2019年2月26日火曜日

金成隆一『ルポトランプ王国』岩波新書2017

朝日新聞のニューヨーク特派員が、トランプ大統領がなぜ誕生したかを探るため、今はさびれている中西部やアパラチア地方のかつての製造業繁栄地域で、白人にインタビューした記録。これらの地方の白人は、仕事を外国に奪われ、不法移民にアメリカが食い物にされているという意識を持つ。かつての余裕があった時代を懐かしみ、今は下層階級に落ちるのではないかと心配する。以前は共和党が裕福な階層の政党で、民主党は労働者の政党というイメージがあった。しかし現在では、民主党候補のヒラリー・クリントンは完全に既成支配層の一員で、大企業からの献金で選挙している。そんな者が大統領になったら、大企業のためにしか働かないだろう。それに対して富豪のトランプは献金を受けずに自らの資金で選挙している。大企業に縛られない。職業政治家ではだめである。何かしてくれるのでないかと期待できる。トランプの発言は実行可能性はともかく、白人たちに希望を与えている。

本書中一番心に残った発言は「民主党は勤労者から集めたカネを、本当は働けるのに働こうとしない連中に配る政党に変わっていった。勘定を労働者階級に払わせる政党になっていった」(p.57)である。これは福祉とか弱者救済の実態を表している。これらを日本で最も強く推進してきたのが、朝日や岩波の進歩派(古い表現か)である。

正直読んでいて白人たちの発言は、朝日や岩波への異議唱え立てに思えてしまった。理屈としてはもっともに聞こえる、しかし自分の関係ないきれいごとばかり言っている連中への反発である。
それを朝日新聞の記者が岩波の本に書いているので面白い。
本書での白人たちの不満は将来の日本を予想しているように見える。まだ日本ではそれほどでなく目立たないだけである。

「おわりに」にある、トランプを支持する現代アメリカに日本でニュースを見ている人は「きっと首をかしげてしるに違いない」(p.260)には爆笑した。それは日本のメディアが全くデタラメで真実を報道していないからではないか。つまりメディアは、こうあるべき(トランプはデタラメ男である)というイデオロギーを押し付けているだけだからである。
思うに大手メディアの記者は日本の最高のエリートである。そのニューヨーク特派員となればエリート中のエリートである。きれいごとを述べている著者に反撥感を覚えるなら、それは書中の白人と通じるものがある。

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