小説家カフカの書簡や雑録からカフカの人生観を集め、それを解説した本。カフカは如何に自分が生きていく上でだめな人間かをこれでもかと繰り返し語っている。自分に自信が持てない者でもこれほど自分を悪し様に言う例は多くないだろう。悲観的か気が弱いかと言ったら、自分のだめさ加減を率直に語っているわけだから、気が弱いとも思えない。冷静に自分自身を観察し、言葉に出している。これでかなり気が済んだという効果を本人にもたらしたのではないかと思われる。
例えば現在の日本では太宰治はまさに国民的作家と言っていいほど人気がある。昔はこれほどの人気はなかったと思う。太宰の小説は『人間失格』に典型的に言えるようにだめ人間を描いている。それが読者の共感を呼ぶのだろう。太宰とカフカの小説は全く異なる。それでもだめな自分を語るという点は共通している。前者は小説の中で、後者は書簡等で自分自身の事柄として。(新潮文庫、平成26年)
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