2023年6月25日日曜日

大泉黒石『俺の自叙伝』岩波文庫 2023

俳優大泉滉の父親である。大泉滉といっても古い日本映画をみる人しか知らないだろう。極めて特徴のある顔で一度見たら忘れない。この本のカバーや解説の写真を見たらすぐに大泉滉を思い出した。調べたら著者大泉黒石は大泉滉の父親であった。この本の解説では全く触れていないので書いておく。

大泉黒石は作家である。ロシヤ人の父親と日本人の母親の間に明治26年、長崎に生まれた。母親は黒石を産んですぐ亡くなった。父親は大陸にいた。小学生の年齢になって父親の元、中国に行く。その後ロシヤに行き、父親も亡くなったのでおばに世話になりフランスで学校に入る。ロシヤではトルストイに、フランスではドーデに会ったとある。トルストイやドーデを全く好意的に書いていない。日本に戻ってから初めから作家になろうとしたわけでなく、色々な職業につく。靴作りや牛の屠殺など。浅草山谷堀の北側に昔の町名で亀岡町というところは、牛の一大屠殺場だったと知った。また文庫のカバーに無政府主義者などと書いてあるが、本書で政治主張をしているわけでない。この自叙伝は一番後年でも、大正時代の出来事までである。著者は昭和32年まで生きた。

中央公論の滝田樗陰に認められ、本自叙伝は初めは中央公論に載った。解説は四方田犬彦が書いているが、その解説によると人気があったから、久米正雄や村松梢風から嫉妬で攻撃を受けたそうだ。著者の作家としての最盛期は大正終わり頃らしい。

百年前は先進国でも庶民の暮らしは、今からみると恐ろしく惨めで貧しかった。本書もその一例である。歴史というものは政治史なので、大国になったとか、首相が誰だったとか庶民にとってあまり関係ない記述が多い。当時の庶民の人生の一記録として読める。書名に俺のとあるように自分を俺と呼び、肩肘張らない叙述である。

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