1923年(大正12年)生まれの著者による青春時代の読書史。まず『モンテ・クリスト伯』から始まる。昭和初年の円本時代の新潮社の全集で2巻本であったという。既に黒岩涙香の『あゝ無情』の時代ではなかったらしい。著者は漱石について、読書を漱石から始めるというのは常套過ぎて、陳腐の感があると言っているが、漱石が読書初め、というのは常套的とも思わない。自分などは、芥川龍之介の方が短編で読みやすく、早く親しんだ。
以下、読んだ本の概要や感想があるが、自分とは随分違った読み方をしていると思った。漱石では『行人』に関心があったらしい。また漱石の女の登場人物に惹かれたとある。その他、話題にしている文学は、『銀の匙』『桑の実』『ピエールとジャン』、田山花袋、『愛の妖精』『生活の探求』『父と子』水上瀧太郎、ジイド、『墨東綺譚』『雪国』『西部戦線異状なし」である。
この中でジイドが昭和10年頃の岩波文庫の『パリゥウド』や『狭き門』で有名になったとあり、勉強になった。ここで挙げられている作家や作品のうち、例えば水上瀧太郎とか『生活の探求』など今はどのくらい読まれているのだろうと思ってしまう。また最後にあるレマルクの『西部戦線異状なし』は昭和4年に出て、発禁になった。昭和17年に田舎の古本屋で見つけた時の感激が書いてある。今では簡単に読める小説であるが、これなどを読むともっと謹んで読まなければいけないかと思ってしまった。