毒婦高橋お伝 昭和33年

中川信夫監督、新東宝、74分、白黒映画。

明治初頭の「毒婦」高橋お伝の映画である。かなり脚色してあり記録映画でなく、実在の人物を基にした劇映画である。

お伝が警官に追われ、街中を逃げる場面から始まる。逃げおおせるものの、乗った人力車の車夫はかつての夫であった。放蕩で落魄した前夫は二人の間に出来た、幼い娘を持ち出し、お伝からカネをせびる。
宝石店に現れたお伝は、ダイヤを盗む。疑いをかけられるが、宝石が見つからず、釈放される。最初はまんまと騙された若い警官は、ダイヤを見つけ、お伝を捕まえようとする。しかしお伝の手練手管に籠絡され、すっかり彼女の虜になる。以前から彼を慕っている同僚の妹も目に入らなくなる。

裏で女の売買をしている商人（丹波哲郎）は、お伝を自分のものにする。
お伝はあばら家のような長屋に住む、実の娘を訪ねる。隣の婆が世話をしている。その婆から娘は父親に置き去り同様と聞かされる。実の母とは名乗れず、人形を与えて去る。
今のお伝には病気で臥せっている夫がいる。動けない夫は嫉妬に狂っている。その夫は丹波の手先に殺される。
お伝は娘と一緒に暮らそうとして長屋を再び訪れる。娘は少し前に死んでいた。お伝は男たちへの復讐を誓う。

一年後、横浜で丹波とともに遊興の館を営む。そのお伝のところへ前夫が来る。改心したと懺悔する。お伝は丹波を殺せと前夫に言う。前夫は逆に丹波に殺されるが、お伝は丹波を拳銃で殺す。火事で燃え盛る館。囚われていた女たちは逃げる。お伝に狂っていた元警官もその中に自らの婚約者を見つける。元警官の同僚で、婚約者の兄である警官はお伝を逮捕する。
東京へ向かう列車に捕縛されたお伝、目が覚めた元警官と婚約者の姿があった。

列車の場面で終わり、斬首の場面などはない。
まずこの映画は、明治初めの東京を優れた映像美で再現している。予算制約の中、様々な工夫を凝らして作成したそうだが、これほど背景の雰囲気ある映画も少ない。

更に高橋お伝を、男に翻弄された同情すべき女として描いている。実際のお伝とは異なるものの、明治時代の犯罪物らしさは満喫できる。