2021年5月18日火曜日

『江戸川乱歩と13人の新青年』<文学派>編、光文社文庫 2008

雑誌『新青年』誌に発表された13編の短編小説を収録。内容公表年は以下の通り。
『情獄』(大下宇陀児)昭和5年
『押絵の奇蹟』(夢野久作)昭和4年
『杭を打つ音』(葛山二郎)昭和4年
『柘榴病』(瀬下耽)昭和2年
『テレーロ・エン・ラ・カーヴォ』(橋本五郎)大正15年
『レビウガール殺し』(延原謙)昭和7年
『B墓地事件』(松浦美寿一)昭和2年
『面影双紙』(横溝正史)昭和8年
『偽眼のマドンナ』(渡辺啓助)昭和4年
『本牧のヴィナス』(妹尾アキ夫)昭和4年
『胡桃園の青白き番人』(水谷準)昭和5年
『ジャマイカ氏の実験』(城昌幸)昭和3年
『リビアの月夜』(稲垣足穂)本書に公表年が書いていない、1920年代らしい

まず江戸川乱歩の名が使われている理由について。乱歩が『日本の探偵小説』という評論を昭和10年に書いた。そこで言及されている作家のうちで『新青年』誌に掲載された作品を集めている。乱歩は「論理派」と「文学派」に探偵小説を分けた。これはよく聞く「本格物」と「変格物」に対応しているだろう。本格と変格では価値の序列がはっきりしすぎている(当時からそう見なされていた)が、論理派と文学派の分類なら中立的である。ここでは文学派の小説集。

『情獄』は漱石の『こころ』を思い出すかもしれない、恋人を巡る男同士の争い。夢野の『押絵の奇蹟』と横溝の『面影草紙』は本集中、最も有名であろう。幼い日の回想など雰囲気も似ている。葛山の『杭を打つ音』は列車で出会った者から話を聞く。瀬下の『柘榴病』はポーの『赤死病の仮面』を思い出す。橋本の『テレーロ・エン・ラ・カーヴォ』という意味不明のカタカナ題名。解説に何も書いていないのは不親切。インターネットで調べると穴の中の手紙といったエスペラント語らしい。許されない恋人同士の手紙のやり取り、それを穴に入れて交換しようとする。小説は専ら女の方の手紙だけを載せている。最後に驚きの種明かし。延原の『レビウガール殺し』は赤坂溜池で起きた事件に関係ある車が、当時は郊外だった長崎町(池袋西南)に停まっていた。レビュー・ガールは乱歩の小説にも出てきた。人気があるところは今のアイドルのようなものか。松浦の『B墓地事件』は死んだ友人の復讐に知らず手を貸す語り手。渡辺の『偽眼のマドンナ』はパリで会った片目が義眼の娼婦に魅入られ、捜そうと追っかけて行くが・・・。妹尾の『本牧のヴィナス』は横浜本牧がまだ郊外だった時代、そこでポーのデュパンのような隠遁生活を送ろうとする。崖下に管理人の家があり、その男がとんでもない事をやらかす。水谷の『胡桃園の青白き番人』の、幼い日の回想のところは谷崎潤一郎の『少年』を思い出す。またディケンズの『大いなる遺産』の初めの方も似ていると思った。更にポーの『アモンティリャードの酒樽』を連想する場面が出てくる。城の『ジャマイカ氏の実験』は駅のホームで空中散歩をしている外人に会い、後からその家に押しかけ再度やってもらうよう頼む。『リビアの月夜』の稲垣足穂は本集中、一般の小説家である。探偵小説も書いていたのかと思ったら、アフリカの砂漠で発見した物の話で尻切れトンボのような作品であった。

上に読んでいて似ていると思った小説の名を挙げているが、もちろん批判する気は毛頭なく、ただ自分が思い出した作品を書いただけである。昭和初期の雰囲気が味わえる作品集である。

同じ光文社文庫から出ている「幻の探偵雑誌」シリーズの「新青年傑作選」と重複する作品はない。

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