ヴィスコンティ監督、伊、仏、西独、238分。
バイエルン国王ルードヴィヒ二世の半生を描く。ルードヴィヒは従姉のロミー・シュナイダー演じるオーストリア皇后を恋しており、その妹を結婚相手として推薦されるが気乗りがしない。後に一度婚約するが破棄してしまう。ワーグナーを傾倒し、招いて巨額の金を費やすので、政府から散々不満が出る。ワーグナー自身はルードヴィヒを馬鹿にしていた。後にさすがに浪費家のワーグナーを追い出す。最後は精神がおかしくなり、拘束されていたが、医師と二人で外出し死体で発見される。2022年12月31日土曜日
2022年12月29日木曜日
『帝国地図 大正9年』
大正9年版の日本帝国の地図の復刻版である。当時の日本は植民地があったので、その地図を含む。
まず実物を見ると第一印象は本が小さい。地図帳は普通の本より大きいと思っていたので、この本を見ると小さく感じる。16×23cmと普通の本と変わらない。表紙は厚い、すなわちハードカバーである。また薄いと感ずる。Amazonによれば59ページである。しかも開いてすぐ目に付くのは白紙のページが多い。これもAmazonにある出版社からの情報では当時はカラー印刷は片面にしかできなかった。地図はみんなカラーなのでその裏のページは必ず白紙である。見開きで白紙のページがそれなりにある。
入っている地図は次のようになっている。
帝国位置図(東アジア及び東南アジアの地図で日本の領土を示す)、帝国区画図(道府県別等)、関東地方、東京市附横浜(見開き2ページ)、奥羽地方、本州中部地方(見開き2ページ)、濃尾平野地方、近畿地方、近畿地方主要部図(見開き2ページ)、中国及四国、瀬戸内海、九州(見開き2ページ)、台湾、北海道、南樺太、朝鮮、帝国委任統治地(南太平洋のグアムを中心に諸島)、山地・半島・岬埼・海湾・島嶼(日本の山脈や半島等名、見開き2ページ)、河湖海峡、海流、雨量、師管区・海軍区(陸軍海軍の担当地域区分)、帝国交通(基本的に鉄道路線、見開き2ページ)
普通、地図なら最後に地名索引や統計など文字数字情報が載っているが、これには一切ない。地図だけ。粗い地図だから地名など大きなところが載っているだけである。
各地図の周囲に付図があるが、この選択が面白い。九州地方なら付図は、筑豊炭田、温泉岳、阿蘇山、霧島山、耶馬渓、別府地方である。近畿地方の付図は、宮津付近、明石海峡、紀淡海峡、瀞八丁地方、志摩半島と名所が多い。中国及四国を見ると、付図が島根半島、速明海峡、下関海峡、芸予海峡、備讃海峡、鳴門海峡である。近畿と併せ、海洋国家日本の意識が高かったのか。
ゾラ『獲物の分け前』 La curee 1871
ルゴン=マッカール叢書第2巻である。パリの大改造に際して金儲けを企むサカールの物語。
後妻のルネと最初の妻の息子マクシムの恋愛が絡む。サカールは最初の妻が亡くなってから名門の出であるルネと結婚した。サカールは市役所の担当としてパリの改造に取り組む。自分の所有となった不動産を著しい高値で評価して売って儲ける。現代では許されるべくもない違法行為だが、少なくとも当時のパリではうまくやれば切り抜けられたようだ。若い後妻のルネとはあまり交渉がなく、ルネは夫の息子で自分より年下のマクシムと深い仲になっていく。
最後にサカールは妻ルネの名義である中心地の不動産を、妻を説き伏せ自分のものにする。これでルネは身ぐるみはがされた。ルネは翌年に死ぬ。(中井敦子訳、ちくま文庫、2004)
がめつい奴 昭和35年
千葉泰樹監督、東宝、107分、総天然色映画。
大阪の釜ヶ崎にある安宿を経営している三益愛子演じる婆は、がめつい女である。戦災孤児の中山千夏演じる少女を引き取ってこの少女のみ信頼しており、子供たちも信用していない。2022年12月27日火曜日
どろ犬 昭和39年
佐伯孚治監督、東映、93分、白黒映画。
主演の刑事を演じる大木実は悪を許しておけないたちで、暴行事件の被害者の親が、犯人から示談金を受取り、犯人への提訴を取り下げるので怒り狂っている。父子草 昭和42年
丸山誠治監督、東宝、85分、白黒映画、渥美清主演。
踏切近くで屋台のおでん屋をしている淡路恵子。土方の渥美清が歌をうなりながら飲んでいる。2022年12月26日月曜日
見えない恐怖 See no evil 1971
フライシャー監督、英、88分、ミア・ファーロー主演。
殺人鬼がいる。脚しか映さない。ミア・ファーローは盲目である。親戚の家に行く。明くる日、恋人からの招きでその家に行く。留守中、一家は殺人鬼に襲われる。2022年12月24日土曜日
The quake ザ・クエイク Skjelvet 2018
ヨン・アンドレアス・アナスン監督、諾、108分。
ノルウェイは地震が多いそうで、地震を背景とする家族映画。主人公の科学者は家族そっちのけで災害が来るのではないかと心配している。友人がフィヨルド下の海底トンネルで事故死した。その家に行く。娘がいた。友人の資料を見せてもらう、それで事故現場のトンネルにその娘の運転する車で行く。調べてみると大地震が起こると分かる。アングスト/不安 Angst 1983
ジェラルド・カーゲル監督、墺、90分。
実際あった凶悪殺人事件の映画化。不安そうに歩いている主人公の青年。ある家に入り、出てきた老婦人を撃つといって拳銃で射殺する。2022年12月23日金曜日
ベイビーわるきゅーれ 令和3年
阪元裕吾監督、95分、女高生二人の殺し屋の話。
主人公の二人の女高生は殺し屋である。組織からの命令で一緒の部屋に住み、何らかのバイトをするよう言われている。Uボート Das boot 1981
ヴォルフガング・ペーターゼン監督、西独。
1941年、Uボートは占領地のフランスから出航した。敵船舶攻撃を任務とする。敵の輸送船複数を撃沈し、戦果をあげた。しかし敵の駆逐艦からの爆雷投下で潜水艦は被害を受ける。
攻撃による潜水艦の損傷が甚だしく、次第に沈下を始める。水圧で潰れないかと心配したが、海底に着地した。しかし故障が多く浮上できない。このままでは死を待つばかりである。艦長は修理を命じたがもはやこれまでかと思った。修理は期待以上だった。なんとかして浮上できるかもしれない。徐々に潜水艦は上昇を始め、艦内から歓声があがる。
帰港できた。ようやく上陸できた。とその時、敵戦闘機の空襲があった。次々と乗組員はやられ、艦長は潜水艦が目の前で沈没していくのを眺めるばかりだった。
ゲット・スマート Get smart 2008
ピーター・シーガル監督、米、111分。
元々米のテレビ番組であったものの映画化。スパイ物だが喜劇的要素が強い。2022年12月22日木曜日
更科功『宇宙からいかにヒトは生まれたか』新潮選書 2016
著者は古生物学者。ただ大学では地球科学で学位を取ったらしい。本書は宇宙の誕生から説明を起しており、そのまま太陽や地球の生成、発達を説くなら普通の宇宙・地球史である。
しかしながら本書は、地球ができてからは生命の誕生やその進化がどのようになされたか、の説明が主になる。もちろん生命の誕生には宇宙からの影響が強く、そういった意味で地球科学と生物学が渾然一体となった書である。
これまでの宇宙、地球の歴史でどのようにして生物が進化し、主役がどう移り変わり、広い意味での生命活動がいかに変化してきたか、を興味深く読める。
血を吸うカメラ Peeping Tom 1960
マイケル・パウエル監督、英、101分。
女が殺される連続殺人事件が起こる。いずれも恐怖の顔つきで死んでいる。犯人は映画の撮影補助やヌード写真の撮影をしている若い男である。幼い日から父親の実験の材料に使われていた。恐怖をどう感じるか、そのため怖い思いを始終させらていた。2022年12月21日水曜日
目撃者 2017
チョ・ギュシャン監督、韓国、111分。
主人公のサラリーマンは最近マンションを買ったばかりの男である。小泉悠『ロシア点描』PHP研究所 2022
ロシアの人々の日常、衣食住の実際などロシアに滞在した著者によるロシア概観。内容は「ロシアに暮らす人々」「ロシアの住まい」「魅惑の地下空間」「変貌する街並み」「食生活」「「大国」ロシアと国際関係」「権力」の章に分かれる。日常生活については日本とかなり違うロシア人の常識、考え方が説明される。
後の方のロシアの国家観、対外関係の仕方を見ると、かなり前、20世紀前半までの価値観が支配しているような感じである。自分たちが大国であった過去を意識し、自立して戦争できる国ではないと相手にしない。つまりロシアの価値観からすれば日本などより、核兵器を持って戦争を辞さない北朝鮮の方がまともな国家なのである。北方領土問題なども日本を相手にしなかった理由の一つになる。
気楽に読める本でロシアの様々な面が分かる。
西部番外地 Macho Callahan 1970
コワルスキー監督、米、100分。
南北戦争の最中、南軍に捕えられた主人公、マッチョ・キャラハンを演じるデイヴィッド・ジャンセンは軍刑務所に入っている。銃殺された捕虜の棺桶に爆弾を入れ、その騒ぎの最中、脱走する。自分を騙して刑務所に入れた黄色い靴の男を捜している。バラキ The Balachi papers 1972
テレンス・ヤング監督、伊、仏、米、125分、伊語、チャールズ・ブロンソン主演。
実在のマフィアの一員、ジョゼフ・バラキが1963年に公聴会で明らかにしたイタリア・マフィアの実態を基にした映画。メモリーズ 追憶の剣 2015
パク・フンシク監督、韓国、120分、高麗の末期が舞台の韓国映画。
かつて圧政に抵抗して革命を企てた3人組のうち一人が裏切って、今では国一番の将軍となっている。裏切られた女はかつて裏切った男の愛人であり、殺された者の一人娘を育てている。将軍主催の武術大会に飛び入りで素晴らしい技を見せた少女は、その育てられた女だった。育ての親は少女に真実を告げる。お前の両親は殺された。その犯人は今は将軍となっている男とこの自分である。自分と将軍を倒せと命ずる。少女は戸惑う。将軍は育ての親にとって恋人だったのに騙された、余計恨みがある。
実は殺された両親の娘は赤ん坊の時亡くなっていた。今、自分がそうだと思っている少女は育ての親、武術の師である女の実の娘だった。少女は将軍が国王の娘と結婚する前日、宮殿に忍び込む。兵士たちを皆殺しにする。自分の親の殺害犯と思っている将軍に闘いを挑む。二人が闘っている中に育ての親の女が入り、将軍に殺される。少女は二人を刺し貫き、かつて恋人同士だった将軍と育ての親は死ぬ。ワイヤーアクションで中国映画を観ているような気になる。
2022年12月20日火曜日
翁邦雄『人の心に働きかける経済政策』岩波新書 2022
著者は日銀出身の学者。日銀在席当時から論客として知られ、多くの金融関係の著書がある。本書は行動経済学を使い、近時の日銀の金融政策を批判する書である。具体的には黒田総裁下の日銀の政策批判である。それを行動経済学の手法を用いて行なう。と言っても行動経済学が最近の流行りであり、それを必要に応じて使っているという感じである。
行動経済学自体はある意味、常識的なことを言っているに過ぎない。そもそも主流の経済学は仮定によるモデルから出発する演繹的な体系である。それに対し行動経済学は帰納的である。経済学が政策の道具として使われており、経済の動向に多くの関心が集まっている。それなのに抽象的な仮定から出発する主流経済学は経済の実態を説明するのでなく、モデル分析でありいわば経済の本質を描こうとする。これに現実的な道具を求める向きは反発し、もっと現実に即した経済学を求め、それに応じたのが行動経済学というわけである。人間の行動の非合理的な側面を経済の理解に生かそうとする。本書では黒田総裁下の日銀の政策は人の心に訴えて期待(予想)を変えようとしたが、失敗した。
そもそもまずデフレを止めよとする目標が間違っていたと思う。もっともこれは当時の多くの人々に共有されていた考えであるから、日銀のせいばかりにしてもしょうがない。
アンジェラ Angel-A 2005
リュック・ベッソン監督、仏、90分、白黒映画。
主人公のアラブ人のさえない男は借金を期限までに返さないと殺される。絶望してパリの橋から身投げをしようとする。すると欄干の隣でも若い女が飛び降り自殺をしようとしていた。女が飛び込むので男は後を追って飛び込み、助け出す。実はその女は天使だった。後は書かなくてもワイルダーの『素晴らしき哉、人生』である。再映画化、といったら言い過ぎなら、それを基にした、啓発された映画と言っていい。2022年12月6日火曜日
松本清張『花実のない森』 昭和39年
主人公の若い男はようやく買った車でドライブの帰り道、夜の東京西郊外で二人の男女を乗せる。頼まれて乗せたのである。夫婦と称していた。しかし男が冴えない中年男であるのに対し、女の方はかなり魅力的に見えた。
新宿近辺で下ろし、後に車中に忘れ物があったと分かる。名刺入れとペンダントである。名刺入れから男の会社を訪ねる。またそのアパートに行ったのだが、出てきたのはあの乗せた女とは似ても似つかぬ中年女だった。つまり男は妻でもない若い女と一緒にいたのである。その女が気になってしょうがない主人公は女の捜索を始める。住んでいるアパートが分かった。訪ねて行ってペンダントは渡した。その場はそれ以上なくて帰った。次回訪ねると引っ越したと言われ驚く。
あの中年男もいなくなっていた。失踪したのである。箱根で男の死体が見つかった。主人公は箱根に行き、捜しまわる。女はある旧華族の者と関係があるらしい。華族のうち年配の女が滞在するホテルに、自分の恋人をメイドとして勤務させ動向を探る。主人公は件の中年男よりも前に死んでいた別の中年男、それがあの女と関係があるらしいと分かる。
年配の女に掛け合って、あの女を好きだ、見つけるにはどうしたらいいか聞く。下町の暴力団風の男の家にいると教えられる。主人公はそこから女を助け出すが、後ろから堀に突き落とされる。後に山口県の柳井市に行けと言われる。行ってみるとそこに女が主婦としていた。真相は、女は華族の一員だが中年の男を好きになる好みがあってこれまで複数の男と関係した。旧華族にとって不名誉極まるので、華族の兄が相手を殺していたのだ。
エミール・ゾラ『金』 L’Argent 1891
ルゴン・マッカール叢書の第18巻である。パリの金融支配を目指すサッカールが主人公である。
そのためにユニヴァーサル銀行なる機関を作り、株価操作などで株価を吊り上げ、この株を買っていれば安全で必ず大儲けができると人々に信じ込ませる。単に金儲けを企むのでなく、中東、つまり聖地に鉄道を通し教皇を住まわせる計画をたて、その事業のための必要な資金集めが目的であった。またパリの金融界を牛耳っていたユダヤ人金融家を打ち負かす、との野望に燃えていた。
兄妹のうち兄は聖地の事業に打ち込み、妹は堅実な実際家で、サッカールの事業に不安を覚えていたがその愛人となり手助けする。サッカールの多くの知人がこの銀行に投資をする。儲けたい男爵夫人がサッカールに話し、色よい返事がもらえなかった。それで反対派のユダヤ人金融家に事情を話す。もとよりサッカールを潰したいと思っていたユダヤ人は相手の資金が底をついたと知り、一層の売りを浴びせかける。バブルで恐ろしく高額になっていた銀行の株価は落ち始め、暴落をする。これでサッカールは資産を失う。それ以上の不幸として投資していた人々は破産する。
小説の初めの方でサッカールがかつて女に産ませた子供がいて、それを基に金をせびろうとしていた男がいる。兄妹のうち妹がその子供(男)を引き取り、世話をしていた。しかし悪人であるその子供は、株で破産した貴族の娘に暴行を働く。金をせびるつもりの男には弟がいる。病身である。その弟がマルクスの共産主義のユートピアを語る。マルクスという名は出てこないが。この小説の書かれた19世紀末にはマルクス主義は結構普及していたと分かる。(野村正人訳、藤原書店、2003年)
2022年12月4日日曜日
松本清張『地方紙を買う女』 昭和32年
短篇である。甲府の地方紙をある女が購読の申し込みをした。連載されている歴史小説が面白いという理由で。数週間前から送って欲しいとの要望だった。
新聞社がこの申し込み理由を歴史小説の作家に知らせた。作家は発奮して連載に励んだ。ところが後になって小説が面白くなくなったから購読を止めるという連絡が来た。
これを読んで作家はおかしいと思った。いよいよ面白くなっているのである。理由が納得できない。この女は地方紙に載っている情報が欲しかったのである。それは最近、記事になった心中死体の発見だった。作家は女が心中と見せかけ殺しておいた死体が発見されるまで待っていたのだろうと推測する。
作家は女と近づきになり、他の女を含め3人で旅行に行く。旅先で女が寿司を弁当として出すと、作家はそれを叩き落す。毒が入っていると叫ぶ。女のした殺人を話す。しかし女はその弁当を何食わぬ顔で食べて一人帰った。後に作家宛の手紙が来た。作家の推理はその通りだった。毒は弁当でなくジュースに入っていたのだ。