2022年10月12日水曜日

松本清張『歪んだ複写』 昭和34、35年

副題に「税務署殺人事件」とあるように、税務署内での醜聞から起こる殺人事件が描かれる。

中央線沿線は住宅開発が進み家は建つようになっていたが、まだ人気のない場所も多かった時代。男の死体が発見された。身元が分からない。遡ってある料亭の前の喫茶店で粘っている男がいた。後に料亭から出てくる者を見張っていたと分かる。この粘っていた男が殺された被害者だった。小説では新聞記者が主人公になって事件の真相を究明しようとする。大筋は喫茶店で監視していた男、殺害された男は元税務署の職員だった。汚職があってその責任を被る形で辞めた。しかし上司たちは出世していき、男は我慢できない。料亭に通う上司たちを見張って、恐喝をする。そのため逆に殺されたのが冒頭の事件である。それだけでない。清張の小説によくある事件の捜査に携わる男が殺されるという展開がここでもある。税務署の内情に詳しいという者でその男が新聞記者に語る税務署職員のたかりの実態は、全く言語道断の悪行である。最後に幾つか起こる殺人はエリート官僚の保身が起こしたと判明する。

松本清張はこの小説当時、ベストセラー作家で所得も多かっただろうから、税務署に不愉快な目に会わされてこんな小説を書いたのかと勘繰りたくなる。全国の税務署職員に読ませて感想を聞きたいところである。

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