2025年4月12日土曜日

ちくま日本文学全集『中野好夫集』筑摩書房 1993

英文学者、評論家の中野好(1903~1985)の文集。内容は以下の通り。

人間の死にかたより 「ガリヴァー」の作者の死 親鸞、その晩年と死/世界史の12の出来事より  血の決算報告書、狂信と殉教/ルネサンス人シェイクスピア/遺書について/川路聖謨/最後の沖縄県知事/蘆花徳冨健次郎 第3部より 謀叛論/悪人礼賛/私の信条/わたしの文章心得/歴史に学ぶ/現代の危機と終末観/マーク・トウェインの戦争批判/主人公のいない自伝 抄

硬派の評論集である。「人間の死に方」で取り上げているスウィフトにしても親鸞にしても歴史に名を遺す偉人である。しかしながらその晩年はかなり無残な生き方を余儀なくされた。現在までの医術の進歩や社会の改善によって今なら普通人でもまともな老年を送れるはずである。著者はいわゆる進歩派に近い文化人であるが、歴史や社会に対する議論については、やはり戦後それほど経っておらず、戦争や戦前の体験が身近な時代であったため、強い問題意識を持って進めている。現在のように終戦後80年も経ってしまうと他人事的な傍観者的な議論になるものになりやすい。本書はまだ戦後がそれほど昔のことでない時期の空気が読み取れる。

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