2024年7月16日火曜日

三島由紀夫『幸福号出帆』 昭和30年

主人公の三津子は銀座の百貨店に勤めている。家は月島にある。兄敏夫は種違いで、イタリア人の父を持つ、合いの子である。母はかつてオペラ歌手であった。イタリア人の父親というのがオペラ歌手なのである。

このイタリア人はもう一人のオペラ歌手、歌子の夫でもあった。そのイタリア人が亡くなり、歌子に3千万円の遺産が入った。歌子は渋谷の邸宅街の夫の残した大きな家に、かつてのオペラ仲間の家族と共に住んでいた。財産が転がり込んだと知った後、三津子の母は歌子に会いに行く。歌子は歓喜で迎え入れ、一緒に住めと言う。三津子一家は歌子の邸宅に移り住んだ。三津子はオペラ歌手を夢見ていた。歌子はお金が入ったのでオペラの上演を企画する。椿姫で最初は自分がやるつもりだったが、企みがあって三津子に主役が回った。直前になって歌子がやはりやるとなった。この上演は失敗に終わった。三津子の兄、敏夫は合いの子で見栄えは良いが、怠け者で自分に惚れている経営者の房子に養われている。敏夫は密輸に手を貸していたが、実はその元締めが情人の房子だった。

敏夫は歌子に入った遺産には自分も権利があると言い出し、妹三津子と組んで5百万円持ち出し歌子の家から去る。敏夫と三津子は兄妹と言いながら、まるで恋人同士のように仲が良い。敏夫は夢だった船を買う。それを幸福号と名づける。敏夫と房子は博打で1千万円以上すってしまう。その穴を埋めるため巨額の金が入る密輸を計画する。三津子も巻き込まれ、三津子に恋情を抱いている実直な税関職員の男がいるので、三津子は罪悪感を抱きながらその男を使ってトラック等手配する。幸福号もその密輸に使う。直前になって計画が税関にばれ、敏夫、三津子の乗る幸福号以外の密輸船は捕まる。二人も危ない。三津子に惚れている税関職員の男の知らせで免れた。二人は幸福号に乗って日本国外に去る。実は歌子は敏夫の母で、オペラに専念するため、三津子の母に子供を任せていたのである。敏夫と三津子はそれを知らずに育ってきたのである。(角川文庫、平成22年)

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