2018年8月4日土曜日

鮎川哲也『宛先不明』講談社文庫、昭和60年

本格派の推理作家として名高い鮎川哲也の長篇推理小説。初出は昭和]40年。

長篇小説なので、筋は込み入っている。
推理小説出版界を舞台としているので、作者にとって内輪物というか楽屋物の類か。

某出版社の取締役が醜聞事件を起こし馘になる。話は一転し、印刷会社の社員が慰安旅行先で殺される。この事件を追う秋田と東京の刑事。探っていくうち、印刷会社と出版社の関係、更に小説冒頭の、醜聞による馘首された男と被害者のつながりが見えてくる。

容疑者はこの男なのであるが、アリバイがある。しかもそのアリバイが新作推理小説の授賞をめぐるもので、作者および推理小説ファンの関心事項である。

アリバイの技術的な点は、郵便の宛先不明を利用している。小説で述べられている郵便の事情は今でもそうなのか、知らない。最近ではインターネットを利用した個人間通信が普通なので、たぶん新しい推理小説ではそれらによるトリックが使われているのだろう。逆に本作のような伝統的な郵便制度を元にしたトリックは時代を感じさせるし、興味深い。

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