二人の知識人による、読書でいかに頭を鍛えるかの対談とそれぞれが推薦する図書の一覧。二人は多くの書を物している文筆家であるが、かなり異なった志向を持つ。佐藤はいわゆる人文系の知識人で、立花は多くの自然科学書を挙げている。
例えばマルクスやカントに対する評価は全く異なる。佐藤がマルクスを「今こそ、教養としてのマルクス主義、マルクス経済学の意義は大きいと思う」と言っているのに対し、立花は「マルクス思想については、もう学ぶべき対象ではないでしょう」(以上p.39)と述べる。佐藤でよくわからないのは『価値と資本』を新自由主義を把握するのに一番総合的じゃないかと言っているが、自由主義なら立花の挙げているハイエク以外ならミルトン・フリードマンあたりにしたらどうか。『価値と資本』は分析の本であって主義主張の本ではない。また経済学では『価値と資本』と並び古典視されているケインズの『一般理論』の解説では、ケインズのあまりにも常識的な話をしているだけである。本当にこれらを読んでいるのかと思いたくなる。立花のマルクス理解については、p.191以下の『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』を論じているところを読むといい。マルクスの礼賛文はよく見るが、マルクスをてんから無視している者は、論じる価値なしとして何も言わない。この立花の文はマルクス批判をちゃんとしているので珍しい。
さらにカントの評価が面白い。立花は『純粋理性批判』をナンセンスと断じ、その根拠として時間と空間をアプリオリとしているが、現代の時間空間概念は変わってしまった、前提がもう今では通じないから砂上の楼閣になっている、と。立花の論がどの程度説得性を持つかどうか、ただ佐藤も反論で論破できているとは思えない。
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