2023年1月31日火曜日

沈黙   Tystnaden 1963

イングマール・ベルイマン監督、瑞、96分、白黒映画。

姉と妹、妹の息子が故郷に帰る途中、姉の調子が悪くなる。途中の駅で降りる。言葉の通じない異国の街である。戦車が多くある。
ホテルに泊まる。姉は寝ているが、妹は街に出る。劇場に入り小人の芸を見ていると、隣の席で男女が性行為を始める。呆れて立ち外に出る。バーで給仕が近づいてくる。
ホテルで息子は廊下をあちこち歩き周る。ホテルの老給仕から写真を見せてもらう。小人の芸人たちが泊まっており、その部屋に入って遊ぶ。
妹が帰ってくるので姉はどこに行っていたのだと聞く。男とやっていたと妹は答える。本当かと姉が聞くので、嘘だと答える。この妹は姉に前から我慢がならなかった。昔は憧れていたが、偉そうにして妹を詮索し支配しているのだと妹は姉に向かって思いの丈の不満をぶちまける。
最初は病気の姉をおいて自分らだけで帰れないと言っていたが、妹は息子を連れて汽車に乗る。

2023年1月30日月曜日

鏡の中にある如く   Sasom I en spegel 1961

イングマール・ベルイマン監督、瑞、89分、白黒映画。

海辺の別荘、小説家の父親、医者と結婚している娘、その十代の弟がいる。娘は精神の病気にかかっていた。その病気で命が危ないと父親と夫は舟の上で話す。娘は夜眠れなくて父親の部屋に行く。小説の推敲をしていた。父親は呼ばれて出ていく。その間、娘は机から父の日記を取り出し読む。そこには自分が間もなく死ぬ、でも小説家としてそれを観察できるという記載があった。

これで娘の精神が参る。夫の医者は心配するが、父の日記を読んだ、内容は父に直接聞いてくれと娘は答えた。また舟の上で二人きりの時、医者は義理の父親に聞く。(妻)娘が日記を読んだそうだが、何が書いてあったかと。父親は話す。義理の息子の医者は激しく批判する。雨が降る中、娘は弟と廃船の中で抱き合った。悪魔がうつったのか。後、娘は精神の状態が悪化し、神が来ると言い出すが夫の医者は否定する。入院用のヘリコプターが来て娘は運ばれていった。弟は父親と話し、話合いが出来て喜ぶ。

2023年1月29日日曜日

ブルジョワジーの密かな愉しみ  Le Charme discret de la bourgeoisie 1972

ルイス・ブニュエル監督、仏、102分。

駐仏の某国大使とブルジョワの数人は麻薬の輸入をしていた。仲間の家に食事に招待されていたので妻同伴で行くと、相手は日を間違えていると言う。
しょうがないのでレストランに行く。座って待っていると、そこの主人が今日亡くなって迎えの車を待っている最中だったと分かる。さすがに引き払う。
別の日、招待されて行くと丁度その時、夫婦で事に及んでいたので待ってくれと言われるが、帰る。司教がやって来て庭師に雇ってくれと言われるから雇う。女三人で喫茶店にいたら若い軍人が席に来て話を聞いてくれと頼む。子供の時、義理の父親を毒殺した。それは亡くなった母の霊がそう命じたからだと。喫茶店から頼んだ物が何もないと言われ女たちは帰る。
別の日、仲間たちと晩餐を始めようとしていたら軍隊の一行が挨拶にやって来た。そこで食事を用意すると言い、引き留めた。若い兵士が経験談を話し出す。死んだ若い女と通りで会ったという内容。軍隊の一行は呼び出しが来て去る。
お返しに軍隊の大佐がみんなを自分の家のパーティに呼ぶ。大使と話していて、その国を悪く言う。怒った大使は銃を取り出し大佐を撃ち殺す。これは夢だった。
別の日、晩餐の最中警察が来て一同全員を逮捕する。手を回して釈放された。庭師になっている司教がたまたま頼まれ、瀕死の病人を看取りに行く。懺悔を着ていたらその男は自分の両親を殺害したと分かった。聞き終わってから司教はそこにあった猟銃で男を射殺する。
別の日の晩餐の最中、武器を持った男たちが闖入してくる。並ばせておいて銃殺する。大使はテーブルの下に隠れていた。しかし見つかり銃を乱射される。これも夢だったと分かる。

2023年1月28日土曜日

佐々木毅『宗教と権力の政治』講談社 2003

中世のキリスト教のヨーロッパ信仰共同体の仕組み、その思想の説明が大半を占める。最大の論者トマス・アクィナスの思想が解説される。実際の教会の現実、体制が次第に崩れていく。

それに対し宗教改革が起こる。ルターとカルヴァンの違い。欧州の教会体制、キリスト教中心の社会が変化し崩壊していく。

そこに現れたマキャベリは、権力を中核に据えた議論をし、それまでの社会、共同体構成員の理想を目的とする政治観を転回させた。更に世俗権力の新興を基に主権という概念が出てくる。

いずれも世俗国家が宗教を軸にして争っていた時代からの脱却をし、新たな社会での政治原理を求める思想であった。

2023年1月27日金曜日

敵は本能寺にあり 昭和35年

大曽根辰夫監督、松竹、98分、総天然色映画、松本幸四郎(当時)主演。

織田信長の臣下明智光秀は、敵と和睦し相手方の将を人質にとる。その代わり自分の母親を相手方に差し出した。命を保証した筈なのに、人質にとった敵方の将を信長は殺してしまう。これで母親も相手方に殺された。
信長は光秀の長女の嫁ぎ先を勝手に決めて光秀に命じる。さらに森蘭丸が所望した妹娘は、既に婚約者がいるというので光秀が断ると、信長は激怒した。光秀は信長から著しく評価を下げる。
普通言われている信長の短気のほか、森蘭丸や秀吉の陰謀が信長の光秀の心証を害した、謀反への誘因となったとしている。
本能寺の変が起こり、信長が死、山崎の戦いの後、逃げる最中殺されるまでを描いている。

日本映画がまだ盛んだった頃の映画なので、金をかけて作っていると分かる。

2023年1月26日木曜日

小間使いの日記 Le Journal d’une femme de chambre 1964

ルイス・ブニュエル監督、仏伊、97分、白黒映画、ジャンヌ・モロー主演。

戦前の話、パリから田舎の館にジャンヌ・モローが小間使いとしてやって来る。
女たらしの主人、妻は冷たい人間で一家を仕切っている、その父親は靴に熱中し沢山集めている。隣家とは仲が悪く喧嘩をしている一家である。傲慢な使用人の男がいる。モローはそんな家で小間使いとして何とかやっていた。
ある朝老父が部屋で死んでいた。同じ日に知りあいの少女が森で殺されていた。モローはその家を辞めてパリに戻るつもりだったが、駅で少女の殺人について聞き館に戻る。使用人が怪しい。しかし証拠が掴めない。
モローはその使用人と結婚の約束をし、寝室を共にすることによって真相を探ろうとした。なかなか口を割らないので細工する。男の靴の裏の一部を剥す。後に官憲がやって来て靴の一部が、少女が殺された森に落ちていたと言う。男の靴も欠けていたので逮捕する。
後にモローは隣家の軍人の老人と結婚する。あの自分が逮捕させた男はどうなったと夫に聞くと証拠不十分で釈放されるようだとの答え。憮然とした表情のモローで終わり。

笹沢左保『死人狩り』 昭和40年

刑事物の犯罪小説。西伊豆の海岸沿いに下田から沼津まで行く定期バスがある。そのバスの運転手が狙撃され、バスは転落し海に落ちて乗務員乗客併せて27人全員が死亡した。事故でない。運転手が撃たれていたのである。殺人事件として捜査される。担当の刑事が主人公でそのバスに自分の妻と子供二人が乗っていて一遍に家族を失った。相棒と二人で被害者を洗っていく。誰か一人を殺すため乗客全員を道連れにしたのである。

被害者たちを探っていくといずれも訳ありというか、事情があった。百万円の大金を懐中にしていた若い男や女に狂って家を放り出した中年男や、宿で乱痴気騒ぎをしていたらしいドラ息子とドラ娘、横暴な父親が死んだので財産を兄弟で分けて事業をやっていこうという者たちなど。問題な者がほとんどなのだが、今回の殺人に結び付かない。相棒の刑事が後ろから殴られ昏倒した。その背中に靴ベラが落ちていた。主人公は犯人の靴ベラが背中に落ちるわけないし、わざと落としたのだろうと推理する。男と見せかけるためではないか。自分が捕まえ死刑になった男の妻がレストランをしている。一度は主人公に色仕掛けを試みた。容易に分かるようにこの女が犯人である。主人公の刑事の過去の逮捕が原因だったのである。

昭和40年に『乗っていたのは27人』という題で連続テレビ映画として放送された。そのなつかしさで読んだ。(祥伝社文庫、2019

悪魔の美しさ La beaute du diable 1950

ルネ・クレール監督、仏、96分、白黒映画。

ゲーテの『ファウスト』第一部を基にして脚色した映画。ファウスト博士のところへ悪魔メフィストフェレスが来る。メフィストを最初はジェラール・フィリップが演じる。若返ったファウストはそのフィリップがやる。
外に出てサーカスの少女と仲良くなる。酒場での勘定のため自分の部屋に戻ったフィリップは召使いに目撃される。ファウスト博士がいなくなった。フィリップはその容疑者として捕まり裁判にかけられる。フィリップに有罪が下されそうになった時、ファウスト博士が現れる。これはメフィストが化けていたのである。以後、メフィストはファウスト博士の姿をとる。
メフィストはフィリップに協力する。フィリップの魂が欲しいからである。宮廷に出入りするようになったフィリップは、王妃に惚れメフィストの魔力で逢瀬をするようになる。またメフィストと協力し砂を金に変える術でもって宮廷や市場に多くの金貨を供給する。
フィリップは悪魔に鏡に自分の未来がどうなるか見せさせる。破滅と分かる。フィリップはすっかり絶望する。かつて会った少女はフィリップに惚れ何とかしたいと思っていた。メフィストは金貨を元のとおり砂に変え国中大混乱になる。怒った民衆は宮殿に押し寄せメフィストに襲い掛かる。メフィストは窓から落ち死ぬ。
暴動の黒炎の中、フィリップは少女と去る。

2023年1月25日水曜日

サラトガ本線 Saratoga trunk 1945

サム・ウッド監督、米、135分、白黒、イングリッド・バーグマン、ゲイリー・クーパー。

19世紀末、バーグマンは召使いを連れてパリから故郷のニューオーリンズに戻ってくる。廃墟となった自分の家を建て直し、親戚に母の復讐をするためだった。それにはお金持ちと結婚する必要がある。
テキサス男のゲイリー・クーパーを知る。バーグマンはすっかり惚れ込むが、強気なのでクーパーに対し必ずしも素直な態度で接しない。
クーパーがサラトガに引っ越す。そこでクーパーも自分の復讐を考えていた。バーグマンは家を有利な条件で手放し、自分もサラトガに越す。バーグマンは伯爵夫人と名乗り、自分たちを駅からホテルに乗せてくれた男からも惚れられる。クーパーもそのホテルにいて、部屋のなかったバーグマンらに自分の余計な部屋を提供する。
派手なバーグマンは衆人環視となり、その素性を暴こうとバーグマンに惚れた男の母親が来る。すんでのところで海千山千の老婦人に助けられる。
クーパーは自分の敵を倒すため汽車に乗りあちこちの駅で仲間と狼藉を働く。相手方の汽車が向かってきて正面衝突する。直前に飛び降りたクーパーと仲間たちは敵方と乱闘になる。
バーグマンはホテルで舞踏会の準備をしていた。惚れた男がやって来て結婚申し込みをする。バーグマンが舞踏会に下りた時、クーパーが瀕死の姿で現れる。抱きつくバーグマン、その後はクーパーの看病をする。クーパーは目を覚ましていたが、バーグマンの素直な告白を聞いて起き、二人は抱擁する。

2023年1月24日火曜日

東京スパイ大作戦 Blood on the Sun 1945

フランク・ロイド監督、米、1945、白黒映画、ジェームズ・キャグニー主演。

1945年の早い時期に公表された、つまりまだ大戦中の映画である。
東京が舞台であるが、凡て米国撮影で日本人も良く出てくるが、似せてあるか日系人を使っているのだろう。戦前の総理を勤めた田中義一が出てくる。その田中上奏文が主題である。戦後は知る人もなくなったが、昭和の初めに田中義一が書いたとされる世界征服の文書で、中国で作られ米国も信じていた。
それを新聞社の東京支局の記者キャグニーが入手しようとする。日本の手先として中国系としているシルヴィア・シドニーがキャグニーに近づく。キャグニーが好きになったシドニーは日本を裏切りキャグニーに味方するようになる。
途中で上奏文入手に失敗した田中が切腹する場面がある。仏壇の上に城のような屋根がついている代物の前で自決する。
最後の方に日本の軍人と柔道の対決の場面があり、柔道の専門家について練習したそうである。

2023年1月23日月曜日

ザ・メッセージ     I still see you 2018

スコット・スピアー監督、米、98分、空想科学恐怖映画。

主人公の高校生がまだ幼い娘だった頃、研究所の原爆なみの大爆破があり、多くの人々が亡くなった。それでも今でもそれら亡くなった人の一部の幽霊、幻が出てくる。主人公の父親も食卓に現れる。主人公はその幽霊、残存者と呼ばれる者の一人が良く現れて、メッセージを残す。逃げろと。主人公はクラスの友人の男とその謎を探ろうとする。爆心地の研究所跡に行く。多くの残存者がいた。しかもそれらの一部によって主人公は危機に陥る。しかし助けてくれたのは父の残存者だった。これでもう父の残存者を見ることはなくなった。

バッド・ウェイヴ Once upon time in Venice 2017

マーク・カレン監督、米、94分、ブルース・ウィリス主演。

舞台はロサンゼルスのヴェニス。そこでウィリスは私立探偵をやっている。
妹捜しを頼まれたのにその妹と寝てしまい、依頼していた兄らから襲われる。ビルの壁に巨大な落書きがしてあって資産価値が暴落するからその描いた犯人を捕まえて欲しいと依頼される。
また義妹と姪を養っており愛犬を貸していた。その家に泥棒が入り、愛犬も盗まれてしまう。車を取り返してもらうよう頼まれた件があり、乱暴な真似をして車を取り返すが車はボロボロになってしまった。
愛犬の居場所を捜していたが、それは自分が車を取り返した男で、犬と修繕代で大金を払えと要求される。高利貸しから借りる。その金で男のところに行くと恋人が犬を持って行ってしまったと言われる。
こんなバタバタが続き、最後は何とかうまくいって終わる。

佐々木毅『よみがえる古代思想』講談社 2003

本書は政治思想史のうちギリシャ・ローマ時代を扱う。講演を基にした口調なので読みやすい。

思想史によっては個人単位でみると、ここの部分ではプラトンとアリストテレスしか出てこないものがある。本書はそうでなく、そもそも古代のギリシャでなぜ哲学が始まり、政治思想の原型のようなものが出てきたかを解説する。ソクラテスやプラトン、アリストテレスのような有名な人物は当然詳しく説明される。

また古代ギリシャだけでなく、後のローマに続くヘレニズム時代、そしてローマ時代。このような社会になってなぜギリシャの政治思想がそのまま通じなくなったか、その社会の変化を解説する。それからローマ時代の思想潮流、ストア派、キニック派などを説明した後、キケロ、セネカ等の個別思想家へと説明は移る。

政治思想史でとりわけ重要な古典古代をこれほど分かりやすく説明しているものは少ない。真に理解している者はやさしく説明できるというが、その典型と言える。

オーソン・ウェルズのオセロ Othello 1951

オーソン・ウェルズ監督、主演、92分、米、白黒映画。

シェイクスピアの劇の映画化、白黒の映像が美しい。映画の冒頭はオセロとデスデモーナの葬列が城壁の上を通っていく場面である。これは映画の最後でも繰り返される。
筋はおなじみの嫉妬による悲劇であり、極めて単純な構造である。悪人はイアーゴだけでその奸計にはまってオセロが破滅する。芸術作品は単純化し、極端な形にして人生を見せつける。それにしてもこの戯曲はひどい。文字で読んでいればともかく、映画にして現実化するとその馬鹿馬鹿しさは笑ってしまうほどである。
自分自身を悲劇的人物と格好をつけているが、オセロは喜劇である。主人公のオセロが簡単に嘘を信じてしまうのはなぜか。それはオセロ自身に浮気欲望があったからである。人間は誰でも自分が標準である。自分と同じように他人も考える、行動すると思い込んでいる。だからオセロは自分と同じく妻も浮気願望があると思っていた。
また一般的な話になってしまうが、人間は悪い噂、不快な噂の方を、逆のよい噂より信じてしまうのはなぜか。少なくとも文学作品ではそうなっている。作り話だけの世界で実際はそうでないだろうか。実際に悪い噂を信じてしまうのは、それが自分のことなら気になる、他人のことでも悪口と同じでそれが面白いからか。

2023年1月22日日曜日

渡辺努『世界インフレの謎』講談社現代新書 2022

現在世界的にインフレが高まって来ている。特に欧米はひどい。この原因は何か。すぐに思いつくウクライナ紛争ではない。ロシヤのウクライナ侵攻以前からインフレは高まってきた。原因は新型肺炎の流行によるところが大きい。

労働力は減少し、また職場に戻らなくなっている。世界の生産の分業体制が崩れ、自国に回帰していきている。これらは供給を減少させた。また消費もサービス需要は減退し、物の需要が高まった。サービスの需要は減退しても価格の硬直性が大きいので価格が低下しない。物の需要が高まり物価を押し上げた。

日本の特殊性として21世紀以降、物価も賃金も硬直で動かない。企業は値上げをすると他企業に市場を取られる恐れがあるからだ。物価が落ちついているので賃上げがなくても何とかやっていける。この状態を打破するための条件が最近の輸入物価上昇で出てきているかもしれない。

2023年1月19日木曜日

喜多川泰『手紙屋』  2012

書簡型式で就職活動をしている大学生と助言を与える「手紙屋」とのやり取りが主の小説である。手紙屋とは十通の手紙を、申込者とやり取りしていてそれを職業にしている。主人公の大学生は手紙屋との文通で就職、仕事、ひいては人生についての考え方を啓蒙されていく。

いわゆる自己啓発本の類である。その手をあまり読んでいないが、多くと似たような助言であろう。ともかく想定する読者が大学生くらいのようで、かなりの歳で読書を趣味としている者から見ると当然する内容、また主人公があまりにも単純で非現実的に見えてくる。

ただ売れているのでこのような本に対する需要があるのだろう。(ディスカバー・トウェンティワン社)

2023年1月17日火曜日

血とダイヤモンド    昭和39年

福田純監督、東宝、96分、白黒映画。

数億のダイヤの原石が神戸の税関から運び出された時、悪漢どもから銃撃を受け奪い去られる。その際悪漢の首領格の佐藤允が撃たれ負傷する。倉庫のようなところに逃げ込む。
このダイヤに保険をかけていた会社から雇われた私立探偵の宝田明は、悪漢どもの一人である、水野久美を使って倉庫に行く。
佐藤の傷が悪化してきたので、子分は医師を捜しに行く。娘が人質にされた志村喬は娘と共に倉庫に行き、佐藤の手当をする。元々の持病のせいで佐藤は余命短いようだ。
水野は他のギャング団ともつながりがあり、そちらに連絡してそのギャング団が倉庫に来る。外に出るとギャング団から撃たれる。手下や水野も撃たれ、佐藤も殺される。
警察が到着しギャング団も逮捕される。

隠密七生記 昭和33年

松田定次監督、東映、85分、総天然色映画。

尾張藩の名古屋城の天守閣の屋根で、東千代之介と中村錦之助が見張りをしている。次期将軍の座に就く者が書いてある遺書が鯱に隠してあった。東のいないうちに中村はそれを取り出し逃げる。中村は幕府の隠密でこの文書を盗みに尾張藩に潜入していたのだ。後から親友と思っていた東は事情を聞き驚愕し、取り返しに中村を追う。東の妹は中村を慕っており、自分も単独で中村を追う。
東は中村に追いつき、二人は果し合いになる。途中で落雷があって東が気を失うので中村は逃げる。途中で東は泥棒の女とその子分と知りあいになり、道中に詳しいので同行させる。
途中の宿場で東は同じ藩の仲間たちが助太刀に来たと知る。幕府から派遣された侍たちは中村を守るべく忍んでおり、東とその仲間と斬り合いになる。相手方を倒したが、東は仲間も殺された。
中村は江戸に着く。旗本たちから祝福される。その夜に中村の部屋に賊が忍び込み文書を盗みだそうとしたので中村は切り捨てた。その賊は相思の間柄である東の妹だった。妹はこの文書さえなくなれば元通りの仲に自分も兄もなれると言い死んだ。文書は外に投げ捨てられていたので、やはり忍んでいた東が拾い逃げる。
今度は中村が東を追う番になった。東に中村は追いつく。その時尾張藩の侍どもも、また旗本たちも駆けつけ両方の陣営は向かい合っていた。東は中村を討つつもりだったが、妹が死んだと聞くと、この文書が人を殺したのだと言い、噴火口に投げ捨てる。これで戦う意味もなくなり両陣営は別れる。東には婚約者の美空ひばりが駆けつけていて、二人一緒に帰郷する。

2023年1月16日月曜日

エヴァの匂い Eva 1962

ジョゼフ・ロージー監督、仏伊、112分、白黒映画、ジャンヌ・モロー主演。

ジャンヌ・モロー演じるエヴァは高級娼婦で男を破滅させる魔性の女である。人気作家はヴェネツィアでエヴァに会う。すっかり虜になる。いかにしてエヴァの機嫌を取るか、そればかり考えるようになる。新婚の妻がいるのにそっちのけでエヴァに入れ込む。とうとう妻が夫とエヴァの関係を知り、自殺する。後にエヴァと再会した小説家はまだエヴァに未練があるが、エヴァの方は全く関心がないようである。

2023年1月15日日曜日

TENET テネット Tenet 2020

クリストファー・ノーラン監督、米英、151分。

空想科学・活劇映画である。主人公のCIA工作員が、第三次世界大戦を阻止するための組織TENETから本人も知らぬ間に試験させられていて合格し、その一員となる。未来から来る逆行する兵器がある。それを知るロシヤ人との闘いになる。そのロシヤ人の妻で良人を憎んでいる女と協力し、ロシヤ人と戦う。
以上が大まかな筋で、おそろしく長い。
ただ見ていても訳が分からない映画である。主人公は黒人でデンゼル・ワシントンの息子だそうだ。金髪でむやみに背の高い女がロシヤ人の妻役で、映画で一番目に付く。
意味が分からない映画にひれ伏したい人向きである。

シラー『ドン・カルロス』 Don Karlos, infant von Spanien 1787

スペインの王子、ドン・カルロスが主人公の五幕の戯曲。主人公以外の主要な登場人物はドン・カルロスの親友であるポーザ侯爵(ドロリーゴ)、義母エリザベト、父親であるスペイン王のフェリペ二世、エボリ公女などである。

義母のエリザベトとはかつて婚約者の仲であったのに、父親のフェリペ二世が妻にした。もう母と子の関係になってしまったが、お互い内心では相思の仲である。フェリペ二世は臣下たちが信用できない。そればかりでなく、息子と妻が愛情関係にあるのではないかと悩む。エボリ公女はカルロスを愛しており、初めは自分が愛されているのではと誤解していた。カルロスとエリザベトの仲を知り、王フェリペ二世に告げ口をする。

本戯曲でカルロスと並んで重要な人物はポーザ侯爵である。当時スペインの殖民地であったフランドルの独立運動に共鳴している。カルロスとは親友であり、幼い時かばってもらった経験もある。それでなんとかしてカルロスのためになりたいと願っている。カルロスと義母の仲を知り、フェリペ二世から守りたいと思い、またフランドルの独立のために画策する。ポーザの理想と友情のための犠牲的行動は本戯曲の中でとりわけ心に残る。

ヴェルディが本戯曲を基にした傑作歌劇『ドン・カルロ』を作曲していて、正直、シラーの原作より有名である。ただ異同があり、歌劇は恋愛中心の話になっているが、原作の戯曲はもっと理想主義的であり、まさにシラーの面目躍如である。(岩波文庫、佐藤通次訳、1955年改訳)

2023年1月11日水曜日

松本清張『馬を売る女』 昭和52年

清張には売り買いする女を描いた短篇がある。買う方は『地方紙を買う女』であり、魅力的な題名である。地方紙をある時期から購読し始めた女。そのうち購読を止める。なぜ特定期間だけ地方紙を読んでいたのか。この謎は少し読み始めると大体見当がつく。

売る方が収録されている『馬を売る女』である。短篇としてはやや長い方である。馬を売るとは競馬の情報を売るのである。気づく人はいよう。この競馬情報の売り方がいかにも小説的と思ったが、その仕組み、からくりは実際にあったらしい。それを知って驚いた。また高速道路の駐車地帯が小説の仕掛けの一つになる。車を駐車地帯に停めて何をやっているか、これも想像できると思うが登場人物は分からないと言っているのである。かまととぶっているのかと思いたくなる。

清張の小説に出てくる女の主要登場人物はたいてい不幸である。『波の塔』の頼子のように美人薄命もあるが、本編は主人公が女であり、しかも全く地味な女なのである。30を過ぎて全く結婚の望みは捨てている。今なら考えられないが、女の価値はクリスマスケーキという言葉があった時代である。女性差別と糾弾される前に、今では実態の変化で死語である。美人よりもそうでない方が小説としては書きやすい。この女主人公もよく書かれている、記憶に残ると思う人が多いだろう。

清張の小説にはご都合主義が目立つが(大体、小説なんてものは私小説以外はそうである)、これは短篇ということもありそれほどでない。後半は推理小説風になっていて意外なところから犯罪が発覚するというのは全く清張的。推理小説はこさえ物の極致であり、理屈が通っていれば現実可能性など全く無視していいらしい。この小説は前半では女主人公の人間性に関心があり、後半になると推理小説という通俗的展開で、つぎはぎとも言えるし、面白いとも言える。

それにしてもこの小説から30年ほど経った後、二億円殺人という事件が起こり驚いた。枠組みはこの小説と同じである。

2023年1月8日日曜日

歌麿をめぐる五人の女 昭和34年

木村恵吾監督、大映、99分、総天然色映画、長谷川一夫主演。

同名の映画は溝口健二が田中絹代を主演にして昭和21年に作成されているが、こちらは34年製作の総天然色映画である。浮世絵師歌麿を長谷川一夫が演じる。
ともかく女にもてまくりで、長谷川がその女を浮世絵に描く、また刺青の下絵を描くとその芸者は人気が出るというので女たちが殺到する、というわけである。
それだけでなく長谷川が住む長屋の若い女、野添ひとみや絵のモデルになってもらう浪人の妻、淡島千景にも純粋な愛情を抱かれる。五人の女とは野添、淡島のほかは山本富士子、中田喜子、淡路恵子である。正直、淡路恵子や山本富士子などたいして出番はない。春川ますみの方を五人の女に入れたほうがいいくらいである。
途中、外人相手の接待見世物として池の鯉を捕まえる競技をする。多くの女たちが腰巻一つで池に飛び込む。上半身は髪で隠すが基本裸なので、当時の映画としても見せ場だったのだろう。
長谷川は名声が高くなり、大名からお抱え絵師として所望されたが、長谷川は断る。自分は町の絵描きで町民のために書きたいと言う。これで長屋の住人らはやんやの喝采となり、祝いの宴会が開かれる。その最中、やって来た無頼漢どもが長谷川の右手を石で叩き潰す。
野添ひとみは大家から嫁と所望され、玉の輿に乗ったと誉めそやされる。内心は長谷川を好いていたので嬉しくない。長谷川と淡島の逢瀬を目撃して、それで結婚を承諾する。嫁入りで相手の家まで着くが泣き出す。付き添う祖父に長谷川が好きだったと告白する。驚く祖父はだったら長谷川のところに行けと言い、結婚直前に逃走する。それに大名行列等、巻き込まれ大混乱になる。長屋に戻ると長谷川が旅立つところだった。もう右手は仕えないというと野添は自分が右手になると言う。
遠景からの撮影が多く、舞台を映しているようだ。大写しはほとんどなく途中で野添の顔を大きく映されるくらいである。せっかく作った長屋等のセットを総天然色で見せたかったからか。