2022年10月4日火曜日

ゾラ『ムーレ神父のあやまち』 La Faute de l’Abbe Mouret 1875

ルゴン・マッカール叢書の第5巻として発表された。片田舎の神父ムーレは若いが敬虔で自らの職務を真面目に考えていた。動物好きでやや精神の発達が遅れている妹、世話をやく婦人、また他人に厳しい修道士らが仲間である。田舎なので人々は封建的で娘の結婚を許さない父親の説得等にムーレは努めていた。

村のはずれにパラドゥーという廃墟の城を中心に果樹園や森などを含む領地がある。そこに住む偏屈親爺のジャンベルナは無信仰の知識人である。その姪にアルビーヌという魅力的な娘がいる。小説の第2部ではムーレが病気にかかり、アルビーヌに看病され、パラドゥーでの二人の生活が幻想的に書かれる。まるで夢の中の出来事か何かと想うくらいである。

3部ではムーレは回復し元の教会で仕事をしているが、アルビーヌとの生活を信仰からあまりにかけ離れた過ちと激しく後悔している。マドレーヌが誘いに来る。あんなに世話したからムーレは助かったのではないか。もう自分を愛していないのか、アルビーヌは激しく迫る。神に仕えるムーレは拒否する。しかし内心はアルビーヌに惹かれていた。後にパラドゥーに行く。しかしそこの森や果樹園などかつてアルビーヌと暮らした風景を見ても今やムーレの心は動かない。アルビーヌはもうムーレが自分を愛していない。帰れと言う。後にアルビーヌは自死する。妊娠していたと分かる。アルビーヌを葬るムーレの心は何も説明がない。

清水正和、倉智恒夫訳、藤原書店、2003

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