丸谷が2008年から明くる年にかけてインタビューを受け、それが本の大半を占めている。聞き手は編集者を経て、大学教授になった者。ジャンル別に論じている。短編小説、長編小説、伝記、批評、歴史、エッセイ、戯曲、詩、である。
短編はなぜアメリカで発達したのか、雑誌が多かったせいらしい。ポーなども雑誌の編集者だった。イギリスでなぜ長編小説が発達したのか。これは18世紀からで、19世紀の小説は有名なものが多いが、18世紀でも『パミラ』とか『クラリッサ』とか『トリストラム・シャンディ』がある。この理由については「識字率の高い中流階級が長編小説を買う余裕があり、また読むのが好きだったということでしょう。」(p.43)とあって、あまり大したことを言っていない。丸谷の言では『アンナ・カレーニナ』を高く買っていない、という意見が目についた。それは登場人物が魅力的でないからという。これは賛成するかどうかは別にして、考えさせられた。『戦争と平和』も丸谷はナポレオンは魅力的だが、それ以外は登場人物を魅力的だと思っていないらしい。ドストエフスキーは登場人物が魅力的でそこがいいらしい。
伝記のところでは例として文学者の伝記をよく挙げている。伝記は社会に名を成した者が対象になるので、政治家や軍人、あるいは実用的な貢献をした学者、下っては実業家の伝記が多く書かれていると思ったが、自分が文学者なので文学者の伝記が気になるのか。次に歴史だが、一般人は歴史を読むとき、物語を読むように読んでいるのではないかと話は始まる。これを読んでまず思うのは、西洋語、例えばフランス語やドイツ語は歴史と物語が同じ言葉である。英語にしたってhistoryとstoryで似ている。歴史を物語のように読むなどという言い方、その発想自体が仏語や独語ではありえない。これにどう触れるのかと思ったら何にも書いていない。なんだと思った。
最後に詩を扱っているが、ここで詩と酒の話になって酒が好きな人はいいが、全く酒を飲まない、嫌いな人も多いはずで、こういった酒のことなど持ち出すべきでない。昭和時代にオヤジ連中がすぐプロ野球の話を始め、野球など興味のない者はうんざりした。文学の話をしているのだから文学だけで話をしてほしい。