2023年7月31日月曜日

ザ・インフェルノ Trauma 2017

ルシオ・A・ロハス監督、チリ、106分。

チリの田舎に旅行に行った若い女4人。別荘で騒いでいると、不気味な男二人が家に入ってくる。元軍人の大男とその息子である。怯える女たちに今までやっていた踊り(ストリップ)を続けろと命令する。遂には女たちに暴行を働く。明くる朝、女の一人が目覚めて銃が置いてあるのに気づき、男たちに銃を向ける。しかし弾は入っておらず、逆に頭を吹っ飛ばされて死ぬ。男たちは去り、女たちは追う。

警官らに会って事情を話す。警官と村人は犯人を追い詰め、銃を向けた。ところが反対に警官も村人たちも犯人に殺されてしまう。その後、犯人らは幼い少女を誘拐していく。負傷ですんだ警官と女たちは少女を取り返しにいく。行った先で戦いがあり、警官、女二人が殺され、犯人らも倒す。赤ん坊が泣いていて、これが悪魔のような犯人の身内で将来狂暴になると思い、残った女が銃を向けると、駆けつけた警察官らによって女は射殺される。

2023年7月30日日曜日

影狩り  ほえろ大砲 昭和47年

舛田利雄監督、東宝、92分、石原裕次郎主演の時代劇、他に内田良平、成田三樹夫。

江戸時代末期、幕府は財政難を打開するため、諸藩を落ち度があった場合には取りつぶし、そこの石高を没収していた。諸藩を探る役として幕府から隠密、忍者が各藩に派遣されていた。その者らは影と呼ばれていた。その影を倒すのが影狩りで、諸藩から雇われていた。石原、内田、成田は影狩りで、元々仕えていた藩が影によって潰され、浪人の見となって影らを倒しているのである。本作は映画化の第二作。

九州の某藩に来る。この藩はかつて徳川家を助け、それによって大砲の所有を許されていた。他藩では大砲は禁止されている。ところがこの藩に代々伝わる大砲は潰して他の用にしていた。幕府から視察がある。代わりの大砲が必要である。藩の職人で大砲作りの老人が大砲を造りあげていた。この大砲を城に納め、従来からの大砲の代わりにしようとした。石原ら3人の影狩りはその運搬を担当する。幕府からの影たちはその大砲を破壊せんとする。その大砲を巡る石原らと影たちの戦いが見物の映画である。関わった村人、幼い子供も含めて犠牲になる。幕府もこの大砲を手に入れ、諸藩への睨みにしようと変心した。石原らは幕府に渡るくらいなら破壊しようと最後に大砲を爆破する。

2023年7月29日土曜日

コリンズ『毒婦の娘』 Jezebel’s daughter 1880

イギリスの事務所で働く青年が語り手、事務所を仕切っていた伯父は亡くなり、今は伯母にあたる夫人が責任者である。仕事への女の登用を積極的に考えている。更に精神病院に行き、反対を押し切って、そこの危険患者とされる男を連れてくる。誠意を持って接すれば問題ないと確信している。この男はジャックという名である。

事務所はフランクフルトに支社がある。そこの支配人の息子であるドイツ人の青年フリッツがロンドンにやって来る。語り手と意気投合する。フリッツには恋人がいる。しかしその恋愛は妨げられている。恋人の母親に良からぬ噂がたっている。夫である化学者の死に関わっているのではないか、多大な借金があるとかである。そんな相手と父親が結婚を許すはずもない。

語り手は伯母の命令でフランクフルトに行く。着いてすぐ会った魅力的な若い女ミナがフリッツの恋人であった。その母親フォンテーヌ夫人にも会う。貧しい暮らしをしていた。ドイツの支社ではフリッツの父ケラーと共同で仕事をしている陽気な老人に会う。語り手は別の人物からフォンテーヌ夫人について宜しからぬ評判を直に聞く。それ以来フォンテーヌ夫人を素直に見られなくなった。ケラーが重病になる。それを治したのは、フォンテーヌ夫人が持っていた薬であった。以来ケラーはすっかりフォンテーヌ夫人を信頼するようになる。ケラーの友人である共同経営者はフォンテーヌ夫人に求婚する。断られる。すっかり気落ちして仕事から離れる。

語り手の伯母がフランクフルトにやって来る。あのジャックを連れてである。ジャックはすっかり伯母の忠実な家来になっており、伯母も信用していた。ジャックはかつてドイツでフォンテーヌ夫人と夫に使われていた。フリッツとミナの結婚を阻むものはない。しかしケラーの高齢の姉が結婚式に出席するため、式を延期しようとなる。後でこれを聞いたフォンテーヌ夫人は驚愕しなんとしても延期させまいとする。その理由は結婚によって相手と親戚になり、まだある巨額の借金を肩代わりさせようと目論んでいたからである。式が延期されると借金支払いの期日に間に合わない。語り手の伯母はフォンテーヌ夫人の盗みなどを見抜いていた。

その伯母がいきなり重病にかかる。ジャックはかつてフォンテーヌ夫人の夫が作った薬が病気にきくと理解し、フォンテーヌ夫人の部屋から薬の壜を盗み出し、伯母に飲ませる。後に伯母は死んだ。医師は以前のケラーの病気と回復と、今回の伯母の病気を見て、何者かが毒殺を図ったせいでないかと疑う。伯母の死体は安置所に寝かされたが、ジャックはそばに付き添い、またフォンテーヌ夫人の別の薬を飲ませる。伯母は蘇生した。フォンテーヌ夫人は死ぬ。(北條文緒訳、臨川書店、傑作選第12巻、1999年)

2023年7月28日金曜日

サロゲート Surrogates 2009

ジョナサン・モストウ監督、米、89分、ブルース・ウィリス主演の、未来を舞台にした空想科学映画。

サロゲートという本人の分身ロボットが開発され、人々はみんな利用していた。本人より能力、容姿等優れた身体となっており、本人は家で寝て、その脳波で操る。事故等に会っても本人は何も傷つかないとされていた。ところがサロゲートを破壊し、その操作をしている本人まで死ぬ事件が起きた。警察官のウィリスはその謎を追う。

鍵はかつて軍とサロゲート開発会社で試作品として作った武器(銃)であり、その武器では操作する本人まで死ぬ。この銃を追う。殺された者の中に開発者の息子がいた。更にサロゲートに反対する宗教団体まがいの連中がいる。最後にサロゲートだけでなく、人類全体が死ぬ事態の寸前になる。

サロゲートなので若作りをしたブルース・ウィリスが見られる。

バルザック『アネットと罪人』 Annette et le Criminel 1824

主人公のアネットは従兄と婚約していた。司法官志望の従兄は俗物であった。パリから田舎の親戚に行くため、馬車で旅立つ。馬車の中で従兄は同乗した女に惹かれ愁派を送るのでアネットは腹を立てる。

盗賊の親分(アルゴウ、他幾つかの名がある)がいた。この盗賊、題名の罪人であるが、アネットにいたく惹かれる。しかしアネットはなびかない。盗賊の首領は田舎ではアメリカ人の大金持ちでとおっていた。その謎に包まれる素性に人々は好奇心をそそられた。従兄とは結婚しないことになり、また罪人(盗賊の首領)が熱心にアネットをくどく。アネットが悪者たちに攫われた時、助けてくれた。最後にはアネットと罪人は結婚する。大金持ちと結婚できたので、親戚等は羨む。罪人の正体を暴こうと躍起になる。特に屋敷での会に招かれなかった女は怒り狂い、罪人の正体を暴き、告発しようとする。

罪人の正体が分かり捉えられた。裁判が開かれ、弁護は熱弁を奮うが有罪判決となった。罪人の副領は牢屋から罪人を救い出す。アネットも逃げる。しかし官憲が追い、再び捕まる。今度は死刑が執行された。アネットは翌日亡くなる。

2023年7月26日水曜日

ノマドランド Nomadland 2021

クロエ・シャオ監督、米、108分、フランシス・マクドーマンド主演。

マクドーマンドは家を出る。夫が以前死に、勤めていた会社が不況で潰れ町そのものがなくなったからである。キャンピングカーに乗って仕事のあるところに行き、仕事をする。その仕事がなくなったら別の仕事を捜す。同じような流浪の人々との交流がある。お互いの境遇を知り、助け合う。

知り合った中で老人の男は、息子の家に住むようになっており、マクドーマンドは後に訪ねる。その老人から一緒にここで住まないかと誘われるが、マクドーマンドは発つ。

パニック・イン・テキサスタワー The Deadly tower 1975

ジェリー・ジェームソン監督、米、100分、カート・ラッセル出演。1966年8月1日にテキサス大学の塔から乱射し、多くの死傷者を出した事件を基にした映画。

映画は二人の青年の行動を軸にしている。一人は若いヒスパニック系の警官、もう一人は乱射犯人である。警官は非番で事件の通報を受けてから現場に行く。妻が止めるがきかない。犯人は若い時のカート・ラッセルが演じる。犯人はまず母親と妻を殺してから殺人を始める。銃器店で大量の銃及び弾丸を購入する。エレベーターで塔の展望台に登る。塔の上からキャンパスにいる人々を次々と射撃し、倒していく。通報を受けて来た警察の銃では届かない。軽飛行機を飛ばし、そこから犯人を狙う試みは失敗した。

ヒスパニック系の警官は銃弾をくぐり抜け、大学の建物に着く。書店の店主でかつて軍隊にいた男が一緒についていく。塔の展望台に出る扉は塞がれていたが、開けて犯人のいる場所の方へ行く。犯人が気づき発砲する。警官も発砲したが、どちらも当たらない。そのすぐ際、後から展望台に登ってきた警官によって犯人は撃ち殺された。

2023年7月25日火曜日

永遠に僕のもの El angel 2018

ルイス・オルテガ監督、アルゼンチン、114分。アルゼンチンで1971年に起きた連続殺人事件を基にした映画。

主人公の美少年はまだ未成年だが、天性の犯罪者で盗みの常習犯であった。学校も転校をくり返し、ある学校で出会った男を友人とする。その友人宅に行く。家族そろって犯罪者の一家であった。その一家の犯罪に加わる。物怖じしない少年の態度には犯罪者家族も驚く。

友人といつもつるんでいたが、友人が他の男とゲイの関係になったり、二人の仲は必ずしも良くなくなっていく。二人が警察に逮捕された時も、少年は友人の証明書を持って来ると言って、そのまま逃げた。後に車を運転していた時、事故を起こし、同乗の友人は死ぬ。少年の犯罪は続く。警察に逮捕されるが逃げる。母親に電話する。居場所を教える。警察官の群れがその建物を取り囲む。中で音楽を聞きながら、少年がダンスをしている所で終わり。

実際の犯人はアルゼンチンでは死刑制度がないため、50年以上刑務所で服役しているそうである。

2023年7月24日月曜日

コルシカ兄弟 The Corsican brothers 1941

グレゴリー・ラトフ監督、米、111分、ダグラス・フェアバンクス主演。

コルシカ島の二つの貴族はお互い敵視していた。一方が他方を根絶やしにしようと襲う。その時、夫人は分娩時だった。生まれてきたのはシャム双生児で、医師が切り離した。敵方の襲撃で双子の兄弟は一人は家来に託しコルシカで育て、またもう一人はパリに連れて行った。長じて成年する。パリに行ったマリオは劇場で乱暴者から令嬢を助ける。コルシカ島に残ったルシアンは山賊の頭領になっていた。パリで片割れのマリオが負傷するとルシアンも痛みを感じる。

マリオもコルシカ島から呼ばれる。兄弟の再会がある。医師は事情を話し、両親の仇を討つべきだと二人に教える。またあのパリの令嬢もコルシカの貴族の娘だったので、この島に戻って来る。マリオと再会し二人は愛を確かめ合う。しかしルシアンも令嬢に恋し、悩む。敵方の貴族も令嬢をみそめ、攫って行く。マリオらは助けに行く。最後はルシアンは死に、マリオと令嬢は結ばれる。

悪魔の奴隷 Pendagbdl Setan 2017

ジョコ・アンワル監督、インドネシア、106分。

父親は家を出ている。祖母、病身の母親、主人公の女子、弟が3人で暮らしている。母親が死んだ後、その幽霊が出て、家の者を怯えさせる。謎を解明しようとして、女子は男の友人と町の知者の所に行く。男の友人は何くれと助けてくれたが、代わりに知者の家に行った帰りに自動車事故で死ぬ。祖母も亡くなる。父親が帰って来た。幽霊、ゾンビどもは襲ってくる。最後には悪魔の奴隷となっていた家族が分かる。引っ越しするが行った先でも呪いはついて回るようだ。

戦う幌馬車 The war wagon 1967

バート・ケネディ監督、米、101分、ジョン・ウェイン主演、カーク・ダグラス助演。

はめられて投獄されていたウェインが故郷の町に戻ってくる。自分の土地は悪徳ボスにとられ、ボスが町を牛耳っていた。ウェインを恐れたボスはダグラスに殺させようとしたが、ウェインとダグラスは手を組んだ。ボスはガトリング砲を持つ装甲馬車で金を運んでいた。それを襲う計画を立てる。インディアンの協力も取り付けた。襲って悪漢どもは片付けるが、インディアンの裏切りがあって、金を小麦と一緒に詰めた樽を搭載した荷車は転覆破損。金の入った樽も散乱する。これで金は取り損ねたと思われた。ウェインは別の場所に金の袋が隠されていると知っていたので、それを取る。ダグラスには半年間は我慢しろ、それまでは自分を守れと言う。

城取り 昭和40年

舛田利雄監督、日活、134分、白黒映画、石原裕次郎主演。

関ヶ原合戦の少し前。会津若松の上杉家では敵方の伊達家が城(砦)を築こうとしていると知る。その際城下にやってきた石原は自分がその城を取ってやると豪語する。上杉家の千秋実と二人でその城に向かう。途中で伊賀の若者、関西の商人、また城を築いている村の若い女(中村玉緒)と会い、築城しているところまで行く。村人たちは築城にこき使われている。

石原らは村人と話合い、城を乗っ取る計画を話す。最初はともかく、最後には村人も納得、協力するようになる。策を練って城の兵どもを倒す。最後には城主の近衛十四郎と石原の一騎打ちとなり、近衛を倒す。

2023年7月23日日曜日

ラン・オールナイト Run all night 2015

ジャウム・コレット=セラ監督、米、114分、リーアム・ニーソン主演。

父親がうざくてたまらない、に留まらず憎んでいる息子、それと年老い、かつて家族を見棄てていたが、今では後悔し、なんとしても息子に役立ちたいと思っている父親の話。これは拳銃をぶっ放す、命を賭けた展開になるが、ある意味父と息子の普遍的な問題を扱っているとも言える。

ニーソンはエド・ハリスと旧友で昔から悪事を働いてきた。ハリスの息子はどうしようもないドラ息子で金の請求に来た外国人を撃ち殺してしまう。それで逃げる。ニーソンの息子は運転手をしていて、このドラ息子逃走劇に巻き込まれる。ニーソンが息子と話をして追い出された後、ドラ息子がニーソンの息子を殺そうとする。銃声が鳴ったが、倒れたのはドラ息子である。ニーソンが息子を助けるため殺したのである。ニーソンはハリスに電話する。自分の息子を助けるため、お前の息子を殺したと。ハリスは怒り、ニーソンも息子とその一家を皆殺しにすると答える。その後は逃走するニーソンと息子、更に逃走中に警官を殺し、警察からも追われるようになる二人。文字通り命をかけてニーソンは息子を追手からも守る。

2023年7月21日金曜日

角田喜久雄『下水道』春陽文庫 1996年

表題作ほか12の短篇を含む推理小説集。表題作は総体的に長く、大正15年に公表された。若い女の語りによる一人称小説で、かなり奇天烈な構成になっている。

暴風雨の夜、雨の中、語り手の女は下水道に入る(よく分からない)。裸になる。下水道の壁に明かりが見えた。そこから時間は遡り、過去の犯罪の話になる。行方不明になっている若い男がいる。きょうだいに恋人がいるが、そのどちら共が相手が男を殺したのではないかと疑う。風呂屋で首吊りがある。

実は殺されたと思っていた男はその犯罪を、自分のきょうだいやその恋人に嫌疑がかかるように工夫したのである。なんでそんな工夫をしたか、分からない。このような真相を語り手は、下水道の壁の中に、死んだと思われていた男が瀕死の状態でいて、それの告白を聞いて理解する。女が聞いているとは男は知らない。どうしてこんな不可解な、非現実的な話を思いついたのか、それも不明である。

2023年7月19日水曜日

シン・オブ・アメリカ American siege 2021

エドワード・ドレイク監督、米、90分、ブルース・ウィリス主演。

ジョージア州の田舎町。出所してきた男を迎え男二人女一人の兄弟はある黒人宅に向かう。警備員を殺し、黒人を縛って秘密を聞き出そうとする。十年前に失踪した姉がどうなったのか、誰のせいか。兄弟は町全体に復讐するつもりだった。町はある有力者が牛耳っている。保安官はブルース・ウィリスがしているが、それも有力者の任命だった。黒人宅から警報が来る。更に電話があり黒人が拘束されていると分かる。有力者は黒人がいなくては困ると言い、ウィリスに救助を命じる。保安官補である有力者の息子と向かう。

黒人宅に秘密の部屋があった。そこで麻薬を作っていたと兄弟は知る。これが有力者を中心とする町ぐるみの犯罪であった。またその陰謀は兄弟の失踪した姉が中心のひとりでもあったと分かる。姉は殺され処分された。黒人宅にウィリスは着く。更に有力者が命令した私兵も続々やってくる。銃撃戦になる。黒人や兄弟のひとりが亡くなる。有力者とその一味をウィリスはやっつけ、残っていた兄弟に逃げろと命令する。FBIが到着するのでウィリスは、都合のよい話をしてまとめるつもりである。

2023年7月16日日曜日

横溝正史『死神の矢』角川文庫 令和4年

表題作を含む角川文庫には他に『蝙蝠と蛞蝓』が入っている。『死神の矢』は昭和31年に発表され、その後改稿。考古学者には美貌の娘がいて、その娘に三人の求婚者がいる。いずれも金持のドラ息子で、ドラ息子では足りないくらい粗暴で良心が欠けている連中である。誰に決めるか。今なら娘が決めるに決まっているが、父親が酔狂な方法を思いつく。三人に競争させて勝者が婿になれる。その競争の方法とは波に浮かぶ的に矢を放ち、射止めるというものである。こんな方法を考え出した、父親である学者は躁病患者というしかない浮かれている男である。競争の結果は不快な連中の中でも特に不快な男が勝つ。その後、この三人の婚約候補者がその矢でもって、次々と殺されていく。その犯人は誰かがこの小説の謎である。

最後に明かされる仕掛けは、全く非現実的もいいところのいつもの横溝節である。しかも都合のいい協力者が調子よく現れるというご都合主義の極みで、これは他の作品でも使っていた。こんな馬鹿馬鹿しい「トリック」に腹を立てるどころか、感心する向きもあるようで、推理小説好きとはそういう者をいうのだろう。自分は推理小説には縁がないようだ。

金田一耕助は探偵の中でも最低の無能男と烙印を押されている。なぜなら金田一が登場してから次々と殺人が起こり、金田一はボケっと傍観しているだけである。それらの殺人を防げなかったのに、最後に偉そうに謎解きを解説するのである。ところが本作では被害者が悪人ばかりなので、殺されていい、むしろ司法に代わって天誅を下すという役割が金田一に与えられている。共犯者として裁かれるべき者も全能者である金田一の裁量で何も罪に問われない。ところで途中に考古学者が契丹文化について講演をするというくだりがある。契丹が考古学の対象とは知らなかった。またオネスト・ジョンのあだ名をとる者の頭文字がO・Jと出てくる。H・Jではないかと思う人がいようが日本人なのでHonestでなく、Onestoと書いただろう。

『蝙蝠と蛞蝓(なめくじ)』は短篇で一人称小説である。語り手の男はなめくじにように思える女が嫌いで、アパートの隣室の金田一耕助も蝙蝠みたいな奴だと嫌っていた。女を殺す、その罪を金田一にかぶせるという案を思いついて悦にいる。ところがその女の殺人が実際に起こる。その後は推理小説的展開になる。この短篇は面白い。なぜならユーモアがあるから。横溝は短篇の方に秀作があると思う。

2023年7月7日金曜日

和田秀樹『70歳が老化の分かれ道』詩想社新書 2021

高齢者専門の精神科医である著者が、70歳になってからの健康に対する理解の仕方を解説する。

肉を食べるべきなどは他のところで読んだので、例えば健康診断は受けなくてよい、瘦せているより太っている方がいい、在宅介護より在宅での看取りの方が重要、ボケは病気でなく老化現象、癌の手術などは70歳以降になればしない方がいい、高齢で癌の進行が遅くなるし、手術による身体への打撃が良くない、など普通言われている治療の常識と異なる意見を開陳。

米国など外国のデータに基づいていて、日本に当てはまらない、高齢者には向いていない治療の通説に囚われるなと説く。

2023年7月4日火曜日

バルザック『老嬢』 La vieille fille 1836

主人公のコルモン嬢は40歳で独身という老嬢である。田舎町に住み、広壮な屋敷を構え資産も十分にある。この老嬢と財産目当てで結婚したいと思っている男が三人いた。老いているが未だに洒落者の貴族、自由主義者の成り上がり者、20歳代の青年である。いずれも老嬢の財産が目当てである。もちろん老嬢も結婚したくてたまらないのである。

この田舎町にロシヤから帰って来た子爵が来る。屋敷を捜しているという。老嬢はこの子爵と結婚して子爵夫人になる夢を見る。老嬢の屋敷に来たのでもてなす。ところが後になって子爵は結婚して子供もいると分かる。老嬢は痛く失望する。その傷心した老嬢に自由主義者は求婚し、承諾を得る。老嬢が結婚すると分かり、老貴族は老け込み、青年は自殺する。結婚して主人となった自由主義者は自分の出世のために老嬢の財産を思う存分利用する。(私市保彦訳、水声社、2017年)

2023年7月2日日曜日

横溝正史『貸しボート13号』角川文庫 昭和51年

表題を含む文庫にはその他『湖泥』『堕ちたる天女』が収録されている。表題の作品は昭和32年の発表とある。出だしが強烈である。貸しボートが東京湾に漂い、そこには二つの死体が乗っていた。女の方は中年でレインコートを着ているが、若い男の方はパンツしか履いていない。しかもこの二人は首が途中まで切られているという凄惨な状態であった。女の方は某役所の役人の妻、男の方は某大学の短艇部の部員で、資産家の美貌令嬢と婚約している学生と分かる。金田一耕助が出てきて、その大学の短艇部員に事情を聞いていく。最後に謎が明かされる。どう見ても現実的には有り得ない説明にしか思えなかった。この非現実的な種明かしを聞いて、納得したり感心したりする人が推理小説好きなのであろう。自分には全く無理であった。

『湖泥』(昭和28年)は岡山県の田舎で仇敵となっている旧家を巡る横溝らしい設定。二つの家の息子が美貌の女を取り合い、一方が勝利するが、悲劇が待っていた。行方不明になっていた令嬢は小屋で死体となって発見される。更に別の死体が出、また村にとって醜聞が分かる。最後に判明する種明かしはこれまたトリックのためのトリックといった感じしかしなかった。

『堕ちたる天女』は昭和29年の発表。ストリッパーを巡る犯罪。それも同性愛が大きな要素の話である。それに推理小説的な謎がからまう。

2023年7月1日土曜日

角田喜久雄『霊魂の足』創元推理文庫 2021

推理小説と時代小説双方の作家であった角田喜久雄の推理小説短篇集。角田が創作した探偵である加賀美捜査一課長の出てくる全短篇を収録する。収録作は以下のとおり。

「緑亭の首吊男」/「怪奇を抱く壁」/「霊魂の足」/「Yの悲劇」/「髭を描く鬼」/「黄髪の女」/「五人の子供」/(以下評論)「加賀美の帰国」/「「怪奇を抱く壁」について」

いずれも戦後の混乱期が舞台で、終戦間もない社会での犯罪等を描く。一般的に映画等でも戦後15年くらいまでは、戦争が与えた影響、例えば軍隊の埋蔵金を巡る抗争などという話が良く出てきて、戦争がほんの少し前までであったと感じさせる。本書に収録されている短篇は戦後の風俗を背景とし、小説ではあるが、一つの歴史的資料としても読める。推理小説的な謎解きよりもそちらの観点からの関心で読んだ。

探偵の加賀美は著者の愛好したシムノンのメグレ警視から影響を受けているという。解説では各編の発表年月、雑誌名等記載してある。古い作品を集めておきながら初出がいつか書いていない本があるが、本書はまともである。

なお古い時代の執筆であるから、不明の語が出てくる。「テキはどう?」(本文p.273)これは飲食店の会話で、テキとはビフテキのことか?ステーキという言葉は比較的最近の言い方で、ビフテキは昔からあった。その略か。また「『きんし』の袋を拡げて」(p.279)のきんしとは何か?後の方に「あの『きんし』の燐寸の燃軸で」(p.294)とある。きんしと言えば金鵄勲章くらいしか思い出さなかったが、勲章が袋とはおかしい。戦前、ゴールデンバットと呼ばれた煙草が戦時中の敵性語禁止で金鵄と改名された。その煙草、金鵄ではないかと、それくらいしか浮かばない。このような語には注をつけてもらいたい。