2020年8月14日金曜日

ルヴェル『夜鳥』 2003


 フランスの小説家モーリス・ルヴェルによる短篇集。収録作品は、或る精神異常者/麻酔剤/幻想/犬舎/孤独/誰?/闇と寂寞/生さぬ児/碧眼/麦畑/乞食/青蠅/フェリシテ/ふみたば/暗中の接吻/ペルゴレーズ街の殺人事件/老嬢と猫/小さきもの/情状酌量/集金掛/父/十時五十分の急行/ピストルの蠱惑/二人の母親/蕩児ミロン/自責/誤診/ 見開いた眼/無駄骨/空家/ラ・ベル・フィユ号の奇妙な航海、である。

ルヴェルはフランス(1875~1926)の作家で、その作風はひねっており、意表を突く、犯罪関係の話が多い。ポー、O・ヘンリー、ビアスなど混ぜ合わせた感じか。上記のいずれの作家にしても、その者だけ取り上げても似ているとは言えない。ルヴェルならではの世界である。

本書は昭和3年に春陽堂から発売された『夜鳥』田中早苗訳、という単行本からほとんどが取られている。現代仮名使い、新字に直している。言い回しや使用漢字は現在と異なっている。なお書名の「夜鳥」という作品はない。

本書の付録として、江戸川乱歩、夢野久作など当時の探偵小説家がルヴェルに寄せた文が収録されている。このように昭和初期の刊行で、戦前の作家たちの好みである。すなわち当時の怪奇小説風味の諸短篇と言えるだろう。戦後的でない。翻訳も戦後はほとんどないようで、人気があるならもっと沢山の小説(長篇もある)を新訳すればいいと思う。田中早苗訳、創元推理文庫、2003

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