2019年3月16日土曜日

ドイル『勇将ジェラールの回想』 The Expoits of Brigadier Gerard 1896

ホームズ物で有名なコナン・ドイルによる歴史小説。

ナポレオン時代の准将ジェラールによる回想、8篇収録。比類ない剣の使い手、ハンサムで女にもてまくり、戦闘では超人的な活躍、奇跡的な強運で難事を乗り切る。まさに勇将の冒険譚である。

ドイルが何より歴史小説を自分の本領と考えていたことは有名である。ホームズ物は人気があるのでしょうがなく書いていた。それほど好みでなかったホームズ物が文学史上で特に有名な作品群となった。
それに対してこのジェラール物は確かにドイルが力を入れて書いたとわかる。奇想な素材だが筋は単純なホームズ物に比べ、かなり凝った話の展開となっている。ただし個人的な好みの問題だろうが、このジェラール譚は自分としてはそれほど感銘を受けなかった。なぜだろう。
以前読んで文庫化されていない『白衣団』(White Compay)は面白いと思ったのに。再読してみたい。
上野景福訳、創元推理文庫、1971

2019年3月12日火曜日

櫻井武『「こころ」はいかにして生まれるか』講談社ブルーバックス、2018

著者は筑波大学教授の医者。題名を見ると心理学的、哲学的、あるいは精神病理的にこころの問題に迫っているのかと思うかもしれない。しかし著者は医者であり、神経科学から見たこころであり、身体の機能としてのこころの動きを見る。
「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」 (ブルーバックス)
脳がこころ、精神をつかさどっているとは現代人なら誰でも知っているであろう。しかし脳だけでなく、身体の反応も脳に影響を与え相互依存関係にある。
もちろん脳についても各部とその働きなど詳しい説明がある。脳は一体でなく各部で夫々の働きがあり、進化的に見てより初期にあたる部分が大きな役割をする。

人間を動かす思考は理性的なものだけでなく、情動と言われる感情や身体的反応も大きく影響を与える。情動の動きは表情等のほか、交感神経の興奮等によって測られる。
海馬は陳述記憶の生成に必要だが、これ以外にも情動の記憶は扁桃体による。

また我々を動かす、やみつきにさせるようなもの、報酬体はドーパミンの影響による。この興奮は期待との差で異なってくる。脳内物質やホルモンにはこころを動かす機能がある。

医学者の書いた著であるから、かなり専門用語が出てくる。それらは覚えにくいものが多い。あまり使わない字や熟語でも、まず見ないものが多いからである。
こころに対し科学的接近を行なっている書である。

ナチュラル・ボーン・キラーズ Natural Born Killers 1994

オリヴァー・ストーン監督の米映画、118分。男女二人が逃避行し、各地で殺人、暴力を働く。
「ナチュラルボーンキラーズ」の画像検索結果
1950年代後半の有名なスタークウェザー=フューゲート事件にヒントを得ている部分がある。ただそれは若い男女二人の殺人行、初めの方で女の義理の親を殺すところくらいか。より直接的に映画化とされている「地獄の逃避行」ほどでない。「カリフォルニア」も少し似ているが、同作で女役をやったジュリエット・ルイスは、本作でもやはり女の役である。この人は狂った女をよく演じている。

殺人を繰り返し、捕まる。しかしそれで映画は終わりでなく、刑務所内でも殺しをし、それが引き金となった暴動で二人は逃げる。

映像も工夫を凝らしている。暴力的な場面が多く、これほど文部省推薦から離れた映画はないといっていいくらいである。

ボズのスケッチ(下)岩波文庫、2004

ディケンズの処女作Skeches by Bpz 1836の12短篇のうち、6篇を所収。
ボズのスケッチ 短編小説集(下) (岩波文庫)
「蒸気船でテームズ下れば」「グレート・ウィングルベリーの決闘」「ミセス・ジョセフ・ポーターの出番」「ワトキンス・トトル氏に振りかかった難儀」「ブルームズベリーでの洗礼命名の儀」「大酒飲みの死」の諸編である。

「蒸気船でテームズ下れば」は法科生の音頭取りでテームズの川下りの、水上パーティーが企画され、その顛末。有名なジェロームの『ボートの三人男』があるし、テームズ川下りは娯楽行事として結構していたのだろうか。
「グレート・ウィングルベリーの決闘」は田舎町に逃げてきた男が間違えられて女と去る。西部劇に出てきそうな田舎の町のホテルが舞台。「ミセス・ジョセフ・ポーターの出番」は素人芝居が好きな一家の話。ディケンズが役者になりたかったのは有名、自分の家でも素人芝居をしていたそうだ。

「ワトキンス・トトル氏に振りかかった難儀」は中年独身男に見合いの話が持ち上がり本人はその気になるが、最後に相手の真意がわかる。「ブルームズベリーでの洗礼命名の儀」はひねくれ者の甥に子供が生まれ洗礼式に招かれ、甥をうんざりさせる。
「大酒飲みの死」は、酒浸りで一生を送った男、妻に先立たれ、子供たちも不幸になる。人生最後に胸に去就したものは。

ディケンズの25歳時の作品群で、彼らしい諧謔的な筆致。斜に構えたユーモアや揶揄が漂う。ディケンズが必ずしも我が国で名ほど広く読まれていないのは、こういう書き方によるのかもしれない。

2019年3月7日木曜日

ファーゴ Fargo 1996

コーエン兄弟、アメリカ、98分、実話を基にしたと称する(実はそうでないらしい)犯罪映画。
題名のファーゴは北ダコタ州の町の名で、舞台はこの町周辺やミネアポリスである。

自動車販売部長は借金返済のため、妻の狂言誘拐を思いつく。裕福な義父からおかねを引き出せばよい。チンピラ二人に依頼する。妻の誘拐の後、チンピラらは警官及び通りがかりの車の者たちまで殺してしまう。部長は身代金をチンピラ二人に約束していた額より、はるかに巨大な数字を義父に告げる。自分で届けようとしたら義父が自分で持っていくと言い出す。チンピラと会った義父は交戦で殺される。鞄の中身が巨額でチンピラは驚く。もう一人のチンピラに約束のかねだけ渡して去ろうとする。その男が怒り出し、仲間を殺してしまう。

事件を担当していた女性警察署長がたまたまそこに通りかかり、チンピラを逮捕する。誘拐された妻は暴力で殺されていた。狂言誘拐を企んだ部長は逃亡していたが、見つかり逮捕される。
主演の妊娠中の女性警察署長(フランシス・マクドーマンド)は印象に残り、アカデミー賞を受賞した。

2019年3月6日水曜日

大竹文雄『競争と公平感』 中公新書、2010

経済学者の大竹文雄が、社会で見られる競争と公平の関係について様々な素材を基に論じている。副題に「市場経済の本当のメリット」とあるように、我々は資本主義体制下の市場経済に住む、その市場経済の利点は何かを論じたいようである。市場経済と言えば、弱肉強食の望ましくない体制との印象を持っている人は多い。
競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)
内容(目次)は「競争嫌いの日本人」「公平だと感じるのはどんな時ですか?」「働きやすさを考える」と分かれている。
抽象的一般的に論じるのではなく、具体例を取り上げその問題点や理解の仕方を説明しているので分かりやすく参考になる。

かつては資本主義経済には色々問題があり、社会主義体制が望ましいと考えられた。しかし現在の我々は社会主義の現実を知っている。北朝鮮のような体制がいいとは誰も思わないだろう。これまで存在した凡ての社会主義体制は、政治を別にしても経済も全く機能しなかった。共産党独裁の中国が発展してこられたのは、経済は市場体制としたからである。

ここで著者が言っているように一般論としては市場経済を基本とし、必要に応じて政府が介入して是正していく、これだけの選択しかないのだろう。どれだけ介入し、その方法はどうするのかは意見が分かれる。
チャーチルが民主主義について言ったように資本主義は最悪の体制である、ただしこの他の体制を別にすれば、ということになろうか。

アマルコルド Amarcord 1973

フェリーニ監督、124分。
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イタリアの小さな町、戦前が舞台である。祭りがあればみんなで祝う。少年はかなり年上の町で評判の美人に憧れていた。
大きな船がやってくる。ボートで漕ぎ出し、出迎える。ファシストが暴威を奮う。

精神病院へ入れられている祖父に会いに車で、家族みんなで行く。奇矯な振る舞いの叔父など。珍しい大雪になる。良くない前兆とも言われているそうだ。
少年は憧れの美人でなく、巨大なおばさんに押しつぶされそうな目に会う。最後に美人は軍人と結婚し、その祝いがある。

筋の展開を観る映画でなく、フェリーニの少年時代の回想を映像にしたもので、いかにもイタリアといった感じの登場人物たち、町の四季の移り変わりを愉しめる。
題名はフェリーニの故郷の方言で、自分は覚えている、という意味らしい。