草笛は自首するつもりだと言うと、みんなはする必要ない、死体もないと言い出す。結局自首することにした。
その後三益は中山と一緒に公園で乞食をして金を稼ぐようになった。

2022年12月27日火曜日

どろ犬 昭和39年

佐伯孚治監督、東映、93分、白黒映画。

主演の刑事を演じる大木実は悪を許しておけないたちで、暴行事件の被害者の親が、犯人から示談金を受取り、犯人への提訴を取り下げるので怒り狂っている。
大木はかつて自分が逮捕した男の情婦(原佐知子)を今では自分の情人にしている。やくざの西村晃が大木と原の仲を嗅ぎ付ける。ゆすりをしている西村は金を大木に渡して大目に見てもらうつもりだったが、大木から突き返される。
西村は今度は原に金を渡す。受け取った原はそれで買い物をしたり、西村の子分である、頭の弱い田中邦衛に服など買ってやる。自分の情人が西村から金を貰っていると分かった大木は西村に弱味を握られたと感じる。西村が逮捕されたら自分が危うくなる。
西村の同郷の刑事は西村を追っていると、ホテルで西村と大木が話している内容を聞く。刑事は現れ、西村に手錠をかける。しかしその刑事を大木が絞殺してしまう。西村を逃がす。刑事殺人を警察は追うが、まさか同僚の刑事が犯人とは思わない。大木は西村に会い、金を渡し関西に逃げて潜んでいろと命令する。
ところが、大木と同僚の刑事が西村の女を見張っていると、そこに西村が現れ、同僚刑事は逮捕する。驚きを隠しきれない大木。取り調べで西村を刑事殺人で問い詰めるが、知らぬでとおす。西村に女からの差し入れを田中邦衛が持って来る。その飲み物を西村が飲むと絶命する。毒入りだった。田中を刑事たちは追う。公園に坐っている田中に大木が来て、絞殺する。
同僚のうち若い刑事はさすがに大木を疑うようになる。確信を持った若い刑事は大木に一人で立ち向かい、逆に倒されてしまう。
大木は情人の原に一緒に旅行に行こうと持ち掛ける。西に向かう列車の中、大木に同僚の刑事たちが近寄ってくる。大木は逃げだし、列車から飛び降りる。連れの情人に刑事たちが寄ってくる。

父子草 昭和42年

丸山誠治監督、東宝、85分、白黒映画、渥美清主演。

踏切近くで屋台のおでん屋をしている淡路恵子。土方の渥美清が歌をうなりながら飲んでいる。
後からやって来た若い男と些細なことで喧嘩になる。外に出て取っ組み合いになるが、渥美は負ける。明くる日、またおでん屋で顔を合わせた。
淡路との話で次第に渥美は若い男の素性が分かってくる。浪人生で夜、夜警の仕事をしながら受験勉強をしているのである。近所に住む星由里子に好かれている。若い男が病気で寝込んでいると聞くと、おでんと酒を買って見舞に行く。
後に渥美も淡路に自分を語る。生きている英霊だと言う。戦後、シベリア抑留から故郷の佐渡に帰ってみると、妻は弟と結婚していた。それ以来、妻と息子に会えない。
渥美は仕事先の場所が変わる。その前に淡路に若い男に渡してくれと今まで貯めた金を預ける。後にまたおでん屋に顔を出す。その際も若い男に渡す金を淡路に頼む。夜警と勉強両立だと十分勉強できない。また複数受験するなら金が要ると言って。
試験の合格発表の日に渥美はおでん屋に来る。淡路はいない。そこにいた客から若い男が試験合格したので、その家に行ったと聞く。喜ぶ渥美。向こうからやって来る淡路、若い男、星に会う。渥美は合格を祝してから、若い男とまた取っ組み合いをやる。渥美は投げ飛ばされるが、若い男からおじさんが勝ったと言われる。

2022年12月26日月曜日

見えない恐怖 See no evil 1971

フライシャー監督、英、88分、ミア・ファーロー主演。

殺人鬼がいる。脚しか映さない。ミア・ファーローは盲目である。親戚の家に行く。明くる日、恋人からの招きでその家に行く。留守中、一家は殺人鬼に襲われる。
ファーローは恋人に送られ帰宅する。戻ってからの家は死体が転がっている。ファーローは見えないので分からず眠りに就く。
明くる日の朝、恋人が来て馬をくれた。馬に乗って駆ける二人。帰宅後、死体の中を歩いていくが、さすがに家人が皆殺しにされていると気が付いた。下男が瀕死の重傷で犯人がペンダントを落としていったと告げる。ファーローは手探りで見つける。
犯人が落としたペンダントを捜しに戻ってきた。ファーローを追う犯人。ファーローは逃げ、恋人からくれた馬に乗って逃げる。
しかし途中で枝に頭が当たり落馬する。その後は手探りで進む。ジプシーの居留地に着く。ファーローがペンダントを持っていると見つけた男に、車で連れられ小屋に閉じ込められる。男はペンダントから知り合いが殺人をしたと思った。
馬は恋人のところに戻る。恋人は馬だけで来て怪我をしているので、仲間と一緒にファーローのいた家に行く。死体を見つける。ファーローを捜しに行く。ファーローは小屋の隅を壊し、そこから出てさまよい歩く。恋人の車がファーローを見つける。
恋人はファーローの手当をした後、ジプシーのところへ乗り込む。ジプシーはペンダントの頭文字は仲間でなく某だと言う。
その頃、汚くなった身体を洗おうとファーローは浴槽に入った。犯人が来てファーローを溺れさせようとする。恋人が戻って来て犯人を倒し、ファーローを助ける。

2022年12月24日土曜日

The quake ザ・クエイク Skjelvet 2018

ヨン・アンドレアス・アナスン監督、諾、108分。

ノルウェイは地震が多いそうで、地震を背景とする家族映画。主人公の科学者は家族そっちのけで災害が来るのではないかと心配している。友人がフィヨルド下の海底トンネルで事故死した。その家に行く。娘がいた。友人の資料を見せてもらう、それで事故現場のトンネルにその娘の運転する車で行く。調べてみると大地震が起こると分かる。
バレエをしていた幼い娘を車で拾い、高層ビルで働いている妻のところに急ぐ。運転は死んだ友人の娘である。着いて受付に聞くと34階で働いているという。早速エレベーターで向かう。その頃、幼い娘は父親の言いつけを守らず、一人でやはり母のところに向かう。友人の娘も後を追う。
34階で妻を見つけた男は早速逃げようと急かす。他の者たちを逃がすため緊急避難のボタンを押す。丁度、二人がエレベーターで降りようとする時、幼い娘が34階に着いた。父親はそれを見てエレベーターを開けようとするが下に向かって動き出す。
地震が起こった。エレベーターは途中で止まる。ようやくのことエレベーターを脱出した夫婦は、幼い娘を助けに行こうとする。しかし建物が半分崩れ、外に出られない。出口に飛び乗った男は妻に飛べと言うがなかなか妻は踏ん切りがつかない。飛んだが男が妻の手をとれないうちに、上からエレベーターが落下してきて妻は死ぬ。
幼い娘と友人の娘は床が斜めに傾いた、上の階にいた。滑り落ちそうになるがなんとか持ちこたえていた。父親が到着する。その後更に傾き、幼い娘が床の向こうに落ちる。父親は後を追う。娘はガラス板の上で持ちこたえていたが、ひびが入り落ちそうである。ガラスが割れて落ちるが父親が捕まえる。友人の娘がロープを伝い助けに来る。幼い娘はその娘に渡されて助かる。その後はロープをつたい床を上っていって救出劇は終わり。

アングスト/不安 Angst 1983

ジェラルド・カーゲル監督、墺、90分。

実際あった凶悪殺人事件の映画化。不安そうに歩いている主人公の青年。ある家に入り、出てきた老婦人を撃つといって拳銃で射殺する。
青年は子供の時に両親の愛情に恵まれず育った。刑務所を出所して街に出る。人を殺したい衝動が強い。コーヒースタンドで若い女二人がいる。じろじろ見つめる。タクシーに乗る。女の運転手だったので殺したく思ったが相手が気が付き逃げる。
ある一軒家に窓を割って入る。空き家でなく車椅子に乗った青年がいた。知能が遅れている。母親と娘が車で帰ってくる。最初は隠れていた犯人は母親、娘とも襲う。母親は病気を持っており暴行で死んでしまう。車椅子の息子は浴槽につけて溺死させた。娘も最後に残酷な目に会わせ殺す。
明くる日車のトランクに死体を入れて家を出る。一緒に家で飼っていたダックスフントがついてくる。乱暴な運転で他の車と衝突し逃げる。
あのコーヒースタンドにまた来る。同じ女二人が客としていた。そのうち外が騒がしくなる。車に衝突した関係で警官が来ていた。犯人は外に出る。警官がトランクを開ける。みんな驚きの目。

2022年12月23日金曜日

ベイビーわるきゅーれ 令和3年

阪元裕吾監督、95分、女高生二人の殺し屋の話。

主人公の二人の女高生は殺し屋である。組織からの命令で一緒の部屋に住み、何らかのバイトをするよう言われている。
そのうち一人は人見知りが強く、面接に行って失敗するところから映画は始まる。その後格闘が始まり、最後は同僚に助けられる。
アルバイトに行ってなんとかやっているもう一人も、客が気に食わない行動をとると一発でのしてしまう。人見知りの子はもう一人と一緒にメイド喫茶の面接に行く。一人は合格するが人見知りは参観扱いになる。一日終わっての乾杯の騒ぎでも人見知りは溶け込めず一人で帰る。
明くる日、やくざの親子がメイド喫茶に来る。メイド喫茶特有の対応に初めは面白がっているが、自分が頼んだ絵文字がうまく描けなかったので親爺の方が怒り出す。メイド全員を壁に並ばせる。殺し屋のメイドは逆に相手の親子を射殺する。
殺されたやくざの娘が殺し屋に挑戦の電話をかけてくる。二人でやくざの元に乗り込む。銃撃戦、格闘の末、相手方を全滅して帰る。

Uボート Das boot 1981

ヴォルフガング・ペーターゼン監督、西独。

1941年、Uボートは占領地のフランスから出航した。敵船舶攻撃を任務とする。敵の輸送船複数を撃沈し、戦果をあげた。しかし敵の駆逐艦からの爆雷投下で潜水艦は被害を受ける。

攻撃による潜水艦の損傷が甚だしく、次第に沈下を始める。水圧で潰れないかと心配したが、海底に着地した。しかし故障が多く浮上できない。このままでは死を待つばかりである。艦長は修理を命じたがもはやこれまでかと思った。修理は期待以上だった。なんとかして浮上できるかもしれない。徐々に潜水艦は上昇を始め、艦内から歓声があがる。

帰港できた。ようやく上陸できた。とその時、敵戦闘機の空襲があった。次々と乗組員はやられ、艦長は潜水艦が目の前で沈没していくのを眺めるばかりだった。

ゲット・スマート  Get smart 2008

ピーター・シーガル監督、米、111分。

元々米のテレビ番組であったものの映画化。スパイ物だが喜劇的要素が強い。
主人公は秘密諜報機関の分析官であったが、実際に活躍するエージェント職を希望していた。それで試験を受け合格する。しかし分析官がいないと困るという理由でエージェントにしてもらえなかった。
その後、諜報機関のアジトが爆破される。エージェントがみんな死んでしまったので、主人公はエージェントに任命される。敵方に知られないよう整形を終えたという女エージェント(アン・ハサウェイ)と共にモスクワにある、パン工場を偽装した敵方アジトに乗り込む。
そこを爆破するが、証拠がなかったので主人公が敵方スパイと疑われ投獄される。その間、敵方は大統領を暗殺しようと、ロサンゼルスのホールに爆弾を仕掛ける。
牢獄から解放された主人公は大統領の救出に向かう。敵方スパイと判明した同僚はハサウェイを攫って逃げるので追いかける。列車の衝突など山場場面を経て、大統領がいる演奏会場に行き、間一髪で爆破を止める。

2022年12月22日木曜日

更科功『宇宙からいかにヒトは生まれたか』新潮選書 2016

著者は古生物学者。ただ大学では地球科学で学位を取ったらしい。本書は宇宙の誕生から説明を起しており、そのまま太陽や地球の生成、発達を説くなら普通の宇宙・地球史である。

しかしながら本書は、地球ができてからは生命の誕生やその進化がどのようになされたか、の説明が主になる。もちろん生命の誕生には宇宙からの影響が強く、そういった意味で地球科学と生物学が渾然一体となった書である。

これまでの宇宙、地球の歴史でどのようにして生物が進化し、主役がどう移り変わり、広い意味での生命活動がいかに変化してきたか、を興味深く読める。

血を吸うカメラ Peeping Tom 1960

マイケル・パウエル監督、英、101分。

女が殺される連続殺人事件が起こる。いずれも恐怖の顔つきで死んでいる。犯人は映画の撮影補助やヌード写真の撮影をしている若い男である。幼い日から父親の実験の材料に使われていた。恐怖をどう感じるか、そのため怖い思いを始終させらていた。
男はカメラの先に鋭い刀をつけそれで対象に迫る。それで被害者は恐怖の表情で殺されていたのである。
犯人の家の階下に若い女が住んでいる。犯人に好意を持つ。犯人もこの女は殺したくなかった。
ある日犯人が不在の際に犯人の部屋に入る。犯人の映像を見て男の実際を知る。帰った犯人は女に事情を説明する。最後に人を殺してきた凶器を自分に向け自殺する。

2022年12月21日水曜日

目撃者 2017

チョ・ギュシャン監督、韓国、111分。

主人公のサラリーマンは最近マンションを買ったばかりの男である。
夜、林の中に車が止まり男が地面に穴を掘っているところから映画は始まる。トランクがガタガタしている。その中には縛られた若い女がいて、男が穴を掘っている最中トランクから逃げだす。男は追いかける。暗い林の中の逃走が続く。女は林の外にあるマンション前まで来た。そこで男に捕まり、刺される。
丁度その時、主人公のサラリーマンがマンションの窓から外を見ていて、この事件を目撃する。驚いた男は下に降りるが、結局積極的な動きはできなかった。警察が調べ始める。しかし関わりを恐れた男は知らぬ存ぜぬで、通そうとした。これはマンション全体の意志で警察への協力を拒んだ。
そのうちに容疑者の男が分かったので警察が追う。逃走劇の末、容疑者は死んだ。これで事件解決かと思いきや、その男は真犯人ではなかった。
事件を診ていた他の目撃者の主婦が警察に行こうと主人公を誘うが断る。その主婦は殺人犯に殺された。またあまり賢そうでない若い男も殺された。
最終的には主人公の家族まで巻き込まれる。主人公は殺人犯を追い、林の中で格闘、洪水が来て泥に埋まるが最終的に犯人を逮捕できた。

小泉悠『ロシア点描』PHP研究所 2022

ロシアの人々の日常、衣食住の実際などロシアに滞在した著者によるロシア概観。内容は「ロシアに暮らす人々」「ロシアの住まい」「魅惑の地下空間」「変貌する街並み」「食生活」「「大国」ロシアと国際関係」「権力」の章に分かれる。日常生活については日本とかなり違うロシア人の常識、考え方が説明される。

後の方のロシアの国家観、対外関係の仕方を見ると、かなり前、20世紀前半までの価値観が支配しているような感じである。自分たちが大国であった過去を意識し、自立して戦争できる国ではないと相手にしない。つまりロシアの価値観からすれば日本などより、核兵器を持って戦争を辞さない北朝鮮の方がまともな国家なのである。北方領土問題なども日本を相手にしなかった理由の一つになる。

気楽に読める本でロシアの様々な面が分かる。

西部番外地 Macho Callahan 1970

コワルスキー監督、米、100分。

南北戦争の最中、南軍に捕えられた主人公、マッチョ・キャラハンを演じるデイヴィッド・ジャンセンは軍刑務所に入っている。銃殺された捕虜の棺桶に爆弾を入れ、その騒ぎの最中、脱走する。自分を騙して刑務所に入れた黄色い靴の男を捜している。
やってきた町の酒場で旧友に会う。たまたまその町にやってきた若い男が自分のシャンペンを勝手に買って行ったので怒り、その男を銃で殺す。その若い妻をジーン・セバーグが演じる。なんとかして復讐したい。その相談に乗ってくれた中年男はセバーグに気があった。その中年男こそジャンセンが追っていた、自分を騙した男だった。中年男は吊るされて殺される。
セバーグはジャンセンを狙って殺そうとしたが、失敗し暴行を受ける。ジャンセンが仲間と町から去る際、セバーグは一緒についていく。追手がジャンセンを追ってくる。セバーグの出した懸賞金のためである。岩の陰で追手の賞金稼ぎの連中と撃ち合いになる。ジャンセンの仲間は殺される。
セバーグは既にジャンセンに対し愛情を感じるようになっていた。岩陰で二人は世を明かす。夜明けになり、ジャンセンは眠っているセバーグを残して馬で逃げようとする。その時、賞金稼ぎが撃ちジャンセンは落馬し息絶える。

バラキ The Balachi papers 1972

テレンス・ヤング監督、伊、仏、米、125分、伊語、チャールズ・ブロンソン主演。

実在のマフィアの一員、ジョゼフ・バラキが1963年に公聴会で明らかにしたイタリア・マフィアの実態を基にした映画。
ブロンソン演じるバラキは、戦前若いうちにマフィアに加わり、次第に地位を上げていく。その間、マフィア間の闘争、殺し合いが描かれる。バラキは警察に捕まり、自分を狙っているマフィアを告発すると警察と約束し、公聴会が開かれた。
バラキだけでなく、有力者のボスも捕まっており、刑務所からも影響を発揮できたという。それでバラキ、ボス共に獄死した後、映画製作は始まった。マフィアから脅しがあり、イタリアで映画を完成させた。
『ゴッド・ファーザー』以前のマフィア映画の代表作。

メモリーズ 追憶の剣 2015

パク・フンシク監督、韓国、120分、高麗の末期が舞台の韓国映画。

かつて圧政に抵抗して革命を企てた3人組のうち一人が裏切って、今では国一番の将軍となっている。裏切られた女はかつて裏切った男の愛人であり、殺された者の一人娘を育てている。将軍主催の武術大会に飛び入りで素晴らしい技を見せた少女は、その育てられた女だった。育ての親は少女に真実を告げる。お前の両親は殺された。その犯人は今は将軍となっている男とこの自分である。自分と将軍を倒せと命ずる。少女は戸惑う。将軍は育ての親にとって恋人だったのに騙された、余計恨みがある。

実は殺された両親の娘は赤ん坊の時亡くなっていた。今、自分がそうだと思っている少女は育ての親、武術の師である女の実の娘だった。少女は将軍が国王の娘と結婚する前日、宮殿に忍び込む。兵士たちを皆殺しにする。自分の親の殺害犯と思っている将軍に闘いを挑む。二人が闘っている中に育ての親の女が入り、将軍に殺される。少女は二人を刺し貫き、かつて恋人同士だった将軍と育ての親は死ぬ。ワイヤーアクションで中国映画を観ているような気になる。

2022年12月20日火曜日

翁邦雄『人の心に働きかける経済政策』岩波新書 2022

著者は日銀出身の学者。日銀在席当時から論客として知られ、多くの金融関係の著書がある。本書は行動経済学を使い、近時の日銀の金融政策を批判する書である。具体的には黒田総裁下の日銀の政策批判である。それを行動経済学の手法を用いて行なう。と言っても行動経済学が最近の流行りであり、それを必要に応じて使っているという感じである。

行動経済学自体はある意味、常識的なことを言っているに過ぎない。そもそも主流の経済学は仮定によるモデルから出発する演繹的な体系である。それに対し行動経済学は帰納的である。経済学が政策の道具として使われており、経済の動向に多くの関心が集まっている。それなのに抽象的な仮定から出発する主流経済学は経済の実態を説明するのでなく、モデル分析でありいわば経済の本質を描こうとする。これに現実的な道具を求める向きは反発し、もっと現実に即した経済学を求め、それに応じたのが行動経済学というわけである。人間の行動の非合理的な側面を経済の理解に生かそうとする。本書では黒田総裁下の日銀の政策は人の心に訴えて期待(予想)を変えようとしたが、失敗した。

そもそもまずデフレを止めよとする目標が間違っていたと思う。もっともこれは当時の多くの人々に共有されていた考えであるから、日銀のせいばかりにしてもしょうがない。

アンジェラ Angel-A 2005

リュック・ベッソン監督、仏、90分、白黒映画。

主人公のアラブ人のさえない男は借金を期限までに返さないと殺される。絶望してパリの橋から身投げをしようとする。すると欄干の隣でも若い女が飛び降り自殺をしようとしていた。女が飛び込むので男は後を追って飛び込み、助け出す。実はその女は天使だった。後は書かなくてもワイルダーの『素晴らしき哉、人生』である。再映画化、といったら言い過ぎなら、それを基にした、啓発された映画と言っていい。

2022年12月6日火曜日

松本清張『花実のない森』 昭和39年

主人公の若い男はようやく買った車でドライブの帰り道、夜の東京西郊外で二人の男女を乗せる。頼まれて乗せたのである。夫婦と称していた。しかし男が冴えない中年男であるのに対し、女の方はかなり魅力的に見えた。

新宿近辺で下ろし、後に車中に忘れ物があったと分かる。名刺入れとペンダントである。名刺入れから男の会社を訪ねる。またそのアパートに行ったのだが、出てきたのはあの乗せた女とは似ても似つかぬ中年女だった。つまり男は妻でもない若い女と一緒にいたのである。その女が気になってしょうがない主人公は女の捜索を始める。住んでいるアパートが分かった。訪ねて行ってペンダントは渡した。その場はそれ以上なくて帰った。次回訪ねると引っ越したと言われ驚く。

あの中年男もいなくなっていた。失踪したのである。箱根で男の死体が見つかった。主人公は箱根に行き、捜しまわる。女はある旧華族の者と関係があるらしい。華族のうち年配の女が滞在するホテルに、自分の恋人をメイドとして勤務させ動向を探る。主人公は件の中年男よりも前に死んでいた別の中年男、それがあの女と関係があるらしいと分かる。

年配の女に掛け合って、あの女を好きだ、見つけるにはどうしたらいいか聞く。下町の暴力団風の男の家にいると教えられる。主人公はそこから女を助け出すが、後ろから堀に突き落とされる。後に山口県の柳井市に行けと言われる。行ってみるとそこに女が主婦としていた。真相は、女は華族の一員だが中年の男を好きになる好みがあってこれまで複数の男と関係した。旧華族にとって不名誉極まるので、華族の兄が相手を殺していたのだ。

エミール・ゾラ『金』 L’Argent 1891

ルゴン・マッカール叢書の第18巻である。パリの金融支配を目指すサッカールが主人公である。

そのためにユニヴァーサル銀行なる機関を作り、株価操作などで株価を吊り上げ、この株を買っていれば安全で必ず大儲けができると人々に信じ込ませる。単に金儲けを企むのでなく、中東、つまり聖地に鉄道を通し教皇を住まわせる計画をたて、その事業のための必要な資金集めが目的であった。またパリの金融界を牛耳っていたユダヤ人金融家を打ち負かす、との野望に燃えていた。

兄妹のうち兄は聖地の事業に打ち込み、妹は堅実な実際家で、サッカールの事業に不安を覚えていたがその愛人となり手助けする。サッカールの多くの知人がこの銀行に投資をする。儲けたい男爵夫人がサッカールに話し、色よい返事がもらえなかった。それで反対派のユダヤ人金融家に事情を話す。もとよりサッカールを潰したいと思っていたユダヤ人は相手の資金が底をついたと知り、一層の売りを浴びせかける。バブルで恐ろしく高額になっていた銀行の株価は落ち始め、暴落をする。これでサッカールは資産を失う。それ以上の不幸として投資していた人々は破産する。

小説の初めの方でサッカールがかつて女に産ませた子供がいて、それを基に金をせびろうとしていた男がいる。兄妹のうち妹がその子供(男)を引き取り、世話をしていた。しかし悪人であるその子供は、株で破産した貴族の娘に暴行を働く。金をせびるつもりの男には弟がいる。病身である。その弟がマルクスの共産主義のユートピアを語る。マルクスという名は出てこないが。この小説の書かれた19世紀末にはマルクス主義は結構普及していたと分かる。(野村正人訳、藤原書店、2003年)

2022年12月4日日曜日

松本清張『地方紙を買う女』 昭和32年

短篇である。甲府の地方紙をある女が購読の申し込みをした。連載されている歴史小説が面白いという理由で。数週間前から送って欲しいとの要望だった。

新聞社がこの申し込み理由を歴史小説の作家に知らせた。作家は発奮して連載に励んだ。ところが後になって小説が面白くなくなったから購読を止めるという連絡が来た。

これを読んで作家はおかしいと思った。いよいよ面白くなっているのである。理由が納得できない。この女は地方紙に載っている情報が欲しかったのである。それは最近、記事になった心中死体の発見だった。作家は女が心中と見せかけ殺しておいた死体が発見されるまで待っていたのだろうと推測する。

作家は女と近づきになり、他の女を含め3人で旅行に行く。旅先で女が寿司を弁当として出すと、作家はそれを叩き落す。毒が入っていると叫ぶ。女のした殺人を話す。しかし女はその弁当を何食わぬ顔で食べて一人帰った。後に作家宛の手紙が来た。作家の推理はその通りだった。毒は弁当でなくジュースに入っていたのだ。