2019年4月19日金曜日

三島由紀夫『文化防衛論』、ちくま文庫、2006

三島の表題作を初め、昭和42から45年までの論考を収める。
内容は次のとおり。

第1部     論文
反革命宣言、反革命宣言補註
文化防衛論、橋本文三氏への公開状
『道義的革命』の論理―磯部一等主計の遺稿について
自由と権力の状況
第2部     対談
政治行為の象徴性について(いいだ・もも、三島由紀夫)
第3部     学生とのティーチ・イン
テーマ・『国家革新の原理』、於 一橋大学、早稲田大学、茨城大学
あとがき
果たし得ていない約束
付・本書関連日誌(1968)

三島は戦後文壇の寵児であり、その「劇」的な最後は小説を読んでいない人でも知っているだろう。彼の政治及び日本文化への意見書である。書かれた時代の思想を反映しており、同時代の出来事をよく挙げている。今読むと若い世代は分かりにくく、老人世代は懐かしい。

高度成長期の真最中である。昭和42年に日本のGNP(国全体の所得)は西ドイツを抜き、米国に次いで世界第2位となった。しかし先進国としての自覚は全くなかった。その十年前の日本はひどく貧しい国だったが、この頃は昭和元禄と言われる(本書中にも出てくる)くらい良くなっていた。社会の政治風潮に関しては社会主義を望ましいとする、また戦争の反省から平和志向が極めて強かった。

三島は周知のとおり保守であった。最初の方の論考でも共産主義を是とする当時の大勢へ反論している。これを読むと、例えば戦時中にアメリカ人が、日本人は軍国主義的だ、戦争好きだと批判した文を書いたとする、それを今読んでいるような感じになってくる。

3部の、学生とのティーチ・イン(大学での討論集会)は読みやすい。特に質問側の学生の意見は攻撃的教条的で、内容は先に述べた当時の風潮の典型である、というか今では戯画に見える。知識のみで人生経験のない青年の意見だけに、思想そのものは時代の大勢を純粋に反映している。それに対して三島は丁寧な対応している。

本書で三島は日本の文化を守るべきと主張し、そういう考えがあるとしても、文化の象徴が天皇であるから軍隊と天皇を名誉の絆で結ぶべしとか、理解できない、ついていけない。
防衛との結びつきを別にすれば、天皇論や文学についての論は読む価値があると思う。

自決の前、自衛隊市ヶ谷駐屯地で隊員を前にした三島の演説はここで書かれているような内容で、全く隊員たちが理解できず野次を飛ばしていたのは、むべなるからである。
本書を読めば三島の行動について理解は深まる。切腹とかは無理だが。

「『道義的革命』の論理―磯部一等主計の遺稿について」は二二六事件の参加者というより首謀者の一人である磯部浅一主計の遺書について論じている。この獄中で書かれた遺書はインターネットで見られる。面白いので一読を勧めたい。

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