2024年12月30日月曜日

渡辺努『世界インフレの謎』講談社現代新書 2022

日銀出身の学者である著者が、世界でインフレが高進している理由や日本の状況を説明する。

近時の世界でインフレ率が上がっている理由は、圧倒的にウクライナ戦争と説明されている。しかしこれは誤りと著者は切り捨てる。ウクライナ戦争より前から物価が上昇しているからである。その前の新型コロナによる影響を重視する。コロナで人と人との接触に距離をとるよう指導された。これによって食堂や旅行などサービス部門の消費が著しく減退した。サービス消費は対面で享受するから避けられたのである。それに対して物の消費は増えた。長い間、サービス経済化が進んで来たのだが逆転した。また新型コロナの流行で在宅勤務が増えた。一度事業所から離れたら、コロナの深刻さが減っても、もう事業所勤務に戻らない者が多くなった。比較的高齢者では退職を早め、同様に仕事をする人間が減った。これらによって仕事の供給側が減少した。だから需要に対して供給が減ったので物価が上昇したのである。中央銀行は物価の安定化を使命とするが、金利引き上げは需要の抑制策で、供給の制約に対しては手段がない。

日本の状況は長年物価が低迷しデフレ状態にある点で世界と異なる。家計も企業も物価は上がらない、賃金も上がらない、を前提としていわば均衡状態にあった。それに最近の輸入物価の影響からエネルギー価格が上昇して、家計を苦しめるようになってきた。著者は物価と賃金の凍結状態という今の状況から抜け出すには、かつて安倍内閣でやったように政府が企業に賃金を引き上げるような勧告をしたらどうかと言っているようである。

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