2022年2月14日月曜日

筒井康隆『ロートレック荘事件』新潮文庫(平成26年) 平成2年(初出)

ロートレック荘と呼ばれる一軒家の西洋館に集まった人々。そこで次々と殺人事件が起こる。殺人のトリックはどのようなものか。犯人は誰かという推理小説である。

あまりに古典的な仕組みである。西洋館の見取り図まで出てきて(文庫p.51)、まるでヴァン・ダインの小説のようである。推理小説というのは古典的な枠組みが好きなのか。数年前少し話題になった『かささぎ殺人事件』(ホロヴィッツ)という海外の小説も古典的な仕様だった。古典的な恰好それ自体を推理小説愛好家は評価しているのか。昔のトリックなど使い古されているので、例えばインターネットを利用した事件などなら新味を出せるのかと思うがそうでもないのか。

題名のようにロートレックの絵が飾られている屋敷で、文庫なのにロートレックの絵が何葉も色付きで挿入されている。この絵が犯罪のヒントになるかと思ったが、関係なかった。また登場人物で一度も見たこともない、読み方も当然知らない字を使う名前の男がいる。こんな見かけない字を使うから何か事件の謎に関係あるかと思ったが、そうでもない。それにしても小説の登場人物に聞かない名をつけたがるのはなぜか。トリックは小説の書き方、枠組みに関する物でクリスティの『アクロイド殺人事件』の親戚のようなものか。

それにしても推理小説で一番気になる、怖いところはこの小説でも同様だった。最後に犯人による告白がある。その言いぶりがあまりに淡々としていて、まるで行ってきた旅行の報告をするとか、みてきた映画の荒筋を聞かせるくらい落ち着いているのである。連続殺人犯は日常茶飯をするように人殺しができるというが、推理小説でも犯人の精神の異常さは半端ない。

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