2020年9月21日月曜日

バルザック『オノリーヌ』 Honorine 1843

 ちくま文庫『オノリーヌ』には表題作ほか、『二重の家庭』『捨てられた女』の中篇3作が収録されている。いずれも結婚を経験した上での男女間の恋愛模様である。

『オノリーヌ』は枠物語で、幾重になっている構造。表題の女主人公を貴族の夫が愛し贅沢をさせるが、妻は出奔する。妻が愛人に捨てられた後、夫は手を尽くして捜し出す。本人に自分が世話しているか分からないようにし、十分な生活をさせる。しかしオノリーヌの心は夫になびかない。あくまで自分を捨てた愛人しか愛の対象にしない。オノリーヌは自らの信念に忠実である。読んでいてスタンダールの『ヴァニナ・ヴァニニ』を思い出した。あの小説の最後の男のつれなさは男ならこんな者がいると思わせる。それが本作では女主人公オノリーヌが信念の人である。別に本作を女版の『ヴァニナ・ヴァニニ』と言うわけではない。しかしオノリーヌの思考と行動はあまり小説ではお目にかかれない。十分な理解ができているだろうかと心配になってくる。

『二重の家庭』は妻と家庭を築いている貴族が、信仰に凝り固まる妻を敬遠し、卑しい身分の女を情人にする。ここまで書いた限りではよくある話と思われよう。しかし小説の最後で、貴族は不幸な目に会う。この意味は何かと問われても良く分からない。

『捨てられた女』は地方の町にパリから若い貴族が来る。そこに住む、愛情沙汰を起こして世間から見放されている貴族の夫人に近づきになりたいと思う。青年貴族と貴族夫人が会う模様は、男ならいかにして女に格好をつけ、自分に好意を持たせるか、女は年上の夫人としていかに若い男をあしらうか、の丁々発止の駆け引きである。それをバルザックは微に入り細を穿って延々と描写する。感心する。小説では更に十年後のこの二人の関係まで書いてある。どうなるかは、あまり現実的とは思われないが、それが小説というものであろう。

いずれも男女関係で女が勝る様が描かれている。

大矢タカヤス訳、ちくま文庫、2014

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