2022年2月5日土曜日

小谷野敦『このミステリーがひどい!』飛鳥新社 2015

著者がこれまで読んできた、また映像でみて来た、いわゆるミステリーを自分の経験と好みであれこれ語った本である。本だけでなく、コロンボやその後に放送したテレビドラマなども語る。結局のところ自分の好き嫌いを書いているだけなので、そういう意見もあるのかと思う本である。著者は基本的にミステリーが好きでない。書名はそれの反映である。世評に高い作品もつまらないと思えばけなす。一方で自分が好む、あるいは評価する作品も挙げている。例えば筒井康隆の『ロートレック荘事件』を称賛している。

本書は好き嫌いだけでなく、作家に関する情報もある。ミステリーに関係ない文も多い。読んでいて気になるところがある。大岡昇平の『事件』を小松川高校事件に取材した小説とある。(p.37)これを読んでびっくりした。小説も映画もみたが知らなかった。大島渚の映画『絞死刑』はまさに小松川高校事件を基にしている。厳密に言えばその犯人を描いている。『事件』もこの事件が基なのか。犯罪など似ているところがあるから、そうでないとは言えないが。基にしたところがどこなのか教えてもらいたいものである。また谷崎潤一郎と江戸川乱歩の関係について推測を述べている。(p.39)これなどは谷崎自身の文があるから、なぜそれを引用しないで忖度しているのか分からない。

なお著者がけなしているのは、ミステリーとして馬鹿馬鹿しいといった基準で、これはミステリー好きと同じ土俵での評価である。自分は謎解き要素なんて初めから当てにしていない。大人になってから読み返したら、現実には有り得ない謎解きの説明が書いてある。ミステリー好きは論理として合っていればそれでいいという評価なのであろう。自分はだから推理小説的な基準は度外視で、子供の時のなつかしさで読み返している。あるいは鮎川哲也は好きな作家で、本格派と見なされているようだが、自分は鮎川が読んで面白いから評価しているのであって、そのトリックなどの謎解きは大して興味がない。

0 件のコメント:

コメントを投稿