2026年8月2日日曜日

村上春樹『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』新潮文庫 平成22年

一人称小説である。不思議なエレベーターに乗ってどこかに運ばれる。初めの方は全くカフカそのままである。カフカの名を冠した小説を書いている著者であるから、大いに影響されたのであろう。そえから女に従って目的の方へ行く。この辺りはよくある空想科学映画に出てくる風景である。わたしは小説の中だけの特殊な知識があって、それを老人の学者から頼まれる。

わたしは、ソファについて蘊蓄を傾け、座って心地よいソファがあまりないという。次いでサンドイッチにも造詣が深く、これほどうまいサンドイッチはそうそうないとか言う。よほどサンドイッチを良く食ってその味にうるさい者なのだろう。こういった作者の代弁なのか、偉そうな文章を読んでいて、すっかり嫌になり、読むのを止めた。これほどつまらない小説はそうそうあるものではない。

高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』講談社学芸文庫 1997

昭和56年に公表された著者の処女作。わたしという語り手による一人称小説。以前、わたしはある女と一緒に住み、女の子が生まれた。その女の子を可愛がるが、死んでしまう。女もどこかにいってしまった。今はソングブック(S・B)という女と、猫のヘンリー四世と一緒に暮らしている。わたしは詩の学校で詩を教えている。色んな生徒が来る。またギャングたちが登場し、警察との撃ち合いで殺される。普通の小説とは異なり、軽い調子で書かれており、一読して印象が鮮明な小説である。

2026年7月31日金曜日

機動捜査班 都会の牙 昭和36年

小杉勇監督、日活、73分、白黒映画。白タクの運転手が縄張りの暴力団から暴行を受けている。白タクを仕切っているボスの内田良平は、上のボスから指示を受ける。官庁と違法取引があって、その課長を消し、名簿を奪って来いと。この仕事を白タクの運転手にやらせる。また情報屋がいて、色々内部情報を探り、売って金を手に入れている。白タクの運転手は男を轢き、鞄を手に入れたが、白バイから追われる。その時、情報屋は警官を殴り、運転手を助ける。

助けたのは運転手から情報を取り入れるためだった。運転手は内田の指示で行なったと話し、情報屋はこれをテープに録音し、内田をゆする。金か警察に売るか。しかし内田は殺し屋を使い運転手を殺し、その死体を見つけた情報屋と仲間が死体を運ぶ場面を写真に撮っていた。これで情報屋はゆすれなくなった。情報屋は、モデルの香月美奈子と知り合い、鞄を預ける。警察では上司となった課長が内田と仲が良いと聞き、刑事の一人は辞めたくなる。

情報屋は預けた鞄を見ると、中の書類がない。香月は焼いたと答える。彼女は轢き殺された男の娘で、違法行為をしている父親の名が書いてある名簿を処分したかったと言う。情報屋は内田に名簿と引き換えに大金を要求する。波止場に贋の名簿を持って現れた情報屋は、内田の部下に蜂の巣にされる。香月の情報で警察が波止場に向かい、悪漢どもを一網打尽にする。香月はバッグから名簿を取り出し、刑事に渡す。処分していなかったのだ。

原直人『アベノミクスは何を殺したか』朝日新書 2023

アベノミクスと呼ばれた安倍晋三政権の経済政策、それを金融面から支援した、というよりその主砲となった黒田日銀総裁による異次元金融緩和の開始から10年過ぎた。その成果は当初期待されていたようなものではなかった。特にデフレからの脱却をするというのが、今世紀になってから経済政策の唯一の目標となった感がある。現在から見れば成果を果たせなかったのは、そもそも目標自体とその手段の不適切さがであり、それが批判されるようになっている。そこで10年後にアベノミクス批判を行なったのが本書である。

書名が『アベノミクスは何を殺したか』となっているように公正に批判しようとするのではなく、糾弾するという姿勢である。これは編者が朝日新聞であるからそうなったのであろう。形式は編者が質問し、識者が答えるインタビューで進む。登場する論者の中には元日銀総裁や職員がいて当時の日銀内での状況を伝えている。組織の職員は基本的に上から言われたことをやるしかない。もちろん意見は言えるし、それで議論になることもあろう。しかし一国の最高責任者から降りてきた指令は、従うしかない。しかも今では誤りだと分かっているが、当時はどうなるか分からなかったわけである。日本全体の雰囲気は、アベノミクス、異次元金融緩和を支持していたのが当時の実際である。

組織の個々の職員がまるで一国、また組織と異なる方針を意見していれば、それが通ったかのように言っても意味がない。アベノミクスの評価にしてもこの編者は頭ごなしに否定しているが、これでは丸抱えでアベノミクス万歳を叫んでいる者と同じである。個々の政策について是々非々を分析しなければ、今後の政策に活かしていけない。

2026年7月30日木曜日

加太こうじ『東京事件史 明治・大正編』一声社 昭和55年

書名は事件史となっており、犯罪が主かと思わせるが、出来事史、風俗史と言った方がいいかもしれない。取り挙げられている出来事は明治編では「近藤勇処刑」「上野の戦争」「東京・横浜間電信開設」などがあり、大正編では「ジゴマ上映の禁止」「米騒動、東京に波及」「松井須磨子の死」などである。

夫々の出来事が分かりやすく書かれており、読みやすい。著者は大正7年東京浅草生まれ。


2026年7月26日日曜日

渡辺努『インフレの時代』中公新書 2026

日本経済は長い間、前世紀末からデフレの時代を経験してきた。それがようやくインフレの時代に変わろうとしている。どういう特徴があるのか、日本経済にどう影響を与えるのかを考察している。今後、インフレが続けば日本経済を正常化するために、特に賃金の引上げが必要であると強調している。これが政府として後押しすべき政策だと言っている。

また政府の負債がインフレによって目減りし、政府はインフレによる最大の利得者となるので、その利得を使って必要な支出をできると述べる。更に日銀の総裁がどのように金融政策を進めてきたか、今度の植田総裁の政策に対する姿勢はどうかも分析する。また物価統計の改善の必要性を具体的事例で述べ、日本と米国では指標としている消費者物価指数が異なる(日本では見た価格、米では実際に支出した価格)ので、調整が必要と言っている。

世界大戦争 昭和36年

松林宗恵監督、東宝、110分。世界が核戦争に突入し、破滅する様を描く。フランキー堺が主人j公で運転手をしている。娘に星由里子がいて、船員の宝田明と恋仲であり、婚約する。その間にも大国間(連邦とか同盟といった言葉を使っている)では一発触発で、いつ核戦争に突入するか分からない緊張が続いている。あわやというところで核ミサイルの発射が止められたという場面もある。

しかし最終的には戦争が始まり、東京は壊滅する。船にいて助かった宝田明その他も東京に帰ろうと言って映画は終わる。なおこの映画はキューバ危機の前年に製作されている。