2022年1月3日月曜日

五味康祐『西方の音』中公文庫 2016

オーディオ好きで知られた剣豪小説家、五味康祐(1921~1980)のクラシック音楽及びオーディオについての著述を集めている。初出は1963年から1969年まで雑誌に連載した論考で、1969年に新潮社から出版された。

昔より有名な著である。オーディオ装置関連ではタンノイをクラシック音楽鑑賞用として最も相応しいスピーカーとした。これは日本人の標準的な認識となった。自ら所有する大型スピーカー、タンノイ、オートグラフの良さを吹聴し、オートグラフ神話を作った。

クラシックは単に愛好するにとどまらず、生き方そのものを追求する音楽だった。音楽や音楽家の序列を表明する。オーディオ装置では英国等欧州を評価する。アメリカ製はジャズ用でクラシック鑑賞には向かない野蛮な製品と断ずる。日本製は言うまでもなく遅れており評価にならない。ここで展開される断定調の文は個性的に見えながら、当時のクラシック愛好家の態度を表わしている。当時の日本のクラシック音楽に対する雰囲気を知りたければ本書を読めばよい。当時だけでなく、現代に通じるところがあるかもしれない。再刊されているのもそのせいだろう。

読んでいて懐かしい本である。断定調に書いてファンの意見を代表している。悪く言えば偏見独断の塊であるが、それ故に好まれているのだろう。

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