2024年12月9日月曜日

正木ひろし『八海事件』

八海事件とは、昭和26年に山口県の東南部、瀬戸内海に近い八海という地区で起きた強盗殺人事件である。64歳の老夫婦が殺害され現金が盗まれた。

犯人は割と早く捕まり自供した。ところが司法側が単独犯行でないと思い込み、被疑者に共犯者の名を言うよう強要し、被疑者は知人ら5人の名を挙げた。これによってその者たちが逮捕された。裁判では全く関係ない者に死刑判決、犯人らに無期や有期の判決が下った。当然控訴する。犯人は二審で無期に服した。他の者らは当然さらに裁判を続け、最終的に無罪が最高裁で下されたのは19年近く経ってからだった。

弁護士の正木ひろしは無実で死刑判決を受けた被告から手紙をもらい弁護を頼まれる。事件を調べて、被告らの無実を信じるようになった。しかし一審も二審も有罪判決が出た。正木はこの八海事件の裁判を糾弾した著書『裁判官』を昭和30年、光文社のカッパ・ブックスで出す。更に翌年、同じカッパ・ブックスで『検察官』を出し検察が司法殺人を犯そうとしていると主張した。最終的に昭和43年に最高裁で、それまで争った被告全員に無罪判決が出て、裁判は終結した。正木はこれを受け中公新書で『八海事件』という書を出した。

事件が起きた当時二十代前半だった被告らは最終的な無罪判決が出た時には四十代になっていた。この事件を映画化した今井正監督による『真昼の暗黒』は『裁判官』をもとにしている。これら八海事件を扱った『裁判官』『検察官』『八海事件』は正木ひろし著作集第2巻(三省堂、1983年)に収められている。

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