2019年7月31日水曜日

西陣 昭和36年、氣 KI or BREATHING 昭和55年、 コミュニティ・ライフ 昭和47年

松本俊夫監督の短編映画であり、記録映画、前衛映画、宣伝映画である。

「西陣」は「西陣」製作実行委員会=京都記録映画をみる会の製作で、25分、白黒。織物の町、西陣を描く。瓦屋根が続く町の俯瞰、織物の実際、求人、今後の対策など詩のような解説を朗読する。

KI or BREATHINGは磯崎新による海外での展覧会で上映された作品。財団法人2001年日本委員会、29分、カラー映画。「間」の概念の視覚化という実験的な映画で、そう言われなければ分からない、模様やシュールな場面が続く。

コミュニティ・ライフは理研映画、13分、カラー。
三島市郊外に建設されるパサディナ・ハイツという先鋭的な住宅群の紹介というか、宣伝映画である。戦後の代表的な建築家の一人、菊竹清則の設計。山の斜面を利用して階段状に家々を建設する。その家の構造、全体として街並になるのでその説明。映画中、菊竹ともう一人、経済評論家が喋って解説する。
この映画の時点では未だ建設前であり、家や街は設計用の映像で示される。パサディナという日本人には発音しにくい名は米LAの高級住宅地かららしい。
映画後、インターネットで調べたら、建設後は一戸二千万以上の値があったらしいが、今は数百万で中古が取引されているらしい。今見るとこのような坂に建てられた家は高齢者には向かないように見える。高齢社会になる前の発想である。

脱獄・広島殺人囚 昭和49年

中島貞夫監督、東映京都、97分、松方弘樹主演。
戦後まもない時期から、入獄と脱獄を繰り返す男を松方が熱く演じる。
ともかく何度投獄されても脱獄して捕まってもまた脱獄をする。脱獄こそわが人生といった感じの男である。

有名な俳優陣が共演している。梅宮辰夫演じる囚人は刑務官を捕虜にし、所長にカンカン踊り(囚人が裸でやらされる検査用の踊り)をさせる。彼と西村晃と三人で脱獄するが、西村は事故死、後二人は捕まり監獄に戻ってくる。梅宮を痛めつけた監獄内のボスを殺す、松方を怒らせた刑務所の高官を傷つける、など全く制御がきかない。その度に刑期が加算されるが気にしない。

四国の田舎に住む、松方の妹を大谷直子が演じる。妹宅には脱獄して訪れた。家の裏で違法な牛の屠殺とその肉の捌きをしている連中を脅し、高い手数料をふんだくる。もっとも2回目に妹宅に行った際は、その連中の裏切りで危うく捕まりそうになる。

ともかく松方は絶対にあきらめない、飽くなき情熱の持主を演じている。脱獄囚という感心しない人間であるが、日本映画の中でもこれだけ挫けることなく挑戦し続ける者は少なかろう。

鉄砲玉の美学 昭和48年

中島貞夫監督、ATG=白揚社、97分、渡瀬恒彦主演。

渡瀬は破滅型のどうしようもない男で、兎を飼い売って儲けようとしている。女に暴力をふるうしか能のないやくざ人間である。九州に進出しようと神戸のやくざは目論む。誰か鉄砲玉を送る、それが殺されたら仕返しという名目が立つ。この鉄砲玉は渡瀬に白羽の矢が立った。

百万円という当時としては大金と拳銃をもらい、九州宮崎に向かう。地元のやくざに神戸の組の者といい、相手が下出に出るのでいい気になる。相手のボスの差し出した女に惚れこみ、都城くんだりにしけこむ。その間、九州のやくざは関西の大手と話をつけ、渡瀬の出番はなくなる。相手方と銃撃戦になり傷ついた渡瀬は、女とかつて行きたいと言っていた霧島行きのバスに乗りこむが。

この映画の渡瀬は鉄砲玉で赴いたのに、女と遊んで観光しようとしか考えていない。こんな馬鹿なら美学とかいう必要もなかろう。

ゆけゆけ二度目の処女 昭和44年

若松孝二監督、若松プロダクション、65分、白黒、一部のみ色付き。

いかにも若松監督らしい映画。冒頭、少女が輪姦される。また別の時も海辺で襲われた場面が出てくる。ビルの屋上で輪姦された後、一人の少年はその少女をみつめる。処女は死にたい、殺してくれと少年に言う。
この後少年の告白があり、彼も輪姦まがいの行為を受け、復讐したとわかる。『犯された白衣』のような場面が出る。

ビルの屋上が舞台で背景の東京の街並みがよく映る。代々木の国立競技場の特異な姿が見える。当時監督らのいた建物なのであろう。
事前知識も先入観もなしに観て、かなり記憶に残りそうな映画だった。

アリサ ヒトから人間への記録 昭和61年

山崎定人監督、青銅プロ=共同映画、79分。
少女アリザの成長を追った記録映画。生後6ヶ月の赤ん坊から保育園を卒園する611ヶ月までの記録である。元々「さくらんぼ坊や」というシリーズがあってそれを編集したもの。
保育園での自主的な教育方法や、友達とも協力して成長する姿が描かれる。

2019年7月30日火曜日

あなたはシルック 昭和43年

小松範任監督、日本産業映画センター、24分、総天然色映画。
東レの開発した素材「シルック」の宣伝映画である。絹よりも廉価で大量生産可能な素材であるシルックを宣伝するにあたって、恋人たちの出会い付き合い別れを描くという映画になっている。

男女ともいかにもモデルといった登場人物で、男はフランス人である。フランス語を話し、訳が出ることもある。女は日本人。出会いから最後は男が仏へ帰国するまで。
当時、フランスは日本人の憧れの地であった。おしゃれ、文化的な国とされハンサムな男の代名詞がアラン・ドロンであった時代である。

家光と彦左と一心太助 昭和36年

沢島忠監督、東映京都、93分、総天然色映画、中村錦之助主演。
家光と一心太助がそっくり(錦之助の二役)で入れ替わるという、トウェインの『乞食王子』の換骨奪胎に見える劇。

家光がまだ次期将軍であった時代。家光の弟を何としても次期将軍につかせようとする江戸城内の勢力が、家光を亡き者にする危険性がある。大久保彦左衛門(進藤英太郎)は正装した一心太助が家光と瓜二つであると気づき、太助を家光の影武者としようと思いつく。太助は江戸城に住み、家光は太助の代わりに江戸市中の長屋へ行く。
この入れ替わりがもたらすドタバタがある。最後の方で、家光の弟が兄を思う心情の吐露で感動させる場面がある。
まだ昭和30年代半ばで時代劇が元気だった頃の映画である。

2019年7月29日月曜日

ピストルオペラ 平成13年

鈴木清順監督、「殺しの烙印 ピストルオペラ」製作委員会、1112分。江角マキコ主演。
江角は殺し屋、序列ナンバー3などと言っており、かつての宍戸錠ものの続篇らしき設定。

映画は東京駅で沢田研二の殺し屋が殺されるところから始まる。江角は田舎の建物で、殺しの指示を女から受ける。平幹二郎のおかしか殺し屋が出てくる。また少女も出てきて活躍する。
いかにも鈴木清順の世界と言える映画である。

コント55号と水前寺清子の神様の恋人 昭和43年

野村芳太郎監督、松竹大船、89分。

コント55号は幼馴染み、高校生時の回想がある。大きくなって静岡県の大浜町で再会する。坂上二郎は屋台のラーメン屋、妻は樹木希林である。家を持つのが夢である。
風呂屋の娘が水前寺清子、萩本坂上がかつて憧れた娘にそっくりである。水前寺の父親は伴淳三郎、益田喜頓は恋人の父親である。伴と益田は仲が悪い。益田はコント55号二人の高校生時の熱血教師であった。しかし馘にされ、今はこの町の建設課に勤めている。

町にスーパーマーケットをつくる計画がある。仕切るのは町のボスである内田良平。ただし今の商店街を整理してつくった後は、東京の店を呼ぶという噂がある。
坂上は夢であった家の建設で内田から融資を受け、内田側に着く。スーパー建設に町の人の協力を得るため、催しをする。萩本の知りあいの業者からザ・タイガースを呼ぶことになる。しかしやって来たのは、偽物で内田は怒る。何とかごまかそうとするものの、ばれて大騒ぎになる。

益田は内田に買収されていたが、萩本の諫めなどあり、町民に東京からの業者をスーパーに入れる予定だと真相をばらす。スーパーはとりやめ。坂上も内田から協力が得られなくなり、我が家建設も夢と消える。萩本は別れ旅に出る。

昭和40年代に入ってグループサウンズブームが起こり、全国でスーパーマーケットの建設が進んだ。それらを背景とする。

NAGISA なぎさ 平成12年

小沼勝監督、フィルム・シティ、89分。
昭和30年代の湘南、12歳の少女なぎさの夏休みの体験。

母子家庭、家は飲食店を営む。仲良しの友人と一緒によく遊ぶ。レコード・プレイヤーが欲しい。海の家でアルバイトをする。そこのドラ娘、よく恋人のオープンカーに乗っている、とも知り合う。金持ちの家の女の子、呼ばれて今まで食べたことない洋菓子など振る舞われる。その子は虚言癖があって騙される。

海辺で男の子と知り合う。虚弱体質らしく、男の子に泳ぎを教える。毎日会う。映画で観た接吻に関心があったので、男の子と真似事をする。しかしその子は一人で練習している際、波にさらわれ亡くなる。男の子の父親と後に会う。

少女の繊細な心の動きや行動を描いている。ただ最初、古い時代を舞台とは分からなかった。冒頭で芋の子を洗うような湘南海岸で友達と踊る。ザ・ピーナッツの曲が流れる。湘南海岸へ行ったことがない。今はあれほど混まないのであろう。また懐メロでも流しているのかと思った。更に車では、オープンカーの外車は古いとわかるが、現代の自動車が出てくる。

国立FAの特集で鑑賞した。717日の上映で冒頭に小沢監督と主人公の松田まどかと相手役の男が挨拶した。小沢監督は車椅子でろくに喋れない。主人公の当時の少年少女の挨拶ではもう20年経ってしまった、松田はオーディションで無暗に走らされた、泳がせられた、といった思い出話をした。

2019年7月28日日曜日

女高生 夏ひらく唇 昭和55年

加藤彰監督、にっかつ、69分。

田舎に住む女高生の主人公は、祖母が亡くなって葬式をしている。東京から来たトラックの若い男に乱暴される。後に恋人同士となる。上京する。姉は今では、元教師で自分と関係を持って馘にされた中年男と暮らしている。また若い男に会い、同棲する。
元教師と一緒に田舎へ帰ろうと約束するが、駅にほったらかして、一人で帰郷する。あの若い男はやってきた。

ロマン・ポルノらしいが、今観ると女高生ひと夏の経験で、際どくなど全く感じなかった。あの時代の雰囲気、風景は見られる。

2019年7月24日水曜日

シェイクスピア『ヘンリー五世』 The Life of Henry the Fifth 1599

『ヘンリー四世』の後を継ぐ作品。ハリー王子がヘンリー五世となってフランスに進攻し、アジンコートの戦いを行なう。

領土は自分のものであるとしたヘンリー五世はフランスに進攻する。その前にイギリス内部でも反乱の企みがあったが、これを抑える。
フランスでの戦いの前、夜姿を隠して兵士に王の評判を聞く。アジンコートの戦いに勝利し、フランス王女キャサリンを娶る。

フランス内の領土を獲得したイギリス栄光の日々の物語である。
小田島雄志訳、白水Uブックス、1983

シェイクスピア『ヘンリー四世』 Henry IV 16世紀末

第一部と第二部から成る。『リチャード二世』の後を継ぐ作品である。リチャード二世を退位させ自らヘンリー四世となったのはボリングブルックである。

ヘンリー四世は天下を取ったのちもイギリスは内戦で、その位置は安泰でない。更にヘンリー四世の息子ハリー王子は、悪友ファルスタッフとつるんで放蕩をほしいままにしている。
ファルスタッフというビヤ樽腹で大酒のみ、ほらを吹いてばかりだが大口だけで実際は臆病という男、シェイクスピアの創造した人物の中で、最も有名でかつその造形は評価されている。正直「ヘンリー四世」は王自身よりもファルスタッフに食われているといった印象を持ってしまう。

第一部では反乱を起こし、王に刃向かう勢力の中でホットスパーの異名をとる若者が目立っている。このホットスパーとハリー王子の決闘がある。
第二部では内線がまだ続く中、ファルスタッフはロンドンへ帰り、飲み屋の女将等とよろしくやっている。内戦は休戦となった。ヘンリー四世は病気で倒れ、ハリー王子はヘンリー五世となる。悪友のハリー王子が王になった。ファルスタッフは喜ぶ。自分も分け前にあずかれると期待していく。ところが王になったハリー王子はファルスタッフをこれまでの罪で捉える。
松岡和子訳、ちくま文庫、2013

2019年7月22日月曜日

団地妻 ニュータウン禁猟区 昭和59年

西村昭五郎監督、にっかつ、71分。

団地に引っ越してきた若夫婦。妻(仁科まり子)は、以前からいる三人の主婦から教えてもらう。退屈する仁科にAVを見せたり、店に連れていく。そこで見たビデオの背景の街頭風景に自分の夫が知らない女と連れだって歩いている。
仁科は鳩好きで何羽か飼っていた。鳩がいなくなっていることに気づく。
悪友たちに誘われ、酷い目に会い、酔っているので帰りのタクシーで運転手の気を引く。運転手はその場は断るが、後になって本気になって仁科に迫ってくる。

夫は出張のはずがいきなり帰って来て、仁科が浮気しているのだろうと難癖をつける。元々自分が浮気している夫は仁科と別れようとしていた。また仁科が不安を感じた出来事は友人面の主婦が企んだと分かる。仁科は自分にのぼせている運転手にその主婦を犯すよう命令する。
すっかりすれっからしになっていた仁科。新しい若い夫婦が団地に引越して来たのを見る。その妻に親切そうに話しかける。かつて自分が三人の主婦にされたように。

国立FAの逝ける映画人を偲んでの企画では、日活ロマンポルノほかで活躍した西村昭五郎監督をしのび、団地妻シリーズの2作品を上映した。

2019年7月21日日曜日

団地妻 昼下がりの情事 昭和46年

西村昭五郎監督、日活、64分。
記念すべき日活ロマン・ポルノの第一作として名高い。主演の白川和子はこれで名を残した。

団地に引越してきた白川は、友人である女からの勧めで売春に手を出す。夫はおりからのニクソン危機で仕事が芳しくない。今夜の相手を待っていた白川のもとに現れたのは、外人の客を接待用に連れてきた夫だった。夫は驚愕し、しかも同僚にも商売女が妻だと分かってしまい、絶望に陥る。白川は商売を紹介した友人と喧嘩し、誤って殺害してしまう。家を出た白川は以前から自分に憧れ、こちらも満更でない男と逃走する。山中の崖沿いの道を走っていた際、男は白川との愛欲にふけっていたため、ハンドルを切り損ね、崖下に車は転落炎上する。

まるで素人が売春に手を出すとろくなことはないといった説教映画にも見えてくる。

泣いてたまるか 定期便の源さん 昭和46年

宮崎晃監督、松竹大船、87分、坂上二郎主演。
テレビの連続ドラマを映画化(配役は異なる)した作品。当時、萩本欽一と坂上二郎からなるコント55号は非常に人気のあるお笑いコンビだった。そのうちの坂上が大型トラック運送の運転手、萩本はその弟、母親がミヤコ蝶々という設定である。

坂上はある日街道の食堂で榊原るみから頼まれ、東京まで乗せてやる。その後知り合いの男を訪ねようとした榊原は、男が職場を辞め居所がわからないと知る。やむなく親切にしてもらった坂上宅を訪れる。坂上は何度もしたお見合いがまた破談になったばかりだった。
坂上と母親のミヤコ蝶々は喜び、その家においてもらう。更に坂上の紹介で倍賞千恵子が経営する食堂で働くようになる。ある日、男の居所が分かり榊原は早速赴く。男は仕事が嫌になり東京を呪い田舎に帰ろうといい、榊原に乱暴を働こうとする。榊原は逃げだす。

坂上がトラック便で家にいない時、ミヤコ蝶々は榊原に坂上と結婚してくれと頼む。驚愕する榊原。坂上が戻ってくると榊原はいない。ミヤコ蝶々や賠償から事情をきく。榊原の新しい職場に坂上は訪れる。そこで間接的な恋の告白を坂上はする。家に帰った坂上は弟の萩本と喧嘩する。その際、ミヤコが倒れ亡くなる。一年後、坂上はトラック運送に行く前、昼休み中の榊原に母親の一周忌には来てくれと頼み、榊原は快諾する。
典型的な松竹の人情喜劇のひとつ。

レスラー&シャットマン『FBI心理捜査官』 Whoever fights monsters 1992

著者はprofilingと呼ばれる犯人像の絞込み作業のFBIの専門家である。その専門家が主に米国で起きた数々の犯罪、連続殺人犯などの事件を述べる。単に事件の記録でなく、著者の専門のprofilingによって犯人像を分析する。

米国の殺人犯人は若い白人男性、幼児期に虐待を受けている者が多く、また一見正常に見える秩序型の犯罪者と無秩序な犯罪者に分かれると言う。

続く『FBI心理捜査官2』では、日本の事件も3件扱われている。高校生が米に留学しハロウィンで間違った家に入り言葉が分からなかったため射殺された事件。筑波の医者が家族を殺害し海に捨てた事件、更にオウム真理教事件である。またこの巻では有名な連続殺人犯であるゲイシーとダーマーとの長時間にわたる質問のやり取りが収録されている。
犯罪に関心のある者にとっては興味深く読める書である。
相原真理子(1)、田中一江(2)訳、ハヤカワ文庫、2000年、2001

シェイクスピア『ジョン王』 King John 16世紀末

シェイクスピアの史劇のうち、年代的には最も古い(13世紀初め)ジョン王の劇。

ジョン王の前にフランスからの使者が来る。ジョン王の地でない領地を返せという要求する。王はにべもなく断る。
次に異父の兄弟が来る。一人はリチャード獅子心王の私生児フィリップである。名誉を取り、土地はきょうだいにくれてやるフィリップは劇で重要な役割を果たす。
フランスの宮廷。ジョン王よりも正統な継承者とされる少年アーサーをかくまう。ジョン王からの返事を聞いてフランス王はイギリスとの戦争を決意する。

イギリス王方とフランス王方との対面。戦争は避けられないと思われたが、ジョン王の姪とフランス皇太子の婚約で、戦いは回避される見込みが出来た。しかしそこへ来た法王からの使い。ジョン王に対して諫め法王の命令に従うよう述べる。これを断ったジョン王に対して、フランスは戦いを開くと宣言する。

戦いはジョン王側の勝利に終わり、アーサーはイギリス側に捉えられる。
アーサーに対するジョン王の言葉を解釈し、家臣がアーサーを殺害するため牢に赴くが少年を見て殺す気になれない。ジョン王にはアーサーを殺したと報告する。アーサーは殺されはしなかったが、絶望し自殺する。アーサー殺しとしてジョン王に責任がかかる。
フランス軍は攻めてくる。国内の信望を失ったジョン王は最後に病死する。

今ではあまり人気のない作品だそうだ。しかし読んでいて面白い。

三里塚 第二砦の人々 昭和46年

小川紳介監督、小川プロ、140分、白黒映画。
成田空港開設反対闘争を描いた小川監督の記録映画の一。

建設予定地の三里塚には、反対派が建設妨害のため砦等をつくり、地元の住民や支援学生たちが長い間、公団、機動隊と衝突を繰り返した。
その戦いを反対派住民側から撮った記録映画の一つである。住民らの意見の開陳や、住むための穴を掘り、それを作った者が説明するといった場面が長く続く。

正直観ていて退屈に感じる。しかし最大の関心は、映画製作当時と現在ではどのように観方の違いが生じているのだろう、という点である。
本映画製作当時は非常に左翼的な風潮が強く、弱者が権力側に抵抗する姿勢を強く支援する感情は、国民に広く見られた。映画の冒頭で空港建設反対の演説として、今の日本では開発のために自然が破壊されているという言葉が出てくる。開発のために自然を破壊する、これは高度成長が始まって以来、常に行なわれてきた。それを住民が望んだからである。自然の破壊は日常茶飯であった。話題にならなかった。もちろん後になって、特に他地域の者から見れば、美しい自然を破壊してまでの必要はあったか、の疑問は出る。しかし再度述べれば当時はそれを推進したのである。

成田空港建設反対闘争が生じたわけは、昭和40年代になって日本も経済的に裕福になり、経済成長至上主義に疑問を呈するだけの余裕が出来たからである。
つくづく思ったのは、空港は結局建設されるわけで、このような反対闘争のただなかでなく、空港が建設される直前の反対派の姿を見たかった。反対しても建設された、しかし自分たちの闘争は意味があると思っていたのであろうか。そう思わないとやってられないという気分だったのだろう。ともかく権力に反対していれば正義という風潮が強かった時代である。

十一人の侍 昭和42年

工藤栄一監督、東映京都、100分、白黒映画。
主君を討たれた家臣たちが非道な隣藩の領主に敵討ちを図る。一種の忠臣蔵もの。

将軍の弟であると自慢している傲慢な藩主。狩りに出た際、隣の藩領に踏み込み非道な行ないをし、注意した隣の藩主を弓矢で殺してしまう。
藩はこの行為を江戸の幕府に訴える。将軍の身内が犯した不祥事の処理に悩み、事故として処理し、領主を亡くした藩を取り潰そうとする。この暴挙に怒った家臣たちが非道な隣の藩主を討とうとする。

十人の家臣に途中から加わった十一人で、隣の藩主が江戸から帰藩の途中で討つ計画をたてる。一度幕府側の陰謀でその機会を逃すものの馬で追いつき、雨の中、川畔で壮絶な戦いとなる。参加した家臣は凡て死ぬが藩主も最終的に討ち取る。

工藤監督は「十三人の刺客」が有名だが、同種の映画と言える。

2019年7月13日土曜日

爽春 昭和43年

中村登監督、松竹大船、95分。
付き合いの深い二つの家族。一方は山形勲と娘の岩下志麻の二人だけの家族。もう一方は、有島一郎と森光子夫妻、子供として長女の生田悦子やその弟たちがいる。岩下や生田の恋と父親の関係を描く。

山形と有島は昔からの親友で、何回か店で酒を飲む場面がある。
生田は大学四年生、一度は一人で旅行したいと思い、その費用を友人の岩下に頼むところから映画は始まる。岩下はかつて勤めていた会社の課長に電話をかけ、そこの英文タイピストのバイトに生田を雇ってもらう。
生田がその会社に行くとアフリカ帰りの竹脇無我に会う。竹脇は生田を気に入り、求める。岩下は生田を紹介した課長と長い関係を持っていた。課長がイギリスへ行く前から関係があったが、行く際に別れると言った。長い不在に我慢できないからだと。課長はイギリスから妻を連れてきて子供もいる。岩下は課長の帰国後、元の関係に戻り情人として付き合っている。
娘たちの恋人との関係を知った父親二人は猛烈に反対する。映画の進行につれ、理解を示していくようになる。

この映画で一番気になったところは次のとおり。夫の外国赴任に妻がついていかないのである。岩下は課長と結婚してついて行けばそもそも問題が起きなかった。生田も竹脇が再びアフリカに赴任する間、待っていられるかの問題が出てきた。

この映画は昭和43年製作で外国赴任自体珍しかった時代である。その際は単身赴任が普通だったかもしれない。しかしその10年後に、自分の知りあいの男は外国に行く際、結婚して新妻を連れていった。別の例もあったが同様である。外国赴任で夫婦が別れて暮らす方がよほど少なかった。
そういう時代の変遷があったので、この映画自体の前提が全く時代遅れに思えた。だから映画自体を評価する前にそんなことばかりが気になった。

2019年7月11日木曜日

モンローのような女 昭和39年

渋谷実監督、松竹大船、96分、総天然色映画。

主人公は真理明美演じる女高生、父親の笠智衆は踏切の番、母親は精神病院に入っている。笠は踏切電化によって、いつ馘になるか不安で酒浸りの生活を送っている。
叔母の森光子は飲み屋を経営している。その息子山本圭は母親が加藤武の世話を受け、客に媚びる姿が嫌で反抗的な態度である。真理と山本は相愛の仲である。

知り合いの女から写真のモデルになればカネが入ると、スタイルの良い真理に持ちかける。佐田啓二は気取った写真家だが、真理を買っていた。佐田による真理の写真は雑誌を飾る。
さらにカネが欲しい真理は彼女に嫉妬する知り合いの手引きで怪しげな写真家を訪ねる。裸になれと命令され逃げ出す。

山本は母を攻撃し、家を飛び出す。今の生活を改めなければ戻らないと言う。加藤は森の代わりに真理に迫る。真理は逃げだすが、加藤の女だと中傷が飛び交い、それを信じた山本は真理を非難。更に母の森にいかに真理がふしだらかを告げる。真理の父親の笠は加藤に殴り込む。
誹謗中傷の中、真理は佐田のところへ行き、ヌードになる決心をしたと告げる。映画は佐田が真理のヌード写真を撮っているところで終わり。もちろん実際のヌードが画面に出るわけでない。

映画中、マリリン・モンローが話題になり、モンローもヌード写真で最初は売り出したという会話も交わされる。題名はその辺から来ているのだろう。
国立FAの逝ける映画人を偲んで特集で、亡くなった真理明美の映画として上映された。この女優さんは知らなかった。当時としてはスタイルが非常に良い。数年の活躍の後、須川栄三監督と結婚したそうである。

2019年7月10日水曜日

シェイクスピア『リチャード二世』 King Richard the Second 16世紀末

リチャード二世がヘンリー四世に王位を奪われる様を描いている。

リチャード二世は従兄弟のヘンリー・ボリングブルック(後のヘンリー四世)とモーブレー公が争い、決闘せんとするを見て直前にやめさせ、流刑に処す。ボリングブルックは後に英国へ戻ってくる。横暴なリチャード二世に対し戦いを挑み、諸侯の協力を得て、打ち勝った後は塔に幽閉する。更にリチャード二世はボリングブルックの意を組んだ者によって暗殺される。

燃えつきた地図 THE MAN WITHOUT A MAP 昭和43年

勅使河原宏監督、勝プロダクション、115分、勝新太郎主演。
安部公房原作の映画化。勝は私立探偵で、失踪人を捜す役である。失踪した男の妻(市原悦子)からの依頼を受けて捜査する。

失踪した男が持っていたマッチの喫茶店で張り込む勝。外の駐車場で男の弟と偶然会う。妻から十分な情報が貰えていないと不満である。捜していくうちに男と関係のあった有力者の家でまた弟と会う。その弟に連れられ、工事現場のようなところへ行く。夜そこで暴動が起きる。からがら逃げ出す勝。弟は巻き込まれて死んだ。後に市原からそれを聞く。捜索中に犯罪に巻き込まれると探偵社から首になる規定だった。勝はその後も捜査を続けていく。失踪者の勤める会社に渥美清演じる社員がいて、情報を持っているという。失踪者はヌード写真の撮影が趣味で、撮影場所にあるバーに連れられていく。紹介されたモデルと会う。しかしそれは渥美のでっち上げであった。勝は嫌気がさし、渥美と離れようとするが、渥美は執拗に自分がいかに重要な情報を持っているか食い下がってくる。情報提供というより、勝に自分の悩みを聞いてもらいたい様子なのである。渥美から電話がかかってきて、これから自殺すると驚かされる。

あの喫茶店で執拗に失踪者の聞き込みをしていると、経営者も腹を立て、居合わせた他の男たちから暴力を受ける。ひどく怪我をした勝は、市原の家に行き治療をしてもらう。朝、勝手に家を出て調子が悪いので、市原に電話する。市原が来るが勝は彼女から隠れて会わない。

映画としてはかなり退屈な展開である。しかし勝にしても渥美にしても、普段とはかなり違う役柄をこなしていてそういう興味はある。

2019年7月8日月曜日

バナナ 昭和35年

渋谷実監督、松竹大船、90分、総天然色映画。
若き日の津川雅彦と岡田茉莉子が主演の映画。津川と岡田が台湾バナナを輸入して儲けようとする。

津川は在日台湾人のドラ息子で、終戦で儲けた台湾人である父も暢気な男。母親は日本人で杉村春子がやっている。女友達が岡田茉莉子。津川は神戸に住む叔父(小沢栄太郎)から台湾バナナの輸入権をもらう。父親のところへ出入りしている台湾人の悪徳学生(小池朝雄)は横浜中華街のボスとつるみ、津川や父親からカネを巻き上げようとする。

バナナが日本では稀少な輸入品だった時代を背景にし、日本人が演じているものの、在日中国人(台湾人)が多く活躍するという異色映画。
ともかく登場人物たちが若く、古き良き時代を感じさせる映画である。

2019年7月7日日曜日

すべてが狂ってる 昭和35年

鈴木清順監督、日活、71分、白黒映画、川地民夫主演。

川地は不良グループの一員(当時ビート族と呼ばれた若者たち)で、母子家庭なのであるが、母親に反抗的である。それは母(奈良岡朋子)が仕事の上司である芦田伸介の世話を受けているからである。もちろんそうしなければ戦後、やっていけなかったのだが、屈辱的に思っている。芦田は何とかして川地と話し合おうとするが、川地は全く受け付けない。
川地らはアベックを襲ってカネを奪うなど犯罪行為さえする。川地は禰津良子と知り合う。素直になれない川地は彼女にも素っ気ないふりしかしない。恋仲になる。

グループの仲間の一人の女は妊娠する。相手はバーテンで稼いでいる学生で中絶の費用は出せないし、言わない。禰津に頼むが当てにできず、バーに川地を尋ねてきた芦田を誘惑する。逗子の別荘に連れて、オカネをせびろうと魂胆する。芦田は女を諭す。そこに川地が母親を連れてくる。下着姿の女と一緒の芦田を見て、母親にこいつの本性がわかったと勝ち誇る。逃げ出す川地、追う芦田。
川地と禰津を相手に説明する芦田、しかし川地は切れて、スパナで頭を殴りつける。殺したと思い逃げる二人。盗んだオープンカーのクラシックカーで逃走する。白バイが追ってくるように思える。スピードを上げて逃げると、向こうからのトラックに衝突する。

芦田が運ばれた病院では、あの女が流産していた。相手の男はドライなものである。
バーで新聞記者が記事にしようとするとそこのマダムがいい顔しない。だったらすべてが狂っていると題にしようかと記者は答える。

なおこの映画には吉永小百合が端役でほんの少しだけ出ている。いいとこのお嬢さんという役で、なくてもいい役だが、それでも配役一覧には最初の画面に川地、禰津の次に新人と但し書きつきで名が出ている。吉永はこの当時から扱いは良かったのだろう。

海は狂っている 昭和34年

古川卓巳監督、日活、88分、総天然色映画、川地民夫主演。

主人公の川地はヨットの操縦などを手伝う仕事についているが、自分でヨットを持ちたくなる。そのためにカネを貯める。南田洋子扮する酒場の女に溺れていく。すっかり自分のものにした気でいたが、仲間の話が聞こえてきて、南田はどの男にも手を出す女とわかる。
仕事で海に出る仲間のヨットに、復讐のつもりで細工をしておく。台風が来て、そのヨットが生還できるかも怪しくなる。ヨットに自分が可愛がっていた弟分の少年が同乗していると聞き、暴風雨の中、ヨットを荒海に繰り出す。

映画はここで終わっており、小説なら余韻を残したとも言えるかもしれないが、映画としては物足りなさを感じた。川地を慕う恋人役で、ただし川地があまり相手にしない、清水まゆみが出ている。人気はそれほど出なかったと思うが、若さ清純さで印象的であった。

2019年7月6日土曜日

バルト・キングダム Nameja gredzens 2018

ラトビア映画、アイガルス・グラウバ監督、115分。

13世紀、現在のラトヴィアの一部である、バルト海沿岸のゼムガレにローマからの布教や十字軍が進攻してくる。その西からの侵略軍とゼムガレの戦いを描いた映画である。
まず十字軍は回教と戦った、欧州的な立場からすれば正義の軍という印象がある。ゼムガレは古代の教え、キリスト教からすれば異教の地である。そのゼムガレが本映画では主役である。

主人公ナメイは若くしてゼムガレの指導者となった男。彼が中心になって、侵略軍と戦う。ラトヴィアの愛国的な映画と言える。
広い意味で欧州といっても、十字軍が悪役となる地域があると知った次第。

2019年7月5日金曜日

人生はトランペット Život je truba 2015

クロアチア、スロヴェニア、セルビア、モンテネグロ、英国映画、アントニオ・ヌイチ監督、92分。

結婚で結びつく二つの家族。花婿は次男である。円満に見えた家族は、長男がカネを使い込んでいたと発覚し、波紋が広がる。また雇っていた若い男が実は、父親の隠し子ではないかとの疑惑が生じる。母親は怒り、家から出ようとする。次男の新婚宅に行こうとするが、子供も生まれる家では余裕がない。

題名は次男が趣味でやっている半分素人の楽団で、トランペットを吹いていることから名づけられている。結婚式やクリスマスといった記念的行事が背景となり、家族のわだかまり、誤解が解けていく方向で話は進む。
最後は楽団の演奏会である。

スーパージャンプ・リターンズ Superjhemp retörns 2018

ルクセンブルク、ベルギー映画、フェリックス・コシュ監督、103分。
ルクセンブルクと思われる小国を舞台にしたスーパーマン物。

かつてスーパージャンプとして同国を様々な危機から救った男は今や中年で、家族持ち。もちろん家族は父親がかつてのスーパージャンプとは知らない。記者だった妻はスーパージャンプと恋仲だったが、平凡な結婚をしたと回想が出る。夫は実はスーパージャンプだったのである。

皇太子が戴冠するにあたり、王冠が傷つけられるという妨害が起こる。中年となった男は再びスーパージャンプに変身しなくてはならない。国産チーズを食うと空を飛べるなど超能力が出る。ポパイのほうれん草と同じである。最初はドジばかりだが、能力を発揮し、祖国を危機から救う。家族も父親がスーパージャンプと知る。息子もスーパージャンプとなり親子で協力して立ち向かう。

全くアメリカの超人物そのままで、若干驚く。もっとも普段はさえない男で変身して活躍する冒険物語は昔からある。