清張には売り買いする女を描いた短篇がある。買う方は『地方紙を買う女』であり、魅力的な題名である。地方紙をある時期から購読し始めた女。そのうち購読を止める。なぜ特定期間だけ地方紙を読んでいたのか。この謎は少し読み始めると大体見当がつく。
売る方が収録されている『馬を売る女』である。短篇としてはやや長い方である。馬を売るとは競馬の情報を売るのである。気づく人はいよう。この競馬情報の売り方がいかにも小説的と思ったが、その仕組み、からくりは実際にあったらしい。それを知って驚いた。また高速道路の駐車地帯が小説の仕掛けの一つになる。車を駐車地帯に停めて何をやっているか、これも想像できると思うが登場人物は分からないと言っているのである。かまととぶっているのかと思いたくなる。
清張の小説に出てくる女の主要登場人物はたいてい不幸である。『波の塔』の頼子のように美人薄命もあるが、本編は主人公が女であり、しかも全く地味な女なのである。30を過ぎて全く結婚の望みは捨てている。今なら考えられないが、女の価値はクリスマスケーキという言葉があった時代である。女性差別と糾弾される前に、今では実態の変化で死語である。美人よりもそうでない方が小説としては書きやすい。この女主人公もよく書かれている、記憶に残ると思う人が多いだろう。
清張の小説にはご都合主義が目立つが(大体、小説なんてものは私小説以外はそうである)、これは短篇ということもありそれほどでない。後半は推理小説風になっていて意外なところから犯罪が発覚するというのは全く清張的。推理小説はこさえ物の極致であり、理屈が通っていれば現実可能性など全く無視していいらしい。この小説は前半では女主人公の人間性に関心があり、後半になると推理小説という通俗的展開で、つぎはぎとも言えるし、面白いとも言える。
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