2020年9月16日水曜日

ゾラ『パリの胃袋』 Le Ventre de Paris 1873

 

パリの胃袋とはパリの中央市場で、青果から肉、魚の類までおよそ食材は凡て扱っていた。1970年頃に取壊しになり、今は駅や買い物施設になっているそうである。本書の執筆される20年近く前に施設が新築された。本小説は、革命騒動に連座して南米に流された男が脱出して、パリに帰ってくる、弟の家に厄介になりながら、再び改革のための行動を起こそうと計画する、あたりが背景となる筋である。しかしながらゾラの執筆する中央市場のあり様、様々な食材の細かい説明、うごめく店の者たち、その確執、育つ子供などがつぶさに描かれ、中央市場はさながら小宇宙を形成している。主人公は題名とおりパリの胃袋たる中央市場と言いたくなる。

ゾラは執筆するにあたり徹底的に調べ尽くし、当時の中央市場が書かれているので、歴史資料にもなっている。主人公と言える男は無欲で清廉かもしれないが、優柔不断で世間知らずに見える。本書で生き生きと描かれている人間は、何と言っても中央市場で働く女たちである。お互いに敵愾心むき出しで対立、罵詈雑言を尽くす。また金棒引きの老婆が更にあおる。女の一面がどぎついまでに描かれている。これらあたりまさにゾラの面目躍如である。

朝比奈弘治訳、藤原書店、2003

0 件のコメント:

コメントを投稿