2026年10月2日金曜日

松本清張『断線』 昭和39年

銀行に勤めていた若い女は、証券会社の若い男と結婚する。女の親はいい顔をしなかったが、数ヶ月一緒なので認めざるを得なくなり、娘のために家を建ててやる。女は妊娠した。男は金で穴を開けたといい、娘の父親から百万以上せしめる。その後九州の支店に行くと言っていなくなり、その後連絡がなくなる。銀行に問い合わせると、男はもう辞めているという。女は中絶せざるを得なくなった。

男はナイトクラブに勤めている女の世話で遊んで暮らしていた。女からナイトクラブで仕事をしないかと言われる。遊んでばかりでは退屈するので男は承知し、別のナイトクラブで働く。そこに大阪から来ている婦人は男をいたく気に入り、大阪に来ないかと誘う。今の女にも飽きていたので、今の女から金をせしめるつもりだった。ところが今の女が意外と金を持っていないと分かると腹を立て、殺してしまう。偽名を使っていたので、足はつかないだろう。

大阪に行く。女の世話で家を持ち、ある製薬会社に勤めるようになる。口のうまい男はとんとんと出世する。ところが大阪の女はもう金がなくなったと言う。実は2号だったので、その主人が仕事で失敗し金を寄こさなくなったのである。こんな邪魔な女は殺すしかない。死体の始末をどうするか。社長は俳句に凝っている。それで社長に句碑を建ててはどうかと勧める。風光明媚なところがいいと言うのだが、社長はかつて師事していた有名な俳人のゆかりの地である鎌倉にしたいと言う。そこにせざると得なかった。邪魔な女をそこまで誘いだし殺して、句碑の立つ場所の地下に埋めた。ところが後に社長が句碑の立っている一帯に別荘を作ることになった。その別荘の設計上、句碑の場所を少し移動した方がいいとなり、句碑を動かすとその下に異様な臭いのするものがあるらしいと分かった。

JA750号機行方不明 昭和34年

山崎徳次郎監督、日活、63分、白黒映画。映画の初めはセスナ機が飛んでおり、それが落下して墜落する場面である。山梨の新聞社支局、ここに東京から来た(左遷された)新聞記者、待田京介がいる。地元の名士の令嬢が自殺したので、取材に行く。そこから帰る時、中年の地元紙記者に呼び止められる。中年記者は勝手に盗んできた写真を返せと言う。待田は断る。中年記者の娘と待田と恋人同士である。待田は特ダネを取って東京に帰りたくてしょうがない。

後に中年記者は仲間と居酒屋で飲んでいる時に偶然、待田に出くわす。泥棒記者と待田を罵る。二人で言い合いになる。工夫らの会話で、飛行機が落ちるのを見たと言っているのを耳にし、そこへ行く。まず待田が先に行ったが、後に中年記者も出かける。山中をよじ登って、現場と思しき方へ行く途中、後ろからついてきた待田は足をすべらせ、急斜面を落下する。中年記者はそれに気づき、下りていく。

待田はかなりの怪我をして動けない。包帯等で応急措置をした後、伝書鳩を籠から取り出し、手紙に怪我の様子を書き、鳩を放す。鳩が帰ってきて、手紙を読んだ娘は早速救助の手配をする。救急車が来て待田は運ばれるが、その際、中年記者は事故の特ダネを待田に譲る。中年記者は娘に、人生の特ダネが取れたかもしれないと言う。

2026年10月1日木曜日

松本清張『陸行水行』 昭和38~39年

語り手は東京の、日本史を専門とする私立大学講師で、九州に調査に来ている。そこである男に会う。愛媛の役場の吏員と言う。郷土史家で、彼から魏志倭人伝にある、邪馬台国への道筋の説を聞く。その見解は面白く、語り手は感心する。一緒の宿に泊まったが、明くる日、郷土史家は先に宿を立ち、それ以来会っていない。東京に戻り、先輩に郷土史家の説を話すと面白いと言った。

ところがその後、あちこちから講師に問い合わせが来た。いずれも古代史に興味を持って勉強している素人である。あの愛媛の郷土史家が来て講師の名刺を出し、東京の学者と面識があると言って、興味を持っている相手に魏志倭人伝の話をし、相手から宿泊や金をもらっているとある。語り手は驚く。更にある婦人から夫が郷土史家と会って大金を持って出かけ、いつまで経っても連絡もなく、帰ってこないと、知らせが来る。警察に届を出した。ついに九州の国東半島の半島の海岸で、失踪していた二人の死体が見つかったと連絡が来た。魏志倭人伝に従って、川を舟で下っているうちに遭難したものであろう。

2026年9月30日水曜日

血の唇 House of dark shadows 1970

ダン・カーティス監督、米、96分。ニュー・イングランドの古い館。この地下に眠る吸血鬼の棺を使用人が宝物と勘違いして開け、吸血鬼は復活する。吸血鬼はこの家の親戚と称し、イギリスから帰ってきたと言い、館を訪れる。壁に掛かっている古い肖像画と生き写しである。吸血鬼の毒牙にかかり、何人かが死ぬ。そのうち一人は女主人の娘で、自分も吸血鬼に変身する。

吸血鬼は家の家庭教師である女が、大昔の結婚が叶わなかった恋人にそっくりなので、自分のものにせんとする。犠牲者の血を調べていた女研究者は、そこに人間にはない成分があると知り、これを使えば吸血鬼を普通の人間にできると知る。吸血鬼を吸血鬼と知った女研究者は、人間に戻れて昼間でも生活できるようになると言って、その治療を進める。自分のかつての恋人に生き写しの女を吸血鬼は攫って、結婚式を挙げようとする。女研究者は、吸血鬼に恋していたのだが、他の者から吸血鬼が愛しているのは、生き写しの女だけだと言われ、嫉妬で吸血鬼の人間化の薬を大量に入れ、完全に老人にするが、吸血鬼から絞め殺される。老人となった吸血鬼が結婚式を挙げようとしている時に、女の恋人は殴り込み、吸血鬼を倒し、女を助ける。

松本清張『事故』 昭和38年

住宅街のある家に運送トラックが突っ込み、玄関などを壊した。運転手は居眠りをしていたと言う。会社の事故処理係がその家に赴くと、賠償は驚くほど少なくて済んだ。事故を起こした運転手は後に、山梨県で運送途中にいなくなり、死体で発見される。調べると殺されていた。しばらくして女の死体がやはり山梨県で見つかる。探偵社の調査員だった。この両事件の捜査は警察でも別の事件として扱い、調べたが共に迷宮入りになりそうだった。

小説後半で、探偵社の所長による説明がある。ある女から夫の浮気調査を依頼された。その夫は確かに他の女と関係があった。所長自ら調べたのは、依頼の女に興味があったからだ。実際にホテルで夫と情人が密会しているところを見つけ、所長は依頼した女(=妻)に電話で知らせ、女はそのホテルに来る。所長は女に会い、そこでかねてから関心のあった相手と関係を持ってしまう。これ以降、女と所長は密会を重ねていた。後になって、その女の夫、つまり所長が調べた男が探偵社に来る。所長は驚き、妻との関係がばれ殴りこんできたのかと思った。しかし実際は妻の素行調査だった。所長は男から自分がその相手である妻の浮気調査を頼まれたわけである。この調査を所長は部下の女調査員に命じた。

所長は女と会う時、ばれないよう余計に気を付けた。ホテルで会うと、女調査員に見つけられやすい。それで夫は家を留守にしていることが多いから、家で会おうと申し出た。その女の家に所長がいる時に、トラック事故が起こったのである。これは実は女調査員が企んだもので、近所に住む運転手にその家に突っ込むようにさせた。その際に驚いて隠れていた所長は飛び出し、近所の者らと共に張り込んでいた女調査員に見つかったわけである。女調査員は辞職を申し出る。真相が分かったからだろう。この女と運転手を亡き者にしようと、所長と今は情人になっている女で計画を立て、離れた場所で死体が見つかるように工夫し、殺害したのだった。

2026年9月27日日曜日

井上靖『黯い潮』 昭和25年

中年(当時の感覚)の新聞記者が主人公で、発表前年に起きた下山国鉄総裁怪死事件を背景とする。下山怪死事件を扱った書籍は多く出ているが、基本的にその謎を解くという意図で著者の考えが書かれており、小説の形で出ている物が他にあるか知らない。更に本書は、事件後1年しか経っていない時点での発表であり、過去の歴史となっていない当時に書かれた。

これは下山怪死事件だけを扱っているのではない。主人公の恩師の娘との縁談があり、以前の妻の、芸能人との心中が書かれている。周知のように著者は当時、毎日新聞に勤めていた。毎日新聞が他の新聞と違い、自殺説を支持していたのも知られているだろう。この小説で、当時から一般の国民の大部分が他殺に違いないと信じ、そういう情勢だったと読めば分かる。下山怪死事件の途中経過までしか書いていないが、新聞記者としての、また個人としての苦悩が描かれている。

2026年9月24日木曜日

井上靖『補陀落渡海記』 昭和36年

那智にある補陀落寺の住職金光坊は、61歳近くになると渡海を意識せざるを得なくなった。渡海とは南方にあるという観音浄土を目指して、住職が小さな舟で海に乗り出す行事である。古い歴史があり、何も61歳と決められているわけでないが、最近、三代続けて過去の住職が61歳で渡海を果たしたので今の就職金光坊も、当然そうすると期待されていた。本人はまだ心構えが出来ていないので、もっと先にするつもりでいたが、その歳以前から周囲がそう当然視していたので、引くに引けない。過去に渡海した色んな師や、まだ若く十代や二十代で渡海した者などを思っていた。

実際にその日が来る。金光坊の乗った舟は嵐で難破し、近くの島に金光坊は打ち上げられた。周囲はまた舟を作り、それに金光坊を入れて、海に出した。後の時代になると渡海は形式化し、住職の死後、その遺体を舟に乗せ出すような例もあったとか。