この鼎談で俎上にのせられている作家、作品は以下のとおり。
吉行淳之介『砂の上の植物群』『驟雨』『夕暮まで』/島尾敏雄 『死の棘』/谷崎潤一郎『卍』『痴人の愛』/小島信夫『抱擁家族』/村上春樹『ノルウェイの森』/三島由紀夫『鏡子の家』『仮面の告白』『禁色』
一体この鼎談の意図は何か。どういう基準でこれらの作家、作品を取り上げたのか。あとがきで上野千鶴子が次のように言っている。これはフェミニズム批評の一つである。フェミニズム批評は一つには不当に忘れられた女性作家の発掘、他は不当に高く評価された男の作家の再検討がある。本書は後者の一つの試みである。二流、三流の作家の作品でなく、論じる値打ちのある作家だけを取り上げたいと思った、とある。上野と小倉はフェミニストだからそれでいいが、自ら作家でもある富岡は文学が時代の流れに追いついておらず、文学の内輪で評価が行われている。それへの疑問があったという。
具体的な批評の実際は読んでもらうしかない。しかし極めて男にとって面白い読み物であるのは確かである。いわば女の見方の一例が分かるから。どんなところに目をつけ、どう解釈するのか。
惜しむらくはこの鼎談自体がもう40年近く前で、取り上げられている作品も今でも読まれ、評価されているのかと思う物がある。『抱擁家族』なぞあまりに男の主人公がおかし過ぎて途中で読む気が失せた。女から見れば男はたいていおかしくて、また作品を批判するのが目的だから、おかしければ好都合なのだろう。名は昔から知っている『砂の上の植物群』も初めて読んだのだが、何しろ70年も前の作品で、ここに書かれている男女の関係などあまりに過去の話になっている。もっと新しい作品を対象にして、新しい鼎談等をしてもらいたいものだ。(筑摩書房、1992年)
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