2026年4月7日火曜日

サスキンド『Growth』 Growth 2024

イギリスの学者による成長論。まず過去の経済成長を概観する。人類の長い歴史の間、成長しない時期がほとんどだった。成長が始まってからその成長要因を解こうとする試みがなされた。数量的に経済を計る手段がなければそもそも議論ができない。それで発明されたのがGDPである。GDPが出来たのちはその値、変化率(成長率)を第一と考えるようになった。

経済成長のみに関心があっても解決できない問題がある。それどころか成長によって、その代価として様々な問題が出てきた。気候破壊、不平等の拡大が生じた。技術の発達は従来の雇用への脅威、大企業への集中の他、政治決定まで影響が及ぶ。自由貿易、グローバル化はコミュニティを破壊したとある。こういった代償が生じたからと言って、著者は脱成長論者には組しない。「経済成長が消えたならば、それが意味するのは悲惨以外の何物でもない」(本書p.203)成長論で、昔は外生変数だった技術進歩はアイディアによって説明されるようになってきている。このアイディアを広める方策について言及する。ただ著者の基本的態度は「さらなる経済成長をするのか、それとも人間が大事にする経済以外のものごとを守るか、二つに一つかだと迫られて、圧倒的に前者を選んできた」(本書p.261)という、これまでの選択を批判する。

技術進歩の方向性を変えて、経済成長の性質も変えていけるとしている。成長だけで問題は解決できない。成長と環境、現在と未来、どちらを優先すべきか相反関係にある。政治の場での議論が必要で、それは政治家任せというのではなく、昔のギリシャの集会のようなもの、そういう場で検討が必要であろう。(上原裕美子訳、みすず書房、2025)

2026年4月5日日曜日

事件記者 時限爆弾 昭和35年

山崎徳次郎監督、日活、49分、白黒映画。すりの女がすった物の中に、今夜10時爆破するというメモがあった。女は警察に電話するが、相手にされない。その夜10時に貨物船が爆発し沈没した。乗組員の一人が死んだ。警察は女すりを捜す。女すりは自分がすった男をよく覚えているという。

爆発した貨物船の積み荷について記者たちは会社を回る。その中のある会社が価値のない積荷を高価と申告し、保険金を騙し取ろうとして、悪党に爆破させたのだった。広告を出して、女すりにすった男を会わせ捕まえようと警察は目論んだ。しかし警察が関係ない男に関わっているうちに、女が悪党に捕まえられる。女は悪党の隠れ家から逃げてきた。

保険金を騙し取ろうとしていた会社は、危なくなったのでトンズラしようとする。爆破をしかけた悪党が金を要求するので、会社の連中は銃で殺す。死ぬ前に悪党は逃げる連中の乗った船に爆弾をしかけておいた。警察がやってきて船との間で銃撃戦をしているうちに船は爆破する。

2026年4月3日金曜日

『ジャンヌ・ダーク』 Joan of Arc 1948

ヴィクター・フレミング監督、米、145分、総天然色、イングリッド・バーグマン主演。当時33歳になるバーグマンが、13歳で神の声を聞き、18歳で兵士として戦い、19歳で処刑となったジャンヌを演じているので、それが話題(というより批判)になってきた映画である。

これは田舎で少女として育ち、神の声を聞き、皇太子に会いに行く算段をし、軍隊を率い戦闘し、捕まえられ裁判になり、処刑されるという全生涯を収めているので145分でも描き切れない感はでてくる。それに基本的に史実に忠実に作ってあるので、面白おかしくする演出などはできない映画である。ジャンヌ・ダルクは史上最も関心のもたれる女の一人であろう。先に書いたように詰め込みすぎではあるが、ジャンヌの生涯について概観するのは良い映画と思われる。

2026年4月2日木曜日

五匹の紳士 昭和41年

五社英雄監督、松竹、89分、白黒映画、仲代達矢主演。仲代は車で人を轢いてしまい、出世がパーになっただけでなく、刑務所に入れられる。出所前に同室の平幹二朗から金になる話があると聞かされる。出てから指示された女に会うと、3人の男を消してくれ、報酬は1500万円と言われる。

最初の男は元警察官の井川比佐志で、会ってから仲代がいない間に何者かに殺される。井川の娘、少女を上原ゆかりが演じている。上原が付いてくるので、仲代はお守り役になる。次は田中邦衛で、最後の男は中谷一郎、いづれも殺される。

殺したのは中国人2人組で、以前彼らの大金を盗んだ、それで取り返しと復讐に来たのである。金のありかは服役中の平しか知らない。出所した平は仲代を金のある所に連れていく。変電施設で平は仲代を殺そうとしたが感電死する。仲代も手傷を負った。中国人が上原を誘拐し、金と引き換えに渡す、となった。上原を車に乗せてきた中国人は、馬鹿みたいな事で警察につかまる。仲代は金を上原に渡し、以前轢き殺した男の妻のところへ持っていけと言った。仲代も長くない。

2026年4月1日水曜日

黒岩重吾『法王の牙』中公文庫 2024

副題に「病院サスペンス集」とあるように、医療関係の話を集めた短編集である。収録作は昭和35年から48年という高度成長期で、特にまだ昭和30年代は貧しい時代であった頃の話である。著者の黒岩が大阪出身であるため、大阪が舞台の作品が多い。

『病葉の踊り』は戦争の影を引きずっている。戦時の経験が当時にからんでくる。『深夜の競争』は身体障碍者の病人たちの陰湿な確執、争いが下敷きとなっており、殺人が起きその原因が、障碍者たちならではの勝負にあった。『法王の牙』では医学界の徒弟関係、大物の醜さが描かれる。ある医師の妻が失踪した。新聞公開で捜そうとすると師であり、妻の義理の親である大物医師は名誉にかかわるので強く反対する。最後に原因が分かる。大物医師の実態のひどさも。

『さ迷える魂』は容姿に恵まれない看護婦の話。新しい勤務先の病院で、そこの医師にひどく惹かれる。しかも向こうから誘ってくる。有頂天になる看護婦。しかし実は医師は麻薬中毒であり、それを婉曲に隠すための方策の一つに使われていたと最後に分かる。『造花の値段』ではかつて上司に背いたので出世できないサラリーマンが主人公で、癌にかかっているのではないかと疑う。残りの人生が少なければやりたいことをすべきである。会社の機密を持ち出し、妻子を捨てて以前知った、四国の温泉の旅館の女中を訪ねる。その女中にひどく惹かれていたのである。女中とともに旅行で遊び、東京に戻ってくる。機密と引き換えに大金をせしめたが、実は女中には男がいて、大金と共に夜逃げする。主人公は自殺する。『最後の踊り』は戦時中、軍医とその下働きの男が戦後に病院を起こす話である。

2026年3月30日月曜日

ストリンドベリ『幽霊ソナタ』 Spoeksnaten 1907

室内劇と呼ばれる、ストリンドベリが自分の劇場で上演するために書かれた比較的短い劇。ある家の近くに車椅子に座った老人がいる。学生に声をかける。老人は学生をその家の魅力的な若い女と娶せるつもりである。昔、老人と学生の親が敵同士であった。

老人は家に入りそこの主人に命令する。最初は怒っていた主人であるが、老人が昔の事情を知っていると分かり納得する。この家の戸棚の中にミイラとなった老婆がいる。その老婆は老人のかつての恋人だった。老婆によって今度は老人の過去の実際が暴かれる。別の部屋、時間が経っているであろう、学生と若い女が対面している。学生は女に向かい恋情を打ち明ける。二人の会話は彷徨うように続き、劇は終わる。

2026年3月29日日曜日

ストリンドベリ『死の舞踏』 Doedsdansen 1900

2部から成る劇。島にある円形の要塞塔。その住人である大尉とその妻は、長年この島に住んでおり、ストリンドベリの他の劇のように夫婦間の不和がある。そこに久方ぶりに知り合いのクルトがこの島に勤務することになり訪れる。夫婦はそろって歓迎する。大尉は島の者たちともうまくやっていけず、非常に狷介な策士である。夫とこの島にうんざりしている妻はクルトに夫についてあれこれ言う。

後にこの島にクルトの息子が赴任する。大尉は自分の思うようにクルトの息子を配属させようとし、僻地に勤務させる手配をする。大尉に娘がいる。クルトの息子もまた他の士官も娘に惚れている。大尉は島の部隊長と結婚させようとしていた。クルトの僻地への出発の日になる。大尉の娘は結婚が予定されていた部隊長に暴言を吐き、破談にさせる。大尉は死んでしまう。残った者たちはお祝いをする。