2021年4月4日日曜日

『お金本』左右社 2019

 

主に文筆家による、金にまつわる文章を集めた本である。

渋沢栄一の文から始まり、永井荷風、夏目漱石などほとんどはその名を残している有名な作家である。一部、編集者のように知らない名もあるが、基本的に有名人の文章の断片集になっている。金にまつわると言えば、もちろん愚痴や不満が中心になってくる。人間という生き物は、絶対に悪い方に敏感で、恵まれていると当然と思ってしまうのである。思うに功成り名遂げた人たちなのだから、全く世に出ることなく貧乏なまま人生を終えた作家(志望)に比べれば冥加に尽きるはずなのだが。成功した連中が昔はこんなに苦労したのだぞと言っていると、何だか自慢話に聞こえてくる、と言ったら嫌味か。

本の作りで意見を言いたいのは、初出の年次、また出来れば発表媒体を明記してほしいという点である。いったいに昔の文章を集めるのであれば、初出年を書くべきではないかと常々思ってきたが、文庫その他でも書いていない場合が多い。特に本書はお金についての本だから余計思う、というか必需ではないか。物価や社会が今と恐ろしく異なる昔の文が多いのである。年が書いてあるのは、日記、書簡の類のみである。確かに例えば戦前昭和xx年のxx円と聞いても、どのくらいか実感がわかない。ただそういう時期にその話が書かれたと分かれば少しは雰囲気を想像できる。なお一般的な物価の推移は統計を見れば分かる。インターネットで調べられる。

巻末に付録として「芥川賞・直木賞 賞金」「中央公論価格表」「文壇人所得番付表」「当代文士一ヶ月製産番付」「著者紹介・出典」がある。このうち時系列に変化を見た表は当然ながら年が書いてあるが、「当代文士一ヶ月製産番付」は1978年の出典は書いてあるものの、いつの年の数字か書いていない。何しろ、中村武羅夫や三上於菟吉が最初の方に出てくるのだから最近の数字ではない。それなのにいつの時点か書いていないのである。最後に載っている著者紹介も有名人が多いし、インターネットで調べられるだろう、せいぜい本文の著者名の脇に職業を書いておけば十分だと思った。ともかく本書は、お金、というより数字に全く疎い人が作った本ではないかと思った。

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