2020年5月27日水曜日

秋津温泉 昭和37年

吉田喜重監督、松竹、112分、岡田茉莉子主演・企画。岡田茉莉子の出演百本作として制作。

終戦間際の秋津温泉(岡山の北県境)から始まる。学生の長門裕之は、肺病を病み秋津温泉の旅館に来る。そこの娘が岡田茉莉子だった。
終戦になる。長門と岡田は惹かれ合う仲になっていた。しかし長門は温泉を去る。岡田は流行らない旅館で暮らしていた。長門が帰ってくる。結婚していたと知る。岡田はショックを受ける。長い間の後、仕事で長門はまた来る。二人は結びつく。一緒に死んでくれと頼む岡田に、長門は常識的なことしか言わない。去っていく。岡田は河原で手首を切り自殺する。

随分前、観て何十年かぶりに再見した。若い時の鑑賞ではかなりいい映画と思った記憶がある。今になって見直すと昔ほどの感銘はなかった。
なぜ違いが生じたか。若い時は、岡田の純粋な愛情に感心したかもしれない。今観ると、長門の役が三無主義(という言葉があった、無気力、無関心、無責任、無感動のうちどれか)そのままで何も魅力を感じない。それがこの役の役柄なのだと言われても、見た目からして長門という役者に魅力を感じない。当初は芥川比呂志だったそうで、その場合は印象が変わっていただろう。女の愛情の対象は理屈でないから、つまらない男でもいい、いやむしろその方が女の愛情の純粋さを表現するのにはふさわしい、と言われそうである。後に戻ってきた長門は、自分勝手と鈍感の塊になっている。(こういう男の描き方が映画では多すぎてパターン化というか陳腐な感じである)自分が歳をとってくると男が魅力的でないと(見た目だけの話でない)、気になってくる。
岡田は美しい。魅力的過ぎるくらいだ。音楽(林光)は情感豊かな浪漫的で心に残るが、やや使い方がくどいと思うかもしれない。

本作の時、岡田は29歳で、この百本記念映画の企画と衣装も担当した。昭和8年生まれの岡田は20歳が昭和28年で日本映画の全盛期である。
戦後で最も有名な女優は吉永小百合だろうが、昭和20年生まれ、20歳は昭和40年という日本映画凋落期である。吉永の百本記念映画は昭和63年(43歳)の「つる-鶴-」である。
戦前生まれの俳優はいい時期に生まれた。吉永以降も含め戦後の俳優は、活躍する場が非常に限られていたのである。

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