2023年4月30日日曜日

シラー『群盗』   Die Raueber 1782

老モール伯爵には二人の息子がいる。カールとフランツである。今よそに行って不在のカールを弟フランツは破滅させて、自分が後を継ぐ算段である。カールからの手紙を父に伝える際、全く内容を変え、父を悪く言っていると話す。父親は絶望するがカールへの手紙を書くようフランツに言う。それもフランツは父がカールを非難していると嘘八百を書き、それを受け取ったカールは絶望に沈む。もはやこれまでと群盗を組織しその頭首になる。

カール自体は義賊として振る舞っていたが、部下にはひどい者もいた。故郷ではフランツが早く後を継ぐため、これまた嘘でカールが死んだと父に伝える。父は絶望する。なかなか死なない父をフランツは首を絞める。カールの恋人は今でもカールを慕っていたが、フランツはなんとしても結婚しようとするが、女は拒む。

カールは故郷に戻ってくる。父親は死んでおらず牢獄につながれていた。また恋人にも会う。弟フランツの悪だくみを知るが、自分も盗賊になってしまっている。カールは父親と恋人を自分から手にかけ、またフランツを成敗してから自首する。(宮下啓三訳、講談社世界文学全集17巻、1976

皇家戦士       1986

ディヴィッド・チャン監督、香港、ミシェル・ヨー主演、真田広之も出演。

日本の代々木公園、チンピラどもをヨーがやっつける。
悪人を香港に引き渡す飛行機に、ヨーは乗っていた。飛行機内には真田もいた。ヨーは飛行機の警察という若い男と知りあいになる。上空に出てから悪人の仲間が銃を取り出し、警官を殺して捕まっている仲間を釈放する。ヨーや真田の活躍でそれら悪人どもを片付ける。香港に着く。ヨーらは英雄扱いになる。
仲間を殺された悪人たちは復讐しようとする。まず真田の妻と娘が乗った車を爆破する。真田はその復讐で悪人の一人を倒した。
残っていた悪人は飛行機で知り合った若い警察官を捕まえ、ヨーが助けにいくも高いビルから落下させ殺す。更にその死体を掘り返した悪人は死体を取り戻しに来いと連絡する。
ヨーと真田は採掘場のような場所に行き、悪党と対決、倒す。

2023年4月29日土曜日

危険な航海    Dangerous crossing 1953

ジョゼフ・ニューマン監督、米、76分、白黒映画。

ニューヨークの客船出港時に新婚の夫婦が慌てて乗船する。部屋に入り夫は金を預けてくると言って出る。約束の酒場で妻は待っていたが、いつまで経っても夫は現れない。
船の係に事情を告げる。するとその夫婦は乗客名簿にない。切符はあるかと聞かれても、夫が持っている。結婚したなら結婚の証明書はあるかと言われるが、それも夫が持っている。船長らは本当に夫がいるのか、乗船しているのか疑う。
妻の要請で船中くまなく捜索するが、見つからない。船医が妻に好意的で何くれと世話をし、相談に乗ってやる。しかしいつまでたっても夫は見つからず、次第に船長以下、妻の精神状態を疑うようになる。妻は疑心暗鬼の塊となり船医にさえ、信用できない気になってくる。
ある晩、夫から船室に電話がある。驚いた妻が問うとまた電話すると言って切ってしまう。
真相は夫と称する男はこの船の乗務員の一人であり、妻となった女をだまして財産を奪うつもりだった。気がおかしいとみんな思っているので自殺してもおかしくない、そういう状態にしてから殺すつもりだった。悪だくみはうまくいかず、船医と格闘し海に落ちてしまう。
船長らは妻に謝る。妻と船医は相思の仲になっていた。

吉川洋『高度成長』中公文庫   2012

経済学者の吉川洋による日本の高度成長期の社会の様相を描いた書である。専門が経済学だから当然この高度成長期の経済事情、要因の説明がある。それだけでなくそれ以上に当時の社会がどうであったかの記述が面白く興味深い。

目次は次の通り、「今や昔――高度成長直前の日本」「テレビがきた!」「技術革新と企業経営」「民族大移動」「高度成長のメカニズム」「右と左」「成長の光と影――寿命と公害」「おわりに――経済成長とは何だろうか」

あとがきにあるように著者の意図は、経済的分析はもちろんだが、自分がその中で生きてきた高度成長期を書いてみたかったという。高度成長期の同時代史になっている。それだからこそ興味深く読める。その時代以降の者なら資料で書くしかない。自伝が、他人の書いた伝記より面白いのに少し似ている。

2023年4月28日金曜日

ジュピター Jupiter ascending 2015

ウォシャウスキー監督、米、127分。

主人公の女はロシヤの生まれで父は死に、家族と共に今ではシカゴに住んで、家政婦をしている。天文学が専門の父の命名でジュピターというおかしな名をつけられている。
ある日、ジュピターの家に宇宙から侵入者がやって来て、ジュピターに関しては守護者のような超人めいた男が現れる。実は宇宙の支配者の家系の兄弟がいて、ジュピターを捜していた。ジュピターは支配者の血をひき、最高の地位に就くべき者と言われる。いきなりそんな話を聞いてもジュピター自体は何も分からない。支配者の兄弟の母の生まれ変わりがジュピターというのだそうだ。
舞台は宇宙に移り、兄弟夫々の思惑でジュピターを亡き者にしようとしたり、ジュピターの地位を利用して支配者になろうとする。ジュピターはそんな連中の思惑で翻弄されるが、家族を助けたいだけである。ジュピターと守護者はいつしか愛し合うようになる。ジュピター、守護者は兄弟と闘い、兄弟らのいる組織国家は破滅する。
無時地球に戻れて家族と再び暮らせるようになる。ジュピターはいまだに支配者の地位にあって、守護者から陛下と呼ばれて気分が良くなる。

2023年4月27日木曜日

中島義道『差別感情の哲学』講談社学術文庫   2015

哲学者、中島義道が考察した差別感情の本質、心理である。誰でも差別はいけないと思っている。ただ時として差別を否定する立場からの言葉狩りや、差別している者を攻撃する態度に、何となく同意できない気持にもなる。

本書では差別という人間感情を冷徹に解剖している。それが冷たくて個々人の対応としては現実的でないような気さえしてくる。しかし哲学なればこそ、徹底的思考が要請されるのであろう。哲学は常識を豊かにするものではない。むしろ常識に疑問を投げかける学問である。いや常識を否定する場合が珍しくない。

差別の問題のように極めて日常的な問題への哲学の理解の仕方に違和感しか覚えないのなら、あまりに自分に対して無自覚、常識という多数意見に属しているのだから何も問題ないとして、何も考えていないのではないかと思われる。

2023年4月26日水曜日

小峰隆夫『平成の経済』日本経済新聞社     2019

エコノミストとして名高い著者が平成の日本を振り返った経済論。内容は第1部「バブルの崩壊と失われた20年の始まり」第2部「金融危機とデフレの発生」第3部「小泉構造改革と不良債権処理」第4部「民主党政権の誕生とリーマン・ショック」第5部「アベノミクスの展開」に分かれる。

こうしてみると平成の経済は、昭和の戦後が「成功物語」であったのに対し、随分苦難の道をたどってきたと分かる。始まりからしてバブルの崩壊であり、日本の成長神話を失わせた。本書に具体的な経済の経緯は書かれているので、そもそも的な感想を述べたい。

バブル崩壊でかなり日本経済は悪化した。しかしこれは一時的な現象であり、早晩元の成長軌道に戻るという発想が当時は強かったと思う。財政政策や金融政策を適切に行なえば成長は戻るはずだ、と思われた。いや経済が悪化していれば、何も政策をうたないわけにはいかない。成長哲学如何に関わらず、財政金融政策はしなければならない。財政政策は結果的に政府赤字を増大させた。それほど効果がなかったという意見に対し、しなければもっと悪化したと反論が来る。検証のしようがない。

21世紀になってからはデフレ不況が生じ、まずデフレを止めよと言われ始め、専ら経済政策は金融政策に特化した。これまでの金融政策が妥当であったかどうか、まだ評価の議論の時期ではないかもしれない。しかし当初の期待ほどの成果は挙げているように見えない。

2023年4月25日火曜日

豹(ジャガー)は走った     昭和45年

西村潔監督、東宝、92分、加山雄三主演。

南洋の某国でクーデタがあり元大統領は日本に亡命してきた。その元大統領を暗殺しようとする革命政府。日本の商社は某国と取引があり、元大統領を消せば革命政府と取引が出来る。それで商社社長秘書の加賀まりこが殺し屋を雇う。それが田宮二郎。
警察側は要人を殺されてはいけないので、暗殺しようとする者を殺せと刑事、加山に命じる。警察から離れ自由に行動できるようになる。加山と田宮の果し合いといった状況になる。
ところが、見た目は切れ者そうに見える二人だがとんでもないドジ野郎どもだった。田宮は最初、元大統領を殺したと思ったら替玉だった。更に加山が妨害する手ごわい相手と知り、殺したつもりが加山の部下の若い刑事だった。全く無能の極みの殺し屋である。更に加山の方は、田宮の愛人となった不幸な外人の女を勘違いしたのか、射殺してしまう。ドジを競い合う主役たち。喜劇かと思った。
最後は廃工場内での銃による決闘。相討ちかと思ったが、田宮は死に、加山は負傷しただけだった。

弾痕  昭和44年

森谷司郎監督、東宝、94分、加山雄三主演。

昭和40年代半ばの国際政治状況が背景で、それを前提にしているから分かりにくい映画である。中国が中共と呼ばれ、外国にとって謎の国であった時代。アメリカと中国が日本を舞台にしてしのぎを削っているような設定である。
加山はアメリカの諜報員である。日本人なのだが、米で育ったためその仕事をしている。中国人で米へ亡命を希望している男がいる。加山はその亡命を助ける。すると中共側から狙撃される。その流れ弾に当たったのが、大地喜和子演じる彫刻家。加山は手当をしてやる。それ以降、恋人同士となる。
亡命を希望していた男は実は中共のスパイだった。東京で武器商人から武器を購入するつもりだった。
最後には加山は大地と外国に行こうとする。大地の乗る出航する船のそばまで加山が来た時、加山の忠誠心を疑った米側によって加山は射殺される。

2023年4月24日月曜日

イレイザーヘッド  Eraserhead 1976

デヴィッド・リンチ監督、米、89分、白黒映画。

主人公は頭が多い髪の毛を立てていて、消しゴムのようでEraserheadという題はそこから来た。工場地帯に住む冴えない男。恋人がいる。その家に食事に呼ばれる。雰囲気が怪しい一家。母親から娘と寝たかと問われる。子供が出来ているからである。男と女は一緒に住む。
子供、赤ん坊といっても奇妙な生物である。瓜のような頭、首から下は包帯で包まれている。おかしな声で泣く。女は寝られないと言って実家に帰る。男は自分で世話をする必要が出てきた。
こののち映画は幻想的な場面が続く。男の妄想か、心理状態を表わしているのか、夢か。
舞台で踊る頬に出来物がある女。変なものが落ちてくる。夜中に隣の部屋の女がいきなり訪ねてくる。鍵を無くしたと。一緒に寝る。男が舞台を観ているといきなりその首が飛び、下から赤ん坊怪物の首が出てくる。飛んだ首は地面に落ち、子供が拾う。大人のところに持って行き、消しゴム付き鉛筆を製造する機械がある。鉛筆を作り合格だという。
男は赤ん坊怪物の胴体が包まれている包帯を鋏で切り取っていく。するとその下には内臓等があった。まるで包帯が皮膚のような。

2023年4月23日日曜日

キングオブトロール 勇者と山の巨神   Askeladen I Dovreguppens hall   2017

サンテモーゼ監督、諾、104分。

ノルウェイの三人兄弟がお姫様を救出に行く冒険譚。例によって末っ子がドジで一見役立たずに見えて、実は主人公という設定。
宮殿(と言ってもたいしたことない建物)で、姫がいて18歳になるまでに結婚しないとトロールに攫われるという伝説がある。明日がその18歳の誕生日。デンマークの王子がやって来て求婚する。見た目だけでなく人格的にも問題がありそうな男。明くる日、姫は馬で逃げる。
途中で三人兄弟の末っ子に会う。川に落とし、知り合う。末っ子は帰宅するが父親や兄たちから𠮟られる。明くる日、末っ子は留守番をしていると誤って家を火事で燃やしてしまう。帰った父兄は呆れる。
デンマークの王子一行がやって来て姫を捜していると伝える。捜しあてた者は王国の半分を貰える。兄弟は姫捜しに出かける。そののちは冒険譚になり、魔法の剣を見いだす、トロールに囚われた姫を助け出す、等の話が続く。
姫を助けた三人兄弟は宮殿に姫を連れて行き、家を建て直す費用を貰う。後に姫が家に馬で来て末っ子は一緒に乗って駆けていく。

夜光る顔     昭和21年

久松静児監督、大映、74分。

戦後のある実業家宅、弁護士と税金対策を話していると、いきなり暗闇に仮面が浮かび、隠し持っている宝石を返せと命令する。その仮面が夜光る顔であった。
警察が張り込み、宝石を守っている。約束の時間が過ぎた。取りに来なかったかと実業家が笑うと実は既に盗まれていた。(怪人二十面相と同じ手口)
警察では容疑者を捜す。宝石は警察に返されてきた。物取りが目的ではない。弁護士は奇妙な男に付きまとわれる。
実は実業家には双子の息子があり、その一人は死んだものと思われていた。その死んだ筈の息子が生きていて、親の造った不良兵器で戦友が多く亡くなっていた。それで変装し、夜光る顔として親に復讐しようとしたのである。
終戦間もない時期の撮影で瓦礫の山となった市街地が出てきて興味深い。音声が聞き取りづらい。

2023年4月21日金曜日

狙撃    昭和43年

堀川弘通監督、東宝、86分、加山雄三主演。

ビルの屋上から新幹線を、殺し屋の加山が狙う場面から始まる。仕留めた。加山は後にモデルをしている浅丘ルリ子に会う。惹かれ合う。
加山の次の仕事は、金塊の輸送を襲っての強奪であった。奪うがその後はあまりうまくいかない。浅丘は加山が殺し屋と知る。
新たな殺し屋、森雅之が現れる。加山の一味を襲う。加山以外は皆殺しになる。更に浅丘まで人質に取られる。
加山は救出に向かう。浅丘が森の車から加山の車の方へ歩いてくる。加山の車のところまで来た時、森は浅丘を射殺する。
森の車と加山の車は追いかけ合う。浜辺で降り、共に走りながら銃を構える。森が撃って加山は倒れる。森は倒れた加山に近づく。その時、加山は身体を仰向け、森を倒す。その加山も傷ついているので這って、車の浅丘の死体に近づくが途中でこと切れる。

大阪圭吉『とむらい機関車』創元推理文庫   2001

戦前の推理小説家、大阪圭吉は若くして亡くなった(明治45年生、昭和20年死)。それでも現代まで読み継がれている。本格推理小説家として評価されている。創元推理文庫から大阪圭吉の代表的短篇を集めた集成が2冊出た。『とむらい機関車』と『銀座幽霊』である。

『とむらい機関車』の書名になっている小説は、機関車が何度も豚を轢き殺すという奇妙な事故が起きる。その謎はある不幸な女の仕業と最後に判明するが、現在ならちょっと考えられない要因があった。また『デパートの絞刑吏』は今となっては懐かしいデパートの屋上のアドバルーンが出てくる。この他収録されている小説はいずれも設定が奇抜であり、感心させる出来栄えである。最後に収録されている『坑鬼』は炭鉱を舞台にした作品。事故が起こる。生死不明の者がいる。その後、不可解な死亡事故が起こる。一体どうなっているのか。推理小説としての謎が解き明かされる。それに無理が感じられても推理小説なんてみんなそんな物であろう。

もう一冊『銀座幽霊』と題された集成も奇抜な短篇が収録されており、感心する。

2023年4月20日木曜日

コリンズ『月長石』    The Moonstone 1868

ウィルキー・コリンズによる長篇推理小説の古典。インドから不当に盗んできた月長石を巡る不可解な事件とその謎を解く。19世紀の長篇推理小説によく見られた、事件とその解決を第一部とし、その原因、背景を長々と描く第二部から成る、例えば『緋色の研究』とかガボリオの小説のような構成ではない。現代の小説にむしろ近い。書き方は複数の人数による一人称形式である。語り手が次々と交代していく。

初めはイギリスの田舎の屋敷が舞台でそこの執事が語る。件の月長石が叔父からその屋敷の令嬢の誕生日祝いに贈られる、しかもその晩に月長石は紛失してしまう。一体誰が盗んだか。捜査のため近隣の警察ではらちが明かず、ロンドンから名探偵が乗り込んでくる。しかし謎は解けぬままに終わる。ロンドンに舞台が移り、慈善事業に精を出す女の語りになる。月長石を盗まれた令嬢には従兄が二人いて共に求婚者である。二人の従兄と令嬢の関係が小説の筋を形作る。盗まれた様の真相は、医師の助手が行なう実験によって確かめられる。19世紀の小説だから何も言わないが、現代ならこういう手は推理小説では使えないだろう。更に話は進み、実際に奪った犯人が明らかになる。

推理的要素が中心だが、小説としての面白さで読ませる。(中村能三訳、創元推理文庫、1970年)

2023年4月18日火曜日

デフォー『ロビンソン・クルーソー』  The life and adventure of Robinson Crusoe 1719

ロビンソン・クルーソーが孤島で生き残るため奮闘する、という筋は全く読んでいない人でも知っている。昔から子供向きの本として有名で、読まれてきた。実は本作を読んだのは初めてである。そして思った。これは子供向きの本でなく、大人が読むべき本である。

本書は孤島での生き残りをかけた物語だけでない。更に経済人を描いたという言い古された評、この理解も十分でない。経済学者が都合のいいように言っているだけである。本書は人生を考え直させる書である。特に指摘したいのは孤島生活が前半と後半に分かれる点である。前半は一人だけで生き残りを図る、本書のイメージ通りの話である。この部分は、大人になって読むとご都合主義というか難破船から必要なものを全部持ってこられた、うますぎると気になるところもある。

後半になると「社会」の話となる。一人で生き残りをかけた生活をしてきた時は色々考えても内面の思索、いかに一人で実行するかの問題である。ところが後半になって、人食い人種の野蛮人の存在を身近に知ってからは社会の話になる。フライデーや他の者と行動するよりもっと前からである。つまり野蛮人との接触の可能性を知ってからのロビンソン・クルーソーの思索は前半と異なる。自分しかいないと思っていた時の思考や反省は全く個人内部のものである。しかし他人との接触を考えて、色々対策を考える、これは社会人そのものである。18世紀の西洋の小説であるから、差別意識など気になるかもしれないが些細な話であり、それより読んでいると色々考えさせられるのである。人間が全く他人との接触を断たれた場合と、社会を作って生きていく、この対比を鮮やかに描いた小説である。

ルソーが『エミール』でエミールの教育に望ましい本として挙げたのがたたったか、子供向きの本として思われてきたのは残念である。そういえば『ドン・キホーテ』も昔は子供の本扱いだったが、今では最高の小説に挙げられる場合もあるのに似ているかもしれない。

ブラック・クローラー 殺戮領域   Saltwater: The battle for Ramree island 2021

スティーヴ・ローソン監督、英、83分。

第二次世界大戦末期、ビルマ沖のラムリー島での英軍兵士四人。中年の軍曹が指揮して秘密の任務についている。それは島に基地がある日本軍の情報を探るというものだった。
若いカメラマンが同行しているのは写真を撮るため。婚約者がいてその写真をみんなに見せる。部下のうち一人は狷介な感じの男で、弟が日本軍に殺されたため、復讐しようとしている。もう一人はインド人の兵士でインドでは階級が高いが、イギリス人の兵士は下に見ている。
島の真ん中に沼地がありそこを通っていくと鰐に襲われるという話。最初若いカメラマンがやられ、次に指揮者の軍曹。イギリス人はインド人を馬鹿にしていたが、インド人は知恵があり次第に協力し合うようになる。最後は二人とも鰐の餌食となる。
映画の最後に字幕が出て、後日本軍は千人中、二十人が生き残っただけで後は鰐にやられたと出る。

2023年4月14日金曜日

1917 命をかけた伝令  1917

サム・メンデス監督、英米、119分。

第一次世界大戦時の1917年、イギリスの若い兵士二人は将校から呼ばれる。離れた場所にいる大隊に指令を持って行ってもらいたい。独軍に対する攻撃は中止するようにと。相手は攻撃を待って反撃してくるので、その罠に陥ると大損害を被る。
選ばれた兵士のうち一人は、その大隊に兄がいる。独軍はいったん後退しているので、ある程度までは行けるはずだと言われる。二人は塹壕から飛び出し、戦場跡を駆けていく。
途中で墜落した独機の搭乗員を飛行機から助けたが、その搭乗員に一人が殺される。殺された男は間際に兄に伝えて欲しいと同僚に頼む。
残りは一人で目的地を目指す。途中でトラックに乗せてもらったが橋が破壊されている。トラックは迂回するので兵士は壊れた橋を渡っていく。その時、銃撃を受けた。橋近くの家から攻撃しているらしい。兵士はその家に入り相手を倒すが、自分も負傷する。フランスの若い女に助けてもらった。いち早く大隊に到着する必要があるので早々にそこを出る。
ようやく目的の大隊に着く。そこの司令官を訪ねるが最初は相手にしてもらえなかった。ようやく指令書を手渡すと司令官は攻撃中止の命令を出す。そこを出て、死んだ仲間の兄を尋ねる。見つかった兄に同僚が死んだ模様を伝える。

小峰隆夫『日本経済論講義』      2017

著者は経済企画庁の官僚から大学教授になったエコノミストである。本書はビジネスに従事している者に対して行なった講義を元にしている。日本経済の読みやすい解説本である。

内容は、大きく分けて四つの部から成る。経済、景気をどのようにして見るか、書かれた時期の反映で当時の経済政策であるアベノミクスをどう評価するか、次にやや長期的な観点、耕造改革として日本の労働市場をどう改革していくべきか、最後は日本の財政再建と社会保障の問題を論じている。

このように経済、景気の見方の基本が分かり、中長期的な課題とそれに対する方策案が示される。対応の考え方には賛成できない場合でも、自分の意見をここの記述を基にして組み立てられる。日本経済の基本を知りたい向きには勧められる著書である。(日経BP社)

2023年4月13日木曜日

香西泰『高度成長の時代』    1981

著者は経済企画庁の官僚から大学教授になり、日本経済研究センターの理事長を勤めた。本書は日本の戦後の高度経済成長時代の様子、その要因を解明しようとした著書である。

高度成長によって日本人の生活は著しく向上し、豊かになった。生活改善は高度成長のもたらした最も目につく成果である。生活の向上ぶりを描けば興味ある読み物になる。文庫で出ている吉川洋や猪木武徳の著作は読んでいて面白い。それに対して本書は完全に経済に焦点を当て、なぜ高度成長が可能となったか、その様相はどのようであったかを分析している。そういった意味ではやや硬い著作である。しかし最も解明が必要とされている点でもある。

本書は昭和50年代半ばに執筆されているので、成長の枠組みとしてハロッド=ドーマーを使っているとか、マルクス経済学的な用語が出てくるとか古臭い点もある。ただ著者が昭和8年生まれで終戦の年に12歳であり、昭和30年には22歳であったから、戦後高度成長と共に成長し興味を持って時代を眺めた。今の人間が書くなら資料によるしかない。それを自ら見聞き経験した同時代史なので説得力ある書となっている。(日本評論社)

2023年4月9日日曜日

ノルマンディー 将軍アイゼンハウアーの決断  Ike: Countdown to d-day 2004

ロバート・ハーモン監督、米、89分。

ノルマンディー上陸作戦の決定をどう行なったかを描く映画である。部下の将軍たちとの意見交換の様や、期日決定に影響を与える天候予測などを勘案して決定を下す。その苦渋に満ちた判断を描いている。極めて美辞麗句が多いのに驚く。
人種差別はいけないとか民主主義を守るとか。当時アメリカは黒人差別がひどかったのではないのか。黒人などの有色人種は人間でないという考えなのであろう。
戦争による若者の戦死をひどく苦にする。これを見ていると原爆投下の理由を思い出してしまう。アメリカの若者をこれ以上死なせるわけにはいかない、が原爆投下の原因である。若者の死を気にするのは指導者としてもっともだろうが、原爆以外の方法はなかったのかと思ってしまう。
原爆投下による被害など卑怯な野蛮人である日本人には相応しいと思っていたのだろうか。

2023年4月2日日曜日

クリスマス・ウォーズ   Fatman 2020

イアン・ネムルズ、エショム・ネムルズ監督、英加米、100分、メル・ギブソン主演。

ギブソンはアラスカに黒人の妻と住む「サンタ・クロース」。子供たちの手紙の要望に応えて贈り物を配りに回っていた。もっとも最近はクリスマスやサンタクロースなど軽視する子供が増えてきた。それで政府からの給付が減って困っていた。しょうがなく、仲間と一緒に軍で使う機器の製造をすることになる。
わがままで自己中の権化のような少年がいる。自分が学校で一等賞を貰えないとその貰った子を脅して自分に一等が回ってくるようにした。少年は殺し屋を大金で雇い、好き勝手な命令を出していた。クリスマスになって贈り物を開けてみると石炭の塊が一つだけ入っていた。これはこの少年の行ないが良くないのでこんな物しか貰えなかったのである。少年は怒り心頭に発する。
殺し屋に連絡しサンタクロースを殺せと命じる。殺し屋も子供の時、サンタクロースからろくな物を貰っていなかったので、承知する。もっともサンタクロースの居場所を捜す必要がある。手荒な方法を使い、アラスカにいると突き止める。
ギブソンはその小人の仲間たちと軍の施設で働いていた。自動銃を持った殺し屋が雪の中の施設に入って来て見張の兵士たちを次々と殺していく。小人たちは逃げる。
ギブソンも連絡を受けてきた。殺し屋との一騎打ち。双方銃撃戦で傷つく。ギブソンがやられたかとなり、とどめを刺そうとすると銃で倒れた。妻が撃ったのである。殺し屋は家に入っていき妻を殺そうとしたが逆にやられる。
自己中の少年宅にギブソンと妻がやって来る。もしこれから人を傷つけるような真似をしたらただでおかないと少年を脅して去る。

2023年4月1日土曜日

最後の地獄船    Two years before the mast 1946

ジョン・V・ファロー監督、米、97分。

19世紀前半のアメリカ、ボストンから始まる。西海岸の港に行くために大西洋を下り、南米の埼を回って太平洋を北上するしかなかった時代である。船が着いた。新記録の早さである。船長はワンマンで船員を何とも思っておらず自分の利益本位の人間である。
船主の息子は放埓で親の言う事を聞かない。その息子(アラン・ラッド)が酒場で飲んでいる時、乱暴なやり方で船員を調達している船の乗組員と喧嘩し、目が覚めたら船の中でもう出航していた。ラッドが自分は船主の息子だと言っても船長は全く相手にしない。一船員として働かざるを得ない。
船乗り志望の少年が密航していて、見つかった後は船で働くことになる。食事は腐ったようなもので船員が病気になっても船長は全く意に介しない。反抗する者に対しては鞭打ちの刑に処する。
途中で乗客を乗せることになった。なんとそれは上流の若い女とその女中である。ラッドとその女は仲良くなる。
船長の横暴は続き、船員が次々と不調に陥るが、寄港しない。一刻も早く目的地に着くためである。とうとう最後に船員たちと船長の争いになり、船員も死に船長も殺される。目的地についても検査のための係員を受け入れない。
このまま逃走を続けるのか。いやそれより自分たちの行ないを裁判で主張し、船員の待遇の改善を図るべきだとの意見が勝る。裁判で船員たちの言い分は通り、以降まともな扱いを船員たちは受ける時代となった。