2025年1月20日月曜日

正木ひろし『首なし事件の記録』講談社現代新書 昭和48年

著者が戦時中に関わった事件で、著者の弁護士としての人生行路を変えた事件という。

茨城県の炭鉱のある町で鉱夫が警察署で死んだ。警察に暴行を受けたからではないか、疑問を持った炭鉱主が来て調べてもらいたいとのこと。最初は軽い気持ちで検事に会いに行って調べて欲しいと頼んだが、返事は遅く、非常に気にしているようだった。それで著者は本格的に乗り出す気になった。

現地に赴き、仲間の炭鉱夫らから話を聞く。また検死した医師に会うと、脳溢血を起こして病死したと言う。納得できない著者は東京に戻り、東大の古畑教授に死体を診てもらえないか頼むと、民間からの要請には応じられないと答えがくる。別の教授を通じて診てもらえそうになったが、死体を東京まで運んで来るわけにもいかない。それで首だけ切って持ってくることになった。そのための助手までつけてくれた。現地のお寺に行って秘密裡に墓を掘り返し、首を切って東京まで持って帰った。古畑教授は診て、これは打撲によると言ってくれた。

それからの裁判が大変だった。告発した警察官が被告となったが、被告側に有利なように裁判が進んでいく。戦争激化で一旦裁判は中止になり、戦後になって新しい法体系の下でようやく警察官に有罪判決が出た。なお森谷司郎監督の映画『首』(昭和43年)は本事件を元にしているが、首の鑑定のところまでで、その後の裁判経過は映画では省かれている。

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