2014年12月6日土曜日

ディケンズ『ドンビー父子』 Dombey and Son 1846~48

ディケンズが『ディヴィッド・コパーフィールド』の前に著した小説であり、彼の初期から中期への橋渡しとなっている小説だそうだ。



話は、ドンビーという傲岸な商会社長とその子供、具体的には娘フローレンスと息子ポール一家とそれを巡る人物像を描いた作品というべきか。題名のDombey and Sonというのは会社の名前である。だから『ドンビー父子商会』と本文でも訳してある。Sonというのを見て父親と息子が中心かと思うと勘違いである。父親と娘が中心人物である。大体息子は幼いうち話の三分の一くらいのところで病死してしまう。また会社の話でもない。会社に勤める人物も出てくるが業務内容が詳しく書いてあるわけでもない。ドンビー一家とでもした方がいい。しかしなぜDombey and Sonとしたのか。それは女主人公であるフローレンスが全く父親から無視され相手にされず、いや嫌われているからである。小説は息子ポールの出生から始まるが、父親はこれでドンビー父子商会と言えて自分の会社も安泰と喜ぶ。つまり娘のフローレンスは父親の眼中にない、疎外された存在であることを題名も示しているのである。

息子の出産と同時に母親も死んでしまう。フローレンスは父を慕いなんとかその愛情を得るべく努力するが邪険な扱いしか受けない。彼女は幼いうちに知った少年(のち青年)のウォルターや、その知人たちのような下層の好人物たちからは愛され好かれる。フローレンスはディケンズの小説に良く出てくるネルやドリットみたいな女の子である。純真で理想的な女性として描かれているが人形みたいな感じしかしない。
大きな山場としては、息子を亡くし気落ちした父親の社長が若くて美人を後妻として迎える、しかしながらそれも予想しない悪い方向になってしまうあたりか。

他のディケンズの小説と同じように、悪人善人がはっきりと描き分けられ、悪人は最後に罰を受けて破滅するか、改心する。善人は末永く幸福になる。
まさに19世紀の小説。こびあん書房から平成12年に翻訳が出た。絶版になっているのでなんらかの形で再版してほしい。

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