2019年2月8日金曜日

ユゴー『死刑囚最後の日』 Le Dernier jour d'un condamné 1829

ユゴー27歳時の出版。死刑囚の手記の形を取り、死刑になるまでの様子を克明に描く。
死刑囚最後の日 (光文社古典新訳文庫)
まず死刑判決が下されるまで、その後上告の採決を待つまで、上告棄却で死刑を待つまでの牢獄、死刑執行の広場と四つの部分に分かれ、夫々別の場所である。
死刑囚の独白によって、いかに死刑が恐ろしいかを読んでいるとまざまざと思い知らされる。死ぬのは一瞬でも死刑が確定し、それを待つまでの恐怖感は言い知れぬものがある。
死刑囚がどんな人間で、どんな罪を犯したか、一切書いていない。純粋に死刑になることの恐怖を書いている。
一読に値する小説である。

読んだ光文社古典新訳文庫では、注が見開きページの端についていて参照しやすい。今だに巻末に注を載せ、読者に不便を強いる本があるが、どういう神経なのだろうか。
また本書には付録が二つついている。「ある悲劇をめぐる喜劇」は劇形式というか会話形式で、上流階級層による本書への批評発言集である。本書が出た際、批評感想が多く出た。その戯画化のようなものである。「1832年の序文」は、ユゴーによる死刑廃止への訴えである。本文は小説であるが、ここでは論文になっている。

訳者による解説は長文であり、本書理解の助けとなる記述が多い。歴史的背景の理解は必要であろう。訳者の意見もあり、ない方が良かった。訳者の意見など聞きたいと思わないからである。死刑に対する過去の有名人、カント、ベッカリーア(伊の刑法学者)、ド・メーストルの考えが書いてある。正直こういう昔の人がどう言っていたかより、現代の刑法学では死刑をどのように理解しているのか、を書くべきではないかと思った。現代の日本は死刑制度がある国だからである。なお欧州で死刑が廃止されている背景には、過去に無実の者を死刑に処してしまった要素が大きく効いている。
小倉孝誠訳、光文社古典新訳文庫、2018年。

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