2026年9月30日水曜日

血の唇 House of dark shadows 1970

ダン・カーティス監督、米、96分。ニュー・イングランドの古い館。この地下に眠る吸血鬼の棺を使用人が宝物と勘違いして開け、吸血鬼は復活する。吸血鬼はこの家の親戚と称し、イギリスから帰ってきたと言い、館を訪れる。壁に掛かっている古い肖像画と生き写しである。吸血鬼の毒牙にかかり、何人かが死ぬ。そのうち一人は女主人の娘で、自分も吸血鬼に変身する。

吸血鬼は家の家庭教師である女が、大昔の結婚が叶わなかった恋人にそっくりなので、自分のものにせんとする。犠牲者の血を調べていた女研究者は、そこに人間にはない成分があると知り、これを使えば吸血鬼を普通の人間にできると知る。吸血鬼を吸血鬼と知った女研究者は、人間に戻れて昼間でも生活できるようになると言って、その治療を進める。自分のかつての恋人に生き写しの女を吸血鬼は攫って、結婚式を挙げようとする。女研究者は、吸血鬼に恋していたのだが、他の者から吸血鬼が愛しているのは、生き写しの女だけだと言われ、嫉妬で吸血鬼の人間化の薬を大量に入れ、完全に老人にするが、吸血鬼から絞め殺される。老人となった吸血鬼が結婚式を挙げようとしている時に、女の恋人は殴り込み、吸血鬼を倒し、女を助ける。

松本清張『事故』 昭和38年

住宅街のある家に運送トラックが突っ込み、玄関などを壊した。運転手は居眠りをしていたと言う。会社の事故処理係がその家に赴くと、賠償は驚くほど少なくて済んだ。事故を起こした運転手は後に、山梨県で運送途中にいなくなり、死体で発見される。調べると殺されていた。しばらくして女の死体がやはり山梨県で見つかる。探偵社の調査員だった。この両事件の捜査は警察でも別の事件として扱い、調べたが共に迷宮入りになりそうだった。

小説後半で、探偵社の所長による説明がある。ある女から夫の浮気調査を依頼された。その夫は確かに他の女と関係があった。所長自ら調べたのは、依頼の女に興味があったからだ。実際にホテルで夫と情人が密会しているところを見つけ、所長は依頼した女(=妻)に電話で知らせ、女はそのホテルに来る。所長は女に会い、そこでかねてから関心のあった相手と関係を持ってしまう。これ以降、女と所長は密会を重ねていた。後になって、その女の夫、つまり所長が調べた男が探偵社に来る。所長は驚き、妻との関係がばれ殴りこんできたのかと思った。しかし実際は妻の素行調査だった。所長は男から自分がその相手である妻の浮気調査を頼まれたわけである。この調査を所長は部下の女調査員に命じた。

所長は女と会う時、ばれないよう余計に気を付けた。ホテルで会うと、女調査員に見つけられやすい。それで夫は家を留守にしていることが多いから、家で会おうと申し出た。その女の家に所長がいる時に、トラック事故が起こったのである。これは実は女調査員が企んだもので、近所に住む運転手にその家に突っ込むようにさせた。その際に驚いて隠れていた所長は飛び出し、近所の者らと共に張り込んでいた女調査員に見つかったわけである。女調査員は辞職を申し出る。真相が分かったからだろう。この女と運転手を亡き者にしようと、所長と今は情人になっている女で計画を立て、離れた場所で死体が見つかるように工夫し、殺害したのだった。

2026年9月27日日曜日

井上靖『黯い潮』 昭和25年

中年(当時の感覚)の新聞記者が主人公で、発表前年に起きた下山国鉄総裁怪死事件を背景とする。下山怪死事件を扱った書籍は多く出ているが、基本的にその謎を解くという意図で著者の考えが書かれており、小説の形で出ている物が他にあるか知らない。更に本書は、事件後1年しか経っていない時点での発表であり、過去の歴史となっていない当時に書かれた。

これは下山怪死事件だけを扱っているのではない。主人公の恩師の娘との縁談があり、以前の妻の、芸能人との心中が書かれている。周知のように著者は当時、毎日新聞に勤めていた。毎日新聞が他の新聞と違い、自殺説を支持していたのも知られているだろう。この小説で、当時から一般の国民の大部分が他殺に違いないと信じ、そういう情勢だったと読めば分かる。下山怪死事件の途中経過までしか書いていないが、新聞記者としての、また個人としての苦悩が描かれている。

2026年9月24日木曜日

井上靖『補陀落渡海記』 昭和36年

那智にある補陀落寺の住職金光坊は、61歳近くになると渡海を意識せざるを得なくなった。渡海とは南方にあるという観音浄土を目指して、住職が小さな舟で海に乗り出す行事である。古い歴史があり、何も61歳と決められているわけでないが、最近、三代続けて過去の住職が61歳で渡海を果たしたので今の就職金光坊も、当然そうすると期待されていた。本人はまだ心構えが出来ていないので、もっと先にするつもりでいたが、その歳以前から周囲がそう当然視していたので、引くに引けない。過去に渡海した色んな師や、まだ若く十代や二十代で渡海した者などを思っていた。

実際にその日が来る。金光坊の乗った舟は嵐で難破し、近くの島に金光坊は打ち上げられた。周囲はまた舟を作り、それに金光坊を入れて、海に出した。後の時代になると渡海は形式化し、住職の死後、その遺体を舟に乗せ出すような例もあったとか。

2026年9月23日水曜日

ダニー・ケイの天国と地獄 Wonder man 1945

ブルース・ハンバーストーン監督、米、98分、総天然色映画。ダニー・ケイは人気のある寄席芸人で、婚約者の女と一緒に舞台で歌い踊っている。このケイが以前、殺人現場を目撃したので、そのための証言を阻止しようと、悪人どもは楽屋でケイを殺し、公園の池に捨てる。

一方ダニー・ケイの二役で、学者のケイがいる。図書館に勤める女と仲良くなり、その家に招待される。食材のサラダを買いに行った学者ケイは、店で音楽が聞こえ、声が聞こえる。それに連れられて公園に行く。そこで双子の兄弟のケイの幽霊に出会う。芸人ケイから殺された経緯を聞き、学者ケイに芸人ケイの魂が乗り移る。これで芸など出来る。しかしいつも学者ケイの中に入っているわけでない。学者ケイは劇場に行き、そこで婚約者や仲間から色々言われ困惑する。舞台に出される。すると観客席にいたケイを殺した悪人どもがいて、悪人らは驚く。

学者ケイの帰りを待っていた図書館の女は、行方不明になったケイを捜している。悪人どもは今度こそケイを殺そうと追いかける。芸人ケイの幽霊はもう学者ケイの身体に入れなくなったと言って去る。学者ケイは図書館の女の家に行き、事情を話すと相手は呆れ、信用しなくなる。しかしその後に悪人たちが学者ケイを追いかけているので、女も事情が分かった。逃げるケイは検事が観劇中のオペラの劇場に行く。そこで主役の扮装を盗んだので、舞台に出される。観ている検事にケイは歌を歌いながら呼びかける。悪人どもは舞台にケイがいるのに見て、殺そうとするが、警官がやってきて悪人どもは捕まる。ケイの証言で、殺人事件の犯人は有罪になった。その後、ケイは図書館の娘と結婚する。

2026年9月22日火曜日

松本清張『草』 昭和35年

病院が舞台の話である。語り手がいて入院している。某病院は最近流行っており、病棟も新築した。ここの院長は創立者の2代目である。その院長がある日失踪する。また看護婦長も同日にいなくなった。堅いと思われていた二人だが、駆落ちかと思われ、どこかで心中するのではないかと噂された。更に薬剤師が首を括って自殺する。語り手の隣室の男は活動的な男で、院長がいなくなったのだから、入院費をまけろと病院側と交渉を始める。その交渉相手で、この病院を切り盛りしていた、やり手だった事務長は飛び降り自殺をした。

更に看護婦長の死体が山中で発見された。院長の方は不明のままだったが、後に別の所で死体が見つかった。最後になって明かされる真相は次の通り。この病院は麻薬の取引に使われていた。それを病院長が嫌がったため消された。院長も婦長もその組織に攫われたのである。薬剤師はそれに関わっていたので自殺した。隣室の男は、組織の者で監視するため入院していたのだった。事務長との交渉はその隠れ蓑だった。事務長の自殺はそのせいだった。語り手は当局の者で、部下の社員と称する男が見舞いに来ていたのは連絡のためだった。

松本清張『濁った陽』 昭和35年

劇作家は放送局からシナリオを頼まれる。役所などの汚職で全貌が明らかになる前に、中核となる課長補佐などが自殺して犯罪がうやむやになる場合がある。最近でも某公団汚職の際もそうだった。この件について若い女助手に、亡くなった補佐の未亡人について調べてくるよう命じる。ところがその未亡人は、公団の者かと思われる連中によって、隠されているような状態だった。

これに女助手も作家も不審を感じる。更に調べていくと、役所に影響力を持つ、大物と言われる男がいて、これが補佐の自殺に関与しているのではないかとなった。推理を進めると補佐の死は自殺ではなく、その大物によって殺害されたのではないかと思われた。しかし大物には鉄壁の現場不在証明がある。

またこの大物に使われていたと思われる公団の職員、女助手が調べている際に立ちふさがった男であるが、が死体となって発見された。作家は補佐を偽装自殺に見せかけた、大物による殺害可能を証明するトリックを発見する。これに結構ページを使っている。女助手は自分を妨害した公団職員の死は、自分らが捜査していたためではないかと悔やむ。