2022年11月23日水曜日

ルナン『イエスの生涯』 Vie de Jesus 1870

19世紀に書かれた著作に、このルナン著のイエス伝は度々引用されている。かなり革新的というか過激なイエス像を描いている本なのかと思っていた。しかし実際に読んでみると、そんな内容ではない。ごく真っ当な伝記である。

思うにこの伝記が1860年代に出る前は、イエスの生涯の記述といったら福音書が当然基本なのだが、それを基にしてイエスの偉大さ、その教えを説く宗教的なものばかりだったのだろう。それがこのルナンの著は実証的というか、ドライな書き方である。現代人にとっては普通の記述である。それが当時の信仰深い人々にとっては驚愕を通り越して冒瀆的に映ったのであろう。そうなら当時のキリスト教徒と現代の我々の宗教に対する感覚というか常識があまりに隔たっている証左になる。

歴史記述として現代に通じる書き方だから、イエスの行なった奇蹟についても、病気の治癒などは、病は気からといった理解である。キリストの死後3日目の復活などは書いていない。歴史的な価値を別にしても本書を読むと、福音書に書いていないところが解説してあるので役に立つ。

ルナンが科学的態度でイエス伝を書いたのだが、それにしてももう170年も前の本である。現在から見れば客観的な記述でも修正の要がある箇所が結構あるだろう。現代の知識によってこの本くらいやさしく書いてあるキリストの伝記があれば良いと思う。本書はやさしく書いてあるのも特徴である。現代のキリスト教の本やキリスト者の意見などを見るとパリサイ人が書いているのかと思う難解なものがある。(忽那錦吾、上村くにこ訳、人文書院、2000年)

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