2020年9月13日日曜日

宮城音弥・二三子『下山総裁怪死事件』カッパブックス 昭和38年


 昭和24年に起きた、初代国鉄総裁下山定則の不審死は、自殺か他殺か自体不明で、多くの論議をよんできた。同年に起こった国鉄関連の事件では、三鷹事件も松川事件、共に犯人が逮捕され真犯人かどうかが論争になった。しかるに下山事件では自殺か他殺かも不明、容疑者がいない。70年以上閲しているのに未だ新しい書籍さえ出されているのである。もっとも現在では他殺説が圧倒的多数で、誰が犯人か犯行の手口はどんなものかが論じられている。もしも今この事件について何か調べようとしたら、邪馬台国のありかを探るのと大差ない。つまり文献によるしかないのである。

本書は事件発生後14年目の出版で、著者も読者もこの事件当時を知っている世代である。事件の当事者に聞き込みも出来た時代である。これが本書の特徴の一つである。著者は二人とも医学博士で、宮城音弥はかつて岩波新書などに心理学関係の本を出していた。松本清張の他殺説は既に出されており(本書より3年前)、本のカバーに松本清張氏に挑戦する、とある。学者として推理科学の立場をとるとあり、創作家の本とは違うと言いたいようである。

本書は「発端」の章で事件の概要を書き、続く「自殺?」の章では自殺説の立場から論じる。ここを読むと自殺説に傾きそうになる。その後の「他殺?」では他殺説を裏付ける論をはり、他殺説が説得的になる。続く「犯人は?」では他殺だった場合、犯人は誰かを論じ、松本清張による米軍説、また国鉄副総裁だった加賀山之雄による共産組織説の検討である。共に批判的に論じる。以上、全体として他殺関係のページが多い。

下山事件の他の書籍は、自殺か他殺か自己の論を、また後者が圧倒的なので犯人は誰々だと主張するものがほとんどである。より事件に近い当時の本書は現代でも読むに値する。実は本書は個人的な思い出があり、何十年ぶりに入手して読んだわけだが意外良くできていると感心した。

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