2017年5月5日金曜日

こころ 昭和30年



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市川崑監督による日活白黒映画。森雅之、新珠三千代、三橋達也ほか。
有名な漱石原作の映画化である。話はかなり忠実に原作を追っている。
友人への裏切りが破滅へ追いやるという衝撃的な内容であり、漱石の中でも特に読まれている小説であろう。

しかしながら子供の時の読書はともかく、大人になってから読み返した際はあまり感心しなかった。不自然なのである。映画にしてみるとそれが一層際立させる。いくらかけがえのない年少の友人とはいえ、夫婦間のあまりに私的な事柄を他人との間でする。時代に関係なくここまで「立ち入った」話をするものであろうか。小説として読んで、活字を目を追っているときにはあまり気にならなくても、実際の登場人物が口にするのを見ていると、観念的に思えてくる。
これは芸術作品でありその本質を明瞭に描き出すため、誇張があっても、いや誇張するくらいによって、より鮮明に鑑賞者に訴えているのだ、細部にこだわるのは得策でないという反論はわかる。しかし正直に感想を言えば上記のようになる。

登場人物の先生は、人間への不信感を常に口にする。しかし自分自身が卑怯であったため、それを人間一般に反映させて口実にしているとしか見えない。
この作品は友人への裏切りと要約されるかもしれない。しかし今回見直して、改めて主人公は妻を不幸にするために結婚したのか、と思えてきた。衝撃的な事件の後、いけしゃあしゃあと予定通り結婚する。その後は自分の惨めさを、妻を不幸にすることによって処理する人生を送る。そして自死を決意する。配偶者にとって最大の不幸ではないか。これほどひどい主人公は日本の近代文学史上ないのではないか。

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