アン・ラドクリフが1794年に公表したゴシック小説の代表作。ウォルポール『オトラント城奇譚』(1764)、ルイス『修道僧』(1796)と並び称せられる。
主人公エミリー・サントベールの苦難に満ちた遍歴、出会うmysteriesが語られる。原題にあるmysteryを今の日本では、片仮名表記して推理小説及びその類似の作品を言うようであるが、mysteryとは謎と神秘という似ているが互換的でない概念を含む。理解できない不思議な事柄といった意味か。非常に長大な小説であり、自分で鑑賞してもらいたいが、読む気はないがどんな内容か知りたい人もいるだろう。以下、自分なりの要約を書く。小説についての自分の理解は下の評に書きたいと思っている。
16世紀、南仏ガスコーニュの館に住むサントベールには妻と娘がいた。娘エミリーは両親に愛情深く育てられ、清純な乙女に育った。まず母が死に、父親のサントベールも旅の途中で死ぬ。エミリーは深い悲しみにくれるが、旅で出会った青年ヴァランクールに惹かれ、相思の間柄となる。サントベールが死んだのでエミリーの養育権は父の妹マダム・シェロンに託される。この叔母は自分勝手で欲の権化だった。エミリーとヴァランクールの付き合いを快く思っていなかったが、後にヴァランクールが良い家柄と知ると、二人の結婚を勧めるようになる。
モントーニというイタリア人が来て、叔母に求婚する。叔母は承諾し、結婚してマダム・モントーニとなる。姪にもより良い縁組を希むようになり、ヴァランクールとの婚約を後悔する。相手方もエミリーのものとなる財産がマダム・モントーニに属するのでエミリーとの結婚を望まないようになる。エミリーとヴァランクールの婚約は破棄される。モントーニがイタリアに帰るので、妻となった叔母はエミリーを連れていく。ヴァランクールとエミリーは悲しむが、エミリーは駆け落ちなどはせず、叔母についていく。ヴェネツィアのモントーニの館に落ち着くが、モントーニは後ろ暗いところがあるらしい。ここでエミリーはそこの伯爵に惚れられ、求婚される。ヴァランクールしか心にないエミリーは断るが相手は全く諦めない。モントーニは悪事に加え、懐具合が悪いようである。ヴェネツィアから逃げ出し、アペンニーノ山脈にある自分の城、ユドルフォ城に向かう。侍女アネットに言わせると巨大な牢獄といった感じの城である。モントーニは自分の妻となった叔母に、フランスの屋敷の権利を自分に寄こせと脅迫する。叔母は拒絶しモントーニと喧嘩し迫害され、最後には死ぬ。エミリーは城で様々な恐怖、不思議な体験をする。ユドルフォ城にフランスの兵士が囚われていて、その中にヴァランクールがいるのではないかと思うようになる。侍女などに誰が囚われているか探るよう命じる。モントーニには敵との戦いがあってエミリーは一時、他の場所に連れていかれる。最終的にヴァランクールはいないと知る。この城から仲間と抜け出す。船でフランスに向かう。
地中海に面したルブラン城にはヴィルフォール伯爵とその娘ブランシュ他が住んでいた。エミリーらの乗った船はこの沖で難破し、伯爵家に救助される。ブランシュはエミリーと仲良くなる。これ以降、ルブラン城の怪奇といった話になる。この城はエミリーにとって初めての城でない。父サントベールが客死する前にこの城の前に来て、当時は主はおらず、ただ父の神経は異様に高ぶった。その後近くの修道院で父は死ぬ。エミリーは当時そこにいたので、修道院を再訪し、かつての知り合いである修道女らに再会する。そのうち一人の修道女からエミリーは自分の出生に関係している可能性のある話を聞く。ルブラン城には昔の城主の妻の肖像画があるのだが、エミリーにそっくりなのである。その妻は城主を愛しておらず、他の男を愛していたという。まるでエミリーの父親とその城主の妻との間に、エミリーが生まれたのではないかと疑わせるような話である。今の城主ヴィルフォール伯爵はヴァランクールを知っていた。しかし全く評価せず、唾棄すべき男であるというのである。ヴァランクールはパリで賭博に溺れ、更に悪事を働き牢獄にも入っていたという。エミリーは驚愕する。ヴィルフォール伯爵の息子はヴァランクールと旧友で、息子まで悪事に引き込まれそうになったと言い、ヴァランクールを憎悪しているのである。ルブラン城でエミリーはいきなりヴァランクールに再会する。息子の知り合いなので。この際、エミリーは伯爵から聞いた話でヴァランクールが信じられなくなり、ヴァランクールも自分の罪を認めるのである。これではもうヴァランクールと別れるしかない。悲痛な思いでエミリーはヴァランクールと離れざるを得なくなる。モントーニが死んだという便りが来る。
これ以降は小説は最終段階になり、まだ解き明かされていなかった謎、事情が分かるようになる。例えばユドルフォ城でエミリーが黒いベールを取って恐怖のあまり気絶したという、ジェイン・オースティンの『ノーサンガー僧院』にも引用されているまだ解明されていなかった謎、エミリーの出生すなわち前の城主夫人との関係、不思議な音楽の謎、ヴァランクールとはどうなるのか、といった点などが明らかになっていく。ネタバレだから書かないというより長く書いたし、くたびれたから要約はこの辺で止める。
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