2021年6月23日水曜日

マーサ・スタット『良心をもたない人たち』木村博江訳 The sociopath next door 草思社文庫 2012

いわゆる精神病質psychopathを説明した本である。邦訳名からとんでもない犯罪をする凶悪犯のことでも書いてあると連想するかもしれないが、原題のように、隣人にでもいる精神病質者の解説である。

この本では3人の例が載っている。いずれも一見それほど問題でもない、困った人であるが、どこにでもいるような人たちである。しかし精神病質者であるため、自分の意志を通すため、他人にどのような迷惑がかかっても何とも思わない、感じない。何とも思わないとは、自分の行為をごく自然な行動とみなし、何か人に迷惑をかけたとしても当然視しているのである。これらの人々は自分の行為を悪いと知りながら気にかけない、というのではない。全く悪いと思っていないのである。他人も自分と同じようだと思っているのである。これは普通の人と同じである。誰でもみんな自分が正常、標準と思っている。自分を基準にして他を判断する。これは精神病質者も全く同じである。よく良心に訴えるという言葉を聞くが、普通の人の言う良心というものがないのである。疚しく思う良心がないから何とも思わない。ごく普通のことをしているつもりで他人をひどい目にあわせているのである。

この本に書いてある話ではないが、何十人も殺すような連続殺人犯は、食事をしたり服を着替えたりするのと同じ感覚で人を殺すそうである。異常な行為と全く感じていないのである。だからこそ出来るのである。これは極端すぎる例であるが、もっと普通に見られる迷惑極まる行為を精神病質者は何も感じずにしているのである。本人が普通の行為と感じ、疚しい気は起きていないのであるから、反省を促しても全く無駄である。考えてみたらこれほど恐ろしいことはない。本人が迷惑行為をしている自覚無しに、他人をひどい目にあわせているのである。本人に注意等しても、精神病質者は不快にしか思わない。犯罪者を含め問題人物を更生できると思いがちだが、一部の人間には全く幻想でしかないようだ。無駄だけで終わるならまだいい。そんな人間に近づいて自分が破滅させられるかもしれない。

この本で新たな認識があったのは、精神病質者の特徴である。泣き落としするのがその特徴だと言う。またアメリカでは精神病質者は人口の4%程度いるのに対し、東アジアでははるかに少ないと言う。これを個人主義と集団主義というステレオタイプの議論で済ませているが、数字を含め本当にそうかと思う。

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