2023年10月31日火曜日

エラリー・クイーン編『犯罪文学傑作選』創元推理文庫 1977

原著はクイーンが1951年に出した短編集で、21編の犯罪に関係ある(いわゆる謎解きの推理小説ではない)諸作を集めている。モーム、パール・バック、スタインベック、ディケンズ、マーク・トウェイン、スティーヴンソン、ウェルズなど有名だが普通は推理小説家でない著者から、少なくとも今の日本ではあまり名が知られていない作家の短編を集めている。犯罪に焦点があるのでなく、面白い小説を集めているという感じである。具体的な著者と作品名は以下の通り。

シンクレア・ルイス「死人に口なし」/パール・バック「身代金」/W・サマセット・モーム「園遊会まえ」/エドナ・セント・ヴィンセント・ミレー「「シャ・キ・ペーシュ」亭の殺人」/ジョン・ゴールズワージー「陪審員」/ジョン・スタインベック「殺人」/ルイス・ブロムフィールド「男ざかり」/チャールズ・ディケンズ「追いつめられて」/ウィラ・キャザー「ポールのばあい」/マーク・トウェイン「盗まれた白象」/オールダス・ハックスレー「モナ・リザの微笑」/C・S・フォレスター「証拠の手紙」/リング・ラードナー「散髪」/ウォルター・デ・ラ・メア「すばらしい技巧家」/ジェイムズ・サーバー「安楽椅子(キャットバード・シート)の男」/ロバート・ルイス・スティーヴンソン「マークハイム」/H・G・ウェルズ 「ブリシャー氏の宝」/デイモン・ラニヨン「評決」/フランク・スウィナトン「アン・エリザベスの死」/ファニー・ハースト「ユーモア感」/ウィリアム・フォークナー「修道士(マンク)」

2023年10月30日月曜日

太田牛一『信長公記』中川太古訳、新人物文庫 2013

著者は織田信長に仕えた武士で1600年頃に書いたという。信長以前の尾張国の記述から始まり、入京以前を首巻とし、その後毎年一巻ずつ、15巻で本能寺の変あたりまでである。

歴史本というより記録といった感じで、誰それがどこそこで、こういういくさをした、という記録が延々と書いてある。固有名詞、人名と地名が恐ろしく多く出てくる。いくさに参加した武将名などは毎日日記をつけていたのかと思ってしまう。古い地名などは注で現在のどこにあたるか書いてある。

評価などもないわけでない。例えばなぜ比叡山を焼き討ちしたか、著者の理解が書いてある。これが今どの程度妥当か知らない。信長の部下が書いているのだから、「信長の果報が優れている有様は、わが国には比べる者もいない。信長の威光については、いうまでもないことである。」(p.468)などの書き方は当然であろう。人名、地名のオンパレードで、歴史好きでないとあまり読む気は起こらない、面白味のない本である。

2023年10月29日日曜日

イットカムズアットナイト It comes at night 2017

トレイ・エドワード・シュルツ監督、米、91分。疫病が流行り、家にこもっている家族。主と妻、その息子である青年の三人暮らし。

ある夜、侵入者を捕まえた。その男は空家と思って物色のため、入ってきたのだと弁明する。家族が別のところに住んでいると言い、家の主を車で案内する。途中で銃撃に会い、それらの男らを倒す。主は新しい男の家族、妻と幼い息子を連れて家に戻ってくる。二つの家族は同じ家で、隔てて住む。

しかしそのうち、厳重な戸締りがしてある筈の家の扉が開いていた。家の主は疑心暗鬼になる。新しい家族は感染しているのではないか。新しい家族もこの家を出ていくと言い出す。銃で家の主が脅すので新しい男は反抗し、隙を見て家の主を石で叩きだす。それを見ていた主の妻が発砲し、男は倒れる。その妻は幼い息子を抱え、逃げ出すが、主が銃を撃つ。幼い息子に当たった。母親は発狂したように叫び非難する。その母親も銃で倒す。まんじりともせず向かい合って座る主と妻。息子の青年が発病している模様。


2023年10月28日土曜日

黒の挑戦者 昭和39年

村山三男監督、大映、83分、総天然色、田宮二郎主演。

ホテルで女が風呂から出ると、相手方の男が寝台の上で血にまみれて死んでいる。驚いた女は逃げるが、なぜか雪の降りしきるベランダから降りようとした。その時、誰かの手が女を落とす。田宮扮する弁護士の所に電話がかかってくる。女の声で助けてくれという。田宮が車で駆けつけると電話ボックスの中に女が倒れていた。病院に運ぶが死亡する。妊娠していた。明くる日、ホテルで死体はないが血が大量に残っている事件に、警察が捜査を始めていた。田宮は知っている山茶花究扮する捜査課長と話す。死んだと見せかけ、男が女を突き落としたのではないか。

田宮は女のバッグにあった箱根のホテルで開かれるパーティに行く。みんな仮面をつけている。知り合いのマダムの顔があった。いかがわしい遊戯にふける集まりだった。田宮は久保菜穂子演じる、妖艶な雰囲気のそこの社長にも出会う。マダムは田宮に女殺しに関連した情報を与えると約束するが、今度はそのマダムが殺されてしまう。

これまで様々な悪事をしてきた組織は、田宮が嗅ぎまわるので、消そうとする。まず田宮の女秘書を誘拐する。田宮は追う。また久保との再会がある。組織のボスながら田宮を好きになっていた。自分らが作っておいた仕掛けで死ぬ。残りの悪党どもと拳銃の撃ち合いがあり、警官たちが駆けつけるお決まりの最後となる。

2023年10月27日金曜日

透明人間と蠅男 昭和32年

村山三男監督、大映、95分、白黒映画。

飛行機上で死体が見つかる。殺人の模様。既に幾つもの殺人事件が起きており、警察は全く手がかりを掴めてない。いきなり路上で人が倒れ死ぬが、空を指し、羽音がするだけである。実はこれは旧陸軍が開発したという、人間が蠅になり自由に飛び回れる薬を使っての犯罪だった。

警視庁の担当の友人は科学者で宇宙線の研究に従事していた。たまたま副産物として物体を透明にする装置を開発した。ただ透明にしたのを元に戻そうとすると死んでしまう。刑事は透明化装置を使い、蠅男に対抗したいと友人に頼むが、友人の科学者は拒否する。殺人事件が次々と起こるので、科学者自身が透明人間になる。悪事の打ち合わせをしているところへ行き、聞き出す。

蠅男の悪党は透明人間にする装置が欲しくて、拒否すれば爆発を起こすと脅す。旧日劇付近の電車を爆破する。ビルの屋上で蠅男(に変身する前の悪党)が警察と取引をしようとするが、透明人間に邪魔され、警察との撃ち合いで蠅男は屋上から転落する。透明人間から元に戻す装置も完成した。

2023年10月22日日曜日

フィルポッツ『闇からの声』 A voice from the dark 1925

イギリスの小説家フィルポッツのスリラー小説、退官した刑事が英国西部の海岸に面したホテルに泊まりに来る。そこで不気味な体験をする。夜中に子供の叫ぶ声が聞こえるのである。

このホテルに長期間滞在している老婦人に事情を聞く。一年前、病弱な子供がまさに元刑事が泊まっている部屋で亡くなった。その事情を調べると、夜中に子供は怖い目に会わされていたらしい。恐ろしい仮面を見せられて神経が参り、元々身体が弱かったため死に至った。この犯人ははっきりしている。叔父の貴族であり、下手人はその召使いである。自分が貴族の地位を継ぐため正当な権利を持つ甥を殺したのである。

証拠がないため刑事訴追は出来ず、元刑事は天に代わって悪人を成敗しようとする。元刑事は悪人どもに悟られないよう注意して、ものすごく遠回しに接近する。復讐譚なのだが、自分の復讐ではなく、悪人に天誅を下すというやや変わった小説である。(橋本福夫訳、創元推理文庫、1963年)

2023年10月21日土曜日

モーリタニアン 黒塗りの記録 The Moritanian 2021

ケビン・マクドナルド監督、英米、129分。ジョディ・フォスター主演。

アメリカの同時多発テロの指導者の一人とされたモーリタニア人が容疑者として、キューバの湾岸にある米軍収容所に長期間拘束されていた。このモーリタニア人の弁護をジョディ・フォスター演じる弁護士が引き受ける。裁判の相手、検事側は米軍のベネディクト・カンバーバッチが担当する。フォスターはモーリタニア人に会い、相手がこちらを信用していないと分かるがメモを書いてもらうよう粘り強く頼む。

また以前のモーリタニア人との尋問の書類を見せてもらうよう申請するが、なかなか許可が降りない。ようやく見せてもらった記録はほとんど黒塗りであった。その後、まともな書類の閲覧まで時間がかかった。ようやく見れた尋問記録にはモーリタニア人の告白が書いてあって、同僚の若い女は弁護する気を無くす。フォスターはその後、モーリタニア人との面会を続け、過去の真実に迫ろうとする。カンバーバッチは書類を見てずさんなので、これでは訴追出来ないと訴えると、最初から結論を決めている上司と衝突、辞めざるを得なくなる。

裁判が始まり、モーリタニア人の自己釈明のビデオがあり、映画はそこで終わり。無罪判決が出たが、実際に釈放されるまで時間がかかった。14年間、収容所に拘束されていたという。

キリング・フィールズ 失踪地帯 Texas killing fields 2011

アミ・カナーン・マン監督、米、105分。題名は『キリング・フィールド』ではない。テキサスの町の郊外にある、殺人地帯と呼ばれる物騒な地域を指す。

刑事二人は少女の死体を発見し、また別の少女が失踪し捜していた。後にやはり死体で見つかる。クロエ・グレース・モレッツの母親は娼婦をしており、モレッツの心はすさんでいた。刑事の一人がモレッツを車で送る際、コンビニで目を離した隙にモレッツはいなくなる。失踪したモレッツを刑事らは捜す。殺人地帯でモレッツを見つける。手当に運ぶが、刑事は怒り狂い、ライフルを持って殺人地帯に戻る。犯人らに逆に撃たれる。

携帯の発信から場所がモレッツの家と分かった。もう一人の刑事が仲間割れを起こすような電話をし、モレッツの母親、犯人、息子らの争いになって死んだり傷つく。後にモレッツは負傷した刑事に再会する。

2023年10月20日金曜日

ザ・チェイサー 真実の瞬間 Gasoline alley 2021

エドワード・ジョン・ドレイク、米、97分、ブルース・ウィリスが出演(主役でない)。

主人公は刺青師、町の反対側の娼婦宿に行き、そこで一人の娼婦と意気投合する。明くる日、刑事二人がやってくる。その一人、年長者がブルース・ウィリスである。娼婦四人が殺されたと。一人があの娼婦だった。この店のマッチを持っていた。昨晩渡したのだと説明する。刺青師は自分でも捜査を始める。探っていくうちに犯罪に警察がからんでいると知る。特にウィリスは犯罪に大きく関わっていた。最後はウィリスと戦う。

2023年10月19日木曜日

須賀敦子『ミラノ 霧の風景』白水Uブックス 2001

1985年から1989年に発表した文が元になっている。著者はイタリア語の専門家。昭和4年に生まれ、70歳になる前に亡くなっている。

著者が24歳、昭和28年に欧州に留学。初めフランスに向かったが、あまりなじめずイタリアに移り、結果的にそこに13年住み、イタリア人と結婚した。夫は早く亡くなり、日本に帰ってからイタリア語の教師、イタリア文学の翻訳をした。在伊時代には日本文学の翻訳をしたという。イタリア時代の出版界事情やイタリアの文学者についての記述が多い。日本では知られてない文学者の名がよく出てくる。

何しろ昭和28年に渡欧したというが、当時は普通の日本人にとって海外旅行でさえ、ほとんど不可能だった時代である。占領時代が終わってからは、外人に会うことさえ稀な時代が日本では長く続いた。映画やテレビ放映が開始されてからはそういう媒体でしか西洋人を見られなかった。文学や芸術などでヨーロッパはただただ憧れの対象であった。その時代にイタリアに住むなどは今の感覚では想像も出来ない。

向こうの友人間でその本性を見たと思った体験が書いてあるが、東洋の全く異質な外国人を向こうの人間がどう見ていたか、それは個人差があるし、著者個人の人間性も関係してくるだろうが、霧に包まれて訳の分からない世界に思えてくる。

2023年10月16日月曜日

ゴモラ Gomorra 2008

マッテオ・ガローネ監督、伊、135分。イタリア、ナポリのマフィアによる犯罪を描く。複数の挿話が並行して進む。

まだ幼いといっていい、普段は配達で稼いでいる少年は、マフィアの一員になりたくてしょうがない。その条件として、ある女を消すための手引きをする。その女を家から出させ、仲間の殺しに加担する。ろくな仕事がないので、青年の父親は息子を廃棄物処理をしている男に託す。息子は次第に廃棄物を処理するのでなく、不法投棄などしていると分かり、嫌になって男から離れる。衣服工場で仕立てをしている男は待遇が良くない。中国人から声をかけられ、中国人労働者の衣服工場で織子たちを指導してくれるよう頼まれる。講演をし実際に中国人の仕事を自ら指導する。これで男はかなりの報酬を得るようになった。ただし元々働いていた工場はマフィアの支配下にあり、中国人と同乗していた男は襲われる。中国人は死に、男は命からがら逃げる。チンピラの少年二人は気が大きく、気炎を上げていた。ある日たまたま組織の銃器類の隠し場所を見つける。好きな銃を持ち去り、いい気になっていた。組織は二人を呼び寄せ撃ち殺す。

ヤコペッティの残酷大陸 Addio zio Tom 1971

ヤコペッティ監督、伊、125分。ヤコペッティによる米の奴隷制を描いた映画。奴隷制当時のアメリカにイタリアの撮影隊が訪れ、インタヴューなどをして奴隷制の実態に迫ろうとする、記録映画の装いをまとった劇映画。

奴隷売買の様などは知っている内容の映像化であるが、その他にも白人の主人が黒人女を性の対象として好んでいた、また黒人奴隷に奴隷制はひどくないかとインタヴューすると労働者として雇われて働かせられているのと同じだと、黒人自身が奴隷制を肯定するような場面は目新しい。

以前の記録映画『世界残酷物語』や『さらばアフリカ』などで、やらせでないかと批判を受け、それを逆手にとって、全部劇映画として作ったのが、この映画である。奴隷制時代のアメリカに行けるわけでもないが、あたかもそのような作りになっている。

2023年10月14日土曜日

喜多川泰『運転者』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2019

ファンタジーの形式による自己啓発本である。ファンタジーだから書いてある内容の「しくみ」に疑問を持ってもしょうがない。書いてある内容はもっともと言えようが、今更という感じがする。

読んでいて嫌なのは、主人公のセールスマンの男が本当に不快極まる男だからである。自分が客だからといって運転手に乱暴な口をきき、文句ばかり言っている。最初は20代のチャラい男かと思ったが、後で45歳の中年男だと分かりびっくりした。40代半ばでこれでは見込みがない。読んでいて一番驚いたのは、朝飯に何を食べたとか聞かれ「朝は・・・普通にご飯と味噌汁。それに納豆だったかな。そうだあとは卵とソーセージ」(p.185)という答え。こんな豪勢な食事などホテルに泊まった時くらいしか食べない。これで文句の塊のような主人公に本当に腹が立った。

都留重人『アメリカ遊学記』岩波新書 昭和25年

戦後の経済学者の中でも有名であろう、都留重人の若き日のアメリカ遊学記である。著者は明治45年生まれ、昭和6年に渡米し、17年に帰国した。19歳で渡り、11年滞米し30歳の時に戻ってきたわけである。

初めはドイツに留学するつもりであった。ヒトラーが政権を取り、一時滞在のつもりのアメリカに長期いることになった。ウィスコンシン州のローレンス・カレッジというところで勉強し、後にハーヴァード大学に入った。本書を読むと著者はかなり意志が強いというか、勧められても嫌なことはしない、悪く言えば頑固だったようだ。学者にはそういう資質は必要なのだろう。アメリカに来た以上、勉強だけなら日本でも出来る、アメリカの文化に親しむべきという恩師の助言にも従わなかった。

2年間ウィスコンシンにいて、ハーヴァードに移ってから経済学の勉強を始める。当時の日本人らしく日本にいた時にマルクスを読んでいたので、古典派経済学を俗流経済学だと思っていて勉強しなかった。これが後に災いした。また経済学の教授が自分の講義は商品だと言ったので、憤慨したと書いてある。これなども経済学と無縁の人の発想である。大学院で同期だったサムエルソン、また当時のハーヴァードの教授であったシュンペーターについて書いてある。滞米中に真珠湾攻撃があった。日系人の収容などは有名だが、そういった記述はなく都留は全く差別を受けなかったと書いている。最後の章にアメリカ人論がある。よく言われるアメリカ人論だが、極めて高く評価している。今ではよく知られている、西洋人が釣りの勘定で引き算でなく、足し算で行なう点についても引き算が出来ないからでなく、客に対する親切心からしているのだと説明している。本書の出版は昭和25年である。敗戦国の日本は日本人が劣等であると進駐軍から叩き込まれ、アメリカがこの上なく立派な国家に見えた当時である。そういった時代の影響もあるかもしれない。

2023年10月12日木曜日

シルバラード Silverado 1985

ローレンス・ガスタン監督、米、133分。

ガンマンは追手を倒し、砂漠を行くと下着姿の男に出会う。その男を助けてやり、町に着くと黒人を助ける。更に弟を見つける。牢屋にいて明くる日縛り首にされる予定だった。もう一人の男が恨みのあった者を見つけ殺すのでやはり捕まり、弟と合わせて牢屋破りをする。兄弟、下着姿、黒人、この四人が主人公でシルヴァラドを目指す。

下着姿のかつての仲間の悪党が保安官をしている町だった。一行は酒場を経営する老婦人に会う。悪徳牧場主に家族が襲われ、攫われた少年を助けに行く。更に町に戻り、悪徳保安官とその一見を倒す。若い日のケヴィン・コスナーが弟役の軽薄ガンマンで出ていて、今見ると一番有名な登場人物だろう。

2023年10月11日水曜日

激戦ダンケルク Dankirk 1958

レスリー・ノーマン監督、英、135分、白黒映画。ダンケルクからの撤退の模様は映画の後半で、前半は英兵の彷徨を描く。

橋爆破の任務に赴いた英兵数人が戻ってみると、部隊は退却して誰もいない。それで部隊に復帰すべくドイツ軍の攻撃を縫ってフランスの地をさまよい歩く。イギリスではダンケルクから英兵を撤退するため、民間の漁船も含めて徴用していた。ダンケルクの海岸では数十万の英兵が救援の船を待っている。ドイツ軍の飛行機が攻撃をしかけ、浜辺にも船にも損害が出る。ようやく船に乗れたと思ったら爆撃に会い、船は炎上沈没する。また海に飛び込み、浜辺に帰らざるを得なかった。空襲で死者、負傷者を多くだすが、最後には駆逐艦が迎えに来てくれて、イギリスに帰れた。

2023年10月10日火曜日

『アイリッシュ短篇集1』創元推理文庫 宇野利泰訳 1972年

サスペンス作家ウィリアム・アイリッシュ(本名コーネル・ウールリッチ、1903-1968)による短篇集。以下の8篇を含む。個々の作品の発表年は書いていないが、1940年代から50年代初めにかけての発表だろう。

「晩餐後の物語」/「遺贈」/「階下で待ってて」/「金髪ごろし」/「射的の名手」/「三文作家」/「盛装した死体」/「ヨシワラ殺人事件」

まず最初の「晩餐後の物語」を途中まで読むと多くの読者はこれからどうなるか分かる。以前どこかで読んだか映画等で見たのか。これが原典かもしれない。「遺贈」はいい贈り物をしてもらったと喜んでいる悪党が別の贈り物も受けていたという話。「階下で待ってて」はアパートに物を届けた恋人を下の入口で待っているが、ちっとも戻ってこない。しびれを切らし中に入り上がってみると恋人は失踪していた。「金髪ごろし」は街の新聞売り台で売ってる、金髪美人殺しが載っている新聞を買う人々のその後の話、人生模様を描いているだけでない。「射的の名手」は徴兵拒否のため、ある事故(事件)を作り出そうと企む。この後半もdeja-vu感がある。映画でおなじみのような。「三文作家」は爆笑物。最後の落ちは一度読んだら忘れられない。実際にこれは大昔、十代の時に読んで今でも覚えていた。この短編集は初めてかと思ったが、この作品で昔読んだと思い出した。「盛装した死体」は犯罪を隠そうと凝りすぎてばれるという話。

「ヨシワラ殺人事件」は原題をThe Huntedといい、この本の中では日米相互理解史の上からいっても貴重な作品である。戦後まもないアメリカ人の日本人観の例が書いてある。明治開化の頃の話でない。朝鮮戦争時だから1950年代の初めである。主人公の米海軍水兵は休暇で横浜に上陸し東京に遊ぶ。気持ち悪い芸者に辟易し、追い払う。その時偶然にも(偶然すぎる)、若い米人の女に助けを求められる。婚約者を殺害した罪を着せられていると言う。この女の救助譚なのだが筋はどうでもいい。

主人公の水兵の意見。「けんかがはじまったようすである。ニホン人というのは、すぐ見さかいがなくなる人種のようだ。けんかでもすれば、退屈がまぎれるとでも思っているのだろうか。きっと、そうなんだろう・・・」廃墟の銀座を通りすぎる時、「木の燃えるにおいに、乾し魚のにおいがまざりあったこの国独特の臭気が、車の窓から流れこんできた。」白い旗がドアの把手に結びつけてあったと聞き「白の色は、この国では凶事を示すものです。」そうなの?昔の喪服は白だったし、今でも死装束は白だが。コオロギの鳴き声を聞いて「どこか頭の上の方で、籠に入れたこおろぎが、リズミカルに鳴いているのを聞いた。この国では、こおろぎを番犬がわりにつかっているのを、彼は以前から知っていた。怪しい者が屋内に侵入すると、それがぴたりと鳴きやむからである。」虫の鳴き声を鑑賞するのは日本人くらいだとどこかで聞いたが、番犬代わりとは「日本をよく知っている」アメリカ人に教えてもらった。警察が犯人を逮捕する様子。「ふたりの巡査が、警棒で男をたたきはじめた。その男をあおむけにして、手をうしろで縛り、足をもって、ひきずっていった。これが捕縛の東洋風スタイルである。」再度言うが、これは戦後まもない時期が舞台である。いや日本人として知らない事が多いようだ。実は殺された婚約者には日本人の妻がおり、その妻は小説の最後で自殺する。全く蝶々夫人の換骨奪胎である。しかもその死に方は切腹なのである。日本人妻の死に様。「その女は、(米人女の婚約者、日本人妻の夫)の写真を前に、繻子の祈祷枕の上にひざまずいて、死んでいた。ひとつかみの香から、糸のような煙が、渦巻きながら舞いのぼっていた。彼女の神。(改行)彼女は、作法の命ずるとおり、死を怖れぬことを示すために、前かがみになって死んでいた。からだの下に押しこまれた手が、みごとにその腹部を切り裂いたハラキリ刀を、しっかりとにぎりしめているのだった。」女なら小刀で喉を突くのではないのか。そういえばフジヤマ、ゲイシャと並んで、ハラキリ、ヨシワラは外人に良く知られた日本のキーワードだった。

この短編集の作品は今となっては古典的にさえ見えるが面白い。ただ最後の「ヨシワラ殺人事件」は米の読者にはエキゾチックで売っているのだろう。日本人からすると、アメリカ人がどう日本を理解していたかの方が関心がある。


2023年10月9日月曜日

不都合な理想の夫婦 The nest 2019

ジョーン・ダーキン監督、英加、107分、ジュード・ロウ主演。

ロウは英国生まれ、米国で結婚し子供が二人いる。英国に家族を連れて戻ってくる。妻は米国で就いていた仕事を辞めなければならなかった。古い大きな館を住居として購入する。子供は名門校に入れた。

かつての仕事仲間を訪ね、自分を売り込む。大きな夢を語り、考えている事業を始めたいと実施に移そうとする。しかし上司はいい顔をしない。ロウが舌先だけで誠実でないと知っているからだ。友人が始めたいと言った事業を自分の考えのように売り込む。友人はロウに関わってくれるなと断る。家の整備は金がなくて行き詰っていた。数十年ぶりに母親を訪ね、無心しようとするが長年無視されてきた母親はにべもない。息子は学校でいじめに遭っていた。金もなくなり、ロウは華族の前でここを売ってアパートに移ろうと提案する。

2023年10月5日木曜日

黒田龍之助『ポケットに外国語を』ちくま文庫 2013

自称フリーランスの語学教師、黒田龍之助による外国語学習はいかに面白いものかを述べたエッセイ。語学が好きで色々な外国語に挑戦する人がいるが、そういう人が読めば面白いだろう。普通ロシア語がまず専門かのような印象があったが、驚いたのは「モスクワ、シベリア」という節で、友人が好きなものとして語学では英語を挙げているのに対し、著者は自分ならロシア語かというとそうでないとある。ロシア語は好きではないのかと思った。長年悩んできたそうだ。

好きでやる外国語学習の対極として道具、手段としての外国語があり、英語はその筆頭だろう。この著者は英語学習について変なことを言っている。「英語学習者の心理分析」という節で、英語は愛されているとか、競う英語とかあって、語学検定など競争が好きだと書いてある。これは英語が事実上の世界共通語であり、検定に合格すれば就職その他で有利だからである。現実的な理由で勉強しているのに、斜に構えたような言い方をして何が面白いのだろう。もっとも学校の英語教育でちっとも話せるようにならない、その責任を英語教師に押し付けるのは間違いだと自分も思う。すぐに学校教育が悪かったせいだ、学校教育を改善しろと言って実際に変わってきているらしいが、通じないのなら発奮してすぐ英語の勉強を始めれば良いのである。学校教育なんて基礎を教えているだけで、自分で実用英語の勉強を開始できるのならそれでいい。実用英語なんて一生使わない人も多いのだから、英語ばかりに学習時間を割くのは良くない。

2023年10月4日水曜日

アニー・イン・ザ・ターミナル Terminal 2018

ヴォーン・スタイン監督、愛、米、英、洪、香港、96分。マーゴット・ロビー主演。題名にあるように終着駅が主な舞台。余命幾ばくも無い老教師、殺し屋の二人組、駅の掃除員、そしてロビーが駅の喫茶店の女給である。

死を直前に控えた教師はロビーとの会話でなぜさっさと死なないのか問われる。殺し屋の一人は老人、もう一人は若い男。老人は若い男を殺せと命じられるが、ロビーと通じていた若い男に逆に殺される。更にロビーが若い男を好いているように振舞ったが芝居であり、ロビーは若い男も倒す。駅の掃除員は実は黒幕だったのだが、ロビーは正体を見抜く。ロビーは双子で黒幕は実の父親だった。だが母親を殺したので復讐で娘二人に殺される。