2021年2月24日水曜日

音楽鑑賞の媒体の変化と人間

 19世紀までは音楽を鑑賞しようとしたら、生演奏を聴くしかなかった。演奏会場に行くか、街で演奏しているのを聴くか、さもなければ自分ないし身内友人などが家庭で演奏する。エジソンが蓄音機の原型を発明した時は、まさか音楽の録音による鑑賞がこれほど広まるとは予想もしていなかったとか。

ともかく録音による音楽鑑賞は、どれだけ多くの音楽愛好家を増やし、またその鑑賞の自由性を増したか想像もつかない。その媒体は初期の蝋管時代から音盤が発明され、音盤はSPStandarad Playing)からLP(Long Playing)へと収録可能な時間が飛躍的に伸びた。更に1950年代に入るとステレオ録音が普及し、音場の広がりはその音の良さを鑑賞者に知らしめた。その後テープが媒体として登場する。元々テープは録音の現場で使われており、新しい媒体ではなかったが、音楽を予め入れたテープを再生するオープンリール用のレコーデッド・テープが発売されるようになった。またテープ・レコーダーが家庭に普及し始めた。もちろんレコーダーというから録音機能があり、これが当時のオーディオマニアの関心を引いた。音楽を入れてレコードの代わりとなるレコーデッド・テープは一部を除き、それほど評価されなかった。レコード(LP)の方が音はいいというのである。テープに関しては1970年代からカセット・テープがオランダ・フィリップス社から発売された。これはその手軽な操作性から瞬く間に普及した。時をほぼ同じくしてFM放送が一部とは言え開始される。当時はLPの実質価格(他の物価と比較した価格)が非常に高く、放送された音楽をカセット・テープに録音し聴くやり方は歓迎された。カセットテープは後にソニーがウォークマンを発売するに及び音楽鑑賞の場を室内から解放し個人で楽しめるようになった。

レコードの再生に関しては1970年頃、ナショナルから直接駆動方式、ダイレクト・ドライブなるプレーヤーが発売された。それまでのモーターの回転をベルトやリムなどで減速する方式でなく、レコードと同じ回転のモーターで動かし、当時は夢のプレーヤーと言われた。更に1980年頃にコンパクト・ディスク、CDが発売される。非常に音が良く、収録時間が長いというので普及し、レコードにとって代わった。20世紀終わりにインターネットが普及し始めると、CDなど物質の媒体を買うのでなく、インターネットからダウンロードして音楽を楽しむ方法が出始めた。そして21世紀になるとインターネットを利用したストリーム配信が利用されるようになる。これは契約したストリーム・サービス会社が用意した音楽を選んで聴く、つまり媒体を所有して音楽を楽しむという方法から解放された。それに聴ける曲数に対して利用料は恐ろしく安い。

さて音楽を聴くための媒体は以上のように変化、発達してきた。ところが聴く主体の人間は変化していない。確かに廉価で多くの音楽を聴ける可能性は飛躍的に伸びた。しかし1時間の音楽を聴こうとしたら1時間の時間を費やすのである。媒体の変化があまりに急であったため、余計に聴く側の人間の制約を感じるようになった。

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