2019年10月13日日曜日

恋文 昭和28年

田中絹代の第一回監督作品、新東宝、98分、白黒映画。森雅之、久我美子主演。

森雅之は弟の家に居候し、翻訳などをしているが、活動的な弟に比べ覇気がない。かつてから恋い慕っている久我の行方が知れないからである。
森は昔からの友人、宇野重吉に再会する。彼に連れられ渋谷の横丁に行く。そこで宇野は女たちの恋文を代筆する仕事をしていた。帰郷した米兵の恋人あての英文による恋文である。森もその仕事に加わるようになる。

ある日、米兵宛の手紙を依頼する女の声を奥にいた森は聞きつける。それは久我の声だった。森は久我を追いかける。駅で会う。明治神宮の森で二人は話す。久我は別の男に嫁し、その男の戦死後、米軍兵士の女になり子をなしたが子供は死亡した。森は口を極めて久我を罵る。ずっと久我を慕ってきたのにと非難し、謝る久我を残し森は去る。

森の弟は久我と会った事情を宇野から聞く。内心は久我を今でも気にしている兄の代わりに、久我の家を捜し尋ねる。兄と会うと約束させ、久我はまともな仕事に就いてからと答える。
久我が宴会場の受付の仕事に就き、弟は兄に久我との再会を約束させる。
しかし日比谷公園の約束の場所で弟と久我は待っていたが森は来ない。帰ろうとしたら数人の商売女たちが久我に声をかける。久我が返事しないので女たちが絡むと弟は久我を連れてそこから去る。久我は今後とも森は久我の過去を気にするに違いないと言って自暴になり車にはねられる。
宇野は森が久我に会いに行かないと知って怒る。久我の家に二人で行く。そこで話をしていると連絡がある。久我が事故に会ったと。車で病院に急行する二人。久我は病院で手当てを受け寝ている。

戦争の生んだ悲劇で、戦地に赴く森と久我を親は結婚させなかったとなっている。夫が亡くなった後、寂しさに耐えかね優しい米軍の男に身を任せたと知り、久我を非難する森。落胆はわかるが、一方的に久我を責めるのは、森演じる男がそういう性格だからであろう。
映画の舞台である渋谷道玄坂には「恋文横丁ここにありき」という標識がある。映画製作年の昭和28年は朝鮮動乱の終結した年である。米軍の兵士が多く日本を去ったであろう。そういう時期を背景としている。当時の渋谷の風景が映し出される。

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